■大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」■
2009年上期(1~6月)におけるコンシューマPCの販売データが明らかになった。
BCNが全国の主要販売店を対象に調査しているPOSデータによると、上期におけるPCの販売台数は、前年同期比23.8%増と、高い成長率を維持していることがわかった。
2008年9月のリーマンショック以降、世界的な景気低迷を背景に、国内の個人消費の減速が指摘されるなか、国内コンシューマPC市場に関しては、前年実績を大きく上回る結果となった。
しかも、月別の販売台数推移を見ると、2008年3月に前年同月比10.8%増とプラス成長に転じて以来、16カ月連続で前年実績を上回るという好調ぶりを持続している。薄型TVなどの一部製品を除けば、この不況下に異例の成長を遂げているといわざるを得ない。
量販店に並ぶ各社のネットブック |
その原動力となっているのが、ネットブックであることは間違いない。
2008年7月に、ノートPC全体におけるネットブックの構成比が16.6%と2桁台に乗って以来、着実に構成比を拡大。2009年に入ってからは、1月と3月を除く4カ月で30%以上の構成比を獲得。2009年6月の集計では、33.1%にまで拡大した。
市場全体を牽引しているのがネットブックであることは、別の分析からも明らかだ。
2008年1月を100とした場合、A4ノートPCを中心にディスプレイサイズを12.2型以上としたスタンダードノートPCは、2009年6月実績で22.6%減。ディスプレイサイズが12.1型以下でネットブックの要件を満たさない「スタンダードモバイルノートPC」は57.5%減。これに対してネットブックは、964.1%増と大幅な伸びになっている。
ネットブックの販売が増加することで、当然、ネットブックの構成比が上昇。そしてそれは、デスクトップとノートPCの販売台数構成比のバランスの変化にも表れている。
2008年12月にノートPCの構成比が80.9%と8割を超えて以来、2009年6月まで8割台を維持し続けており、2009年上期のノートPCとデスクトップPCの構成比は、82.9%対17.1%となっている。2008年上期の76.5%、2008年下期の78.4%から着実に上昇しているというわけだ。
現在、店頭で販売されているPCのうち、10台のうち8台がノートPC。そのうちの3分の1がネットブックということになる。
ノートPC タイプ別販売構成比の推移 データ出典:BCNランキング |
●ネットブック浸透の影響で販売金額は減少
だが、ネットブックの浸透は、販売台数の増加を生み出す一方、矛盾するようだが、販売金額の減少という影響を及ぼしている。
実際、ネットブックだけの販売金額は、この1年半で8倍規模にまで拡大している。だが、低価格のネットブックの販売構成比が増えることで、全体の販売金額が減少するという事態につながっているのだ。
BCNのデータによると、2009年上期のPCの販売金額は、前年同期比9.2%減と、2桁近いマイナス成長となっている。販売台数では33.3%増という高い伸びを見せているノートPCも、販売金額で見てみると3.9%減と前年割れ。デスクトップPCでは、25.2%減と、前年同期の3/4の規模にまで縮小しているのだ。
月別推移でも見ても、販売金額の落ち込みがわかる。販売台数では16カ月連続でのプラスとなっているのに対して、販売金額は2008年1月から2009年6月までの18カ月間のうち、前年実績を超えたのはわずかに3カ月だけ。2008年12月からは、7カ月連続で前年割れを続けている。特に、最新月となる2009年6月は前年同月比18.1%減と、この1年半で最も悪い数字となっている。
販売金額の減少はネットブックの影響であることは平均単価の下落からも浮き彫りにされる。
ノートPC全体の平均単価は2008年1月には124,000円であったものが、2009年6月には82,800円となっており、わずか1年半で価格は2/3まで下落しているのだ。
中でも、下落率が大きいのがネットブックで、2008年1月には52,200円であったものが、2009年6月には41,500円と最低価格を更新。過去1年半の価格下落率は約2割に達している。
一方でデスクトップPCの平均単価も、高機能化によって単価上昇が期待されていたものの、この1年半での価格下落率は24.2%。やはり3/4にまで価格が下がっている。
ノートPC タイプ別単価の推移 データ出典:BCNランキング |
●ネットブックが好調なメーカーがシェアを伸ばす
メーカー別シェアを見てみよう。
2009年上期にトップシェアとなったのは、NECで17.9%。続いて富士通の17%。3位には、東芝が16.3%と肉薄している。量販店では、この3社で「3強」という状況が作られている。
2008年上期を振り返ってみると、首位は富士通の20.2%、そして2位のNECの19.7%と2強体制。これに、約5ポイント離れてソニーの15.4%、東芝の15.0%と第2グループが続く形成だった。
東芝のシェア拡大に貢献した「dynabook UX」 |
2009年上期に東芝のシェアが上昇したのは、5月以降のネットブックのシェア拡大が大きく貢献しており、逆に、NEC、富士通がシェアを下げたのはネットブック市場で、思うような実績を残せなかったことが影響している。
ネットブック市場におけるシェアでは、東芝は2009年4月までは1桁台に留まっていたが、5月にダイナブックブランドのネットブック「dynabook UX」を投入して以来、一気にシェアを拡大。5月は16.2%、6月には15.2%と、存在感を高めている。
東芝は、ノートPC全体でもシェアが高く、4月には22.8%、5月には22.0%、6月には19.9%と20%前後を獲得。首位を維持し続けている。
ネットブック市場で見逃せないのが、やはり台湾勢の動きだ。
2009年6月のメーカー別シェアでは、ASUSTeKが25.2%、日本エイサーが16.5%。この順位は変わらないが、先に触れたように、ここに東芝が15.2%と肉薄している。4位以下は、NECの6%、富士通の5.9%、デルの5.5%、レノボ・ジャパンの5.3%と続いている。
ノートPC全体 メーカー別台数シェア推移 データ出典:BCNランキング |
2009年上期のコンシューマPCの動きを俯瞰してみると、販売台数という観点では好調な動きが続いており、Windows 7発売前の買い控えの傾向も、いまのところは見られていない。経済環境の減速をものともしない好調ぶりだといっていいだろう。
だが、一転して目を販売金額に向けてみると、状況は惨憺たるものだといっていい。
それは当然のことながら、業界全体の利益の圧迫にもつながっており、全体が疲弊しやすい方向に向いているともいえる。
世の中全体は、「売れずに儲からない」という状況であるが、PC市場は「売れているのに儲からない」という状態に陥っており、見方を変えれば経済環境以上の悪循環にあるといえよう。
携帯電話事業者が推進しているような、端末価格が下落しても、サービス事業の売り上げ拡大などにより、販売台数の増加を業界全体のプラスにつなげることができる仕掛けがない限り、業界全体の底上げにはつながらない。
ネットブックが普及すればするほど、これは根深い問題になる。構造転換を急ぐ必要が、メーカー、販売店などに求められているとはいえまいか。
(2009年 7月 13日)