元麻布春男の週刊PCホットライン

Acer「Aspire one」を購入




●Netbookの縛り

8月のIDFで公開された、MID、Netbook、ノートPCの区分を示した資料

 Netbookの特徴の1つは、メーカーやベンダが違っても、スペック的には似通ったものが多い、ということだ。現時点でこのプラットフォーム向けにIntelが用意しているCPUとチップセットが1組しかないことが最大の理由だが、ほかにも液晶パネルサイズや解像度、HDDの容量やメモリ搭載量など、さまざまな点について、指導が行なわれているように思われる。

 こうした制約にはMicrosoftがWindows XP Home Edition for ULCPCのライセンス条件として課しているものもあり、どちらのイニシアチブによるものなのかはハッキリしない。また、これらのライセンス規定は一般に公開されないため、規定が変更された場合も明らかにされない場合がある。たとえば、7月4日付けでULCPCの規定が緩和され、14型ディスプレイもOKになったという報道はあるが、裏付けとなる資料は一般に公開されたサイトではまだみつけられない。

 NetbookについてIntelが言うことの1つは、PCでできることのすべてを期待しないで欲しい、ということだ。と同時にこれは、IntelはNetbookの機能や性能をPCと同じレベルにしたくないと考えている、という意志の現れでもある。もちろん、長期的にNetbookがどのようにな姿になるのかは、ユーザーないしは市場が決めることだ。が、Intelとしては既存のPC市場を傷つけることなく、独立した別の市場としてNetbook/NetTopを育てたい、と考えているのだろう。

 しかし、安価なNetbookの登場は、ほんの少しスペックに妥協すれば、これだけPC(あるいはその代用になるもの)は安くなる、ということを教えてしまった。これこそNetbookが開けてしまったパンドラの箱かもしれない。

 なお、「HP 2133 Mini-note PC」(以下HP 2133)は、Intelプラットフォームではなく、Windowsのライセンスも通常のWindows Vistaで、ULCPC版XP Homeではないが、今回は一緒に取り扱う。

●帯に短しタスキに長し

 いずれにしても、実際にNetbookや他社製プラットフォームを用いたミニノートPCを買おうとすると、どこかに妥協する必要が生じる。「ASUSTeK Eee PC 901-X」ならストレージスペースを諦める必要があるし、HP 2133であれば、CPU性能と発熱(そこからくるファンのうるささも含め)には目をつぶらねばならない。「Dell Inspiron mini 9」はキーボードの配列がネックだ。

 そう考えていくと、AcerのAspire oneは、大きな欠点のない、バランスのとれたマシンであることに気づく。もちろんEee PCほどバッテリは持たないし、HP 2133の充実したI/O機能は望めない。Inspiron mini 9などSSD搭載機のような完全無音動作といった強烈なウリもない。こうした突出したメリットがない代わりに、耐えられないような欠点もないことになる。何というか、無難で、人に勧めやすいNetbookの1つだ。「MSI Wind Netbook U100」にも同じようなことが言えるのだが、なかなか手に入らないという大きな欠点がある。

 それに対してAspire oneは、ワールドワイドで500万台以上の出荷(2008年)を計画しているというから、入手性に泣くことはあまりないハズだ。日本市場への割り当ても多いらしく、本稿執筆時点で、都内の量販店でそれほど苦労せず購入することができる。筆者も1台購入してみた。

化粧箱は小さく、手提げ袋に入れて持って帰れる 箱を開けると、フタの部分にインナーカバーが納められている

●Aspire oneを購入

 筆者が購入したのは日本国内で展開される2色のうちサファイアブルーの方。もう1色はシーシェルホワイトだが、収められていた化粧箱を見る限り、ほかに3色(黒、茶、ピンク)もあるようだ。いずれのカラーも、日本写真印刷のNissha IMD(最初にPCに使ったのはHPだったハズ)を使ったもので非常に美しい。が、色が濃いサファイアブルーは指紋が目立ちやすい。指紋拭きに100円ショップで売っているマイクロファイバークロスは必須だ。指紋が目立つのがイヤな人は、シーシェルホワイトを選ぶべきだろう。とはいえ、あまり安っぽさのない、まとまったデザインだと思う。

CDと比べると本体の小ささがわかる 開けた状態 キーボード全景
液晶はグレアタイプ(光沢型)で光源が入ると反射が大きい 右側面。左から、マイク入力、ヘッドホン出力、USB 2.0×2、SDカード/xD-Picture Card/メモリースティック対応カードスロット、セキュリティロックスロット。液晶は意外に大きく開く 左側面。左から電源端子、ミニD-Sub15ピン、Ethernet、USB 2.0、SDカードスロット

 チップ関係のスペックに差のないNetbookで、差別化の要因となるのはキーボードとストレージ、そしてACアダプタだ。Aspiere oneのキーボードも、残念ながらすべてのキーが等ピッチではない。しかし、このクラスとしては小さくなっているキーが少なく、それほど苦労せずタッチタイプすることができる。Eee PC 901-Xのキーボードでは、読点や句読点を打つのにも気を使ったし、Inspiron mini 9のキーボードでは途方に暮れたが、Aspire oneのキーボードではそんなことはない。その一方で、HP 2133のキーボードにはやはり敵わないのも事実だ。

 スペースの限られるミニノートPCでは、タッチパッドにも少なからずしわ寄せが来る。Aspire oneもその例外ではなく、横長のパッドとその両脇に用意されたボタンの操作性はあまりよろしくない。ボタンは幅が狭い上、パッド面よりわずかに低くなっているのも操作性を悪くしている。ただ、現時点でパッドの操作性で満足のいくネットブックは存在しないと思う。

 内蔵のパッドがイマイチなら、外付けマウスの出番だが、これだ! という製品がなかなか見つからない。大手2社、ロジクールとマイクロソフトのノートPC用マウスは、ミニノートPCには大きすぎる。

 最近登場したロジクールのV550マウスは、付属のクリップ&ゴードックで、ノートPCの天板にマウスを貼り付けられる優れモノだが、レシーバーが突き出てしまうのも嬉しくない点だ。Aspire oneがBluetoothを内蔵していないことが悔やまれる。

ロジクールV550と並べた状態。マウスが大きく見える USB端子に入れるレシーバーのはみ出しは小さめ しかし、付属のカバーがぴったりしたものなので、しまうたびに引っかからないか気になってしまう

 ストレージは120GBのHDDで、ミニノートPCとしては十分以上。筆者が購入した個体には、シーゲイトのMomentus 5400.4(ST9120817AS)が使われていた。ミニノートPCのストレージがSSDであるべきか、HDDなのかは議論のあるところ。Intelは小容量のSSDを推奨しているが、ネットワーク環境が十分でなく(ローカルストレージに依存せざるを得ない状況)、HDDに比べてバイト単価が格段に高い現状では、鵜呑みにできない面がある。大容量のHDDは無難な選択ではある。

 余談だが、以前に公開されたULCPCの規定ではHDD容量は80GBに制限されていたのに、Aspire oneが120GB HDDを搭載しているということは、規定の緩和があったことを裏付けているのかもしれない。

 むしろ本機のストレージ環境で問題なのは、リカバリがHDD上の別パーティションに格納されたデータを用いたものだけで、リカバリメディアが添付されておらず、リカバリメディアを作成する方法(ソフトウェア)も提供されていないことだ。しかも、付属のリカバリソフト(Acer eRecovery Management)以外のバックアップ/リカバリソフトのインストールは、サポート外だという。これではHDDが故障しなくても、ウイルス等の被害を受けたら手も足も出なくなる。たとえ別売になってもリカバリメディアを提供するべきだ。Eee PC 901-Xをテストしていた際に、とにかく安心だったのは、何か問題が発生しても、リカバリDVDを使えば元に戻せる、ということだった。あの安心感がAspire oneにもほしい。

●ミッキータイプのACアダプタとコード

 Aspire oneが内蔵するバッテリは3セルで、公称3時間の駆動が可能となっている。が、本格的に持ち歩くとなると、これではとても足りない。カタログによると10月に6セルバッテリ(オプション)の販売を開始するとなっており、それに期待がかかる。それまではACアダプタを持ち歩くしかないのだが、現時点でACアダプタの別売がない。紛失したら、取り寄せになるのだろうか。

 このACアダプタだが、大きさ的にはそこそこ小さい。が、電源コードのコネクタが3穴のいわゆる“ミッキータイプ”で、添付の電源コードがとてもかさばる。一応、洋パソ使いの身だしなみとして、3穴-2穴変換アダプタや、3穴用のウォールマウントアダプタを持っているのでそれを使っているが、もう少し工夫が望まれるところだ。

 ちなみにEee PC 901-Xに付属のACアダプタは電源コードのコネクタが2穴の“メガネタイプ”で、かさばらない電源コードが付属する。また、ACアダプタを接続していれば、本体の電源を落としていても、USB端子に給電されるため、ガジェット類を充電することができる。これもAspire oneにはない小技だ。

Aspire one付属のACアダプタと電源コード。コードの方がむしろかさばる 3穴用ウォールマウントアダプタ(左)と3穴-2穴変換アダプタ(右)。変換プラグはダイヤテックなどで商品化されている ウォールマウントアダプタと組み合わせたところ。普段はこの構成で持ち歩いている

 逆にAspire oneで気が利いているのは、無線LANのON/OFFスイッチがついていることだ。ミニノートPCでは、Fnキー+ファンクションキーの組合せで代用されることが多いのだが、本機では独立したスイッチがキーボード手前に用意される。

●欠点はあるが安くて実用的

 気が利く利かないの問題ではなく、1つのポリシーと考えられるのは、Aspire oneでは本体内部へのアクセスが認められていないことだ。底面には1つだけ開閉可能なフタがあるが、ここは空っぽでコネクタさえない。おそらくはWANオプションを利用するためのものなのだろうが、現時点でここに何かが提供される予定はない。

 このフタを除くとAspire oneの内部にアクセスするには、キーボードを外し、底面パネル全体を外すという大工事となる。それにはゴム足の下にあるネジを外さなければならず、あまりやりたくない作業だ。もちろん、こうした分解はメーカー保証を損なう。本機ではメモリの増設さえ認められていない(初期設定はオンボード512MB+SO-DIMM 512MBの計1GB)から、これでも良いわけだが、メモリ増設くらいはさせて欲しい、という人もいることだろう。

 また、LEDバックライトの液晶ディスプレイは明るく見やすいが、部屋の照明を落としてプレゼンテーションをしている場合など、もう少しディスプレイを暗くできれば良いのに、と思うことはある。

 というわけで、細かな部分には注文もあるが、実用的に使えるキーボードがついた買いやすいNetbookには違いない。筆者も何回か取材に持ち出しているが、メモをとるくらい何の問題もない。

 これが5万円台半ばで買えるのだから、お買い得感は高い。さらにイーモバイルの2年契約とセットなら初期投資は9,980円で済むのだから、何も言うことはない。おそらく一番深刻な問題はリカバリメディアの問題で、これだけは何とかして欲しいと思う。

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ネットブック/UMPCリンク集(Acer)
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/link/umpc.htm#acer

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(2008年9月16日)

[Reported by 元麻布春男]


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