元麻布春男の週刊PCホットライン

海外取材にMacBook AirとThinkPad X200sを持って行くこの頃は



 ノートPCの使い方には2通りある。据え置きのメインマシンとして使うか、それを補うモバイルマシンとして使うかだ。国内販売されるPCの7割がノートPCであるが、おそらく大多数のユーザーにとってノートPCは、持ち運ぶかどうかは別にして、メインマシンとして利用されているだろう。メインマシンとしてのノートPCは、家の中で場所をとらないし、1台で済ませられれば、持ち運び用のノートPCと据え置きのデスクトップPCとの間でのデータ同期等に気を使わなくて済むという利点がある。

 それは分かっているのだが、ノートPCの性能や機能がデスクトップPCに比べて著しく制限されていた昔から利用している筆者には、ノートPCをメインに据えるのはまだ抵抗がある。結局、今も据え置き型をメインに、持ち出し用にノートPCを利用するという使い分けを続けている。

 そんな筆者が今年になって購入したノートPCがMacBook Air(初代)とThinkPad X200sの2台だ。いずれも低電圧版のCore 2 Duoを搭載し、1kg台前半の重量を持つシングルスピンドルPCである。見方によっては、どうしてそんな似通ったPCを2台も買うのという疑問が生まれるかもしれないが、筆者にとっては全く別物の2台、あるいは違った個性を持ち相互に補完しあう2台ということになる。

 筆者にとってノートPCは、自宅で使うマシンではない。そうである以上、利用には必ず持ち運びが伴うわけで、重量は軽ければ軽いほどいい。軽量性は、持ち運びの負荷を減らすという意味において、ノートPCに常に求める要素であり、どんな性能や機能、用途であろうと重くて良いということにはならない。1台が軽いから、もう1台は重くて構わない、ということにはならないのである。

 とはいえ、同じあるいは近しい世代の技術をベースにする限り、ノートPCに性能を求めれば求めるほどその重量は重くなるし、光学ドライブの搭載や大型の液晶ディスプレイなど機能性を要求しても重量がかさむ。要は、どれだけ性能や機能に妥協するか、ということであると同時に、どこまで重量を我慢するか、という兼ね合いである。

今年の1月には活躍してくれたAspire one

 今年の1月に開かれたMacWorldとCESの時点で、筆者が米国に持ち込んだのは、MacBook(白)とネットブックのAspire oneだった。前者が約2.27kg、後者が約1.3kg(6セルバッテリ付き)で、付属品を含めず重量は約3.6kgということになる。この2台で、MacBookをホテルの部屋に置き、Aspire oneを会場に持ち出すという使い方をした。

 この組合せは、性能(Core 2 DuoとAtom)、2スピンドルと1スピンドル、13型ディスプレイと10.1型ディスプレイ、Mac OSとWindowsなど、あらゆる点で対照的。相互補完という意味で、とても分かりやすいコンビであった。

●光学ドライブにメディアを入れたのはいつだったろう
米国のイベントで配布されるプレスキットが収められたUSBメモリ。1GB程度のものが主流だが、4GBのものや、中にはペン型など変わったものもある

 このコンビで不満があったのは、MacBookの重量と、Aspire oneの性能およびディスプレイサイズ、ということになる。MacBookは性能、価格、機能のバランスが良くまとまっており、気に入っていたのだが、あることに気づいた。それは、MacBookの光学ドライブにメディアを最後に入れたのはいつだっただろう? ということだ。

 今年のCESで、何社ものブースを回り、そこでプレスキット(プレス向けの資料集)をいただいたが、そのすべてがUSBメモリに収められており、CD-RやDVD-Rでキットの配布を行なうメーカーは皆無であった。街を歩いても、米国で新譜の音楽CDを「まともに」扱う販売店はほとんどない。

 米国のTOWER RECORDS(日本のタワーレコードと現在は資本関係はない)が2度の破産申請を経て店舗廃業したことを知っている人は少なくないだろうが、今年の初め、Virgin Mega Storeも米国の店舗販売から撤退した。Bordersのような書店系ショップのCD売り場も、相当に荒廃が進んでいる。残るのはWal-MartやTargetといった総合スーパー、あるいは米国のナンバーワン(というよりオンリーワンか)家電量販チェーンであるBest Buyといったところだが、音楽の売上げでこれらの名前が上位に出てくること自体が、CDというパッケージに依存した音楽産業の衰退を示している。

 筆者は手元に1,600枚ほどの音楽CDを持っているが、西友(今やWal-Martの子会社)やジャスコでCDを買ったことは1度もないし、CDを買うためにヤマダ電機に行こうとも思わない。スーパーに行くことも、ヤマダ電機に行くこともあるが、それは別の目的であって、音楽CDを買うためではない。この話題については、別途取り上げようと思っている。

 話が横道にそれてしまったが、米国では音楽CDの店頭流通は着実に死へと向かっている。CD媒体によるPC用ソフトウェアの店頭流通はほぼ死に絶えた。プレスキットもUSBメモリになったとあれば、米国に持って行くPCに光学ドライブがあっても、使い道などありはしない。それでは単なる重しだ。光学ドライブが必要になるのは、せいぜい昨年11月のPDCのように、OSのプレビュー版が配布される際、それをインストールするドライブが必要な時くらいだが、その頻度は高くない。新しいWindowsがリリースされるのは、3年ぶりのことになる。

 国内での利用を考えても、出先でわざわざ光学ドライブを使うことはまずない。仮に音楽CDやDVDを購入したり、プレスキットとしてCD-Rを受け取ったとしても、持ち帰った後、メインマシンで利用すれば済む話だ。思い出してみれば、最後にMacBookの光学ドライブにメディアを入れたのは、VMware Fusionの仮想環境にWindows XPをインストールする時だったのである。

●2台を持ち運ぶ理由

 メインマシンをMac Proに変えた筆者にとって、持ち出せるMacに対する欲求は高い。だが、Windowsが全く不要というわけでもない。ネットブックは、メールを読む、Webをブラウズする、メモを取るといった個別の目的にはかなうが、Windows体験という意味では不満が残った。それを補う意味でもMacBook上にWindows環境を用意していたわけだが、もう少しいいWindowsマシンを用意してやれば、Macの上でWindowsを使う必要はなくなる。

 そもそも筆者がわざわざ米国まで2台を持ち運ぶのは、1つはバックアップ(予備)の意味であり、もう1つは機能的な補完を期待してのことだ。もし、用途を完全にバックアップに絞るのであれば、同じマシンを2台持ち運んだ方がいい。ACアダプタをはじめとするアクセサリ類が共用できるし、全く同じ環境が利用できる、といったメリットがあるからだ。その代わり、常用機に何のトラブルもなければ、2台目を持ち運ぶ負担は掛け捨ての保険に近くなる。

 筆者が2台のマシンを持ち運ぶに際して、補完して欲しい機能は、2台のうち1台はそこそこバッテリが持って欲しい(機内等で使わなければならないことを考えて)、1台はディスプレイの解像度が高い方がいい、1台はストレージ容量に余裕があると嬉しい、といったことだ。これを上の2台にあてはめると、Aspire oneに6セルバッテリを組み合わせたのはバッテリ駆動時間を期待してのことであり、MacBookは高解像度担当(決して十分とは言えないが)ということになる。ストレージ容量は両方とも、持ち出し用としては十分であった。Mac OSとWindows、アーキテクチャが異なれば、未知のウイルスやワームのゼロデイアタックを受けても、どちらかが生き残る可能性が高い、なんてことまで心配しているわけではない。

●重量と性能のトレード

 4月以降、この2台をMacBook AirとThinkPad X200sで置き換えたわけだが、MacBook Airはメインマシンにほぼ相当する環境を持ち出すマシンという位置づけになる。BTOオプションでWXGA+液晶(1,440×900ドット)と9セルバッテリを選択したX200sが、高解像度担当であると同時に長時間バッテリ駆動担当でもある(普段使い用も考えて4セルバッテリも購入した)。

 重量はMacBook Airが1.36kg、9セルバッテリを装着したX200sが1.49kgだから、合計でも2.85kgと、750gほど軽量化できた。15型液晶クラスの標準A4ノートPC 1台程度の重量だ。原稿を書く程度の負荷ならMacBook Airは5時間ほど、9セルバッテリ付きのX200sは10時間程度は十分に持つ(動画再生などではそれぞれ半分程度になってしまうが)。以前のコンビは合計で11~12時間程度だったから、AC電源なしで利用可能な時間もかなり延びたことになる。

 一方性能についてだが、Mac環境は2.2GHzのCore 2 Duo(Merom)から1.8GHzのCore 2 Duo(低電圧版Merom)へと若干パワーダウンしてしまった。しかし、Windows側がAtom N270(1.6GHz)からCore 2 Duo 1.86GHz(低電圧版Penryn)へと大幅にパワーアップしたため、トータルでの処理能力は向上している。総表示エリアも1,280×800ドット+1,024×600ドットから1,440×900ドット+1,280×800ドットへと増えた。これはホテルの部屋で2台並べて原稿を書く時に役に立つ。

 1.8GHz前後のCore 2 Duoがもたらす性能は、決して高速というイメージではないが、耐えられないような性能でも決してない。MacBook Airとの組合せ(補完)を前提に考えると、高クロックの通常電圧版プロセッサを採用するX200を選択したかったところだが、X200にはWXGA+液晶のオプションが用意されていない。通常のWXGA液晶(CCFLバックライト)に対し、高解像度の上、重量的にも100gほど有利なWXGA+液晶(LEDバックライト)を優先し、X200sを選択したわけだ。

 もう1つThinkPad X200sで良い点は、ストレージデバイスを簡単に交換できることだ。これはソフトウェア環境を簡単に入れ替えることができるということであり、Windows VistaとWindows 7のベータ版、あるいはThinkPadの専用ドライバやユーティリティで固めた環境とOSをクリーンインストールした環境、あるいはHDDとSSDなど、さまざまな環境を入れ替えてテストするのに適している。新しいOSのベータ版配布が想定される場合は、HDDを1台とポータブルDVDドライブを余分に持ち運べばいい。

2.5インチSSD(左)とLaCieのLittle Disk。1.8インチドライブを使っているだけあって小さいThinkPad X200s用のレール/マウンタにセットされたSSDとHDD。ネジ1本で簡単に差し替えて、環境を切り替えることができる。レール/マウンタは、eBay等で売られている

 普通に考えれば、ストレージデバイスの入れ替えが容易なX200sが、上で述べた大容量担当ということになるが、結局筆者はIntelの80GB SSDを常用環境としてしまった。初代MacBook AirのSSDは容量が64GBしかないから、大容量ストレージがなくなってしまったが、これを補うためにLaCieのLittle Disk 120GBを購入した。5,400rpmの1.8インチHDDを内蔵したこの外付けドライブの重量173g(キャリングポーチ、ケーブル込み)が加わることになったが、MacBookの65W MagSafe ACアダプタ(234g)からMacBook Airの45W MagSafe(183g)になったことで、50gくらいは取り返している。そのうちこのポータブルHDDを大容量USBメモリで置き換えるつもりだ。実を言うと、まだ筆者の荷物の中にはポータブルタイプのBD-ROMドライブ(348g)も含まれているが、タイミングを見計らって持ち運ぶのを止めたいと思っている。

65W MagSafe(左)と45W MagSafe。45Wは小さく50gほど軽いWWDC会場内のイスには、1列おきにテーブルタップが用意される

 MacBookをMacBook Airに置き換えて失ったのは、400MHzのCPUクロックと光学ドライブ、バッテリを簡単に交換できない(しかも充電に時間がかかる)、といった点だ。大容量バッテリのオプションが用意されないのはすべてのMacBookシリーズに共通した問題だが、最近のラインナップを見ていると、通常バッテリを大容量化することでAppleは問題を解消したいらしい。いずれにせよ、ことAppleのイベントに関しては、会場に豊富にテーブルタップが用意されていることが多いのは、バッテリ駆動時間の問題についてApple自身が意識している証だろう。

 MacBook Airではストレージ容量も少なくなったが、むしろSSDに置き換わったことによるメリットの方が大きい。スリープとスリープからの復帰が劇的に高速化したため、まるでガジェットのようにディスプレイを開いたら即使える。SSDを搭載したX200sでも、ここまで速くはならない。OSの違い、あるいはOSとハードウェアを一体で設計できる強みだろう。振動や衝撃に強いという安心感に加え、パッと開けてすぐに使えるという感覚は、外付けで補えるストレージ容量とは引き替えにできないとさえ思う。もちろん、充電に時間がかかることにも目をつぶらなくてはしょうがない。

 もう1つ予期していなかった改善点は、MacBookの目覚めの雄叫びを聞かなくて済むようになったことだ。スロットイン式の光学ドライブを内蔵するMacBookは、スリープから復帰する際に、光学ドライブを初期化する。この時ドライブが、「ギャーオ」という雄叫びをあげる。どのくらいの音量かは個体差もあり、一概には言えないのだが、MacBook Airになって無音を体験すると、やっぱり無いに越したことはないと実感する。

●結局は用途次第か

 というわけで、今のところ筆者はこの2台の組合せにとても満足している。性能を追求すればキリがないし、その結果、あまりにも重くなるのは困る。昔から筆者は、旅行時の荷物は機内持ち込み可能な範囲までと決めているので、軽くて小さいことは極めて重要だ。カメラもAPS-Cから、フォーサーズのオリンパス(E-620)に変えてしまったくらいである。

 とはいえ、ノートPCをメインマシンとしても使おうという人にとって、この2台が最適なマシンでないことも明らかだ。いくら筆者でも、メインマシンには光学ドライブがあった方がいいと思うし、大容量の内蔵ストレージは必須である。性能も1.8GHz前後のデュアルコアでいいかと言われると、メインマシンならもう一声と言いたい。結局、どこでバランスをとるかは、人それぞれ用途による。ノートPCメインマシン主義者であっても、全く持ち出す必要がない人と、持ち出したい人では結論は異なってくるだろうし、想定される持ち出し頻度によっても変わってくるに違いない。どこなら妥協できるか、自分なりに折り合えるポイントを見つけることが重要だ。