元麻布春男の週刊PCホットライン

「VAIO type P」ではなく「MacBook Air」を買った理由




 ノートPC、中でもモバイルタイプのノートPCを評価する際の要件は、携帯性(小型・軽量)、性能・機能(処理性能、ディスプレイやキーボードの使い勝手、バッテリ駆動時間等)、価格の3点だと思っている。そして、何より厄介なのは、この3つをすべて満足する解は存在しないし、近い将来にわたっても登場しないであろう、ということだ。

 基本的に性能や機能を追求すれば価格が上がり、携帯性も損なわれる。携帯性を追求すると、性能や機能に妥協が必要になるだけでなく、価格も上昇してしまう。価格を抑えようと思えば、高価な軽量部品は使えないし、性能や機能も我慢しなければならない、という具合だ。性能の部分をクラウドに依存するにしても、現時点で満足のいくモバイル通信環境は存在しない。

 これを言い替えると、モバイルノートPCのユーザーは、3点のうちのどこかに妥協を強いられるということである。そして、どこを我慢するか、我慢できるかが人によって著しく異なることが、持ち運ぶノートPCというジャンルに宗教論争を生じやすくしているように思う。性能・機能だけをとっても、処理性能重視の人もいれば、バッテリ駆動時間重視の人もいる。これに価格重視派の人、小型・軽量命の人も加わるのだから、話がまとまるハズがない。

 これまで市販されてきた、伝統的な日本のモバイルノートPCは、携帯性に重きを置いたものが主流だった。超低電圧版のCPU、1.8インチのHDDで薄型かつ軽量に仕上げ、後はフルスペックのPCに極力近づける。一番後回しにされるのが価格で、20万円を超える製品も珍しくなかった。まとめるとこんなところだ。

携帯性
性能・機能
価格×

●ネットブックは価格が最大の魅力

 2008年に大ヒットしたネットブックは、逆に価格を重視した製品だ。モバイルを狙ったというより、低価格の小型液晶パネルを採用した結果モバイルになった、という側面もあり、購入者のどれくらいがモバイル用途に用いているのかは分からない。実際、売れ筋はディスプレイサイズの大きい方へ、小容量SSDより大容量HDDへとシフトしている。最近、マウスコンピューターからは2スピンドルのネットブックさえ発表された。それでもネットブックが、その何割かであっても、従来型のモバイルPCではつかめなかったモバイルユーザー層をつかんだことは間違いない。

 ネットブックが成功したポイントは、安価で比較的小型・軽量であることに加えて、それなりの性能、特に体感性能を提供していることだ。そのカギは、そこそこに優秀なAtomプロセッサに加え

  1. 1,024×600ドットに制限された解像度
  2. Windows XPの採用
  3. Windowsで実績のある内蔵グラフィックス
  4. 2.5インチSATA HDDの搭載

といった点にあるのではないかと思っている。1は制約でもあり、必ずしも良いことではないが、結果的にそこそこの性能を提供できた1つの要因ではあるだろう。2と3は不可分で、古い世代のWindowsに適合したアクセラレーション機能(GDIアクセラレーション)を備えた実績ある(枯れたドライバの)内蔵グラフィックスと、それを生かせる一世代前のOSの組合せが、実用的な性能を生み出している。4については、低価格実現のためにバイト単価的に有利な(その一方で重量と電力消費では不利な)2.5インチHDDを選んだところ、それが性能まで下支えする結果になった、という感じだ。これらをまとめると、こんなところだろうか。

携帯性
性能・機能
価格

●携帯性は高いが性能・価格に難ありの「VAIO type P」

 さて、最近モバイルPCということで話題になっているのは、ソニーの「VAIO type P」だ。これを筆者的に評価すると次のようになる。

携帯性
性能・機能×
価格

 携帯性については、これは文句がない。TV CMのようにヒップポケットに入れて持ち歩こうとは思わないが、標準バッテリとSSDで600gを切る重量を何物にも代え難いと感じる人もいることだろう。問題は性能と価格にある。

VAIO type PでAtom Z540を選び、64GB SSDを選択すると価格は12万円弱になる

 type Pのベースとなるのは、ウィルコムのD4や富士通のLOOX U、デルのInspiron mini 12と同じIntelのMenlowプラットフォームだ。これにWindows Vistaを組み合わせるわけだが、MenlowのチップセットであるSystem Controller Hub(Poulsbo)ではAero Glassは公式にサポートされない。

 Poulsboの場合、内蔵グラフィックスにGMA500という名前が与えられているものの、アーキテクチャ的にはPC用チップセットとして使われてきた900番台とは異なる系統のグラフィックス(Imagination Technologiesの組込み用PowerVR系)であるため、OSを仮にWindows XPにしてもあまり体感速度は改善しない。基本的には7〜8型クラスの液晶パネルで、Moblinを動かすプラットフォームという印象だ。Menlowの後継であるMoorestownでIntelはWindowsのドライバサポートを行なわないのではないかと言われているが、それもある意味当然だと思う。

 問題は、このtype PのWindows Vistaのパフォーマンスが耐えられるかどうか、ということだ。これはそれぞれのユーザー次第で一概に言えないが、筆者には辛い。とにかく体感速度を改善するには、CPUを速くする以外にオプションはないから、type P用に選択可能なCPUのうち最もクロックの高いAtom Z540(1.86GHz)を選ぶことになるのだが、1,600×768ドットという高解像度のせいもあって、サクサクというわけにはいかない。内蔵のアクセラレータをうまく利用すると、H.264などの動画再生は非常に滑らかになるが、それは筆者にとってメインとなる使い方ではない。

 ソニーの直販サイト(ソニースタイル)で価格のシミュレーションをしてみたが、CPUをZ540にし、64GBのSSDを選択すると12万円弱になる。だが、筆者が12万円のPCに期待する性能レベルはもっと高い。標準のフォントサイズでは、文字が読めないことと合わせ、購入には至らなかった。やはり軽さと小ささを第一義に考えるユーザー向けだ。

●Aspire oneで足りない部分を補う存在「MacBook Air」

 ここのところ筆者は、持ち運び用に日本エイサーの「Aspire one」を使ってきた。6セルバッテリやアイソニックのカラープライバシーフィルタ(本体色に合わせて青を貼ってみた)を追加購入し、2つあるSDスロットの有効利用にと余っていた2GBのSDカードにeBoostrを組み合わせてもいる。1月のMacworldとCESにもAspire oneを持参し、Verizon WirelessのUSBモデムと組み合わせて、キーノート会場の待ち行列の中でもメールチェックやWebブラウズに活躍してくれた。

 だが、Aspire oneにすべて満足しているわけでもない。1,024×600ドットの8.9型ワイド液晶は、読める大きさの文字を表示してくれるものの、ちょっと狭い。キーボードもメモには十分だが、原稿を書くと肩が凝る。Aspire oneを持ち歩く一方で、ホテルの部屋にはMacBookを待機させ、部屋で原稿を書く際はこちらを使っていた。

MacBook Airの旧モデルが採用するのは64GBのSLC SSD。元が40万円近いモデルだけに、豪華なデバイスが使われている

 だから、というわけでもないのだが、帰国して衝動買いしてしまったのがMacBook Airだ。本来、MacBook Airは筆者が衝動買いできる価格レンジを超えているのだが、オンラインのアップルストアで、旧モデル新品を見つけてしまったのである。

 もちろん旧モデルであるから、昨年秋にリリースされたNVIDIAチップセットを採用したPenrynモデル(FSB 1,066MHz)ではない。IntelのGS965チップセットを用いたFSB 800MHzの低電圧版Merom(Core 2 Duo 4MB L2キャッシュ)モデルなのだが、動作クロックは1.8GHzで現行モデル(1.86GHz)と大差ない。OpenCLが実用化される時は、内蔵グラフィックスの性能差が出るかもしれないが、現状ではGS965の内蔵グラフィックス(GMA X3100)で不足はない。

 しかも、ストレージはSamsungの64GB SLC SDD(MCCOE64GEMPP)採用モデルだ。1.8インチのZIF(PATA)ということで、主流から外れているせいもあるが、秋葉原での市場価格は今でも10万円近い。ファイルコピーではたいした速度は出ないかもしれないが、そこは腐ってもSLC、OSをブートしアプリケーションを使うには十分高速なハズだ。

アップルストアの旧モデル新品。本稿執筆時点では、まだ在庫があった

 この組合せを採用したMacBook Airは、2008年1月のリリース時期(発売は少し遅れた)には40万円近くしたのだが、この旧モデル新品の価格は154,800円である。1年足らずの間に半額以下になっていたわけで、気づいた時には、ポチッとオーダーボタンを押していた。

 さて届いたMacBook Airだが、SLC SSDの威力か、やはりスリープとレジュームが速い。スリープからの復帰にパスワードを設定していなければ、瞬時に復帰する感じだし、HDDのようにスピンダウンを待つ必要がないからディスプレイを閉じたらすぐにカバンにつっこめる。MacBookのように、ディスプレイを開くたびに光学ドライブがギャアーアとうなることがないのも嬉しいところだ。

 確かにサイズは大きいが、説明会や発表会ではA4の資料をもらうことを前提にカバンを持っているから、底面積は問題にはならない。むしろ気になるのは重量で、実測値は1,398g。6セルバッテリ付きのAspire one(1,238g)よりなお重い。こればっかりはAir(空気)のよう、というわけにはいかないが、160gは耐えられない差ではない。

 購入する前に懸念していたのは、ストレージ容量とインターフェイスの少なさだ。160GBのHDDを内蔵したMacBookの環境を64GBのSDDに移行したわけだが、これまでより容量の少ないストレージへの移行を行なったのは久しぶりのことだった。普段持ち歩いている資料類(自分が過去に書いた原稿、Web等からダウンロードした資料、説明会等で配布されたハンズアウトをスキャンしたPDF等)を全部外付けHDDへ移した後、HDDを一番消費していたのはiPhotoのライブラリだったので、これをバッサリと消した(どうせデータはNASにある)。この初代MacBook Airの場合、SSDの容量が限られているだけでなく、ZIFのPATAというインターフェイスのせいで、将来的にも置き換えられる大容量のストレージデバイスが提供されない可能性が高いので、それだけは覚悟しておかねばならない。

 ストレージスペース以上に懸念していたインターフェイスだが、移行作業を行ない運用してみて、やはり不足を痛感する。筆者が一番欲しいと思うのが、Gigabit EthernetのRJ-45ポートだ。不要なデータをバッサリ削ったとはいえ、それでも30GBを超えるデータを、無線LANで移行するのは無理がある。

 またTimeMachineでネットワーク上のTimeCapsuleにバックアップを行なう場合も、無線LANでは所要時間と信頼性の両面で実用性が乏しくなる。結局、筆者はUSBのネットワークアダプタを購入した。ちなみにサードパーティ製はGigabit Ethernet対応、Apple純正は100BASE-TX対応だが、純正にはデバイスドライバをインストールしなくて良い(デバイスドライバに関するトラブルから完全にフリー)というメリットがあり、どちらを選ぶかは難しいところだ(筆者は両方買ってみたが、他者には純正をすすめると思う)。

 というわけで、筆者はVAIO Type Pを横目に見つつ、2倍以上の重量を持つMacBook Airを購入した。が、かなり満足度は高く、後悔はしていない。当面、Aspire oneと併用していくことになるだろう。最後にこのMacBook Air(旧モデル新品)についても、上にならった評価をつけておこう。

携帯性
性能・機能
価格× → △

□関連記事
【2008年1月16日】アップル、2cmを切る超薄型モバイル「MacBook Air」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/0116/apple1.htm
□ネットブック/UMPCリンク集
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/link/umpc.htm

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(2009年1月28日)

[Reported by 元麻布春男]


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