~メモリとUIを強化したWindows 7スレートPC |
KDDIは、オンキヨー製のWindows 7搭載スレートPC「TW317A7」を、auショップ・PiPitなどKDDI取り扱い店舗で販売開始した。すでに登場済みのオンキヨー製スレートPC「TW317」シリーズをベースとし、メインメモリ容量を増強した新モデルで、CDMA/WiMAX対応データ通信端末「DATA01」などの高速データ通信カードとのセット販売となっている。今回、CDMA/WiMAX対応データ通信端末であるDATA01とセットで試用する機会を得たので、スペック面や使用感などを紹介していこう。
●TW317シリーズをベースに、メモリを2GBに強化オンキヨーの「TW317A7」は、すでに販売されている、Windows 7搭載の同社製スレートPC「TW317」シリーズのうち、最上位モデルとなる「TW317A5」をベースとした製品だ。ただ、登場済みのTW317シリーズと違い、「DATA01」などのauの高速データ通信カードとのセット販売のみとなっており、販売もauショップなどのKDDIの取り扱い店舗でのみとなっている。高速データ通信カードがセットになっている点を見ると、登場済みのTW317シリーズに比べ、モバイル性を重視したモデルと言っていいかもしれない。
スレートPC本体については、基本的な仕様はTW317A5とほぼ同等だ。搭載CPUは、Atom N450で従来モデルと同じ。チップセットの82801HBMや、1,366×768ドット表示対応の11.6型ワイド液晶、ストレージデバイスとして32GBのSSDを搭載している点も同様だ。ただ、1点だけ仕様が変更されている部分がある。それは、メインメモリ容量はTW317A5の1GBから2GBへと倍増している点だ。
キーボードを持たない薄型のタブレットデバイスは、2010年4月に米国から販売が始まった「iPad」が火付け役。その後、OSとしてAndroidを採用した製品も続々登場している。こういった薄型のデバイスでは、発熱の大きい処理能力の優れたCPUや大容量バッテリを搭載するのが難しいため、比較的動作の軽いOSを採用することで、小型で軽量なボディと軽快なレスポンスを両立させている。
そういった中で、TW317シリーズはOSとしてWindows 7 Home Premiumを採用している点が、他の競合製品と大きく異なる部分だ。そのため、CPUとしてAtom N450を搭載するなど、スペック面では、他のタブレットデバイスよりもかなりリッチだ。とはいえ、Atom N450は、Windows 7が動作するCPUの中でも、パフォーマンスでは最も低い部類に位置するものだ。しかも、Windows 7を快適に動作させるには、CPUパワーだけでなくメモリ容量も重要となるが、TW317A5ではメインメモリが1GBしか搭載されていない。しかも、標準でタッチパネルをサポートしているとはいえ、Windows 7はタッチ操作を前提としたUIを採用していない。そのため、多くの作業時のレスポンスや操作性などに、かなり不満を感じる点があったのは事実だ。
それに対し、TW317A7では、CPUこそ従来と同じAtom N450ではあるが、メインメモリが2GBに倍増したことで、Windows 7利用時の快適度はかなり向上していると考えられる。今回は、実際にTW317A5と比較できなかったため、どの程度快適になっているのか体感はできなかった。が、ネットブックでの経験からすれば、従来モデルよりは使いやすさが向上していると考えて間違いないだろう。
ただし、個人的な印象では、メインメモリが倍増しているとはいえ、基本的な処理能力が低いこともあり、快適な動作と言うにはほど遠いと感じた。OSやアプリケーションの起動時にかなり待たされたり、アプリケーション利用時のレスポンスもかなり遅く、いたる場面でイライラを感じてしまう。Windows 7を搭載していることによるメリットもあるとは思うが、パフォーマンス面では犠牲になっている部分が多いと感じてしまうのは残念だ。
TW317A7の基本スペック | |
---|---|
CPU | Atom N450(1.66GHz) |
メインメモリ | PC2-5300 DDR2 SDRAM 2GB(増設不可) |
チップセット | Intel 82801HBM |
グラフィック | CPU内蔵(Intel GMA 3150) |
ストレージ | 32GB SSD |
液晶 | 11.6型ワイド、1,366×768ドット、マルチタッチ対応タッチパネル |
無線機能 | IEEE 802.11b/g/n、Bluetooth 2.1+EDR |
その他 | HD動画再生支援(Broadcom BCM70015)、130万画素Webカメラ |
OS | Windows 7 Home Premium |
本体サイズ | 295×195×14mm(幅×奥行き×高さ) |
重量 | 約1kg |
重量は、実測で998g。ほぼ1kgと考えていいだろう | 液晶パネル中央上には、130万画素Webカメラを搭載 |
●タッチ操作をサポートする「ExTOUCH」を利用可能
TW317A7には、メインメモリ容量以外に、もう1つ従来と異なる部分がある。それは、Windows 7のタッチ操作をサポートする、セカンドファクトリー製のアプリケーション「ExTOUCH」をダウンロードしてインストールできる点だ。
【お詫びと訂正】初出時、ExTOUCHを標準でインストールと記載しておりましたが、ダウンロードしてインストールする必要があります。お詫びして訂正いたします。
ExTOUCHは、デスクトップ領域の右端に常駐し、ランチャーとして動作する。これにより、アプリケーションやファイルを簡単に呼び出せるようになる。ランチャーはタブ形式となっており、1つのタブに最大15個のアプリケーションやファイルを登録可能。登録できるアプリケーションやファイルはユーザーが自由に変更できるのはもちろん、タブも自由に増やせられるので、種類ごとにタブを分けて登録することも可能だ。
また、画面内に表示されるウィンドウは、タイトルバーが太く表示されるとともに、拡大・縮小や終了ボタンも大きく表示されるようになるため、ウィンドウ操作もやりやすくなる。単にWindows 7をインストールしただけのスレートPCでは、ウィンドウの拡大・縮小や終了などのボタンを指で操作する場合など、ピンポイントでタッチしなければならないような感覚になるが、TW317A7では、タイトルバーやボタンが大きく表示されるため、ウィンドウ操作がはるかにやりやすく感じた。
そして、専用のソフトウェアキーボードを搭載している点も見逃せない。Windows 7には、QWERTYスタイルのソフトウェアキーボードが搭載されており、一般的なキーボード同等に使えるものの、使いやすさを優先すると、画面の多くの面積を占めてしまう。それに対し、ExTOUCHのソフトウェアキーボードは、携帯電話方式の入力に加え、スマートフォンで広く利用されているフリック入力に対応。入力のしやすさに関しては、標準ソフトウェアキーボードのほうが有利だが、サイズが小さいため、他のウィンドウを邪魔しないのは嬉しい。もちろん、フリック入力に慣れている人なら、軽快な入力も可能なはずだ。とにかく、利用できるソフトウェアキーボードの選択肢が増えるという点は、大きな魅力となるはずだ。
セカンドファクトリー製の「ExTOUCH」を標準採用。デスクトップ右端に常駐し、ランチャーとして利用できる | ウィンドウのタイトルバーが拡大表示されるなど、タッチでのウィンドウ操作もやりやすくなる |
専用のソフトウェアキーボードを用意 | 携帯電話方式に加え、フリック入力にも対応している |
●WiMAXとCDMA対応の「DATA01」
TW317A7は、auの高速データ通信カードとのセット販売となっている。今回は、セット対象となっている高速データ通信カードの中で、「DATA01」を試用できた。
DATA01は、モバイルWiMAXとCDMA2000 1x EV-DO Rev.Aの3Gデータ通信の双方に対応した、USB接続の高速データ通信カードだ。モバイルWiMAX利用時には、下り最大40Mbps、上り最大10Mbps、CDMA2000 1x EV-DO Rev.A利用時には、下り最大3.1Mbps、上り最大1.8Mbpsでのデータ通信が可能となっている。本体サイズは、USBメモリをやや大きくしたような感じで、重量は実測で32gと軽量。USBコネクタは回転式で、本体に収納できるようになっている。
DATA01の特徴は、モバイルWiMAXとCDMA2000 1x EV-DO Rev.Aを自動的に切り替えて利用できる点にある。基本的には、モバイルWiMAXが優先されるようになっており、モバイルWiMAXの電波が届く場所であればモバイルWiMAXに接続され、モバイルWiMAXの電波が届かない場所ではCDMA2000 1x EV-DO Rev.Aへと自動的に切り替わるようになっている。実際に、モバイルWiMAXの電波が届く地上で利用しながら、モバイルWiMAXの電波が届かない地下鉄の駅へと階段を下っていくと、途中でCDMA2000 1x EV-DO Rev.Aに切り替わることを確認した。通信が途切れず瞬時に切り替わるわけではないが、いわゆるハンドオーバーと同等の動作を、モバイルWiMAXとCDMA2000 1x EV-DO Rev.Aの間で実現している点は、かなり便利だと感じた。
また、データ通信速度は、モバイルWiMAX接続時にはさすがにかなり高速だ。利用場所によってかなり上下はするものの、筆者宅や都内のいくつかの場所で試してみた限りでは、下りで2Mbpsから10Mbpsの速度が確認できた。これだけの速度があれば、Webブラウズはもちろん、少々容量の大きなデータを受信する場合でもストレスを感じることは少ないはずだ。
それに対し、CDMA2000 1x EV-DO Rev.A接続時には速度はかなり低下し、下りが600Kbpsから2Mbpsほど、上りが800Kbps前後であった。ただ、地下鉄の駅などの地下や建物の内部など、モバイルWiMAXの電波が届かない場所でも比較的安定してデータ通信が行なえた。DATA01では、モバイルWiMAXを利用せず、CDMA2000 1x EV-DO Rev.Aのみでデータ通信を行なう設定での利用も可能なので、速度よりも接続性を重視するなら、CDMA2000 1x EV-DO Rev.Aでの接続をメインに運用してもいいかもしれない。
●どうしてもWindows 7が必要な人以外は厳しい
では、ベンチマークテストの結果をチェックしていこう。利用したベンチマークソフトは、Futuremarkの「PCMark05 (Build 1.2.0)」と、HDBENCH.NETの「HDBENCH Ver3.40beta6」、スクウェア・エニックスの「FINAL FANTASY XI Official Benchmark 3」の3種類。また、比較用として同じCPUを搭載するタブレットノート、ASUSTeK ComputerのEee PC T101MTの結果も掲載してある。
結果を見ると、ハードウェアスペックがほぼ同じEee PC T101MTよりも、ほとんどの結果が劣っていることがわかる。Eee PC T101MTの結果は、独自ツールの「Eee Super Hybrid engine」によって、若干のオーバークロック動作になっているため、若干割り引いて見る必要はあるが、それでも少々物足りない結果なのは間違いない。このあたりは、排熱処理の難しい、薄型ボディを採用している点が弱点になっている可能性が高そうだ。
TW317A7 | Eee PC T101MT | |
---|---|---|
CPU | Atom N450 (1.66GHz動作) | Atom N450 (1.66GHz動作) |
ビデオチップ | Intel GMA 3150 | Intel GMA 3150 |
メモリ | 2GB | 2GB |
OS | Windows 7 Home Premium | Windows 7 Home Premium |
PCMark05 Build 1.2.0 | ||
PCMark Score | 1432 | 1617 |
CPU Score | 1204 | 1420 |
Memory Score | 2140 | 2419 |
Graphics Score | 433 | 528 |
HDD Score | 4957 | 4933 |
HDBENCH Ver3.40beta6 | ||
All | 36998 | 41339 |
CPU:Integer | 90180 | 96256 |
CPU:Float | 63568 | 70057 |
MEMORY:Read | 50162 | 55263 |
MEMORY:Write | 50295 | 55660 |
MEMORY:Read&Write | 88518 | 97660 |
VIDEO:Recitangle | 7594 | 8142 |
VIDEO:Text | 9186 | 3580 |
VIDEO:Ellipse | 2316 | 3092 |
VIDEO:BitBlt | 77 | 182 |
VIDEO:DirectDraw | 13 | 14 |
DRIVE:Read | 67590 | 64321 |
DRIVE:Write | 36649 | 60735 |
DRIVE:RandomRead | 36454 | 22475 |
DRIVE:RandomWrite | 7749 | 24491 |
FINAL FANTASY XI Official Benchmark 3 | ||
LOW | 1125 | 1250 |
Windowsエクスペリエンスインデックス | ||
プロセッサ | 2.3 | 2.3 |
メモリ | 4.6 | 4.4 |
グラフィックス | 3.1 | 3.1 |
ゲーム用グラフィックス | 3 | 3 |
プライマリハードディスク | 5.2 | 5.7 |
次に、バッテリ駆動時間のチェックだ。まず、Windows 7の省電力設定を「省電力」に設定するとともに、バックライト輝度を40%に設定し、無線機能は無線LANのみを有効にした状態で、BBenchを利用してキー入力とWeb巡回にチェックを入れて計測したところ、駆動時間は約3時間48分だった。また、Windows 7の省電力設定を「高パフォーマンス」に設定し、バックライト輝度を100%、無線LANとBluetoothをONにした状態で、動画ファイル(WMV9、ビットレート1,156kbps、640×480ドット)を連続再生させた場合には、約2時間28分だった。一般的なネットブックのバッテリ駆動時間に比べるとやや短いが、大容量バッテリを搭載できないことを考えると、まあまあ健闘している方だろう。とはいえ、外出先で利用することを考えると心許ないのは事実で、基本的にはACアダプタを同時に持ち歩いた方が良さそうだ。
ところで、TW317A7は、高速データ通信カードとのセット販売となるため、高速データ通信カードを利用した場合のバッテリ駆動時間も計測してみた。Windows 7の省電力設定を「省電力」に設定するとともに、バックライト輝度を40%に設定し、本体側の無線LANおよびBluetoothをオフにし、USB接続のDATA01を取り付け、DATA01でWiMAXに接続した状態で、BBenchを利用してキー入力とWeb巡回にチェックを入れて計測してみた。すると、バッテリ駆動時間は約2時間36分と、内蔵無線LANを利用するより1時間以上駆動時間が短くなった。DATA01はUSB接続のため、ある程度バッテリを消費するのは仕方がないかもしれないが、セット販売が基本となっていることを考えると、データ通信カードを利用した場合のバッテリ駆動時間に関して、もう少し考慮してもらいたかったように思う。
付属のACアダプタ。小型で、本体との同時携帯もそれほど苦にならないはずだ | 電源ケーブル込みの重量も実測で191.5gと軽量だ |
TW317A7は、タブレットPCとして考えると、パフォーマンスやバッテリ駆動時間、重量など、さまざまな点で他の製品よりも見劣りする部分が多い。特に、OSやアプリケーションの起動、レスポンスの遅さは、かなり厳しいと感じるため、軽快な動作を重視するという人にはおすすめしづらい。
ただ、Windows 7を採用したスレートPCという部分が、他のタブレットPCに対するアドバンテージでもある。豊富なWindows用アプリケーションがそのまま動作するため、それだけ幅広い用途に対応できるということになるわけで、これが他の製品にはない大きな利点と言える。しかし、一般的なWindowsノートPCに近い用途を想定するのであれば、キーボードが搭載されるネットブックのほうが、はるかに使いやすいのも事実。ExTOUCHの標準採用によって、操作性は従来モデルより向上しているとはいえ、やや中途半端な印象もある。
全体的に辛口になってしまったが、少なくとも、Windows 7が動作し、Windows用ソフトがそのまま動作するという点が、製品としての魅力につながるのは間違いない。そういった意味では、Windows用ソフトの利用が必須というのであれば、TW317A7は十分魅力があるし、おすすめもできる。また、メインメモリが2GB搭載されているため、従来モデルよりも動作が快適なのは間違いないので、高速データ通信カードとのセット販売のみではあるが、TW317A5などの従来モデルを購入しようと考えていた人にも、こちらをおすすめしたい。
(2011年 1月 6日)
[Text by 平澤 寿康]