大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

Windows XP特需後のPC生産拠点はどう変わるのか?

〜デスクトップPC生産の富士通アイソテックに聞く

福島県伊達市にある富士通アイソテック

 2013年度はWindows XPのサポート終了に伴い、国内PC市場は過去最大の出荷台数となった。富士通のデスクトップPCを生産する福島県伊達市の富士通アイソテックも、前年比1.4倍の生産台数を記録。ピーク時にはPCサーバーの生産ラインの一部をPC生産へと切り替え、さらに2交代制とすることで旺盛な需要に対応した。

 だが、今後、PCの生産台数は縮小することになるのは明らか。その中で、生産拠点の体質改善も急務になっている。同社でも、フリーダムラインの構築、PCとPCサーバーの混流ラインの拡大、「インフラ工業化」への対応といった動きを加速させている。富士通アイソテックの岩渕敦社長に、同社の体質改善への取り組みについて聞いた。

富士通アイソテック岩渕敦社長

前年比1.4倍のデスクトップPCを生産

 富士通アイソテックは、富士通のデスクトップPCおよびPCサーバー、シリアルインパクトプリンタおよびサーマルプリンタなどの国内生産拠点。そのほか、機械精密加工事業や教育事業のほか、情報機器のリサイクルや修理なども行なっている。

 とくにデスクトップPCに関しては、伊達氏発祥の地である伊達市にあることから「伊達モデル」と称して、国内生産ならではの品質や即納体制などを、同工場ならではの特徴として訴えている。

 PCの年間生産台数は2013年度実績で約130万台。前年度の約90万台という実績に比べて、1.4倍という伸びをみせた。

 「Windows XPのサポート終了に伴う買い換え需要が最大の要因。企業向けPC、個人向けPCともに、予想以上の需要が集中した」と富士通アイソテックの岩渕敦社長は振り返る。

 とくに下期への集中ぶりは異常だった。

 「下期だけで、前年度通期に匹敵する量を生産した。富士通アイソテックには、PCの生産ラインは6ラインあるが、これに3ラインあるサーバーの生産ラインのうち1本をPC生産へと振り替えて、7ラインで操業。さらに、10月からは2交代制での生産を開始し、夜間は5ラインを稼働。間接部門の社員も生産ラインに投入することで、予想を上回る旺盛な需要に対応した」という。「全社員多能工化」と岩渕社長は表現するが、まさに全社を上げて、デスクトップPCの生産増に対応したと言える。

混流ライン構築などの柔軟性が強みに

 旺盛な需要に対して、柔軟な対応ができた背景には、同社が取り組んできた混流ラインの構築や、フリーダムラインの構築といった成果が見逃せない。

 混流化は、デスクトップPCの生産ラインにおいては5ラインで採用。複数の機種を1個流しできるような仕組みとしていたほか、PCサーバーの生産ラインにおいても、デスクトップPCを生産できる仕組みを2014年秋に構築。これも生産量の増大や、需要に合わせて機種ごとの生産量を柔軟にコントロールすることに繋がっている。

 ここでは、トヨタ生産方式(TPS)をベースに取り組んでいる富士通独自のFJPSによる効率化の追求で、生産ラインを短縮。それに併せて、組み立てを行なうE棟1階にあったPCサーバーの生産ラインを、同棟2階のデスクトップPCの生産ラインがあるフロアに統合。デスクトップPCおよびPCサーバーの部品在庫や供給、完成品の出荷に至るまでを1フロアで行なえるようにしていた点も、生産ラインの柔軟な変更にプラス効果になっているのは明らかだ。

 また、フリーダムラインと呼ぶ、生産する機種に合わせて最適なライン長に変動できる仕組みも導入。これもデスクトップPCの柔軟な生産対応に効果を発揮したと言えよう。

 「継続的な生産効率化への取り組みが、予想以上の生産量増大への対応に大きく貢献しているのは確か」(岩渕社長)というわけだ。

デスクトップPCおよびPCサーバーの生産が行なわれているE棟
E棟2階に生産ラインを集約した
E棟2階の様子。デスクトップPCとPCサーバーのラインが並ぶ

Windows Server 2003サポート終了への対応も鍵に

 だが、Windows XP特需後の反動対応は、富士通アイソテックに突きつけられた新たな課題だと言える。

 「Windows XPのサポート終了に間に合わなかった企業もあり、第1四半期(2014年4月〜6月)までは前年実績を上回る形で推移したが、それでも6月からは徐々に需要が下がってきている。通期では一昨年並の実績になるかどうかといったところだろう。需要の減少にも柔軟に対応していく必要がある」。

 生産ラインの柔軟な対応は、増産時だけでなく、減産時にも重要な要素だ。適正に対応できるかどうかが、生産コストの最適化に繋がるからだ。

 また、2015年7月に迎えるWindows Server 2003のサポート終了に合わせたPCサーバーの需要増大にも対応していくといった生産体制のシフトも鍵になるだろう。今後1年間のx86サーバーの需要動向が読み切れない部分もあるが、デスクトップPCの需要変動対応のような柔軟性が、富士通アイソテックに求められるのは当然だ。

デスクトップPCの生産ライン
デスクトップPCでは異なる機種を混流状態で製造することができる
部品は5個を一組として供給している
デスクトップPCの高負荷試験を行なう
タッチパネルの組み込みのための生産工程。ホコリが入らないように工夫している
各種シール。こうした単純作業は自動化しやすいかもしれない
種類が多い添付品はデジタルピッキング方式を用いて間違いがないようにしている
出荷を待つデスクトップPC

インフラ工業化の対応力を強化

 一方で、いくつかの新たな動きも加速させる考えだ。

 1つは、インフラ工業化への取り組みだ。

 インフラ工業化は、PCサーバーを中心に、ハードウェアの実装やOS、各種ソフトウェアのインストール、動作確認などを生産拠点で行ない、エンドユーザーの導入現場では単純な設置作業を行なうだけにできる「ITインフラデリバーサービス」を中心に提供するものであり、導入時における作業負荷の軽減、迅速なシステム稼働などに繋げることができるものだ。

 これまでにもインフラ工業化向けの作業エリアを用意していたが、PCサーバーの生産ラインを2階フロアに移行したことで空いた1階スペースを、沼津工場のインフラ工業化の福島分室としてスペースを拡張。これによって、サービス体制をさらに強化することができるようになる。

 Windows Server 2003のサポート終了に向けた需要増にも、生産面だけでなく、サービス面でも対応する体制を整えることになる。

こちらはPCサーバーの製品ライン。やはり混流が可能だ
PCサーバーの試験風景
インフラ工業化のための施設。沼津工場の分室と位置付けられている

 インフラ工業化は、富士通沼津工場と、富士通アイソテックのほか、ハイエンドサーバーを生産する石川県かほく市の富士通ITプロダクツとも連携して、サービス体制を強化することになる。

 なお、富士通アイソテックでは、現在、1階フロアの約3分の1のスペースをインフラ工業化のためのエリアに利用しているが、今後は、これをフロア全体の半分程度にまで拡張していく考えだ。

 2つ目には、PCのカスタマイズ対応の強化だ。

 富士通では、法人ユーザーを対象にした「カスタムメイドプラス」というサービスを行なっている。これは、企業がPCを一括導入する際などに、法人ユーザーの要望に合わせて、事前にアプリケーションのインストールやネットワーク設定を行なうことで、導入時の負荷を減らすことができるサービス。これにより必要なときに、必要な台数のPCを、必要な場所に、必要な仕様で提供できるというわけだ。

 これまでは、カスタムメイドプラス向けに作業を行なう専用スペースを用意して対応していたが、これを生産ラインの中に組み込んで、より柔軟に対応できるようにしたのも新たな取り組みとなる。

 そして、3つ目が自主事業の強化となる。

 富士通アイソテックでは、精密加工技術センターを持ち、オートバイ向け部品などの受託生産を行なっているほか、使用済みPCを回収して、リサイクルを行なうエフアイティフロンティアを持つ。また、プリンタ生産でもドットインパクトでは寡占化戦略を推進する一方、サーマルプリンタでは中国、APAC諸国、北米での販売強化などにより、プリンタの新たなビジネスモデルの構築と販売力強化、強みを活かした新製品開発に取り組む姿勢をみせる。

 「富士通からの受託ビジネスであるデスクトップPCおよびPCサーバーの生産は、今後、生産量が伸びないのは明らか。現在、約1割の自主ビジネスの構成比をいかにあげていくかが鍵になる」と岩渕社長は語る。

 さらに地域貢献の活動を通じたベンチャー育成などにも取り組むことで、将来の事業の「種」を育てることにも力を注ぎたいという。

 「富士通アイソテックは東日本大震災でも大きな被害を受けたが、震災後の復興支援、地域社会への支援などが求められる中、当社が地域社会に果たすべき役割を明確化するとともに、新たなビジネスの創出に繋げたい」とする。

中期事業計画で新たな事業にも踏み出す

 富士通アイソテックでは、先頃、中期事業計画を発表した。

 そこでは具体的な数値目標が社内に向けて示される一方で、FJPSの実践により、自立化および自律化、平準化への取り組みを強化。さらに、3Dスキャナやバーチャルホログラフィー、3Dプリンタを活用した「デジタル工房」による製品企画力の強化、シミュレーション技術を多用した「モノを作らないモノづくり」の実行、生産ラインをシミュレートし、科学的分析をベースにした効率的な生産ラインの構築や自動化、ロボットシステムなどを含む「デジタル生産」といったテーマに取り組む考えを示している。

 「自動化やロボット化という点では、デスクトップPCやPCサーバーの場合、製造する筐体が大きいため、ロボットなどの可動範囲が広くなり、ノートPCやタブレット、スマートフォンほど効果が見込めないという部分もある。しかし、自動化することで効果が発揮される部分もある。単純作業などの部分から導入を検討していくことになる」とする。

 さらに、開発した製品を、富士通アイソテックの試作センターで、バーチャルリアリティで確認し、3Dプリンタで試作。これを精密加工技術で仕上げて、試作品のフィードバックを数日で行なう「ラピッドプロトタイピング」により、技術革新を加速するといった取り組みにも踏み出す。

 「従来から蓄積してきた、優れた精密加工技術、製造技術をベースとした高い提案力と付加価値を創造する一貫工場を目指す。これにより、富士通グループの拠点工場を目指す」とする一方、「東日本大震災での貴重な体験や環境本部と連動した先進的な取り組みをシンカ(深化、進化、伸化)させ、BCMや社会・環境分野において、富士通グループにおけるモデル工場になることを目指す」と語る。

 併せて、富士通ものづくり革新の実践ノウハウやツール、人材を活用し、新たなサービスメニューを提供することにも取り組むという。ここでは、モノづくり受託サービスやモノづくりエキスパートサービスといった新たなサービスを開始することになりそうだ。

生活習慣病を克服して新たな領域に踏み出す

 2013年6月に、富士通アイソテックの社長に就任した岩渕氏は、就任以来、社員に言い続けていることがある。

 それは、「生活習慣病」の克服だ。

 「生活習慣病とは、自分が気がつかないうちにかかってしまうことが多い病気。健康診断によって、気がつく人も多い。それは企業も同じ。モノの見方、考え方を変えて、新たな領域にも積極的に踏み出していける体質を作らなくてはならない」とする。

 Windows XPのサポート終了に伴い、デスクトップPCの生産拠点である富士通アイソテックは、生産ラインの効率化や最適化とともに、新たな事業への取り組みによって、経営体質を変えようとしている。国内生産拠点であるからこそのサービスへの取り組みもその1つだ。

 富士通アイソテックは、デスクトップPC生産を軸とした体制には変化はないが、それ以外の新たな事業への取り組みに踏み出すことが求められている状況にある。新たな領域に踏み出すには、その意識を常態化することが必要。その鍵になるのは、まさに生活習慣病からの脱却と言えそうだ。

(大河原 克行)