■平澤寿康の周辺機器レビュー■
マイクロン ジャパン株式会社レキサー事業部は、HDDキャッシュ用途に特化したSSDキット「Crucial Adrenaline」を発売した。Crucial m4 SSDの64GBをベースとし、専用ソフトウェアを利用することでSSDがHDDのキャッシュとして動作するようになり、HDDのアクセス速度を高速化できる。
●ソフトウェアでIntel SRTに似た機能を実現「Crucial Adrenaline」(以下、Adrenaline)は、メインドライブとして利用するSSDではなく、HDDのキャッシュとして利用し、HDDのアクセス速度を高速化するという機能に特化している。発売元であるマイクロン ジャパン株式会社レキサー事業部は、本製品をデスクトップPCに取り付け、添付ソフトをインストールするだけで、HDDの速度を最大8倍高速化するとしている。
この仕様を見て思い浮かべるのが、IntelがIntel Z68 Expressで初めて実現した、「インテル・スマート・レスポンス・テクノロジー」(以下、SRT)だ。SRTも、小容量SSDをHDDのキャッシュとして利用することによって、HDDのアクセス速度を高速化するという機能だ。
ただし、その実現方法は異なっている。SRTは、チップセットが持つSATA RAID機能を応用しているのに対し、Adrenalineは独自ソフトウェアによって実現している。この違いによって、利用できる環境にも違いが見られる。
SRTは、Intel Z77 ExpressやIntel Z68 Expressなど、対応チップセットでのみ利用可能。そして、PCには「インテル・ラピッド・ストレージ・テクノロジー・ソフトウェア」のバージョン10.5以降をインストールする必要があるため、対応OSもWindows VistaまたはWindows 7に限られる。
それに対しAdrenalineは、SSDキャッシュを実現するソフトの対応OSがWindows 7に限られるものの、それ以外の制限はない。つまり、Windows 7が動作しているデスクトップPCなら、SRT非対応のIntelチップセット搭載PCはもちろん、AMD製CPU/チップセット搭載PCでも利用できるという点は、SRTに対する大きな利点と言えるだろう。
Adrenalineの製品パッケージには、Crusial m4 SSDの64GBをベースとする50GBのSSD(14GBは性能最適化に使用)と3.5インチベイ搭載用のマウンタ、SATAケーブルが付属。HDDキャッシュ用のソフトはパッケージには添付されておらず、パッケージ内部に記載されているURLにアクセスし、ダウンロードする必要がある。
パッケージには、SSD本体を収納した箱と、PCへの取り付けキットを収納した箱の2つの箱が収納されている | 付属するSSDは、Crusial m4 SSDの64GBをベースとした、容量50GBのSSDだ |
3.5インチベイに取り付けるマウンタとSATAケーブルも付属している | HDDキャッシュ機能を実現する付属ソフトはパッケージには添付されておらず、箱に記載されているURLからダウンロードして利用する |
●SSDの仕様はm4 SSDと同じ
付属するSSDは、先ほど紹介しているように、Crusial m4 SSDの64GBをベースとしている。SSDの型番は「CT050M4SSC2」と、m4 SSDの型番に近い。また、外見も、貼られているロゴシールこそ異なるものの、ほぼm4 SSDと同等だ。
接続インターフェイスは、SATA 6Gbpsに対応。内部の基板の構造や採用しているコントローラなどもm4 SSDと同等で、コントローラは、Marvell製の「88SS9174-BLD2」、NANDフラッシュメモリは、Micron製25nmプロセスの64Gbit MLC NANDフラッシュメモリチップ「29F64G08CFACB」を8個搭載。コントローラの横には、キャッシュ用としてMicron製の1Gbit(128MB)DDR3 SDRAMチップ「ISG12-D9NMJ」も搭載される。これらチップは全て基板表にのみ搭載され、基板裏には一切チップは搭載されない。
●SSD単体の性能はm4 SSDと同等
ではまず、AdrenalineのSSD単体の性能をチェックしていこう。
AdrenalineのSSDの公称性能は、シーケンシャルリードが最大500MB/秒、シーケンシャルライトが最大95MB/秒、ランダム4Kリードが45,000IOPS、ランダム4Kライトが20,000IOPSとされている。この数値は、m4 SSD 64GBと全く同じだ。
実際にベンチマークテストの結果を見てみよう。今回は、CrystalDiskMark 3.0.1cとAS SSD Benchmark 1.6.4237.30508を利用した。テスト環境は下に示す通りだ。
CPU | Core i7-2700K |
マザーボード | ASUS P8Z68V PRO/GEN3 |
メモリ | PC3-10600 DDR3 SDRAM 4GB×2 |
ビデオカード | Radeon HD 5770(MSI R5770 Hawk) |
HDD | Western Digital WD3200AAKS(OS導入用) |
OS | Windows 7 Professional SP1 64bit |
結果を見ると、シーケンシャルリードで約508MB/秒、シーケンシャルライトで約114MB/秒と、双方とも公称値を若干上回る結果が得られた。また、ランダムリード、ランダムライトも十分に高速で、m4 SSDと同等のパフォーマンスが発揮されていることがよくわかる。
●HDDキャッシュ機能はNVERO製ソフト「Dataplex」を利用
Adrenalineに付属する、HDDキャッシュ機能を実現するソフトは、NVERO製の「Dataplex」というものだ。先に紹介したように、このソフトはパッケージには添付されておらず、記載されているURLにアクセスしてダウンロードする必要がある。ソフトのダウンロードとインストール時には、パッケージに記載されているプロダクトキーの入力が必要となる。当然、ソフトはAdrenalineでのみ動作するようになっており、他のSSDでの利用は不可能だ。
Dataplexは、Windows 7(32bitおよび64bit)に対応するソフトだ。そのため、Windows 7 PC以外では利用できない。また、Dataplexには他にもいくつかの制約がある。まず、キャッシュ対象に設定できるHDDはプライマリブートドライブの1台のみで、複数のHDDに対してキャッシュを実現することはできない。また、MBRパーティションのみに対応しており、GPTパーティションにも対応しない。そして、対応HDD容量は2TBまでとなる。
こういった制約はあるものの、HDDが接続されているSATAポートの設定などには特に制約はない。SRTでは、SATAポートがRAIDポートに設定されている必要があるのに対し、DataplexはIDEモード、RAIDモード、AHCIモードのどのモードでも動作する。SRTを利用したいと思っても、HDDがAHCIモードで接続されていると、最悪RAIDモードでOSの再インストールが必要になる(レジストリを変更することで対応することも可能だが、全てがその限りではない)。
しかしDataplexはその必要がなく、現在利用している環境そのままで、手軽にSSDキャッシュ機能を追加できる。対象となるチップセットの制約がない点も合わせ、SRTに対する優位点と言えそうだ。
また、キャッシュ機能の設定も非常に簡単だ。まず、マザーボードのSATAポートにAdrenalineのSSDを接続する。SSDはSATA 6Gbps対応で、SATA 3Gbps対応のSATAポートでは最大限の性能を引き出せないため、SATA 6Gbps対応ポートを持つPCでは、必ずSATA 6Gbps対応のSATAポートに接続したい。
SSDを接続したら、PCを起動し、ダウンロードしたDataplexをインストールする。インストール作業も簡単で、プロダクトキーの入力と、対象となるHDDの選択以外は「Next」をクリックしていくだけでいい。HDDを1台しか接続していない場合には、HDDの選択も不要。インストール終了後PCを再起動すれば、Dataplexが動作しキャッシュ機能が有効となる。
Dataplexのインストールは、画面の指示に従うだけで非常に簡単だ | この画面でパッケージに記載されているプロダクトキーを入力する | キャッシュを行なうHDDと、キャッシュに利用するSSDを指定。ここも通常は変更の必要がない |
インストール終了後マシンを再起動するとキャッシュが有効になる | キャッシュが有効になると、SSDはOSから見えなくなる | 付属のツールで動作状況を確認できる |
●ほぼSSDそのものの速度が発揮される
では、キャッシュ機能有効時の速度をチェックしよう。まずはじめに、CrystalDiskMark 3.0.1cとHD Tune Pro 5.00のFile Benchmarkの結果だ。今回は、Dataplexの利用だけでなく、AdrenalineのSSDでSRT(最速)を利用した場合の速度も計測してみた。テスト環境は下に示す通りで、先ほどのテストとはOSインストール用のHDDが異なっている。
CPU | Core i7-2700K |
マザーボード | ASUS P8Z68V PRO/GEN3 |
メモリ | PC3-10600 DDR3 SDRAM 4GB×2 |
ビデオカード | Radeon HD 5770(MSI R5770 Hawk) |
HDD | Western Digital WD5000AACS(OS導入用) |
OS | Windows 7 Professional SP1 64bit |
CrystalDiskMarkの結果を見ると、Dataplex利用時にはSSD単体と同等の速度が発揮されていることがわかる。そして、SRT時との比較でもDataplexの方が高速だった。HD Tune Pro 5.00のFile Benchmarkの結果でも、CrystalDiskMarkと同等の傾向となっている。この結果を見る限りでは、キャッシュとしての性能はSRTよりもDataplexを利用した方が優れているように見える。
次に、OSの起動時間を計測してみた。こちらは、Windows 7 Professional SP1 64bitをクリーンインストール、必要なドライバ全てを導入し、Windows Updateも最新のものまで全て導入した状態で、PCの電源投入からWindows 7のデスクトップが表示される瞬間までをストップウォッチで3回計測し平均を出している。
結果を見ると、Dataplex利用時には、HDD単体時より25秒ほど速く、さらにSRT時よりも4秒ほど速かった。SRT時にはSATAをRAIDモードに設定するため、起動直後にRAIDの設定画面を経由することになり、電源ボタンを押してOSブートが始まるまでの時間が若干長くなる(その差を計測してみたところ、約4秒だった)ので、実際のブート時間はほとんど差がないと考えていいが、いずれにせよDataplex利用時の方が高速といえる。さまざまなソフトをインストールした状態では起動時間が長くなり、キャッシュの効果がより高く出るはずなので、実際の利用環境ではもっと大きな差になるはずだ。そういった意味で、SSDを利用したキャッシュによる効果は非常に大きいと言える。
HDDのみ | 約51.0秒 |
Adrenaline | 約26.8秒 |
SRT | 約31.1秒 |
Dataplexを削除せずSSDを外すと、このような警告画面が表示され起動が止まる |
ただし、場合によってはキャッシュの特性上、データが失われてしまう可能性があるという点には注意が必要。例えば、ファイルコピー中にPCの電源が落ちたりすると、データが失われる可能性がある。Dataplexには、不意にPCの電源が落ちた場合でも、データを復旧する機能が備わっているため、それほど神経質になる必要はないと思うが、念頭には置いておいた方が良いだろう。ちなみに、キャッシュとして利用しているSSDを抜いてしまうと、HDDに保存されていないデータは失われてしまう。ただ、Dataplexをアンインストールの場合は、未保存のキャッシュデータが全てHDDにコピーされる。
Adrenalineは、Windows 7が動作するPCであれば、ほぼ環境を問わず利用でき、既存のPCを高速化する手段として魅力的な存在なのは間違いないだろう。キャッシュとして利用するSSDの容量も50GBと比較的大容量なので、通常利用ではほとんどの作業がSSD上で動作するような感覚で利用できるはず。実売価格も最安で8,000円前後と1万円を下回っており、手軽にPCの快適度を高める手段として広くおすすめしたい。
(2012年 5月 29日)