大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

NECが「難燃バイオプラ」を採用したPCを本格展開する理由とは



 NECパーソナルプロダクツは、年明けに製品の一部に難燃バイオプラスチックを使用したPCを発売する計画を明らかにした。

 NECパーソナルプロダクツが開発した難燃バイオプラスチックは、「NuCycle(ニューサイクル)」と呼ばれ、花王との共同開発によって、独自の配合技術を用いることで、植物含有率75%という高い比率ながらも、電子機器に利用できる難燃性を持ったポリ乳酸ベースのバイオプラスチックを完成させた。

 NuCycleのNuには、NECの頭文字のNとともにNEWという意味を持たせたほか、Cycleには、炭素の循環、CO2の固定化および再利用、材料の循環といった意味を持たせたという。今後、このブランドを積極的に活用して、環境に優れたPCとして、「エコ=NEC」のイメージをPC分野で先行させる考えだ。

NECパーソナルプロダクツPC事業本部開発生産事業部事業部長代理・小野寺忠司氏

 「石と同じ成分である水酸化アルミを難燃材として使うことで、土壌成分と同じ高度な安全性と難燃性を両立。石油成分を25%以下に抑えることに成功した。一般的なPCに利用されているバイオプラスチックの場合は、植物含有率は30%程度であり、75%という含有率の高さは圧倒的なものといえる」(NECパーソナルプロダクツPC事業本部開発生産事業部事業部長代理・小野寺忠司氏)という。

 また、PCの筐体に幅広く利用されている石油系樹脂のポリカ/ABS混合樹脂に比べて、生産サイクルで排出するCO2が、約50%も削減できるという点でも、環境に配慮した素材となっている。

 NECパーソナルプロダクツでは、年明けにも市場投入する予定の企業向けデスクトップPC「Mateシリーズ」の一部機種で、難燃バイオプラスチック「NuCycle」を筐体に採用する考えで、環境配慮型PCのフラッグシップとして、企業などに販売していく考えだ。

 同PCは、今年11月に開催されたNECのプライベートイベント「iEXPO 2009」の会場にも参考展示されており、NuCycleをフロントマスク部に全面的に使用。また、塗装した部分には、同様に新開発した「NuCycleシャインブラウン」を下地に塗布。新塗料は、ポリ乳酸などの植物性由来の原料を使用した2液硬化型塗料となっている。

難燃バイオプラスチック「NuCycle(ニューサイクル)」年明けにも発表される企業向けデスクトップPC「Mateシリーズ」のフロントマスク部に採用される塗装部も植物性塗料を採用している

 「下地塗膜の全有機分中に占める植物成分率は50%。オーバーコード部にはトルエン、キシレンフリーの石油系塗料を用いるが、これを含めても25%の植物成分率となる。高植物度のポリ乳酸複合材用バイオ塗料をPCに利用するのは初めてのことであり、今後は、一度塗りだけで済むバイオ塗料の開発に力を注ぎたい」としている。

 さらに、同PCは、使用中の低消費電力化の観点でも工夫が凝らされており、電源効率化や高効率電源の採用などにより、消費電力を大幅に削減。節電機能によって、待機電力は従来製品に比べて約80%も削減されているという。また、PCの電力使用状況を見える化するための新機能を標準で搭載しており、使用者の環境意識を啓発することもできるという。

 NECでは、長年に渡ってバイオプラスチックの研究開発を続けてきた。2003年に飼料用トウロモコシを使用したポリ乳酸樹脂の開発をスタート。2004年にはPCの出荷時にSDカードスロットなどに挿入されるダミーカードにケナフを添加した非難燃性材料を使用。小物部品への適用を開始した。さらに、2006年には耐熱性、衝撃性を高めたバイオプラスチック材料を携帯電話に採用。「N701iECO」として商品化した経緯がある。

 一方、NECパーソナルプロダクツでは、NECの研究成果と連動する形で、2005年度から難燃バイオプラスチックの開発に着手。材料や成形手法の改善を加えることで、PCに応用できる材料の創出を目指した開発に取り組んできた。

 「PCの筐体に利用するという点で、大きさを含めて、ダミーカードや携帯電話と求められる要件が異なる。まずは、既存の金型を使って成形してみたが、形にならず、いわば粘土状態という大失敗に終わった。そこから材料の大幅な改善と、成形技術の開発に取り組んだ結果、2007年度にはパームレスト部の成形が可能になった。さらに、量産に必要とされる成形サイクルの短縮化や、ボスや爪折れといった点に対応できる強度の確保といった点で改良を加えて、2008年度には洞爺湖サミットの会場に、難燃バイオプラスチックを採用したノートPCを参考展示するレベルにまで到達した」(小野寺事業部長代理)という。

 洞爺湖サミットで展示したノートPCは、企業向けノートPCのVersaProをベースしたもので、天板やパームレスト、ベースユニット、液晶部のベゼルなど5つの大型プラスチック部品をすべて難燃バイオプラスチックで構成。ノートPC筐体全体の90%以上を同プラスチックが占めるものとなった。

非難燃バイオプラスチックはすでにダミーカードなどで利用されている試作段階では強度の面でも問題が起こり、曲げると割れてしまうといった失敗も2006年3月に発表したケナフを添加したパイオプラスチック携帯電話「N701i eco」
洞爺湖サミットで参考展示した難燃バイオプラスチックを筐体の90%に使用したノートPC天板部はすべて、裏面もカバーなどの一部を除いて、難燃バイオプラスチックを採用している

 さらに同社では、材料特性の改良や設計、製造面での改善を加えることで、商品で活用できる品質の実現とともに、量産化にも目処を立てることに成功。2010年の製品の一部にこれを採用することになった。

 「さらに高い付加価値を持った新機能バイオプラスチックへと進化させるとともに、より低コスト化を図る必要がある。2011年度には、洞爺湖サミットで参考展示したノートPCのように、筐体の90%に難燃バイオプラスチックを使用したノートPCを量産投入したい」(小野寺事業部長代理)と意気込む。

「元気な米沢」活動のロゴマーク

 難燃バイオプラスチックは、NECパーソナルプロダクツ米沢事業場で展開している「元気な米沢」活動の一環だ。元気な米沢活動は、数年先の実用化を見据えて研究、開発される素材や技術、製品、サービスなど、米沢事業場独自の取り組みを指す。これまでにも傷ついた塗装面の自己修復機能を持つ「スクラッチリペア」機能や、天板へのレーザーマーキング、CPUおよびHDDの冷却、バッテリ監視システムなどが、実際の製品などに応用されており、32件の関連特許を出願済みだという。

 元気な米沢活動の成果として、2010年に最も早く採用される新技術が、このNuCycleだとすれば、2010年に新たな事業としていよいよ本格的にスタートするものに、異音検査システムがある。

 異音検査システムは、米沢事業場のデスクトップPCの生産ラインにも導入されているもので、HDDやODD、ファンの異音を振動センサーを利用して掌握。製造上の品質向上につなげている実績を持つ。

 音を直接確認するのではなく、振動データを分析して不具合を確認するという仕組みを採用しているため、音がうるさい生産ラインのなかにも組み込んでも、問題なく活用できるという優れものだ。

 これまでは計測器を利用していたこともあり、センサーは1チャネル構成だったが、測定用のPCとセンサー、ソフトウェアとの組み合わせにより、これを最大4つまでのセンサーを使ったマルチチャンネル測定が可能な環境を実現。より高精細で、多角的な異音分析を可能とした。さらに、計測器を必要としなくなったことで、従来製品に比べてシステム価格を約半分に減らすことができ、導入しやすい環境を実現した。

 NECパーソナルプロダクツ米沢事業場では、すでに4つのデスクトップPCの生産ラインに異音検査システムを導入。これを活用して一体型パソコンについては全量を対象に異音検査を実施。年内には1ラインで、新たな異音検査システムを導入し、さらに別のラインも新システムに順次入れ替えを進めていくことになる。

 「コストの削減、機能拡張、利便性向上、汎用性向上という点で大きく進化を図った。2010年度からは、これを外販していきたい」(小野寺事業部長代理)とする。

 すでに、アセンブリメーカーとの商談を開始しているが、NECパーソナルプロダクツでは、今後、異音検査システムの外販体制を強化し、2011年度には数億円規模のビジネスにまで拡大する考えだ。

 NECパーソナルプロダクツでは、依然として「元気な米沢活動」を推進中で、このなかからPCに利用される技術の創出だけでなく、外販することができる新たなビジネスも創出されることになりそうだ。

PCとセンサーを組み合わせた異音検査システムPCの生産ラインでは、対象となるPCにセンサーをつけて異音を測定するソフトが大幅に進化しており、多角的な計測が可能になった