元麻布春男の週刊PCホットライン

デルのメインストリームノート「Inspiron 15R」を試す



Inspiron 15R

 Blu-ray Discドライブや、動画エンコードエンジンを搭載したAVノートPC、1kgを切る軽量を実現したモバイルノートPC、こうした「尖った」ところのあるPCが話題になりやすいのは間違いないところだ。尖ったところを足がかりに、ストーリーを膨らませることができるから、話のネタにしやすい。もちろんレビューも書きやすい。

 ところが、実際のノートPCの売上げはというと、こうした「尖った」PCを、いわゆるメインストリームノートPCが圧倒する。14~15型クラスの液晶、中堅クラスのCPU、光学ドライブを内蔵した2スピンドル構成で、重量は2.5kg前後。あまり話題にはならないけれど、こうしたノートPCがシェアの大半を占めるというのが市場の事実だ。いわばサイレント・マジョリティに支持されるノートPCである。多くは1台目のPCとして、また持ち運び用ではないメインマシンとして、こうしたPCは買われていく。特定の機能より、コストパフォーマンスや値頃感が、重視される市場と言えるかもしれない。

 ここで紹介するデルの「Inspiron 15R」は、そうしたメインストリームノートPCの代表格。5月14日に発表された、比較的新しいモデルだ。デルのノートPC製品群においてInspironというブランドは、Studioの下位に位置づけられるエントリー/メインストリーム向け。15は文字通りディスプレイサイズを意味している。この1月に、Core i5/i3プロセッサベース(Calpellaプラットフォーム)の「Inspiron 15」がリリースされているのだが、現状、このInspiron 15Rと併売されるようだ。

 併売される2モデルを識別するために、型番にRが付与されたのではないかとも思うのだが、Inspiron 15とInspiron 15Rの立ち位置の違いは、プレスリリースやWebサイトを見ていてもハッキリとはしない。それくらい両モデルのスペックは似通っていて、Webサイト上で新機能と謳われているのも、新しいカラーバリエーションと汚れにくいパームレストといったところ。

 スペックを細かくチェックすると、チップセットがHM55からHM57(15R)に変わっていること、無線LANがIEEE 802.11a/b/g/nからIEEE 802.11b/g/n(15R)に変更されていること、3ポートのUSBに加え1ポートのeSATA/USB兼用ポートが追加されたこと(15R)が浮かび上がるが、大きな違いではない。チップセットの変更にしても、主な違いはUSBのポート数やPCI Expressのレーン数、ソフトウェアRAID機能の有無といったところで、こうした違いが必ずしも最終製品に反映されているわけではない。

 とはいえ、外寸や重量が異なる上、ポートのレイアウトが違うこと、カラーバリエーションが違うことなどを考えれば、筐体の設計は別だと考えられる。ちなみに、Inspiron 15に対し、Inspiron 15Rの方が、若干厚く、重量も重い(約200g)が、それほど持ち運びを想定していないモデルだけに、大きな違いではないだろう。

 さて、今回試用したInspiron 15Rは、プロセッサにCore i3-330M(2.13GHz)を採用したモデル。本稿執筆時点において、わが国でInspiron 15Rのパッケージとして用意されているのは、すべてCore i5-450M(2.53GHz)プロセッサベースのシステムであるため、試用機の正確な価格は分からない。おそらくは、Core i3-350MベースのInspiron 15(59,980円)より若干安いのではないか、と思われるが、試用機に搭載されているメモリが、これまたパッケージには含まれない4GB DIMMだったり、英語キーボードだったりするので、価格は不明というのが正確な表現だろう。

【表1】試作機の構成
OSWindows 7 Home Premium 64bit
CPUIntel Core i3-330M (2.13GHz/3MB L3)
チップセットIntel HM57 Express
グラフィックスチップセット内蔵
メモリ4GB DDR3-1333(4GB×1)
ディスプレイ15.6型 1,366×768ドット LEDバックライト
HDD320GB SATA(WD3200BEVT)
光学ドライブDVDスーパーマルチ(TS-L633C)
eSATAあり(USB兼用)
USBポート3+eSATA兼用×1
IEEE 1394aなし
外部ディスプレイHDMI+ミニD-Sub15ピン
Webカメラ130万画素
拡張スロットなし
メモリカードスロットSD/SDHC/MMC/MS/MS Pro/xD
LAN100Base-TX
無線LANIEEE 802.11b/g/n
Bluetoothあり
バッテリ6セル
サイズ376×262×31.8~34mm
重量2.65kg~

 使われているCore i3-330Mは、定格の動作クロック以外に、上位のCore i5プロセッサが備える機能のうち、Turbo Boost、AES-NI、TXT、VT-dが省略されたもの。PentiumやCeleronではVT-xも含め、丸ごとVTのサポートが省略されているが、Core i3ではVT-xのサポートは行なわれている。そのほか、スペック的に特筆することはあまりないが、LANが100Base-TXであること、IEEE 802.11aのサポートがないことは、心の片隅にでも書き留めておいた方が良いかもしれない。

 試用機のボディカラーは、ロータス・ピンクと呼ばれるもの。ちょっと紫色がかったピンクで、なかなか美しい。デルが「美発色トップカバー」と呼ぶだけのことはある。ピンクといっても、パープルに近い色で、男性が持ってもそれほど違和感のない色だ。キーボードは、上でも述べたように試用機は英語キーボードであり、実際に国内で売られるものとは異なるものと思われる。15.6型液晶クラスではすっかりお馴染みになったテンキーつきのキーボードだが、F12キーあたりが若干たわむのが気になった。

試作機の天板はロータス・ピンクで、発色は良いテンキー付きのキーボード

 液晶は、光沢タイプで、このクラスのノートPCとしては標準的なHD解像度(1,366×768ドット)のもの。視野角、特に垂直方向がかなり狭いが、これも本機に限ったことではなく、他社の同クラス製品にも当てはまることだ。熾烈な競争を生き抜くためのコストダウンの現れなのだろうが、こんなパネルばかり使っていては、ユーザーからiPadの方が見やすいなどと言われるのではないかと心配になる。ベゼルの上部には130万画素のWebカメラが内蔵されているが、本機にはこのカメラを用いた顔認証ログオンのユーティリティが添付されている。

 ポート類の配置は左側面にUSB 2.0、オーディオ、HDMI、右側面にUSB/eSATA兼用とメモリカードスロットおよびEthernetで、残る2つのUSBポートは背面の左右に各1ポート用意される。ミニD-Sub15ピンとACジャックも背面にある。無線LANやBluetoothをオン/オフする専用のハードウェアスイッチは存在しない。

本体を開いたところ本体右側面本体左側面
本体背面電源ボタンはインジケータ兼用付属のACアダプタ

 性能に関しては、簡単なベンチマークテストの結果を表2にまとめておいた。PCMarkVantageのCommunicationの数字が飛び抜けていないことでも、Core i3プロセッサがAES-NIをサポートしていないことが分かる。本機の性能がどの程度なのか、分かりやすく示すのは難しいが、おそらくはほぼ同じ価格帯(5万円台)で、持ち運びを考慮したCULV機(Celeron SU2300ベース)のおおよそ2倍というところだ。筆者が使っているThinkPad X200s(Core 2 Duo SL9400、1.96GHz)に対して、CPUパワーなら5割り増しという感じである。一般的な用途であれば、特に性能不足を感じることはないだろう。

【表2】ベンチマーク結果
CrystalMark 2004R3
Mark91809
ALU26485
FPU25830
MEM17556
HDD9394
GDI9495
D2D1262
OGL1787
3DMark06
3DMark1487
SM 2.0446
HDR/SM3.0607
CPU2242
PCMarkVantage
PCMark4029
Memories2600
TV and Movies3210
Gaming2367
Music4628
Communications4011
Productivity3810
HDD3318
x64
PCMark4513
Memories2753
TV and Movies3246
Gaming2929
Music4607
Communications4472
Productivity4250
HDD3206

 元々、本機の市場セグメントであるエントリー/メインストリームは、コストパフォーマンスを主戦場とする。そこで生き延びてきたInspironブランドの製品だけに、本機のコストパフォーマンスも悪くない。「美発色トップカバー」のおかげで、見た目の安っぽさも抑えられている。傑出した特徴はないものの、それはこのセグメントに共通することだ。不要なソフトがゴチャゴチャとプリインストールされていることを嫌うユーザーであれば、検討してみる価値がある1台と言えるだろう。