元麻布春男の週刊PCホットライン

WiMAX搭載の「ThinkPad X100e」を試す



 レノボの大和事業所と言えば、日本IBM時代から受け継がれるThinkPadシリーズの開発拠点。1モデルを除く、ほぼすべてのThinkPadが、大和事業所で開発されたという。IBMがThinkPadを含むPC事業をLenovoに売却した後も、日本IBM大和事業所の敷地内にレノボの大和事業所も存在し続けていた。それが、同じ神奈川県内のみなとみらい21地区(横浜市)の現在建設中のビルに、年末にも移転するとのニュースが発表された。ThinkPadのふるさとは、大和から横浜に移り変わるわけだ。

 早いもので、IBMのThinkPadからレノボのThinkPadになってもう5年。いつまでもIBMの敷地の中に間借りしているというのも、不思議な話かもしれない。新天地でのさらなる発展を祈りたいと思う。この5年を振り返ると、レノボになってまず登場したThinkPad Zシリーズが、それまでと極端に異なっていた(筐体が黒でない、それまで未採用だったワイド液晶の採用、など)ため、この挨拶に戸惑ったユーザーは少なくなかったハズだ。そして、逆にそうした反応を気にしたのか、以後リリースされるモデルは、保守的な印象を受けるものが多かったように思う。

ディスプレイを開いたところ。多くのThinkPadと異なり、開閉はラッチレスとなっている

 そんなThinkPadに新しい風を吹き込んだのが、今年1月に発表されたThinkPad X100eとThinkPad Edge 13インチモデルだ。いずれもThinkPadとしては異例のAMD製プロセッサを搭載したモデルであるだけでなく、メインターゲットを大企業ユーザーから中小規模の企業ユーザーにシフトさせたモデルでもある。これを踏まえて、量販店モデルを設定すると同時に、中小規模の企業ユーザーには不要な機能を削減、低価格化を図っている。

 ここで取り上げるのは、ThinkPad X100eの量販店モデル(製品番号28765BJ赤および287659J黒)。6月15日に発表された最も新しい世代の製品となる。1月に発表された時点では、シングルコアのAthlon Neo MV40搭載で3色展開されていたが、4月にデュアルコアのAthlon Neo X2の選択がCTO(直販モデル)で可能となり、5月発表の企業向けモデルでWiMAXが追加された。今回発表された最新の量販店モデルは、これをベースにハードディスクを250GBから320GBに変更したものとなっている。

 この最新モデルで注目されるのは、やはりWiMAXを内蔵したことだろう。WiMAXを内蔵したノートPC自体は、レノボだけでなくさまざまなベンダーからすでに発売されている。だが、AMD製のプロセッサでWiMAXを標準搭載したノートPCは、おそらくこのThinkPad X100eが初めてではないかと思われる。

 内蔵WiMAXモジュールとして採用されているのは、IntelのCentrino Advanced-N+WiMAX 6250。Centrinoといえば、以前はIntelによるモバイルPCプラットフォームのブランドとして、CPU、チップセット、無線ネットワークモジュールを包含するものだったが、今年1月にリリースされた現行Calpellaプラットフォームから、無線ネットワークモジュールのブランド名となった。これに伴い、モジュールを単体で購入することが可能になったため、このような構成が実現したわけだ。Intelがこのような組合せをバリデーション(動作検証)しているハズはないが、代わってレノボが動作を検証し、保証していることになる。実際、本機が内蔵しているWiMAXを試用してみたが、特に問題なく利用することができた。

 さて、その他のスペックについては表にまとめておいた。11.6型と小型の割に重量が1.5kgと重めなのは、バッテリが6セルであることに加え、筐体そのものが若干重いことが影響しているのだろう。ThinkPad Xシリーズの上位モデルでは、軽量化のためにカーボンファイバー強化プラスチックや、マグネシウム合金製ロールケージといった値の張る部材を採用しているが、低価格も重要なポイントである本機では、そのような贅沢はできない。一般的な樹脂で、ThinkPadとしての堅牢性を確保するには、重量が若干重くなるのは避けられなかったようだ。

【表1】試用機の構成
OSWindows 7 Home Premium 32bit
CPUAMD Athlon Neo X2 L335(1.6GHz, 512KB L2)
チップセットAMD M780G
グラフィックスRadeon HD 3200(チップセット内蔵)
メモリ2GB PC2-5300
ディスプレイ11.6型(1,366×768ドット)ノングレア
HDD2.5ich 320GB SATA
USB3(うち1つはPowered USB)
外部ディスプレイ端子ミニD-Sub15ピン
Webカメラ30万画素
拡張スロットなし
メモリカードスロットSDカード/メモリースティック(デュオ)
LANGigabit Ethernet
WLANIEEE 802.11a/b/b/n(Centrino Advanced-N+WiMAX 6250)
WiMAXあり
BluetoothBluetooth v2.1+EDR
バッテリ6セル(公称約5.5時間駆動)
サイズ282×209×15~29.5mm(幅×奥行き×高さ)
重量公称約1.5kg(実測値本体1,167g、バッテリ328g)

 ディスプレイを開いてまず気づくのは、キーボードがThinkPad伝統の7列配置ではなく、しかもアイソレーションタイプになっていることだ。SysReqやScroll Lockといったメインフレーム端末由来のレガシーキーを排除するだけでなく、キートップまで流行のアイソレーションにしたのは大胆な変更だが、その目的はコスト削減より、従来のThinkPadとは違った層にアピールするためだとレノボは述べている。伝統のポインティングデバイスであるトラックポイントに加え、トラックパッドも搭載しているのも、既存のThinkPadファン以外へのアピールを考えてのことだろう。

 キーボードを実際に打鍵してみても、キートップがぐらついたり、キーボードパネルの一部が沈み込んだりすることはないし、感触は決して悪くない。だが、従来のThinkPadのキーボードとはちょっと違っているのもまた事実だ。せっかくの量販店モデルなのだから、気になる向きは店頭でキータッチを確認すると良いだろう。

 さて、開いたディスプレイは、今時では珍しいノングレアタイプのワイド液晶。解像度はコンシューマ向けノートPCでお馴染みのHD(1,366×768ドット)だが、光沢でないところにビジネス向けの特徴が現れている。昨今のノートPCの例に漏れず、それほど視野角自体が広いわけではないのだが、パネルサイズが11.6型と小さいこともあり、視野角の狭さはそれほど気にならない。この液晶パネルを覆うカバー(天板)は、若干膨らんだ構造になっており、天板にかかる圧力をここで吸収する仕組みだ。

ThinkPad X100eの外観。6セルバッテリが後部にはみ出す格好となる手持ちのThinkPad X200sの上に重ねてみた。6セルバッテリによるはみ出しも含めて、X200sとほぼ同じ奥行きとなる6列配置、アイソレーションキートップのキーボード

 電源を入れると、さっそく冷却ファンが回り始める。常時回転しているようだが、音は抑えられており、一般的な利用環境でうるさいというほどではない。負荷をかけて回転数が上がると、ちょっと耳につくが、負荷が減るとすぐに回転数が戻る。むしろ気になるのは、排気が結構暖かいことかもしれない。発熱量はそれなりにあるようで、キーボード面まで熱くなるほどではないが、底面は結構熱くなる。真夏に空調のない部屋で使った際にどうなるか、やや気になるところだ。

 本機のバッテリ駆動時間は公称で約5.5時間となっており、このクラスの6セルバッテリ搭載機としては、やや短い部類に属する。外に持ち出して、WiMAXをつなぎっぱなしにして使ってみたが、実使用時間は2.5時間ほどだった。ThinkPad X100eには、本体背部から飛び出さない3セルバッテリも用意されているのだが、外で無線ネットワークを使うとなると、6セルバッテリでないと実用的ではないだろう。

搭載されているインジケータは、バッテリとスリープのステータスを示す2つ(写真)と、電源スイッチ兼用の電源インジケータのみ

 備えるインターフェイスはこのクラスとして標準的な構成で、3ポートあるUSBポートの1つはPowered USBになっている。メモリカードスロットはSDカード/メモリースティックに加え、メモリースティックデュオもアダプタなしで利用可能だが、利用中にカードの一部が飛び出す(スロット内に完全に収まりきれない)。また、低コスト化の影響で、LEDインジケータが削減されており、HDDのアクセスランプさえ搭載されていないのは、ちょっと残念に感じる。

 さて性能だが、どうやら同一クロックのCore 2 Duoには負けるものの、直接のライバルとなるであろうCULVのCeleron SU2300(1.2GHz/1MB L2)は確実に上回る、という感じだ。間もなくIntelのCULVは新しいCore i世代に切り替わるが、TurboBoostのないCeleron相手なら、性能面での競争力を維持できるかもしれない。グラフィックスに関しても、ゲームに関してはIntelのCULV/Celeron SU2300のプラットフォームより上であることは間違いない。ただし、絶対値として過大な期待をしていはいけないのは、ベンチマークのスコアが示す通りだ。

【表2】ベンチマーク結果
CrystalMark 2004R3
Mark51602
ALU12025
FPU11241
MEM8485
HDD6989
GDI3765
D2D2037
OGL7060
PCMark05 v120
PCMark2531
CPU3129
Memory2659
Graphics1187
HDD4746
PCMark Vantage v 1.0.2.0 x86
PCMark2178
Memories1421
TV and Movies1654
Gaming1267
Music2740
Communications2546
Productivity1905
HDD2017
ファイナルファンタジーXI オフィシャルベンチマーク3
Low3966
High2159
ファイナルファンタジー XIV ベンチマーク(ヒューラン男)
Low110
HighN/A

本機のWindowsエクスペリエンスインデックス

 一方、動画の再生だが、USB外付けのBlu-ray Discドライブを接続して再生させてみると、CULV/Celeronプラットフォームよりコマ落ちの度合いが大きい印象だ(WinDVD 2010使用)。YouTubeの動画も、720pは全く問題ないが、1080pのフルスクリーン(縮小)表示では若干コマ落ちしている。とはいえ、本機が内蔵する液晶ディスプレイが1,366×768ドット止まりであることや、外部ディスプレイ出力がミニD-Sub15ピンのみであること、そもそもビジネス向けの機種であることを考えれば、大きなマイナスではないかもしれない。

 もう1つ本機の長所は、拡張性やメインテナンス性に優れるところだ。写真でも分かる通り、本機の底板は7本のネジをゆるめることで、全面的に開く。そこにメモリスロット、HDD、PCI Express Miniカードスロットのすべてがあり、簡単にアクセスすることができる。従来のThinkPad同様、メインテナンスマニュアルも用意されており、ユーザーによるメモリの増設やHDDの交換が可能だ。

底板を外したところ。写真左下にはWANモジュール用らしき空きスロットと、SIMソケットまで用意されている。中央下(SIMソケット右)に見えるのが、無線LAN/WiMAXモジュールネットワーク統合管理接続ユーティリティのAccess Connections。WiMAXと無線LANの自動切り替えをサポートする

 こうしたメインテナンス性への配慮、持った時にたわんだりしない堅牢性など、本機が名前だけでなく、中身の点でもThinkPadファミリーの伝統を受け継いでいることは間違いない。もちろん、低価格化のために、すべての伝統を継承できているわけではないが、余計なソフトウェアがプリインストールされていない点にも、ThinkPadらしさが現れている。本機でプリインストールされているのは、ネットワーク接続管理ユーティリティのAccess ConnectionsなどThinkPad伝統のツール類だけで、セキュリティソフトウェアでさえプリインストールされていない(インストーラは用意されている)のは、個人的にとても好ましく感じる。

 本機の価格はオープン価格となっているが、本稿執筆時点での実売価格は6万円台半ばというところ。Core i世代への切り替えを控え、価格が低下傾向にある現行世代のIntel CULV機に比べると割高な印象もあるが、一定期間同一モデルを提供するビジネス向けノートPCとコンシューマモデルでは、一概に価格を比較できない面もある。予算の制約はあるけれど、質実剛健なビジネスモバイルノートPCを、というユーザーは、一度手にとってみると良いだろう。