~NVIDIA Optimusに対応したモバイルノート |
ASUSTeKのモバイルノート「U30Jc」は、NVIDIAのOptimusテクノロジを採用したモバイルノートブックだ。OptimusではCPU/チップセット内蔵の統合グラフィックスとNVIDIAのディスクリートGPU(以下dGPU)とを利用シーンに合わせシームレスに切り替え利用できる。Optimus自体のレビューでは、ひとまわり大型な「UL50Vf」が用いられていたが、U30JcでのOptimusはモバイルノートのウィークポイントだったパフォーマンス(ここではとくにグラフィックパフォーマンス)を、最少のバッテリ消費で実現できると期待できる。今回はこのU30Jcをチェックしていこう。
●13.3型ワイド液晶を搭載したスタイリッシュモバイルU30Jcは13.3型ワイドサイズ。液晶ディスプレイは解像度が1,366×768ドットだ。本体のサイズは328×238×20~29.9mm(幅×奥行き×高さ)。スリムではあるが、モバイルノートとしては比較的大きく、ゆったりサイズの製品と言える。また、質量もバッテリ装着時で約2.1kgと、モバイルノートとして見てギリギリといった印象だ。
液晶パネルは光沢コートされており外光の映り込みは激しい。モバイルと言えばビジネス主体とイメージしてしまうが、U30Jcに関してはコンシューマ向けという位置付けのようだ。光沢コートと、ASUSTeK独自の画質調節ユーティリティ「ASUS Splendid」を合わせると、映像の視聴においては良好な印象を受ける。
液晶天板はヘアライン加工されたシルバー。とくに明記されてはいないが、触るとひんやりとした感触で、金属素材を用いていると思われる。底面はブラックで、こちらは樹脂系素材で整形されている。過度な装飾は無く、天板や底面は角を丸めてスリムさを印象づけており、出っ張るところも無いことから、全体的にスタイリッシュで、かつカバンへの収納もスマートだ。
キーボードはアイソレーションタイプを採用している。最近のASUSTeK製ノートでは一般的と言って良い。キーピッチは標準的なキーで19mmほど。標準的なキーの横幅は17mmで、記号キーを中心としたいくつかのキーは幅14mmほどに抑えられている。このようにサイズの違うキーもあるとはいえ、13.3型ワイドサイズボディを有効に利用したゆったりとしたキーレイアウトである。キーストロークはスリムモバイル指向らしく浅いが、入力の感触はアイソレーションキーとして一般的な範囲に収まっている印象だ。キーボードの手前にはマルチタッチ対応のタッチパッドも装備する。左右クリックキーが一体型であるのは、本製品がどちらかと言えばデザイン重視であるためだろう。そしてその横には本製品の肝であるOptimusテクノロジのロゴが貼付されている。
●OptimusでCore i5のIntel HD GraphicsとGeForce 310Mを自動切り替え
U30JcのCPUはIntel Core i5-430M(2.26GHz)。デュアルコアのこのプロセッサは、Hyper-Threadingに対応しており、4スレッドの同時実行性能を持つ。また、Turbo Boostテクノロジにより、通常は2.26GHz駆動だが、瞬発的に最大2.53GHzまで引き上げられる。
グラフィック機能はCore i5-430Mに統合されているIntel HD Grapchicsと、dGPUとしてGeForce 310M、この2つが搭載されている。こうした統合GPUとdGPUとの切替は、これまでのノートブックの場合、基本的にユーザーが手動で行なっていた。そしてDirectX等が絡むアプリケーションでは、一度DirectXが絡むウィンドウを閉じた後に切り替えるというように手間、そして戸惑いが生じていた。Optimusの場合、まず基本的にアプリケーションによって自動的に切り替わることに加え、いちいちウィンドウを閉じるということも必要が無い。
まず自動切り替えに関しては、NVIDIAドライバ側にDirectXやCUDAを用いるアプリケーションが登録されており、起動するアプリケーションを検出して切り替わる。切り替えルールはデスクトップを右クリックして起動する「NVIDIA Control Panel」で確認できる。各種のベンチマークをインストールしていったところ、3DMarkやThe Last Remnantといったアプリケーションがこのリストに追加されていった。しかしNVIDIA側のリストに登録されていないアプリケーションもある。その例がFinal Fantasy XI Official Benchmark 3だ。こうしたアプリケーションがあった場合、NVIDIA Control Panelからそのアプリケーションの実行ファイルを追加することでルールを追加可能だ。
GeForce 310Mはメインストリームノート向けのGPUだ。CUDAコアは16基、コアクロックが625MHz、メモリクロックは790MHz。正直なところそれほど3Dパフォーマンスが高いわけではなく、軽めのオンラインゲーム等を楽しめる、というクラスだ。一方GPUのその他の機能に目を向けると、非3DアプリケーションでGPUを活用するCUDAやHDビデオの再生支援/高画質化機能である「PureVideo HD」といった機能でマルチメディア性能を引き上げることができる。
その他ハードウェア仕様を見ていくと、メモリはDDR3 SO-DIMMスロット2基を備え、標準で2GB(2GB×1枚)を、ストレージは容量320GBの2.5型HDDに加え、DVDスーパーマルチ対応の光学ドライブを搭載している。ネットワーク機能に関しては、有線が1000BASE-T/100Base-T/10Base-Tに対応、無線はIEEE 802.11b/g/nおよびBluetooth 2.1+EDRを備えている。そのほかHDオーディオ機能はSRS Premium Soundにも対応している。
インターフェイスは一般的なものを備える。HDMI端子を備えるところはエンタテインメント機能の一環だろう。左側面にミニD-Sub15ピンアナログディスプレイ出力、HDMI出力、USB 2.0×2、そしてオーディオ入出力。右側面には光学ドライブ、USB 2.0、LAN、そしてACアダプタジャック。最後前面にはSDカード/MMC/メモリースティック対応のカードリーダを備えている。
●大容量バッテリで約7時間超の実用バッテリ駆動時間を実現
ASUSTeK独自のユーティリティも満載だ。代表的なものだけを挙げても、先述のSplendidに加え、内蔵HDDを補うウェブストレージ「ASUS WebStorage」の60日間体験版、アカウント管理ソフトの「ASUS SmartLogon」、省電力ソフトの「ASUS Poer4Gear Hybrid」などが搭載されている。
Poer4Gear Hybridはそれ自体のアプリケーションでは、アイコンから電力設定を変更できるほか、作り込まれたUIによって細かなカスタマイズが簡単に行なえる。また、Windows 7標準の電力設定にプロファイルが追加され、こちらからも切り替えが可能だ。もちろんACアダプタの着脱を検出でき、自動的に切り替えることにも対応している。
バッテリは8セルという大容量タイプ。刻印によれば5,600mAhで84Whである。本体後部のほぼ全面を使うサイズであり、ここが本製品を重くしているとも考えられるが、それに見合う以上の長時間駆動を実現する。
そこでバッテリ駆動時間をBBenchで計測してみた。電力設定は「Power4Gear Battery Saving」。バックライトは40%に落としてみた。ネットワーク接続は無線LANとし、BBench側の設定はキーストロークとWeb巡回をオンとしている。この状態でバッテリ100%から、休止状態へと移行する8%まで、約7時間19分ほど動作した。もちろん、GPUは統合グラフィックを使用することになるとはいえ、モバイルには十分なバッテリ駆動時間と言えるだろう。
ただしACアダプタはやや大きめだ。評価機ということで特別大きなものが同梱されていたという可能性があることをお断りしておくが、モバイルと銘打っている割には一般的なモバイルノートよりもひとまわり大きい。重量もそこそこある。U30Jcの場合、十分なバッテリ駆動時間が確保されているため、ACアダプタは持ち歩かずとも良いという思想なのかもしれない。
簡単に画質を調節できるASUS Splendid | Power4Gear Hybridは詳細な電力設定をわかりやすい1画面に収めたユーティリティ | バッテリは本字を除く本体後部の幅いっぱいのサイズ。8セルで容量は5,600mAh。ACアダプタはやや大きめであまりモバイル向けとは言えないサイズ |
●GeForce 310Mがオンなら3Dグラフィックパフォーマンスは2倍以上に
最後はシステム性能のベンチマークを紹介しよう。利用したベンチマークソフトは「3DMark 06」、「3DMark Vantage」、「PCMark 05」、「PCMark Vantage」、「Final Fantasy XI Benchmark」だ。3DMarkに関してはOptimusによってdGPUが使われたが、PCMarkに関してはどうも統合GPUが使われた様子。Final Fantasyに関しては当初Optimusに登録されていなかったため、統合GPUとdGPU双方で計測した。
PCMark 05、PCMark Vantageのスコアは順当なところ。PCMark 05のCPU Scoreは6000台を記録。CPUパフォーマンスは十分に高い。メモリスコアが低めに出たところは、本製品がSO-DIMM1本で、シングルチャネル動作であることが影響しているように感じる。また、グラフィックスコアも統合GPUが利用されたため低いが、モバイルノートとして見れば十分なパフォーマンスを持っていると言って良いだろう。
もちろんさらに高いPCMarksを狙うのであればOptimusのリストに登録してしまえば良いのだが、PCMarkのように、そのアプリケーションの中でGPUアクセラレーションしたいのが一部という場合、全てをdGPUオンで動作させて良いものか悩むことだろう。アプリケーションの中でDirectXが使われる1シーンだけdGPUをオンにするということができればベストだが、それはまだ難しい。ACアダプタがあればオンにしても構わないが、モバイルの際にいちいちリストを操作するのも現実的ではない。とりあえずGPUの比重を見て決め打ちするのが妥当なところではないだろうか。
一方で3DMark 06、3DMark Vantageはメインストリーム向けGPUなりに良好なスコアが出ている。Intel HD Graphicsの3DMark 06スコアはおよそ1000台であるから大きく引き上げられていることになる。また、Final Fantasyでは、dGPUをオンとした場合、統合GPUから2倍以上スコアアップしており、これだけでも相当にゲームは快適になるはずだ。
製品 | ASUS U30Jc |
CPU | Core i5-430M(2.26/2.53GHz) |
チップセット | Intel HM55 Express |
ビデオチップ | Intel HD Graphics(CPU内蔵)/GeForce 310M |
メモリ | PC3-8500 DDR SDRAM 2GB×1 |
ストレージ | 320GB HDD |
OS | Windows 7 Home Premium 64bit |
PCMark Vantage x64 Build 1.0.1 | |
PCMark | 4895 |
Memories | 2884 |
TV and Movies | 3452 |
Gaming | 2847 |
Music | 5289 |
Communications | 3991 |
Productivity | 4258 |
HDD | 3258 |
PCMark05 Build 1.2.0 | |
PCMark | 5624 |
CPU | 6596 |
Memory | 5558 |
Graphics | 2564 |
HDD | 5265 |
3DMark Vantage Bulld 1.0.1 1,280×1,024ドット(Performance) | |
3DMarks | 1147 |
Graphics | 896 |
CPU | 7128 |
3DMark06 Build 1.1.0 1,024×768ドット | |
3DMark | 4120 |
SM2.0 | 1533 |
HDR/SM3.0 | 1566 |
CPU | 2574 |
FINAL FANTASY XI Official Benchmark 3(統合GPU) | |
Low | 3468 |
High | 2255 |
FINAL FANTASY XI Official Benchmark 3(dGPU) | |
Low | 8978 |
High | 6640 |
U30Jcは、Core i5-430Mを採用することで強力なパフォーマンスを得、さらにNVIDIA Optimusテクノロジに対応することで、モバイルノートのウィークポイントだったグラフィック性能、マルチメディア性能という面のパフォーマンスも引き上げた製品だ。ボディサイズを生かした大容量バッテリで長時間駆動も実現し、積極的にアウトドアで使えるモバイルノートに仕上がっている。
同時に発表された3D Vision対応ノートの「G51Jx 3D」に注目を奪われがちであるが、実用モバイルとしての基本性能はかなり高い。やや重い点、ACアダプタが比較的大型であるという点はモバイルにとってやや判断の難しいところだが、ここは長時間駆動のバッテリとを天秤に掛け選びたい。外出先でもメディア再生を楽しみたい、ゲームが楽しみたい、といったホビー用途のモバイルを想定される方は本製品を検討してみてはいかがだろうか。
(2010年 4月 28日)
[Text by 石川 ひさよし]