大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」
「PCレス」に新たな成長を求めるPC周辺機器メーカー
~創業40周年を迎えたメルコグループの次の一手
(2015/5/1 06:00)
メルコ(現・バッファロー)が、1975年5月1日に創業してから、ちょうど40年を迎えた。PC周辺機器メーカーとして、HDDや無線LANルーターなどの分野で国内トップシェアを獲得。赤いパッケージに「BUFFALO」のロゴが入った周辺機器は、多くのPCユーザーに利用されているのは周知の通りだ。だが、40年目を迎えた同社は、ここに来て、PCレスを機軸とした新たな事業の模索に乗り出し始めた。「PC周辺機器メーカー」から脱却し、「ネットワークの周辺機器メーカー」を目指すという。創業から40年。バッファローを中軸とするメルコグループは、次のステップにどう踏み出そうとしているのだろうか。
オーディオメーカーからスタートしたメルコ
現在、メルコグループは、PC周辺機器およびデジタル家電などを開発、販売するバッファロー、「玄人志向」のブランドで、ハイレベルな個人ユーザーを対象に展開するシー・エフ・デー販売、設定や保守などのサービスを提供するバッファロー・IT・ソリューションズのほか、買収したジェイ・ディ・エスを母体に社名変更し、電子部品や電子応用製品の開発、販売を行うバッファローメモリや、同じく買収した産業用ストレージ関連の開発、製造、販売を行うバイオスなどがある。
意外に感じる読者も多いかも知れないが、元々メルコのスタートは、オーディオメーカーである。オーディオマニアでもあった創業者の牧誠氏が、アンプ専門のメーカーとしてメルコを創業。株式化してからの最初の製品は、1978年に発売した糸ドライブを採用したターンテーブルユニット「3533」。砲金製のターンテーブルは20kgという重さを持ち、オーディオマニア層から高い評価を得た。
だが、中堅オーディオメーカーによる低価格製品攻勢の影響を受けて業績が悪化。その状況を打開する新たな事業として、PC周辺機器市場への参入を模索し始めたのだ。
1981年に社内に設置した「コンピュータ事業部」は、1982年にプリンタ内蔵型のプリンタバッファ「PB-32」を開発。印刷時のロスタイムの解消に繋がる同製品は、この分野において80%の市場シェアを獲得するというヒットを記録した。
ここからメルコのPC周辺機器事業はスタートした。
実は、バッファローというブランドおよび社名は、PC周辺機器事業の最初の製品であるプリンタバッファのブランドを一般公募し、その中から採用されたものだ。バッファと、動物のバッファローを掛け合わせた語呂あわせの面白さと、バッファローの駆け抜けるイメージが同社のイメージにぴったりとの理由で選ばれたという。
同社は、プリンタバッファに続き、内部増設メモリやEMSボード、LANボードなどを製品化。Windows 95の登場やインターネットの広がりなどにあわせて、メモリ、HDD、CD-ROMドライブ、無線LANルーターなどのPC周辺機器事業を拡大していった。無線LANルーターにおいては、2001年に開発した自動設定技術「AOSS」が、ボタン1つで無線LANの接続設定できる手軽さが受けて、多くのメーカーが製品に採用。同社の無線LANルーターの販売に弾みを付けることになった。
BCNの調査によると、2014年度(2014年4月~2015年3月)の量販店市場におけるシェアでは、同社は、無線LANルーターで50%、NASで50%、外付けHDDで39%のシェアを獲得。さらにメモリでは、シー・エフ・デー販売とあわせて43%のシェアを獲得。メルコグループとしては、PC周辺機器の14ジャンルにおいて、トップシェアを獲得している。名実ともに、PC周辺機器のトップメーカーに君臨している。
なお、2003年には、メルコホールディングによる持株会社体制へと移行。これに伴い、メルコはバッファローに社名を変更。ブランド名を社名とし、それを統括するメルコホールディングスには、創業時のメルコの名称を残した。そして、これら全体を、メルコグループと呼んでいる。
創業者からのバトンタッチ
そのメルコグループは、今大きな節目を迎えようとしている。
2015年5月1日に、創業40周年という節目を迎えたのは確かだが、それ以上に大きな転換が訪れているからだ。
1つは、2014年6月、創業者である牧誠氏から、牧寛之氏へと社長が交代した点だ。現在、34歳の牧寛之氏は、牧誠氏の子息であり、このバトンタッチの理由は、2014年春に、牧誠氏が体調を崩したことが背景にある。
これに併せて、牧誠氏は、会長に退いたが、早期に新社長体制へ移行することで、牧誠氏が持つ経営ノウハウなどを、新体制へと移管する狙いがある。
メルコグループでは、創業40周年を迎えた2015年の取り組みにおいて、「創業者である牧誠が築いた事業基盤の円滑で、混乱のない承継を完了すること」を明文化している。
社長の世代交代はまさに大きな節目。ベンチャー企業からスタートした企業の創業者からのバトンタッチならばなおさらだ。
円滑な交代がここ数年の大きな課題となる。
PC市場の成長鈍化はどんな影響を及ぼすか?
2つ目は、PC市場の変化の影響だ。
2014年4月までは、Windows XPのサポート終了に伴う買い換え需要、消費増税前の駆け込み需要に支えられ、旺盛だったPC需要は、その後の反動が今でも続いている。そして、中長期的な視点で見ると、今後、これが順調に回復を続けるとか、飛躍的に成長するといったことは想像しにくい。つまり、PCをキーデバイスと位置付けたPC周辺機器ビジネスの成長も、限定的にならざるを得ないといえる。
メルコホールディングスの松尾民男取締役副社長は、「当社のビジネスにとってキーデバイスとなるPCの販売台数が減少し続けるのであれば、当社のビジネスは、当然、縮小していくことになる。中長期的な観点で捉えれば、PCレス、あるいはIoT時代を見据えた経営が必要になる。PCを介在しないビジネスに積極的に乗り出していく必要がある」と語る。
PCを介在しない事業の創出は、待った無しで取り組まなくてはならない要件だ。
同社では、PCをキーデバイスとする以外の領域では、TVのデジタル化に合わせて、TVに接続できるHDDでも実績を持つ。だがこれも、TV市場の低迷などの観点から、TV依存の事業体質では、存続は難しいとみている。
「4K放送や8K放送の開始によって、TV放送の録画容量が飛躍的に増加し、TV録画用途におけるHDD需要の拡大は期待できるが、その成長には限界がある」と見る。
もちろん、これらの市場から撤退するというわけではない。だが、「PCおよびTVをはじめとするデジタル家電を介在するビジネスに、過度に依存しないグループ事業ポートフォリオを、早期に構築することが大切である」との考えを明確に打ち出す。
PCレス事業創出に向けた3つの取り組み
実は、PCレス、デジタル家電レスの動きは既に始まっている。そしてそれは、3つの切り口から取り組みを開始しているのだ。
1つ目は、「PCテクノロジーを応用した新規製品カテゴリ」の創出だ。
既にPCを介在しない製品として、「おもいでばこ」がある。第4世代目となったおもいでばこは、デジカメやスマホなどで撮影した写真をボタン1つで大容量のHDDの中に取り込むことができるデジタルフォトアルバム。撮影後の取り込み、整理、鑑賞が行いやすいという点が高い評価を得ている。既存技術を活用しながらも、PCを介在しない製品の代表格だ。
また、NASの技術を活用したハイレゾオーディオ「DELA」も、既存技術を活用した取り組みの1つだ。
DELAは、オーディオ機器の観点で開発したNASであり、オーディオ機器として不可欠な電源品質やノイズ対策にこだわり、オーディオ機器らしい外観や、PCを介さなくても操作できる環境の実現など、ハイレゾ時代を迎えた中で、新たなオーディオの形を提案するものとなっている。
同社では、「世界で唯一、オーディオ機器メーカーを起源とするPC周辺機器メーカー」を標榜し、DELAを「オーディオ機器としてのネットワーク機器」と位置付ける。
今後、PCテクノロジーを応用した新規カテゴリ製品は、おもいでばこ、DELA以外にも登場することになるだろう。
MELCOブランドを使用した初の製品に
実は、DELAに関しては、大きなトピックがある。
それは昨年(2014年)秋から、欧州市場に限定して、同製品が、「MELCO」ブランドで販売が行なわれていることだ。
MELCOブランドは、三菱電機が「Mitsubishi Electric Corporation」の略称として用い、今でも社内で活用されている。
MELCOブランドの使用については、三菱電機とメルコホールディングスが長年に渡って話し合いを続けてきたが、ようやく一部製品に限定して、MELCOのブランドを使用することが可能になった。それが、欧州で販売している日本名「DELA」ということになる。
「オーディオメーカーとして創業した当社にとって、MELCOブランドをオーディオ製品に付けることができるのは大きな意味がある」と、メルコホールディングスの松尾民男取締役副社長は語る。
IoT時代のネットワーク製品とは?
2つ目の領域は、「IoT時代を見据えたネットワーク製品の開発と普及」である。
ここでは、同社の強みである無線ネットワーク技術、ブランド力、家庭およびオフィスでの実績を最大限に生かし、IoT時代のネットワークインフラをサポートする製品、サービスの開発を進めるという。
PC向け周辺機器だけでなく、薄型TV向け周辺機器、スマートフォンやタブレット向け周辺機器、あるいは監視カメラやセンサー、ウェアラブル機器や家電製品などを結ぶネットワーク機器や技術によって、新たなソリューションを提供していくことになる。
これまではPCを中心に置いて、製品ラインアップをしていたものから、IoTを中心に製品ラインアップを揃えるという方針への転換である。
その一例として挙げるのが、ヘルスケアへの取り組みだ。
メルコホールディングスの本社がある名古屋では、『地域と育む未来医療人「なごやかモデル」』への取り組みが開始されている。
文部科学省の未来医療研究人材養成拠点形成事業として展開している同プロジェクトは、名古屋市立大学、名古屋学院大学、名古屋工業大学、特定非営利活動法人「たすけあい名古屋」が連携して、保健、医療、福祉分野における人材を育成するのが狙いだ。
高齢化率が44.1%に達し、その約半数が独居世帯という名古屋市緑区の鳴子団地を中心とした鳴子地区においてプロジェクトを推進。ここでは、さまざまな取り組みが行なわれているが、メルコグループが参加しているのは、センサーやカメラを用いて独居老人の生活をモニタリングし、それらのログ情報を収集して、ヘルスケアプランを立案するというものだ。メルコグループでは、センサーや監視カメラを結ぶネットワーク機器や、ログ情報を蓄積するHDDなどを提供。これらの成果を、IoT環境に最適化したモノづくりや、ソリューション化へと反映する考えだ。
将来的には、これらの知見をもとに、牧誠氏が理事を務める社会福祉法人ケアマキスを活用したヘルスアケサポートに関するソリューションノウハウの検証も可能になるだろう。また、ヘルスケアなどで蓄積した実績は、他の業種などにも生かしたネットワークソリューションとして提供できそうだ。これも、ネットワークの周辺機器メーカーとしての1つの切り口となる。
新規事業部を設置し、PCレス事業を模索
3つ目が、「Wi-Fiサービス事業の拡大」である。
ここで実績が出ている取り組みの1つに、バッファロー・IT・ソリューションズが展開している「アパートWi-Fi」がある。
アパートWi-Fiは、1本の光回線を同じアパートの居住者で共有。アパートの入居者が、通信費を節約して、全員でインターネットを利用できるようにするというサービスだ。同社では、事前調査から設置、保守までをトータルでサポート。無線LANルーターをどこに設置すれば、最も効果的に利用できるかを導き出して、設置することが可能だ。
これまでに100件のアパートで導入。対象戸数は1,000戸に上るという。
「空室が埋まらなかったものが埋まった」、「更新時期の3カ月前に設置工事のお知らせを行い、Wi-Fiの無料サービスを行なうと告知したところ、全ての入居者が更新した」などといった声が、アパートオーナーから挙がっているという。
また、無線LANへの取り組みについては、2020年の東京オリンピックの開催に向けて、公衆無線LANの設置が加速するとみられており、ここにメルコグループにとってのビジネスチャンスがあると想定している。
このように、メルコグループでは、3つの観点から、PCレス事業に向けた取り組みを加速しようとしている。
実際、4月1日付けで新規事業部を新設。開発者を中心に15人体制で、PCレス事業の模索を開始している。
「PCを介在しない事業の売り上げ比率は、まだ5%にも満たない。数年後にはこれを10%程度には高めたい」と、成長曲線の描き方は緩やかだが、新たな事業の芽を育てることに対しては、多くの投資をしていく考えだ。
新規事業部は、オーディオメーカーからPC周辺機器メーカーへの転換を模索した同社黎明期に設置したコンピュータ事業部の存在に近いものがあるといえるだろう。
新規事業の開拓はまだ緒についたばかりだが、PCを介在しない事業の創出は、同社にとって最優先課題であることは間違いない。
法人/産業向けの比率を50%に
そして、最後にもう1つの転換がある。
それは、個人向けを中心としたビジネスから、法人/産業向けビジネスへの転換である。
先頃発表したメルコホールディングスの2014年度(2014年4月~2015年3月)の連結業績からも明らかなように、同社はこの1年、一度は1,000億円に乗った年間売上高を引き下げながらも、利益確保を優先した。
2014年度実績は、売上高は前年比18.4%減の825億5,400万円と2桁のマイナス成長としながらも、営業利益は24.9%増の35億1,200万円、経常利益は24.6%増の44億7,100万円、当期純利益は49.6%増の31億6,600万円と、大幅な増益を達成してみせた。
この業績の背景には、1つは、赤字だった個人向けの外付けHDD事業を縮小したことがあげられる。
「個人向けの外付けHDD事業は、国内外で大きくブレーキを踏んだ1年となった」と、松尾副社長が語るように、ストレージ製品の売上高は前年比23.3%減の257億1,000円。販売台数では前年比30.5%減と、大幅に減らしている。
もともと同社売上高の3分の1程度を占めていた主力事業。その事業を一気にブレーキを踏むというのは相当に勇気がいることだ。
だが、メルコグループは、これをやってのけた。
その一方で、バッファローメモリやバイオスなど、新たに買収した企業が収益性改善に貢献。これらの企業は、電子部品や産業向けストレージと呼ばれる領域で実績を持つ企業だ。
さらに、ネットワーク製品においては、無線中継機を新たなカテゴリに位置付け、ラインアップの拡充と利便性を追求。「前年の今頃には月100台程度だったが、現在は月8,000台の規模になっている。新市場を創出でき、トップシェアを獲得した」という。
産業機器市場の開拓が、収益向上において功を奏しているというわけだ。
2015年度の連結業績見通しでは、売上高は前年比5.4%増の870億円、営業利益は35.5%増の18億円、経常利益は24.0%増の22億円、当期純利益は11.7%増の14億円と、増収への転換を図るとともに、さらなる利益の上乗せを見込む。
「2015年度は、既存ビジネスの効率化と、法人向けビジネス分野への挑戦により増収増益を見込む」とする。
2015年度も引き続く、無線中継機の事業拡大、バイオスの売上高の寄与などを見込んでいるという。
「バイオスは、メルコグループに入ることで調達コストの改善が可能になり、コスト競争力が高まる。売上高の拡大に加えて、収益性の拡大に期待している。これまで行なっていなかった海外展開もメルコグループとなったことで開始できる」として、メルコグループのリソースを生かした展開を加速する。
また、海外事業においても、法人向け体制へのシフトには一応の目処がつき、これも収益を高めることになるという。
現在、同社における法人向けビジネスの比率は約35%。これが2015年度には4割になると予想している。そして、将来的には5割近くまで高めていく考えだ。
個人向けを主軸としたビジネスモデルから、企業向けおよび産業向けと両立したビジネスモデルへと転換を図っていくことになる。
森の経営で目指す永続性
メルコグループでは、「森の経営」と呼ぶビジョンを打ち出している。
「森の経営」の意味について、同社では次のように語る。
「単一の急成長型企業体制から脱却し、複合的な長期成長企業群としての経営形態へと移行することを目指したのが森の経営。グループの経営を、その生命力になぞらえ、森をイメージしたものにした。森の木々は1つ1つは独立しているが、その集合体で森を形成している。たとえ、一本の木が朽ち果てても、それを補完する木々が育ち、依然として森を形づくっていくことになる。このように、それぞれが小さな組織でも、トータルとしては、大きな力を柔軟に発揮できる。これが、メルコグループが目指す森の経営である」。
メルコグループの経営を、森に当てはめると、メルコホールディングスが土壌となり、それぞれの木々となるバッファロー、シー・エフ・デー販売、バッファロー・IT・ソリューションズ、バッファローメモリ、バイオスなどのグループ企業に、ヒト、金、ノウハウといった栄養素を送り込む。それによって、森全体が潤い、成長するという構図だ。
こうした仕組みを利用して、外部環境の変化に機敏に対応し、常に次の時代に備え、芽を育てることが、「森の経営」の基本な考え方だとする。
メルコグループでは、「メルコバリュー」と制定し、その中で、「千年企業」、「顧客志向」、「変化即動」、「一致団結」の4つを掲げている。その中で示した「千年企業」は、メルコグループの永続的な成長を打ち出したものになる。
創業40年を迎えたメルコグループは、千年企業の実現に向けた最初の転換期を迎えていると言っていいのかもしれない。