東芝「dynabook Qosmio V65/88L」
~SpursEngine搭載の“1台4役”ノート



東芝「dynabook Qosmio V65/88L」

発売中

価格:オープンプライス(実売194,800円前後)



 東芝から、AVノート「dynabook Qosmio」シリーズの新モデルとなる「dynabook Qosmio V」シリーズが追加された。優れたAV性能を誇るdynabook Qosmioシリーズの遺伝子を受け継ぎつつ、メディアプロセッサ「SpursEngine」を標準搭載することで、Qosmioハイエンドモデルに匹敵するAV能力が実現されている。今回、dynabook Qosmio Vシリーズの上位モデルとなる「dynabook Qosmio 65/88L」を試用する機会を得たので、詳しく紹介していこう。

●SpursEngine、Blu-ray Discドライブ、地デジチューナを標準搭載

 dynabook Qosmio V65/88L(以下、V65/88L)の最大の特徴となるのが、Cell Broadbald Engineをベースとしたメディアプロセッサ「SpursEngine」を標準搭載しているという点だ。SpursEngineは、既にQosmioシリーズのハイエンドモデルに搭載されているが、dynabookシリーズに搭載されるのは、このdynabook Qosmio Vが初だ。

 SpursEngineの搭載によって実現されている機能は、大きく3つある。1つめは、Blu-rayディスクへの5倍速ダビング。これは、HDムービーカメラで撮影したHD動画を、H.264形式に変換(トランスコード)しつつBlu-rayディスクに記録する作業を5倍高速に行なえるというもの。2つめは、内蔵する地デジチューナを利用した地デジ録画時に8倍録画ができるというもの。そして3つめは、DVDビデオ再生時に映像をHDクオリティにアップコンバートしつつ再生するDVDの超解像再生だ。

 これら3つの機能は、どれもSpursEngineが映像処理を非常に高速に行なえるから実現できるものだ。そこで、実際にSpursEngineの能力を確認すべく、実際に動画ファイルのトランスコードを行なってみた。今回は、解像度1,440×1,080ドットのMPEG-2 HDファイル(3分間)を、DVDビデオ形式のMPEG-2ファイルに変換することで検証した。変換に利用したエンコードソフトは、ペガシスの「TMPGEnc 4.0 XPress」。TMPGEnc 4.0 Expressは、SpursEngine対応プラグイン「TMPGEnc Movie Plug-in SpursEngine」を利用することで、SpursEngineを利用した高速なエンコードが行なえる。なお、TMPGEnc Movie Plug-in SpursEngineは、V65/88L搭載のSpursEngineを正式サポートしていないものの、今回試した限りでは動作に問題はなかった。

 結果は、SpursEngineを利用せずに、TMPGEnc 4.0 Express標準の変換設定で変換を行なった場合には3分以上の時間がかかったものの、SpursEngine利用時には2分17秒と、1分以上高速であった。変換元や変換先のデータ形式によって速度は変化すると思うが、少なくともノートPC向けのどのCPUよりも高速な映像処理が行なえるのは間違いない。今回は3分間の短い動画ファイルで試したが、長時間のファイルになるほどこの差は大きくなり、より効果を体感できるはずだ。

 また、地デジの8倍録画やDVDビデオの超解像再生なども試してみたが、全く問題なく動作したのはもちろん、地デジの8倍録画時でもCPUには大きな負荷がかからないため、録画時に他の作業を行っている場合でも快適性が損なわれることはなかった。試しに、8倍録画時に高負荷のベンチマークソフトを実行するなどしてみたが、録画に失敗することはなかった。

 そしてV65/88Lには、標準搭載されるSpursEngineを最大限活用するために、Blu-ray Disc(BD)ドライブおよび地デジチューナも標準搭載されている。BDドライブは、BD-R書き込み6倍速、BD-R DL書き込み4倍速、BD-RE/BD-RE DL書き換え2倍速に対応しており、地デジ録画データやHDムービーカメラで撮影したデータのダビングなどに活用できる。地デジチューナは、地上デジタル1チューナのみの仕様で、裏番組録画などは行なえないものの、ダビング10対応で、BDへのダビングももちろん可能。SpursEngineとBDドライブ、地デジチューナの標準搭載により、家庭用のBDレコーダとぼぼ同等の機能が実現されているとともに、BDレコーダとほぼ同等の操作を実現するリモコンも付属しており、PCとしてだけでなく、BDレコーダとしてもほぼ問題なく活用できる点は嬉しい。

動画変換テスト結果
TMPGEnc Express 4.0を利用して3分間のMPEG-2 HD動画ファイルをDVDビデオ形式のMPEG-2に変換
SpursEngine利用時2分17秒
SpursEngine非利用時3分32秒(エンコードモード:画質重視)
SpursEngine非利用時3分23秒(エンコードモード:速度重視)

SpursEngine(TOSHIBA Quad Core HD Processor)を標準搭載SpursEngine対応ツールを利用して、動画ファイルのトランスコードを高速に行なえる地デジ録画は、SpursEngineを利用して最大8倍録画が可能
DVDビデオは、HDクオリティにアップコンバートしつつ再生できるBDドライブを標準搭載する
地デジチューナも標準搭載し、BDレコーダ相当として活用可能。メニューは同社のレコーダ「VARDIA」シリーズと似ている専用リモコンが付属しており、家電感覚で地デジ関連機能を利用できる

●ボディはスリムかつコンパクト

 V65/88Lは、機能面から考えても、もともと携帯性はそれほど重要視されないマシンだ。ただ、だからといって無駄に大きいボディとなっているわけではなく、このクラスのAVノートとしては、十分スリムかつコンパクトなボディを採用している。

 ボディサイズは、387.6×266.8×34.8mm(幅×奥行き×高さ)。15.6型ワイド液晶を搭載していることもあり、フットプリントはそれなりに大きいものの、AV機能重視のノートPCでは、より大型の液晶を搭載していることが多く、同等機能を搭載する他のAVノートとの比較では十分にコンパクトだ。そして何より、34.8mmという高さは、このクラスのAVノートとしては際立って薄い。もちろん、このことから携帯性に優れるというわけではないが、デスクの引き出しなどに収納する場合でもスペースが少なくすむなど、有利なのは間違いない。ちなみに重量は、実測で2,914gであった。この重量では、持ち歩きは厳しいものの、家庭内で持ち歩く程度であればそれほど苦にならないはずだ。

 ボディカラーは、天板部分が光沢感の強いシャイニーレッドを採用。レッドとはいえ鮮烈なレッドではなく、やや落ち着いた印象も受ける。また、液晶面を開けると、本体周囲の一部にシャイニーレッドが見えるだけで、キーボード及び液晶面はブラックが基調となっているため、利用時にはシャイニーレッドが目に入って邪魔をすることもない。ちなみに、カラーはこのシャイニーレッドの1色展開となる。

本体正面。このクラスのAVノートとしてはかなりスリムなボディとなっている左側面。高さは34.8mmで、前方から後方まで厚さはほぼ均一だ背面。Gigabit Ethernetやアンテナコネクタなどが見える
右側面。BDドライブはこちらに搭載されている天板部分。光沢感の強いシャイニーレッドが非常に鮮やかだ
フットプリントは、幅387.6mm×奥行き266.8mm。AV機能重視のノートPCとしてはコンパクトなサイズだ重量は、実測値で2,914g。家庭内での持ち運びはそれほど苦にならないだろう

●15.6型ワイド液晶を搭載

 液晶パネルは、先に紹介したように、15.6型ワイド液晶を搭載している。パネルは、Qosmioシリーズのハイエンドモデルに搭載される高色純度・高輝度に対応するものではないものの、優れた発色性能で定評のある「Clear SuperView液晶」を採用。バックライトはLEDで、もちろん発色や輝度は申し分ない。

 ただし、表示解像度は1,366×768ドットとなっており、AV重視のノートPCとしてはやや物足りない。液晶サイズを考えると、Qosmioシリーズ上位モデルのようなフルHD解像度対応の液晶パネルを搭載することは難しいと思うが、もう1段高い解像度の液晶パネルを採用しても、文字などの視認性に大きな問題はないはずで、できれば1,600×900ドットほどの液晶パネルを採用してもらいたかった。

 また、液晶パネル表面は光沢処理が施されているが、外光の映り込みが激しく、天井の照明などがくっきり映り込む。地デジやBlu-rayなどの映像コンテンツ視聴時には、気を遣う必要があるだろう。

15.6型ワイドClear SuperView液晶を搭載。明るく鮮やかな発色が魅力だが、表示解像度が1,366×768ドットとやや低い点は残念表面は光沢処理が施されており、外光の映り込みが激しい液晶中央上部には、31万画素のWebカメラが搭載される

●CPUはCore i5 520Mを採用

 V65/88Lの基本スペックは、2010年春モデルのミドルレンジノートPCとしてほぼ標準的なものとなっている。

 CPUはCore i5-520M(2.40GHz)を搭載。メインメモリはPC3-8500 DDR3 SDRAMを標準で4GB(最大8GB)搭載する。グラフィックス機能は、CPU内蔵のIntel HD Graphicsが利用され、外部GPUは搭載しない。ちなみに、下位モデルのV65/86Lでは、CPUとしてCore i3-330Mが採用されるものの、それ以外の仕様はほぼ同等となる。

 ストレージデバイスは、先に紹介したようにBDドライブを標準搭載するとともに、500GBのHDDを搭載。無線機能は、IEEE 802.11b/g/n対応の無線LANが搭載される。

 本体側面のポート類は、USB 2.0×3、USB 2.0/eSATA共用ポート×1、Gigabit Ethernet、SD/SDHC/SDXCメモリーカード/メモリースティック/xD-Picture Cardなどに対応するブリッジメディアスロットなどを用意。PCカードスロットやExpressCardスロットは用意されない。

 キーボードは、キーピッチ19mm、ストローク2.5mmのフルサイズキーボードを搭載。本体サイズに余裕があるため、右にはテンキーも搭載する。いびつなピッチや無理のある配列などは無く、適度な堅さとクリック感があり、扱いやすさはデスクトップ用キーボードに十分匹敵する。

 ポインティングデバイスは、パッド式のタッチパッドを搭載。パッド面の面積は十分広く、こちらも扱いやすい。また、標準でUSB接続の小型レーザーマウスが付属しており、動画や画像の編集作業など細かな作業を行なう場合には、付属のマウスが活用できる。また、パッド面上部に用意されているスイッチで、タッチパッドの動作をON/OFFできる点も嬉しい配慮だ。

 キーボード上部には、dynabook/Qosmioシリーズでおなじみの、harman/kardon製高音質ステレオスピーカを標準搭載。また、スピーカの周波数特性やダイナミックレンジに合わせて再生サウンドを最適化する高音質技術「MaxxAudio」や、臨場感あふれるサラウンド再生が行なえる「ドルビーサウンドルーム」なども搭載しており、AVユーザーも満足のサウンド環境が実現されている。ただし、実際に再生される音声は、やや低音が弱いように感じるので、できればサブウーファも搭載してもらいたかった。とはいえ、一般的なノートPCとは一線を画す音質を実現していることは間違いなく、外付けスピーカを用意せずとも、高音質サウンドが楽しめると考えていい。

左側面には、アナログRGB出力(ミニD-Sub15ピン)、USB 2.0/eSATA共用×1、HDMI出力、USB 2.0×1の各端子を備える右側面には、ヘッドフォン・マイク端子、USB 2.0×2を用意背面には、地デジチューナ用のアンテナ端子と、Gigabit Ethernet、電源コネクタが配置されている
正面左にはブリッジメディアスロットがある。またその横には、録画状況や無線LANの動作状況を示すLEDが配置されている底面にはメインメモリ用のSO-DIMMスロットが2つ用意され、標準で2GBのPC3-8500 DDR3 SDRAMモジュールを2枚搭載する500GBの2.5インチHDDを標準搭載。HDDは底面から簡単にアクセスできる
バッテリ搭載部には、内蔵地デジチューナ用のminiB-CASカードスロットがある本体サイズに余裕があるため、テンキー付きのキーボードを搭載。ピッチの乱れや変則な配列もなく扱いやすいキーピッチは19mm、ストロークは2.5mm。デスクトップ用キーボードに近い感覚で、快適に利用できる
ポインティングデバイスのタッチパッドは、パッド面が広く非常に扱いやすい。また、パッド上部にはパッドの動作をON/OFFできるスイッチも搭載する小型のUSBレーザーマウスが標準添付される
harman/cardon製スピーカを搭載。やや低音が弱いものの、ノートPCとしては十分高音質なサウンドが再生できる付属のACアダプタは、大型のものが付属する

●PC、地デジ、BDレコーダを一気に調達したい人におすすめ

 では、ベンチマークテストの結果をチェックしていこう。利用したベンチマークソフトは、Futuremarkの「PCMark Vantage Build 1.0.1 0906a」と「PCMark05 Build 1.2.0」、「3DMark06 (Build 1.1.0 0906a)」、スクウェア・エニックスの「FINAL FANTASY XI Official Benchmark 3」の4種類。比較用として、BIBLO MG/G75の結果も加えてある。

 比較用のBIBLO MG/G75とは、搭載CPUの動作クロック以外、基本スペックはほぼ同じとなっており、ベンチマークテストの結果も、CPUクロックの差に相当する違いがあるだけで、ほぼスペック通りの結果が得られていることがわかる。3D描画能力は、CPU内蔵グラフィック機能が利用されていることもありやや低く、3D描画のゲームを楽しむにはかなり非力だ。ただ、HD動画の再生支援機能を搭載しているため、AVノートとしての不安は無い。もちろん、Blu-rayや地デジなどのHD映像コンテンツも余裕を持って再生できる。

 Qosmio V65BIBLO MG/G75
CPUCore i5-520M(2.40/2.93GHz)Core i5-430M(2.26/2.53GHz)
チップセットIntel HM55 ExpressIntel HM55 Express
ビデオチップIntel HD Graphics(CPU内蔵)Intel HD Graphics(CPU内蔵)
メモリPC3-8500 DDR3 SDRAM 4GBPC3-8500 DDR3 SDRAM 4GB
OSWindows 7 Home PremiumWindows 7 Home Premium
PCMark Vantage Build 1.0.1 0906a
PCMark Suite53404801
Memories Suite30893026
TV and Movies Suite38423444
Gaming Suite30053018
Music Suite56495602
Communications Suite69693935
Productivity Suite39833672
HDD Test Suite30823192
PCMark05 Build 1.2.0
PCMark Score58865758
CPU Score73276588
Memory Score61345655
Graphics Score26712804
HDD Score46985395
3DMark06 Build 1.1.0 0906a
3DMark Score19411934
SM2.0 Score588591
HDR/SM3.0 Score790787
CPU Score27872547
FINAL FANTASY XI Official Benchmark 3
Low39313699
High25692395
Windowsエクスペリエンスインデックス
プロセッサ6.56.3
メモリ5.55.5
グラフィックス4.64.6
ゲーム用グラフィックス5.35.2
プライマリハードディスク5.55.8

容量48Whのリチウムイオンバッテリが搭載される

 次に、バッテリ駆動時間だ。V65/88LはモバイルPCではないものの、一応チェックしてみた。結果は、Windows 7の省電力設定を「高パフォーマンス」に設定するとともに、液晶輝度を最大に設定し、無線LANを動作させた状態で、動画ファイル(WMV9、ビットレート1,156kbps、640×480ドット)を連続再生させた場合で約1時間53分、Windows 7の省電力設定を「省電力」に設定するとともに、バックライト輝度を40%に設定し、無線LANを有効にした状態で、BBenchを利用してキー入力とWeb巡回にチェックを入れて計測した場合で約2時間であった。このクラスのノートPCとしては、標準的なバッテリ駆動時間であり、家庭内で移動しつつ利用するといった程度なら十分対応できるだろう。

バッテリ駆動時間
省電力設定「省電力」、BBench利用時約2時間00分
省電力設定「高パフォーマンス」、動画再生時約1時間53分

 V65/88Lは、実売価格が19万円台と、ミドルレンジノートとしてはやや高価な部類に入る製品だ。とはいえ、標準でBDドライブや地デジチューナを搭載するとともに、SpursEngine搭載による優れた映像処理機能を実現していること、それによって、1台でPC、地デジTV、BDレコーダ、音楽プレーヤーと4役をこなすことを考えると、十分魅力的な価格設定と感じる。AVノートとしては、やや液晶サイズが小さいことと、表示解像度が低いこと、またスピーカ音声の低音がやや少ないことなどが気になるが、そのあたりを求めると、一気に価格が上がってしまう。そういった意味では、スペックと価格のバランスも絶妙と言えるかもしれない。

 1台で4役こなせることから、これから春にかけて、進学や就職などでひとり暮らしを始めようとしている人で、PCと地デジTV、BDレコーダをまとめて調達したいと考えている場合に、V65/88Lは魅力的な選択肢となるだろう。また、HDムービーを利用したHD動画の撮影や編集を趣味にしている人や、個人用や書斎用の地デジ録画PCを調達しようと考えている人にもおすすめしたい。

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(2010年 2月 22日)

[Text by 平澤 寿康]