大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

富士通が掲げる「PC事業で1,000万台」の青写真
~ライフパートナーを目指し、ラインアップを強化



 富士通には、数年後に年間1,000万台規模のPCを出荷する青写真がある。2009年度出荷計画の約1.5倍に引き上げる積極的な数値だ。それに向けた地盤作りと仕込みの1年が、2009年度ということになる。

 欧州に拠点を置く、富士通テクノロジー・ソリューションズ(略称FTS)の100%子会社化や、ネットブックへの参入、Windows 7を見据えた取り組みにも注目が集まる。5月28日付けで、PC事業を統括するパーソナルビジネス本部長に就任した齋藤邦彰氏に、2009年度のPC事業への取り組みと、中期的な事業方針について話を聞いた。

 2009年における富士通のPC出荷計画は650万台。前年比12%減という慎重な見方をしている。

富士通 齋藤邦彰氏

 「世界的な経済環境の悪化などを考えれば、厳しい状況になるのは明らか。むしろ、2009年度は、次の飛躍に向けた地盤づくりの1年になる。数字を追うよりも、地盤を整えることを優先したい」と、齋藤本部長はを語る。

 実際、2009年度の取り組みを「筋肉質な体質への転換」という言葉で示す。

 「品質を維持しながら、コスト競争力を高める。より適正な価格で、プロダクト、サービスを提供できる仕組みを再構築する。そうしたビジネスを推進する上での基礎体力をつける時期」(同氏)。

 その鍵になるのが、富士通テクノロジー・ソリューションズ(以下FTS)の存在である。これまでは富士通シーメンス・コンピューターズとして、独シーメンスとの50対50の出資比率だったが、今年4月から100%子会社化した。

 「FTSによって、ボリュームによるコストメリットを追求することが可能になる。従来は、リージョン・オプティマイズによる戦略が中心となっていたが、100%子会社化したことで、グローバル統一モデルといった取り組みを開始することができる」。

 この発言は、明らかにボリューム戦略を意識したものともいえる。

 2009年度の富士通の出荷計画は、先にも触れたように、2桁減というマイナス成長を見込む。NECが、国内市場にPC事業を絞り込んだように、事業縮小の道筋での収益確保に舵を切ったように見えなくもない。

 だが、齋藤本部長はそれを明確に否定する。

 「次のジャンプに向けて仕込みをしたい。数年内に1,000万台、という規模も視野に入れている」と語る。

 富士通は、IAサーバーでも、2年後には出荷台数を現在の1.8倍規模とする年間50万台の出荷計画を打ち出している。それにより、現在4%のグローバルシェアを、10%以上に引き上げる考えだ。

 「経済環境が悪化している中、わずか2年間で全世界でほぼ倍増、日本で倍増以上という目標は容易ではない。だが、50万台という数字は、富士通がグローバル化するためのマイルストーンだと考えている」と野副州旦社長がいうように、この数字は逆風が吹く中で、絶壁ともいえる大きな壁への挑戦となる。

 PC事業における出荷計画も、これに匹敵する大きな目標となる。

 1,000万台規模の出荷イメージは、国内3割、海外7割という。2008年度実績が、国内246万台、海外490万台であることから逆算しても、国内で1.2倍、海外で1.4倍規模の成長が必要となる。

 「コンシューマ向けビジネスに加えて、企業向けのソリューション型ビジネスも、PC事業の成長を支えることになる。サーバーの出荷台数が倍増すれば、それに伴って、PCの販売台数も増加する。日本発のワールドワイドPCベンダーとしては唯一、サーバー、ストレージ、ミドルウェアを含めたソリューション提案ができるのが富士通の特徴。それを海外にも広く展開していく」と齋藤本部長は語る。

 しかも富士通は、IAサーバーとPC、携帯電話を1つの組織で統括している。その点でも、サーバーとPCの連動提案が、他社にはない販売拡大の切り札になるかもしれない。

●ネットブックとLOOX Uの選択肢

 ボリューム戦略を推進する上で見逃せないのが、ネットブックへの取り組みだろう。

 富士通は、夏モデルで国内PCメーカーとしては最後発でネットブックを投入した。最後発という観点から見れば、ネットブック事業にはあまり積極的ではないように感じられる。

 だが、この点をも齋藤本部長は否定する。

 「ネットブックは、2台目のPCという言い方がされているが、むしろ、捉え方はネットやメールの専用機という方が的を射ている。PCとは違うカテゴリと捉えることができる。そうした用途を求めるユーザーに対して、目的に応じたコストパフォーマンスを実現している製品であり、この市場に向けては継続的に製品投入を行なっていく。だが、富士通では、それだけの機能に留まらず、もっと手軽に持ち運びたい、パフォーマンスを求めたいというユーザーには、あと3万円出すことで、LOOX Uを購入できるという提案を行なっている。この2本立ての提案によって、ユーザーの選択肢を広げている」。

 ネットブックのラインアップは、今後も継続する姿勢を示しながら、LOOX Uとの対比で、専用機と汎用機という選択肢を提案しつづけるというのが富士通の姿勢だ。

 「ネットブックは、PCベンダーにとって、コスト体力のベンチマークとなる製品。その観点からも、果敢に取り組んでいく。そして、今後は、品質面においても外資系のネットブックには負けない、一線を画した仕組みを考えている。一方で、LOOX Uは、富士通が持つ独自技術を盛り込んで、さらに進化を図っていく。モバイル利用環境のなかで、富士通はどんな提案ができるのか。オフィスアプリケーションが快適に利用できるパフォーマンスを持ち、WiMAXをはじめとする高速ブロードバンドインフラを利用できるといったことだけに留まらず、安心して利用できるセキュリティ機能の搭載なども鍵になる。ボリューム戦略となるネットブック、バリュー戦略となるLOOX Uの両立てによる製品展開が重要だ」とする。

 台湾勢のように、ネットブックだけでラインアップを幅広く展開していくつもりはないようだ。組み合わせ提案が富士通の手法ということになる。

富士通のネットブックLOOX MLOOX U

●TEOの進化で逆転KOを

 バリュー戦略として、モバイル分野のLOOX Uの進化があげられる一方で、デスクトップ領域においても、1つの重点課題があるという。それはTEOである。

 リビングPCと位置づけられるTEOは、残念ながら、販売面では、これまで実績といえる結果を残していない。だが、2009年度から、富士通は改めて、TEOに力を注ぐという。

 「2011年度のアナログ放送完全停波を前に、地デジ対応製品は、いよいよファイナルラウンドに入ってきた。TEOは、これまではかなり厳しい戦いであったのは事実。だが、最終ラウンドでの逆転KOを狙う」と、齋藤本部長の鼻息も荒い。

 これまでのTEOの役割は、地上デジタル放送の視聴、録画、ホームネットワークなどに関して、最先端の技術を投入し、その成果をLXシリーズなどのメインストリームの商品群に採用するという、いわば「先兵」としての位置づけにあった。これからもその位置づけは変わらないだろう。

 齋藤本部長も、「ホームネットワーク、地デジ対応といった点において、虫めがねでじっくり見てみたら、ほころびがみえた。ファイナルラウンド突入を前に、そんなことが起こらないように、徹底して対応を行なうためにはTEOの存在は大きい」とする。

 だが、続けてこうも語る。「2010年度、2011年度にかけては、TEOもより大きな数値を追うことになる。そのためには、いまのようにPC製品であるという領域から見られるだけでなく、一般的なコンシューマエレクトロニクス製品の1つと捉えるられるような進化も必要となる。マイクロソフトのプラットフォームを活用した上で、コンシューマエレクトロニクス製品としての提案が、いかに行なえるかどうかがこれからの課題になる」とする。

 果たして、TEOがどんな形で進化していくのか。齋藤本部長が「逆転KO」という言葉を用いるあたり、なにか秘策がありそうだ。これからの進化が楽しみだといえよう。

●富士通はライフパートナーを目指す

 2009年4月。パーソナルビジネス本部では、1つの言葉を社内に発信した。

 「お客様のライフパートナーを目指す」。

 この言葉には大きな意味がある。齋藤本部長は、次のように説明する。

LOOX R

 「改めて富士通のPCとは何かを、社内で考えた。その答えが、お客様のライフパートナーを目指すということ。では、その意図はなにか。お客様のあらゆる利用シーンに富士通のPCが活用され、豊かな人生を過ごすことを支援する。それは、コンシューマにおいても、ビジネスの利用シーンにおいても同じ。複数のPCで提案することもあれば、1つのPCであらゆる用途に対応することができるという提案もある。例えば、デスクトップPCとネットブックという組み合わせで、生活シーンに対応することもできるし、LOOX Rのように、モバイル環境での利用に最適化しながら、オフィスと同じ使い勝手を実現するというように1台の高機能PCで対応することもできる。つまり、ライフパートナーを目指すということは、利用環境にあわせた最適なPCをラインアップし、数多くの選択肢を用意するということになる。利用環境を深堀りした形で、富士通のPCを進化させていく」。

 先に触れたようにネットブックとLOOX Uを同時並行で進化させていくというのも、利用シーンにあわせた選択肢を広げるためのものだ。

 この「お客様のライフパートナーを目指す」という言葉は、まだ社内だけで活用しているものだが、今後、社外に対して訴求していく可能性もありそうだ。そして、今後、数年に渡って社員が共有する言葉として活用する考えだという。

 この言葉が社内で使われなくなった時に、富士通が目指す「ライフパートナー」という目標が達成されたことになるのかもしれない。

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(2009年 6月 15日)

[Text by 大河原 克行]