■元麻布春男の週刊PCホットライン■
Intelは、今年に入って大きなトラブルに立て続けに襲われている。最初は1月31日に公表された6シリーズチップセットの不良によるリコール問題で、システムベンダー、マザーボードベンダーから販売店や流通業者、もちろんユーザーまで巻き込んだ一大問題となった。メディアも予定されていた広告等が延期やキャンセルになるなど、影響を受けている。3月に入ってようやく問題を解消したB3ステップを搭載した製品の流通が始まり、この問題は解消しようとしている。
続いて、2月11日のNokiaとMicrosoftの提携だ。ともにMeeGoを推進し、AtomベースのスマートフォンをリリースしてくれるハズだったNokiaが、スマートフォン向けOSとしてのMeeGoを実質的に断念し、MicrosoftのWindows Phoneを採用することとなった。Windows PhoneはARMアーキテクチャのみをサポートしており、NokiaからAtomベースのスマートフォンがリリースされる可能性が消えたことになる。
2008年春のIDFでAtomプロセッサーを搭載したMIDを掲げるAnand Chandrasekher副社長(当時) |
それから1カ月あまり後の3月21日、Intelは同社のUltra Mobility Groupの責任者であったAnand Chandrasekher上席副社長が辞任したことを明らかにした。発表ではその理由について「leaving Intel to pursue other interests」(他の興味を追求するためIntelを離れる)とされていたが、これはこの種の発表における常套句。事実上の解任ではないかと思われる。
Atomが正式に発表されたのは、2008年春のIDF(上海)でのこと。以来、3年間にわたる取り組みにもかかわらず、スマートフォンへの採用はない。立ち上げ時に発表されたMIDも尻すぼみの状況で、モノになったネットブックとストレージは、いずれもUltra Mobility Groupのフォーカスではない。こうした結果の出ない状況で、NokiaをARM陣営に奪われたことが、決定打になったのだろう。
Chandrasekher元副社長は、1963年生まれの若い有望な副社長の1人だった。特に2009年9月にPat Gelsinger副社長(1961年生まれ)が辞任(こちらも事実上の解任と考えられる)した後、Paul Otellini CEOの後継を目指す有力な1人ではないかと考えられていた。が、それもUltra Mobility GroupをIntelの柱に育て上げてこその話。結果を残せぬまま、時間だけが過ぎ去ってしまった、ということのようだ。ちなみに、Gelsinger元副社長を引き立てたのはCraig Barrett前CEOで、両者は親子のように親密な関係とも言われたが、Chandrasekher元副社長もCraig Barrett前CEOのTA(Technical Assistant)を務めたことをきっかけに頭角を現したとされる。
Gelsinger元副社長に続いて、Chandrasekher元副社長がIntelを去ったことで、Intelの次の顔はますます混沌としてきた。Otellini社長が早期に会長に就任するという前提の上で、次の社長はSean Maloney主席副社長(Otellini社長より5歳下)ではないかとも思われたが、脳梗塞で倒れ(現在はかなり快復したとも聞くが、公式の場でのスピーチ等からは遠ざかったままである)、その可能性は大幅に後退した。
残る3人の主席副社長のうち、事業部長経験を持つのは現Intel Architecture Groupの事業部長であるDavid Perlmutter主席副社長のみだが、氏はMaloney主席副社長より年齢が3つ上(1953年生まれ)で、Otellini社長に近すぎるという点が懸念される。Andy Bryant主席副社長は、長らくCFOを務めていた人物であり、社内的なリーダーシップに問題はないかもしれないが、事業部経験がないこと、社外的な知名度といった点が懸念される上、Otellini社長よりも年上である。Intel Capitalの社長をつとめるArvind Sodhani主席副社長は、長らくTreasurerを務めた財務畑の人物であり、資産運用等には長じているものの、世界最大の半導体会社の社長となるにはキャリアが異色すぎる。
Chandrasekher氏が務めていた上席副社長を見回しても、事業部長経験を持つのは現Sales and Marketing GroupのGeneral ManagerであるThomas Kilroy氏のみ。Kilroy上席副社長は、Gelsinger元副社長とともに、Digital Enterprise Groupの共同事業部長を務めていたが、Gelsinger元副社長の陰に隠れる格好で、あまり目立った存在ではなかった。キャリア的には不足はないものの、やや弱いように思う。というわけで、Intelの次期社長レースは、ほぼリセットされた感がある。
さて、Chandrasekher氏に代わってUltra Mobility Groupを率いることになったのは、Mike BellとDave Whalenの両執行役副社長。いずれもHPに買収されたPalmの役員で、Bell氏は2010年7月、Wahlen氏は2010年11月にそれぞれIntelに入社した。特にBell氏はPalmのPreの開発にかかわったほか、Apple時代はMacやiPhoneの開発にもかかわったとされる。このことからも、Intelがスマートフォンを決してあきらめていないことは明らかで、両氏の手腕が期待されるところだ。
Chandrasekher氏の辞任が発表された21日の翌日、今度はOracleがItanium向けのソフトウェア開発を全面的に停止すると発表したのだ。しかもOracleのプレスリリースによると、今回の決定は同社とIntel幹部の話し合いの結果導き出されたものであり、Intel幹部はItaniumが終焉に近づいており、事業戦略の焦点がx86プロセッサであることを明らかにしたのだという。つまり、今回の決定はIntelも合意済みというわけだ。
これに対しIntelは、23日付けのBlogポスト(Chip Shot)でItaniumプロセッサへのコミットメントを繰り返すとともに、長期にわたるロードマップに変わりがないことを表明した。Itaniumプロセッサの最大のOEMであるHewlett-Packardも、同様の声明を発表した上で、OracleがItaniumのソフトウェアサポートを打ち切るのは、買収したSun Microsystemsのサーバービジネスが落ち込んでおり、それを補うためにItaniumプロセッサのサポートを打ち切ったのだと主張している。
実際HPは、Itaniumプロセッサを搭載したIntegrityサーバーで、SunのSparcベースのサーバーを置き換えるキャンペーンを実施していたりする。Sunを買収したことで、OracleとHPは敵対関係になったわけだ。
元々ミッションクリティカルを標榜するハイエンド向けプロセッサであるItaniumの命運は、HP-UX上で動くOracleのパフォーマンスに負うところが大きい。そのOracleを敵に回すのは、どう考えても得策ではないが、そうなってしまった、というのが現状だろう。
Itaniumプロセッサのソフトウェアサポートについては、2010年4月にMicrosoftが打ち切りを表明している。OSであるWindows Server 2008 R2と、その上で動作するSQL Server 2008 R2、開発ツールであるVisual Studio 2010を最後に新規開発を行なわないというものだが、Itanium(Integrityサーバー)にとってWindows Server 2008 R2は本命ではなかった。
今回は本命OS(HP-UX)上のデータベースソフト(Oracle)にかかわる問題だけに、HPとしても看過できない問題だろう。当面は現行バージョンの保守を続ければ良いが、長期的には新版がリリースされなくなるのは痛い。とはいえ、代わりになるエンタープライズ級のデータベースソフトを、すぐに他所から持ってくることも難しい。これといった解決策がすぐには思い浮かばないのが実情だ。
IntelはItaniumプロセッサへのコミットメントを繰り返す。が、リリーススケジュールを守れず、時に1~2年の遅延を招き、それによりプロセッサの性能競争力を低下させ、OEMが離れる要因を作ったのもIntel自身だ。
第1の障害は明らかなIntel自身のミスに起因するものであり、次はMeeGo開発の遅延に起因する。そのすべてがIntelのせいではないにしても、Intelが関与していることは間違いない。Oracleの件も直接のミスではないにせよ、完全に責任がない話ではない。もう一度、体制を引き締める必要があるだろう。
【3月30日 14時追記】表題と一部の文章表記を改めさせていただきました。ご指摘をいただきました読者の皆様にお詫びして訂正させていただきます。