Hothotレビュー
Mac史上最薄最軽量を実現した、Apple「MacBook」
~USB Type-C 1ポートに割り切った次世代スタンダード
(2015/4/18 06:00)
2012年6月に「MacBook Pro」において、Retinaディスプレイが初めてMacBookシリーズへ搭載されて以降、薄型軽量を売りにした「MacBook Air」にもRetina化が長らく待ち望まれていた。しかしAppleは2015年3月、MacBook Airシリーズをラインアップに残したまま、これからのApple製ノートPCのスタンダードという位置付けで、Retinaディスプレイを搭載する新開発の薄型12インチノートPCを「MacBook」の名でリリースした。
“Pro”も“Air”もつかない無印のMacBookというシリーズ名は、これまでエントリーモデルに付けられていたものだ。しかし新しいMacBookは最小構成でも148,800円(税別)と、MacBook Airの最小構成の102,800円(同)よりも高い価格が設定されている。また、Mac史上もっとも薄く軽い筐体を実現するため、性能や拡張性に大胆な割り切りが施されている。そのため、それを理解しないで“Macの入門機”として購入すると大きな不満を感じることになるかもしれない。
今回、筆者自身が購入したモデルとAppleからの貸し出し機を合わせてスペックの異なる2モデルを試用できた。この記事ではベンチマーク、使い勝手の検証などを通じて、新MacBookがどのような素性のノートPCなのかに迫っていきたいと思う。
低消費電力性能を最重要視してCore Mを採用
新MacBookの店頭モデルは2モデルのみ。Apple Storeではプロセッサをカスタマイズ可能だが、メモリ容量は変更できない。そのためスペック的には下記の4つの仕様のみが用意される。
【新MacBookで選べる4つの仕様】 | |||
---|---|---|---|
1.1GHz Core M | ストレージ256GB | メモリ8GB | 店頭モデル |
1.2GHz Core M | ストレージ512GB | メモリ8GB | 店頭モデル |
1.3GHz Core M | ストレージ256GB | メモリ8GB | CTOにより選択可能 |
1.3GHz Core M | ストレージ512GB | メモリ8GB | CTOにより選択可能 |
ただし、今回iPhone/iPadの本体カラーに合わせて、シルバー、ゴールド、スペースグレイの3色が用意されている。つまり4仕様、3色となり、12種類のモデルが提供される。MacBookとiPhoneを同じ色で合わせるなどのコーディネートを楽しめる。
メディア系の重たい作業には不向き
プロセッサは低発熱、低消費電力性能を重視して、Core Mが採用されている。ストレージはPCI Express接続のオンボードフラッシュ、メモリも8GB DDR3-1600(4GB×2)がオンボード実装されている。MacBook Air、MacBook Proのようにサードパーティー製ストレージと交換できないので、容量は慎重に選んだ方が良い。個人的には、iCloudやDropboxなどのオンラインストレージで500GB~1TBのプランを契約しているのであれば、256GBモデルで十分だと考える。筆者はBoot CampでWindows環境を導入する予定なので512GBモデルを購入した。
プロセッサの違いはどの程度性能に影響があるだろうか? プロセッサとメモリの性能を計測するベンチマークソフト「Geekbench 3」で、1.1GHzデュアルコアCore M搭載モデル(以下、1.1GHz版MacBook)と、1.2GHzデュアルコアCore M搭載モデル(以下、1.2GHz版MacBook)を計測してみた。下記のスコアは3回計測して最も高かった値を掲載している。
【Geekbench3(64bit)によるベンチマークスコア】 | ||
---|---|---|
Single-Core Score | Multi-Core Score | |
1.1GHz版MacBook | 2471 | 4605 |
1.2GHz版MacBook | 2602 | 5236 |
Multi-Core Scoreで比較すると、1.2GHz版MacBookは1.1GHz版MacBookの約1.14倍となる。クロック周波数から順当なスコアだが、体感できるほどの性能の差ではない。CTOで最上位となる1.3GHz版MacBookはさらに約1.14倍のスコアとなることが予想されるが、1.3GHzデュアルコアCore Mへのアップグレードは18,000円(同)のアップとなるため悩ましい選択だ。
ほかのモデルと比較するためにGeekbench 3のスコアが投稿されている「Geekbench Browser」を参照してみたが、2.8GHz Core i7-4980HQを搭載するMacBook Pro(Retina 15インチMid 2014)は1.1GHz版MacBookの約3.38倍、2.2GHz Core i7-5650Uを搭載するMacBook Air(11インチEarly 2015)は約1.52倍のスコアが記録されていた(4月14日調査時)。このスコアだけで判断するならば、1.2GHz版MacBookの性能は、1.4GHz Core i5-4260Uを搭載したMacBook Airの2014年モデル相当ということになる。
実際のアプリケーションでも1.1GHz版MacBookの処理時間を計測してみたが、Adobe Photoshop Lightroomで80枚のRAW画像(4,912×3,264ドット)を現像するのに7分55秒、Adobe Premiere Pro CCで3分44秒のAVCHD動画(1,440×1,080ドット)をMP4動画(H.264形式)にエンコードするのに14分21秒かかった。こういった重たい作業を頻繁に行なう人にはMacBook Proをお勧めしておくが、それ以外の一般的な利用であれば、OSとハードウェアを合わせたチューニングのおかげかストレスを感じることはなかった。
開梱~各部を細かくチェック
紹介する順番が逆になったが、パッケージの開梱を皮切りに、MacBookの各部を写真で細かく見ていこう。
新MacBookならではの演出があるわけではないが、製品を購入したときの喜びを盛り上げるAppleならではのパッケージデザインは踏襲されている。
MacBookがユーザーを選ぶ最大の理由は、拡張ポートとしてUSB Type-Cポートを1つしか用意していないことだ。これまでのUSB規格の周辺機器を利用したり、外部ディスプレイに繋ぐためには、「USB-C - USBアダプタ」、「USB-C VGA Multiportアダプタ」、「USB-C Digital AV Multiportアダプタ」のいずれかが別途必要となる。
その意味で新MacBookは、物理的な周辺機器とのアクセス方法の見直しをユーザーに迫ることになる。Appleが想定している最終的な解決方法はワイヤレスでの接続だ。実際ここ1~2年で発売された中級機以上のデジカメであれば、その多くにWi-Fi機能が搭載されているので、ケーブル接続したりカードリーダーを用意する必要はない。だが、今現在手持ちの周辺機器のほとんどがワイヤレスだったとしても、まだ有線の製品が残っている人も多いはずだ。当面は、上に挙げたアダプタが必要となるだろう。
速度、動作時間、解像度、入力インターフェイスの使い勝手は?
ベンチマークから始めた本稿だが、この項ではMacBookの使用感について語っていきたい。まず体感速度だが、Webブラウジングを中心にした一般的な用途では、ほとんど不満はない。また、Webブラウジング程度の負荷では、1.1GHz版MacBookと1.2GHz版MacBookで違いは体感できなかった。ローカルに保存した4K動画(3,480×2,160ドット)も認識できるコマ落ちなしに再生できた。
前述の通りPremiere Pro CCの書き出し(エンコード)には動画の尺の約3.84倍の時間がかかったが、編集やプレビューなどはメモリを8GB搭載しているだけあって、2.7GHz Core i7-3820QMを搭載するMacBook Pro(Retina 15インチMid 2012)と変わらないレスポンスで行なえた。絶対的なハードウェアスペックが低くても、OSと合わせたチューニングで快適なレスポンスを実現できるのは、OSとハードを1社で開発しているApple最大の強み。ベンチマークの項でも触れたが、RAW現像、動画エンコードなどを頻繁に行なわないのであれば、性能に不満を感じることはないはずだ。
動作時間については、YouTube動画の連続再生(Wi-Fiオン)、ローカルのMP4動画の連続再生(Wi-Fiオフ)、そしてテキスト入力とWeb閲覧を中心にした連続利用で計測してみた。全てディスプレイ最大輝度で計測している。
今回のテスト項目で最もバッテリ消費の激しいYouTube動画の連続再生でも、3時間21分55秒動作することができた。ディスプレイの輝度を下げれば、まだまだ連続動作時間を伸ばせることを考えると、モバイルノートPCとして十分な連続動作時間を備えていると言える。
【1.1GHz版MacBookの連続動作時間計測結果】 | |
---|---|
YouTube動画の連続再生(Wi-Fiオン) | 3時間21分55秒 |
ローカルのMP4動画の連続再生(Wi-Fiオフ) | 5時間21分22秒 |
テキスト入力とWeb閲覧を中心にした連続利用 | 4時間37分42秒 |
MacBookのRetinaディスプレイの解像度は2,304×1,440ドット、226ppi。最新スマートフォンのクアッドHD(2,560×1,440ドット、577ppi)と比べると数値的には見劣りするが、ディスプレイに目を近づけてもドットを視認することはできない精細さだ。。非Retinaディスプレイの11インチMacBook Airなどと比べると、例えばGoogleカレンダーの月表示などでの文字の視認性に明らかな差がある。WebサービスはAdobe製アプリがRetinaクラスの解像度を要求しつつある現状を踏まえると、一度MacBookを使ってしまったら非Retinaマシンに戻るのには相当の努力が必要だろう。
【画面解像度の比較】 | |
---|---|
iPhone6 | 1,334×750ドット、326ppi |
iPhone6 Plus | 1,920×1,080ドット、401ppi |
GALAXY S6 edge | 2,560×1,440ドット、577ppi |
11インチMacBook Air | 1,366×768ドット、135ppi |
13インチMacBook Air | 1,440×900ドット、128ppi |
13インチMacBook Pro Retina | 2,560×1,600ドット、227ppi |
15インチMacBook Pro Retina | 2,880×1,800ドット、220ppi |
MacBook | 2,304×1,440ドット、226ppi |
MacBookは、より薄いキーボードを実現するため、シザー構造ではなくバタフライ構造を採用している。キーストロークが非常に短いので、これまでのMacのキーボードに慣れていると、意図せず強いタイピングとなり違和感を感じるだろうが、筆者の場合は丸1日使用したら慣れてしまった。逆にシザー構造のMacBook Proのキーボードに、ブレるような違和感を感じてしまう始末だ。ともあれ、MacBookのストロークの浅さはあまり心配しなくて良いだろう。
薄型化のためにもう1つ大きく変わったのがトラックパッドだ。従来の沈み込むダイビングボード構造ではなく、水平方向への振動でクリック感覚を伝える「Taptic Engine」技術を採用した感圧タッチトラックパッドが搭載されている。実際に使ってみると下向きのクリック感にしか感じないが、MacBookの電源を落としているときにトラックパッドを押してもごくわずかにたわむだけでクリック感はない。言われなければ、誰もが従来方式と騙されてしまうほど、新トラックパッドについては全く違和感はなかった。
また、対応アプリでは感圧タッチ機能により、タッチパッドを押す強さを検出できる。これにより、例えば標準ブラウザのSafariでは、文字の上にカーソルを置いてトラックパッドを強く押すと、辞書やWikipediaから検索結果が表示。ファイルの上にカーソルを置いてトラックパッドを強く押せば、そのファイルをプレビューでき、さらに強く押し切れば大きく画像が開かれる。画像だけでなく、Office文書などもプレビュー可能だ。これは従来にはできなかったことだ。
USB Type-C Digital AV Multiportアダプタは必須アクセサリ
新MacBookの試用を開始してから、この原稿を書いている時点で1週間が経過したが、外出時のモバイルノートとして不満なく使えている。920gという軽さは、例えばバックパックに入れて背負った時に、大げさに言えばほかの荷物の重量に紛れてしまい、入っているのかどうか分からなくなるレベルだ。メインの荷物が大幅に減量できたのが嬉しくて、バッグ自体やほかに持ち歩いている荷物もより軽いものに買い換えたくなってしまっているのが困ったものだが……。
一方、自宅でのメインマシンとして使う際には、USB Type-Cポートが1つしかないのが懸念事項ではあったが、USB-C Digital AV Multiportアダプタと4ポートUSBハブさえあれば、ディスプレイ、電源、そしてカードリーダ、マウス、ストレージなどをケーブル1本で挿せることが逆にメリットと感じるようになった。仕事机を離れるのも、戻るのも手間なく行なえる。
一方、外出先ではUSB-C - USBアダプタに、極短のMicro USBケーブルと「Lightning - Micro USBアダプタ」を繋いで携帯している。仕事柄取材先などでデジカメやスマートフォンからデータを吸い上げることがあるが、このケーブルセットさえ持っていれば、ここ2~3年の製品であればほぼ接続できる。手持ちの製品で例外なのは、Mini USB端子を搭載している「GoPro」ぐらいだ。
MacBookは決して高性能なモデルではない。しかし、サイズ、重量、連続動作時間、ファンレス仕様などのバランスを考えれば、現時点でCore Mを採用したことは必然だったと納得できる。
USB Type-Cポート1つという割り切った仕様については、USB-C Digital AV Multiportアダプタ、USB-C - USBアダプタなどの最低限のアクセサリさえ用意すれば、特に実際の利用シーンで困ることはない。そしてMacBook用USB Type-Cアクセサリはサードパーティーには大きな商機だから、今後さまざまな製品が多数発売され、どんどん便利になっていくことだろう。
見た目の最先端マシン的なイメージだけで飛びつくと戸惑いが大きいかもしれない。しかし、ユーザーがどのような製品なのか明確に理解した上で購入したのであれば、新型MacBookはその要求に忠実に応えてくれる。現時点でも純正アクセサリを使えば手持ちの周辺機器がそのまま使えるUSB Type-C対応であり、ワイヤレス製品に切り替えれば、さらにスマートな使い方が可能になるのが、Appleの次世代スタンダードである新型MacBookなのだと言えよう。