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nano tech 2008レポート【NEC/富士通編】

MRAMやカーボンナノチューブトランジスタなどの最新技術を展示

nano tech 2008は、東京ビッグサイトの東3~6ホールと会議棟を利用して開催された。Nano Bio Expo 2008やASTEC 2008なども併催されている

会場:東京ビッグサイト

会期:2月13日~15日



 nano tech 2008は、ナノテクノロジーに関する総合展示会・技術会議で、7回目の開催となる。nano techは年々規模が拡大しており、今年は国内から324企業/団体、海外23カ国から198企業/団体が出展し、史上最大規模で開催された。

 ナノテクノロジーとは、ナノメートル(1mの10億分の1)オーダーの構造(例えば、結晶の大きさや膜厚、粒子の直径など)を持つ物質を創製すること、およびそれらの物質を組み合わせて、デバイスやマイクロマシンなどを創製する技術の総称である。

 nano tech 2008では、ナノテクノロジーを利用した最新デバイスや材料から、ナノレベルの加工を実現するための超微細加工技術、評価用の機器など、さまざまな展示が行なわれていた。ここではその中から、本誌読者の関心が高いと思われるIT関連の話題を取り上げたい。

●MRAMやバイオプラスチック、CNTトランジスタなどを展示していたNEC

NECブースの外観。nano techのブースとしては、規模が大きな部類だ

 NECは、毎年nano techに出展を行なっており、ナノテクノロジーに注力している企業の1つだ。今回のテーマは、環境に優しいナノテクノロジーということで、さまざまな研究の成果が紹介されていた。

 その1つが、磁気で記録を行なう次世代メモリ「MRAM」である。MRAMは、電源を切ってもデータが消えない不揮発性メモリであり、速度もDRAMを上回るため、次世代メモリとして期待されている。MRAMは瞬時に立ち上げが可能なため、キー入力待ちなどの間に細かく電源を落とすことで、消費電力を削減できる。ブースでは、4MbitのMRAMチップと、それを4つ搭載した評価用ボードが展示されており、静止画や動画のデータをMRAMに記録再生するデモが行なわれていた。

製造技術世代が新しくなるにつれ、微細化が進み、既存のメモリの限界が見えてきた。そこで、高性能化、微細化、低消費電力化を実現する新たなメモリの登場が期待されている 磁気を利用して記録を行なうMRAMは、RAMとROMの特徴をあわせ持つ NECは250MHzで動作する(アクセス速度4ns)、世界最高性能のMRAM(1Mbit)の開発に成功。動作時の書込動作電流も従来の1/4の1mAに削減
MRAMは、待機時の消費電力がゼロであり、電源を切ってもデータが消えない(不揮発)。また、瞬時に立ち上げ可能なので、人が気づかない短時間にメモリ電源をON/OFFできる NECは独自のMRAM技術によって新たなイノベーションを目指しており、まずは混載DRAMやSRAMの代替を狙っている NECが開発した4Mbit MRAM
MRAMの動作デモ。4Mbit MRAMを4個利用し(合計2MB)、静止画や動画の記録再生を行なっていた。MRAMは不揮発なので、システムの電源を完全に落としてもデータはそのまま保持される

 NECは生分解性を持つバイオプラスチックに関しても積極的に取り組んでおり、携帯電話の筐体などですでに実用化されている。今回は、開発中の難燃バイオプラスチックや形状記憶バイオプラスチック、高熱伝導性バイオプラスチックに関する展示も行なわれていた。難燃バイオプラスチックは、2008年度内にPC筐体の材料として使われる予定とのことだ。炭素繊維を添加することで、ステンレスを上回る熱伝導性を実現した高熱伝導性バイオプラスチックは、比重も小さく、ノートPCの筐体などに適している。加工性などの改善が必要とのことだが、今後の展開が期待される。

NECが開発中の難燃バイオプラスチックに関する解説。ポリ乳酸樹脂に金属水酸化物を添加して難燃化を達成。2008年度内にPC筐体の材料として使われる予定 NECが開発中の形状記憶バイオプラスチックに関する解説。ウェアラブル機器への利用が考えられている 新開発の高熱伝導性バイオプラスチックに関する解説。網目化した炭素繊維を添加することで、ステンレス以上の熱拡散性を実現
高熱伝導性バイオプラスチックの熱伝導実験の様子。炭素繊維を30%添加することで、通常のポリ乳酸樹脂はもちろん、ステンレス(SUS304)をも上回る熱伝導性を実現 高熱伝導性バイオプラスチックは、平面方向への熱伝導性も高い 高熱伝導性バイオプラスチックは、炭素繊維を添加することで、耐熱性や強度も向上している
NECが開発したさまざまなバイオプラスチック。左上のケナフ添加ポリ乳酸樹脂は、すでに携帯電話などで採用されている ノートPCの筐体などへの利用が期待される高熱伝導性バイオプラスチック。比重はステンレスの1/5以下である

 カーボンナノチューブ(CNT)に関する展示にも力が入っていた。カーボンナノチューブは、炭素原子が六角形に配置されたグラファイトシートを筒状に巻いた形をしており、その巻き方や重なり方の違いによって、さまざまな性質を示す。構造によっては、半導体にもなるので、究極のトランジスタの材料としても期待されている。

 NECは、コンピュータシミュレーションによって、カーボンナノチューブの特異な物性を明らかにし、さまざまなデバイスとして使える可能性があることを示した。カーボンナノチューブは、印刷トランジスタの材料としても有望であり、実際に印刷によって作製されたCNT回路の展示も行なわれていた。

スーパーコンピュータを利用したシミュレーションによって、カーボンナノチューブの特異な物性が明らかにされてきた 酸化による結合破壊のカイラリティ依存性。半導体ナノチューブは酸化しても壊れにくいが、金属ナノチューブは酸化するとすぐ壊れる シミュレーションにより、二重のカーボンナノチューブの層間に電荷が蓄積されることがわかった。スーパーキャパシタとしての応用が考えられる
カーボンナノチューブは高速に電場をシールドする特性を持つ ホットキャリアの超高速緩和現象により、超高速光学スイッチとして使える可能性がある 接合部分がダイヤモンド型結合(sp3混成軌道をとる)ことを利用すれば、世界最小の半導体デバイスを作成できる可能性がある
こうした第一原理計算によるシミュレーションを支えているのが、NECのスーパーコンピュータだ。スーパーコンピュータの演算性能あたりの消費電力は、'95年のSX-4の1.7%まで低下した 印刷でデバイスを製造する印刷エレクトロニクスは、通常のフォトリソグラフィ工程に比べて精細度では劣るが、材料の無駄が少なく二酸化炭素排出量を大幅に削減できる 印刷エレクトロニクスの用途は、基板配線から印刷アンテナ、センサー、ディスプレイなどに広がっていく
印刷形成が可能なトランジスタ材料としては、有機半導体の開発が盛んだが、カーボンナノチューブ(CNT)も有力な材料であり、有機半導体に比べて電子移動度が100~1000倍程度と高速動作が期待できることが利点だ NECは、プラスチック基板上にCNT分散インクを塗布して印刷CNTトランジスタを作成、発光素子を駆動できることを実証した プラスチック基板上に印刷によって作製されたCNT回路
CNT回路の拡大顕微鏡写真

 また、マンガンラミネートリチウムイオン電池標準パックと有機ラジカル電池に関する研究も興味深かった。前者は、電動アシスト自転車やロボット、芝刈機などに使われることを想定した電池パックで、すでに製品化されている。後者は、NECオリジナルの二次電池であり、柔軟なゲル状の有機ラジカルポリマーを採用することで、自由に曲げられることが特徴だ。また、高速充電や高出力放電も可能である。1セルあたりの電圧は3.5Vで、出力は1平方cmあたり1mW程度とのことだ。そのほか、電気信号と光を変換する超小型光I/Oモジュール「PETIT」やナノフォトニクス関連の展示も行なわれていた。

NECグループでは、マンガンラミネートリチウムイオン電池標準パックと独自の有機ラジカル電池の開発を行なっている NECトーキンが開発した24V電源システム向けマンガンラミネートリチウムイオン電池標準パックの特徴。25.9V/4.3Ahと25.9V/8.6Ahの2種類のパックを製品化している 手前が電池標準パックに入っているリチウムイオン電池セル。奥の左側が25.9V/4.3Ahの「MH71-3002」で重量は約1.3kg、奥の右側が25.9V/8.6Ahの「MH72-3003」で重量は約2.5kg
用途としては、UPSやバックアップ電源、電動アシスト自転車、ロボット、芝刈機、掃除機、電動車椅子などを想定 NEC独自の有機ラジカル電池の特徴。柔軟なゲル状の有機ラジカルポリマーを採用することで、曲げに強い薄型電池を実現。また、高速充電や高出力放電も可能 有機ラジカル電池の位置づけ。重量あたりのエネルギー密度はニッケル水素電池と同程度だが、重量あたりの出力密度はニッケル水素電池よりも格段に大きい
有機ラジカル電池を利用したアクティブRF IDタグの例。外部からの非接触での充電も可能 有機ラジカル電池の試作品。ラジカル電池から供給される電流によって白色LEDが点灯している 有機ラジカル電池は薄くて柔軟であり、このように自由に曲げたり丸めたりすることが可能だ
データ容量が爆発的に拡大し、データ伝送速度がボトルネックとなってきた。それを解決するのが、光でデータ伝送を行なう光インターコネクションである NECが開発したトンネル接合型面発光レーザーは、30Gbpsという超高速動作を実現。新聞10年分のデータをわずか1秒で伝送可能である 14×14mmサイズで40Gbpsのデータ転送が可能な超小型光I/Oモジュール「PETIT」の特徴
トンネル接合型面発光レーザーと超小型光I/Oを統合して、2010年頃の実用化を目指す。将来のシステムLSIでは、50×50mmで最大320Gbpsの伝送速度を実現する ナノ構造を利用して、光素子の小型化/省電力化を目指す「ナノフォトニクス」 周期的構造を持つフォトニック結晶によって、光を遅くしたり直角に曲げることが可能
交差導波路を通って進む光の様子 光を薄く小さな吸収層に閉じこめて、表面プラズモンを発生させることで、従来の受光素子に比べて1/5の小型・省電力化、高速化を実現するプラズモンアンテナ ナノフォトニクス技術の開発ロードマップ
超小型光I/Oモジュール「PETIT」。中央の黒いパーツがPETITだ PETITの実装例。PETITに光ファイバーのコネクタを載せて、上からフタを閉めることで接続する 光インターコネクションモジュールの試作品。PETITを3つ実装しており、合計120Gbpsのデータ伝送が可能
光によってデータ伝送を行なうサーバー向けフロントプレーンの例。光化することによって、コネクタが減り、放熱面でも有利となる ナノフォトニクスによる光回路を組み込んだシリコンウェハ

●富士通はコンピュータシミュレーションやPCクラスタを展示

 富士通は、コンピュータシミュレーションに関する展示を行なった。第一原理計算に基づくシミュレーションには、多大なコンピュータパワーが必要になるが、スーパーコンピュータの性能向上により、2010年頃には原子10万個程度の計算を扱えるという。これまでは、単純な構造のシミュレーションしかできなかったが、原子10万個なら、FETなどのデバイスの挙動をまるごとシミュレーションすることが可能になる。シミュレーションによって材料設計、プロセス設計、デバイス設計を行なうことで、実験/試作回数の削減が可能になり、コスト削減や開発期間の短縮に貢献する。

 また、PC上で動作する分子動力学シミュレーションソフト「Materials Explorer 5.0」やPCクラスタによる大規模計算を実現する「Systemwalker CyberGRIP」、Xeonを搭載したPCクラスタシステムなどの展示も行なわれていた。

コンピュータシミュレーションを中心に展示していた富士通ブースの外観 新材料を開発するためのシミュレーション技術の解説。並列化による処理の高速化/効率化や第一原理計算と古典分子動力学を連携させたハイブリッド計算技術が用いられている スーパーコンピュータの性能向上によって、扱える原子数が増加してきた。2010年頃に登場予定の次世代超並列計算機の理論ピーク性能は10PFLOPSに達する。原子10万個程度の計算が可能になり、デバイス構造をまるごとシミュレーションできる
新材料開発の未来。シミュレーションによって材料設計、プロセス設計、デバイス設計を行なうことで、実験・試作回数の削減が可能になり、コスト削減や開発期間の短縮に貢献する カーボンナノチューブのシミュレーション例 300mmウェハの上に成長させたカーボンナノチューブ。黒い部分がカーボンナノチューブで、富士通のシンボルマークが現れるように選択的に成長させている
PC上で本格的なシミュレーションが行なえる分子動力学ソフト「Materials Explorer 5.0」の概要 Materials Explorer 5.0では、原子・分子レベルでの現象の取り扱いが可能 【動画】Materials Explorer 5.0によるシミュレーションの例
Materials ExplorerとSystemwalker CyberGRIPを組み合わせることで、PCクラスタを利用した大規模なシミュレーションが可能になる Systemwalkerでは各計算サーバーの稼働率が一目でわかる こちらはジョブの振り分け状況
各サーバーには4つのCPUコアが搭載されており、それぞれのコアのCPU利用率やメモリ利用率をモニターできる 富士通のPCクラスタシステム。計算ノードにはXeonを搭載したPCサーバー「PRIMERGY」を採用する PRIMERGY RX200 S4は1Uサイズの薄型サーバーであり、クアッドコアXeonを2つ搭載可能

□nano tech 2008のホームページ
http://www.ics-inc.co.jp/nanotech/

(2008年2月19日)

[Reported by 石井英男]

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