オンキヨー「TW117A4」
~Windowsソフトがそのまま使えるスレートPC



オンキヨー「TW117A4」

11月下旬 発売

価格:オープンプライス(直販49,800円)



●Windows 7 Home Premium採用のスレートPC

 iPadの登場以来、注目を集めるスレートPCの分野に、国内メーカーであるオンキヨーから新しい製品が登場した。目を引くのは、搭載しているOSがAndroidでもなければもちろんiOSでもなく、Windows 7 Home Premiumであることだ。OSがWindowsということは、既存のWindows関連のソフトがそのまま使えるほか、iPadが対応していないFlashについても動作することを意味する。法人であれば教育コストが安くつくことも魅力だろう。

 もっとも、既存のWindowsソフトが使えるからと言って、キーボードを持たないスレートPCにおいて、タッチによる操作でこれらのソフトがスムーズに扱えるとは限らない。またCPUがAtom、メモリ1GBというハードウェア構成は、パフォーマンス面で一抹の不安を感じるのも事実だ。

 果たしてスペックだけでは判断できない未知のポテンシャルを秘めているのか、そうでないのか。今回は、発表された3製品のうちもっともローエンドにあたる「TW117A4」をお借りすることができたので、使い勝手の面を中心としたレビューをお届けする。なお、本製品は試作品であり、市販される製品とは仕様が異なる可能性があることを、あらかじめお断りしておく。

●ずばり「キーボードのないネットブック」

 ざっと仕様についておさらいしておく。CPUはAtom N450(1.66GHz)、メモリは1GB(PC2-5300)。ディスプレイは10.1型(1,024×600ドット)液晶と、「キーボードのないネットブック」と呼んで差し支えない仕様だ。液晶はワイド比率なので、iPadに比べると筐体がやや細長い印象を受ける。ただしiPadに比べると厚いことから、かなり大柄な印象を受ける。

上面。電源スイッチを備える底面
左側面。有線LANポート、アナログRGB出力専用端子、USB 2.0ポート×2、SDHCメモリーカードスロット、イヤフォンジャックなどを備える。右端にあるのが電源ジャック右側面。コネクタ類はほぼ左側面に集約されているためこの右側面は何もない
iPad(右)との比較。画面がワイドであるため筐体は横長。実寸は263×168×18.5mm(幅×奥行き×高さ)iPadの上に重ねたところ。ちなみに画面への指紋の付きやすさはiPadのそれを上回るiPad(右)との厚みの比較。iPadは本体が薄く見えるよう背面に向かってカーブするデザインになっているが、本製品はとくにそうした工夫はなく、実寸でも本製品の方が厚い

 操作は基本的に指先でのタッチで行なう。iPadと同じ静電容量型で、マルチタッチにも対応している。液晶はグレアタイプで映り込みはかなり激しい。また、周囲の明るさを感知してディスプレイの明るさを自動調節する照度センサーを搭載している。

 キーボードについてはWindows タッチ標準のソフトキーボードをそのまま使用する。また、本体右端には4つのボタンが付属しており、ソフトキーボードが使えないシーン、例えばセーフモードの選択画面などではこれらを用いて操作を行なう仕組みになっている。

Windows 7のマルチタッチ操作に対応する。ちなみに画面とベゼル部には段差がなくフラットになっているソフトキーボードを表示したところ。このほか手書き入力にも対応本体右端には、ユーティリティ「Notebook Manager」を起動するためのメニューキーのほか、UP/DONW/Enterといった最小限の操作が行なえるキーを備える

 記憶媒体は、上位モデルはSSDを採用しているが、本製品は160GBのHDDを搭載。このほか無線LAN(IEEE 802.11b/g/n)、Ethernet、Bluetooth 2.1+EDR、130万画素CMOSカメラ、アナログディスプレイ端子(専用ポート)、SDHCメモリーカードスロット、USB 2.0ポート×2を搭載する。iPadとの最大の差別化要因となると、SDカードスロットとUSBポートの搭載と言ってもよいかもしれない。

 このほか、3軸加速度センサーを搭載しており、本体の向きに応じて画面が回転する機構を備えている。本体重量は約990gと、iPadのWi-Fiモデル(680g)に缶ジュースおよそ1本分をプラスした重量になっている。率直な印象で言うと、かなり重い。また、バッテリの持続時間も、SSD搭載の上位モデルが約6.4時間であるのに比べ、本製品は約3.8時間と短いのは気になるところだ。

 以上の通りなのだが、参考までにWindows エクスペリエンスインデックスの値を示しておくと「2.3」と、Windows 7を快適に動かすには一工夫必要であることが分かる。また、HDDのシーク音はほとんど気にならないが、ファンの回転音は少なからずあること、さらに発熱も相当あることを補足しておく。

かなり頑丈なキャリングケースが付属する手に持った状態。ベルトのように見える中央の突起はスタンドの役目を果たすWindows エクスペリエンスインデックスの値。なお、本製品は3モデルがラインナップされている3製品のローエンド

●挙動はネットブックそのものだが、タッチ操作との相性に難あり

 何はともあれまずは使ってみよう。最初はWebブラウジング。縦方向の解像度が600ドットしかないのと、初期状態でツールバーが多数インストールされていることもあり、表示面積という点では息苦しさを感じるが、無線LANを経由した読み込みそのものは特にストレスを感じない。画面を90度回転させて、縦長にウェブサイトを表示することもできる。タッチ操作によるスクロールも比較的スムーズだ。

Webブラウザ表示。ちなみにこの画面ではオフにしているが、初期状態ではサードパーティ製のツールバーがいくつかインストールされており、縦方向はかなり息苦しい印象Webブラウザを縦に表示したところ。幅が600ドットであるため、100パーセント表示ではやや狭い
ニコニコ動画を再生しているところ。再生開始まではやや時間がかかるが、再生中は特に支障ない。ただ縦方向の解像度が低いため、ウィンドウを画面のサイズに合わせておくのが一苦労だったりする

 動画の再生についてもテストしてみた。YouTubeのHD動画についても大きな遅延なく表示されるほか、ニコニコ動画もごくまれにコメントのスクロールが止まることはあるものの、実用に耐えうるレベルといえる。恐らくここでつまずくだろうと予想していただけに、個人的には良い方に裏切られた印象だ。

 ネットワークドライブ上に置いた動画の再生(IEEE 802.11g経由)についても試してみた。フルHD動画はさすがに再生が困難で、数秒ごとに途切れ途切れにはなるものの、DivXフォーマットのVGA(640×480ドット)動画は支障なく再生が行なえた。このあたりもネットブック並みと言ってしまえばその通りである。フルHD動画については、念のためにデスクトップ上にコピーして同様に再生してみたが、途切れ途切れになる症状は変わらなかった。

 というわけで、おおむねハードウェアスペック通りの挙動ではあるのだが、1番の問題は特定のアプリケーションの実行速度よりも、それらアプリケーションを呼び出したり切り替えたりといったOSそのものの反応がもたつくことだ。例えば上記のVGA動画の再生でも、再生が開始されてしまえば非常に滑らかなのだが、ネットワークドライブのフォルダを一階層開くだけで数秒、動画をダブルクリックして実際に再生が開始されるまで数十秒かかるなど、1つ1つのアクションに多大な待ち時間を要する。

 また、本製品はタッチ操作であるがゆえに、ここに操作性の問題も絡んでくるからややこしい。具体的には、ウィンドウ右上の最小化ボタンを押そうとして隣の最大化ボタンを押してしまったり、最大化しようとして隣の×ボタンを押して閉じてしまうなど、誤操作を頻発する。これが前述の反応の遅さとあいまって、多大なストレスになるというわけだ。これがiOSであれば、小さいボタンにタッチすると拡大表示されるわけだが、Windows タッチではそうした仕組みはない。

 例えば富士通の「らくらくパソコン」のように、メーカーが独自にタッチ操作インターフェイスを設計するという手もあったはずだが、本製品のそれはWindows タッチそのものであり、後述するユーティリティ「Notebook Manager」を除いては、特にオリジナルらしきソフトは見受けられなかった。もうひと工夫ほしい、というのが率直な感想だ。

●Windowの動作を徹底的に軽量化してみる

 というわけで、ストレスのない操作を実現するために、Windowsを中心に軽量化をはかってみる。具体的には、クラシック表示の導入に始まり、システムの詳細設定を「パフォーマンスを優先する」に変更したり、ブラウジングの妨げとなっているサードパーティ製のツールバーを非表示にしたり、IEの画面を75%表示に変更したりといった具合だ。そもそもの画面解像度が低いことから、ブラウザについては文字サイズを小さくするのではなく、画面そのものを縮小表示にするのがコツだ。

 また、タッチ操作のズレはストレスの要因となりやすいので、キャリブレーションについてもあらためて行なっておく。設定はコントロールパネルの「Tablet PC設定」から行なう。これをやるのとやらないのとで、だいぶ違う。

 また本製品は画面の回転機能が非常にわずらわしく、向きを変えてから数十秒経過したのちに思い出したかのように画面を回転させたり、なぜか天地逆に回転させたりすることがあった。そのためこれらの機能もオフにしておく。設定は本体右端のMENUキーから起動するユーティリティ「Notebook Manager」にて行なう。

IEを75%表示にすることで、縦表示の場合も見やすくなるユーティリティ「Notebook Manager」の「Auto Rotate Screen」のチェックを外すことで、画面の回転が行なわれなくなる

 以上の作業により、意図しない動きをすることが減少し、また全体的にきびきびと動作するようになった。今回は見送ったが、本製品を特定用途にしか使わないのであれば、システム構成ユーティリティから不要なサービスをオフにすることで、さらに快適に使えるようになるだろう。

 なお、本製品はハードウェアキーボードを備えていないだけに、過度な設定変更でうまく立ち上がらなくなると、BIOS設定画面で操作を行なうだけで一苦労だ。これらの設定を変更する際は、あくまでも自己責任で行なってほしい。

●周辺機器を用いて本製品を強化する

 続けて、本製品を快適に使うために、ハードウェアレベルでの対応を試みたい。まず1つはメモリ。本製品のメモリは1GBとなっており、Windows 7を快適に動かすにはかなり力不足と言わざるを得ない。増設も可能とされているが、今回はWindows 7のReady Boostを使い、USBメモリを使って仮想的にメモリを増やしてみることにした。

 USBメモリを挿すと自動起動するメニューから「Ready Boost」を選択し、そのすべてをメモリとしての利用に割り当てる。これによって、システムメモリを仮想的に増やすことができる。Windows エクスペリエンスインデックスの値に変化があるわけではないが、全体的にきびきびとした挙動になったように感じられる。

Ready Boostの設定画面今回は手持ちの機材の関係で筐体サイズの大きなUSBメモリ(手前)を使用したが、最近よく見かける突起部数mmの超小型USBメモリを使えば、挿したままでの持ち運びもできそうだ。もっともこれら超小型USBメモリはReady Boostに対応していない場合があるため、購入にあたっては事前にチェックされたい

 もう1つは外付のキーボードおよびマウスの利用だ。本製品はBluetoothを搭載しているのでBluetooth対応のキーボードやマウスが利用できるほか、USB接続のキーボードやマウスについても利用できる。いつもキーボードやマウスを接続して利用するのであればネットブックと変わらなくなってしまうが、普段は本体のみ持ち歩いておき、文字入力作業が必要な時にキーボードやマウスを組み合わせて利用するというのは、使い方としてはありだろう。

 今回は、筆者がiPadと組み合わせて利用している、エレコムの折りたたみ式Bluetoothキーボード「TK-FBP017BK」を接続してみた。本製品はSPPとHIDの2つのモードを備えているが、HIDモードにすることで利用が可能になる。特に本製品のソフトキーボードはユーザー名やパスワードなど短いテキストの入力をするならいざ知らず、本格的なテキストの入力には適さないので、これらの利用も視野に入れたい。

デバイスの追加画面。Bluetoothデバイスとして、エレコムのBluetoothキーボード「TK-FBP017BK」が認識されているエレコム「TK-FBP017BK」(手前)と組み合わせたところ。好みのキーボードが使えるネットブックとして見た場合、悪い選択肢ではない

●電子書籍ビューワとしての使い勝手は?

 以上、快適に利用する方法を探ってきたが、スレート型のデバイスとくれば、やはり電子書籍のリーダーとして使えるのか否かが気になるところだ。そこで今回は、プリインストールされている「ebi.BookReader for Windows」のほか、Windows用のビューワソフトをインストールし、電子書籍コンテンツおよびPDFやJPEGファイルをどの程度「読める」のかを試してみた。

 まずは「ebi.BookReader for Windows」。eBookJapan製の電子書籍ビューワだ。トランクと呼ばれる書庫にコンテンツを保管しておき、デバイスにダウンロードして読むという、やや特殊な使い勝手のビューワである。デスクトップ上にショートカットが置かれていることからも、本製品のメインのソフトとして位置づけられていることが分かる。

 実際に使った限りでは、ハードウェアのスペックの関係か、きびきびとしたページ送りは望めないものの、支障なく読書が楽しめるレベルだ。全画面表示もできるので、読書時にほかのソフトなどに気を取られることもない。ただしページめくり時のアニメーションやスライド効果がないため、操作によってはページが先に進んだのか戻ったのか分かりづらいという、ソフト側のインターフェイスに起因する問題はなくはない。

デスクトップ上に置かれている「電子書籍1冊無料プレゼント」というショートカットをダブルクリックして起動すると、この「ebi.BookReader for Windows」の立ち読み画面が表示される。本を選択すると下段に概要が表示される本を全画面表示したところ。タッチ操作でページをめくって読書が楽しめる

 続いてWindows用のビューワソフトを試してみる。まずはおなじみ「Adobe Reader」でPDFを表示してみる。見開き表示のままフルスクリーンモードにすることで本のように表示させ、タッチでページをめくることができる。ただし画面のタッチは「進む」にしか対応せず、「戻る」ことができないため、ページを戻る場合は本体右端のDOWNキーを併用することになる。

 また、フルスクリーンモードを解除する際はいったんソフトキーボードを表示してEscキーを押さなくてはならないなど、読書を終了したり、ほかのファイルに切り替える際の使い勝手は今ひとつだ。もっとも読書専用につくられたビューワというわけではないため、これは致し方ないところだろう。むしろ健闘している部類だといえる。

「Adobe Reader」でPDFファイルを見開き表示したところ。「表示」メニューで「見開き表示」を選択する見開き表示のままフルスクリーンモードを選択することで、本を読んでいるかのような表示が行なえる。ちなみにフルスクリーンモードで見開き表示を行なうには、環境設定の「フルスクリーンモード」で「1ページ全体をフルスクリーン表示」のチェックを外しておく必要がある

 もう1つはマンガ用のビューワとして知名度の高い「Leeyes」だ。Susieプラグインを追加することでJPEG画像の表示が行なえるソフトである。このソフトはマウスのホイールを回転させることでページをパラパラとめくれる操作性が魅力なのだが、タッチ操作のインターフェイスでは残念ながらこのメリットは享受できない。

 ただしキーカスタマイズ機能が強力なので、左クリックに「次のファイルへ」を割り当てることで、画面タッチによるページ送りが可能になる。左クリック+右ボタンに「前のファイルへ」を割り当てておけば、やや変則的ながら、タッチ操作による進む-戻るの操作が可能になる。ダブルクリックすれば全画面表示を解除できる点も悪くはない。

「Leeyes」で、JPEGファイルを見開き表示したところ全画面表示したところ。タッチによるページめくりが行なえる

 と、一通り使ってみたのだが、タッチ操作にネイティブ対応していないが故の操作感の悪さと、ハードウェアスペックが低いゆえの動作のもたつきはどうしても気になる。また本製品の液晶画面はワイド比率であるため、一般的な書籍を見開きで表示すると、画面の左右に黒い帯ができてしまう。実用上なんらかの支障があるわけではないが、読書ビューワとしての見た目はあまりよろしくない。専用の読書ビューワを用意するのであれば、この余白をどうするかといった点も対応が必要かもしれない。

●「キーボードが自由に選べるネットブック」として見れば悪くはない

 以上ざっと試用してみたが、普段社内で業務用に使っているWindowsアプリケーションがあり、それを社外に持ち出して使いたいというのであれば、本製品のプラットフォームは確かに適しているように感じられる。ハードウェアスペックは高くはないが、特定のアプリケーションでしか使わないのであれば不要なWindowsのサービスを停止させることで軽く動作させることも可能だと考えられるからだ。念のために書いておくと、アプリケーション側がタッチ操作に最適化されているという前提条件がつく。

 しかし、自宅でブラウジングをしたりメールを書いたり動画を見たりといったプライベートな用途に向くかというと、個人的にはあまりおすすめしない。とくにiPadと比較すると、Windowsアプリケーションが使える点を除き、メリットはあまり感じられない。ハードウェアレベルでUSBポートが使えて便利というのは一定のパフォーマンスがあってこそ活きてくるもので、現時点ではそれ以前の問題といった感がある。Flashが動く点についても同様だ。

 また個人的には、本体を手でホールドしている間に本体右端のキーに触れてしまいがちであることも気になった。ファンの音は許容範囲内ではあるものの、長時間使った場合の発熱もかなりのもので、常時手に持てないのもつらい。

 さらに約1kgという重量については、筆者がiPadに慣れているという事情を差し引いても、やはり重く感じられる。やや用途が異なるとはいえ、同じWindows 7 Home Premiumのプラットフォームであれば、Atom Z5x0、メモリ2GBを搭載した「VAIO X」の方が遥かに軽いのだ(最軽量時で約655g)。またWindowsのアプリケーションにこだわらなけば、iPadのほかにAndroid製のタブレットという選択肢もある。購入を検討する際は、Windowsというプラットフォーム、およびスレートPCという形状にこだわらずに、用途を見極めて製品をチョイスすべきであると感じた。

 個人ユースで考えると「キーボードが自由に選べるネットブック」という位置づけが妥当だろう。製品本来のターゲットと異なることは承知の上だが、ネットブックの独自配列かつ小さなキーボードではなく、好みのキーボードを自由に組み合わせて使えるネットブックという切り口であれば、食指が動かなくもない。本製品の発表会では「これは第一歩であり、素材」との発言もあったようなので、ハード面、使い勝手の面ともに、さらなる進化に期待したいところだ。

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(2010年 10月 15日)

[Text by 山口 真弘]