大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

XP特需本番! 見通し上回る空前の成長に沸くPC業界

1〜3月の法人向けPC需要は過去最高に!?

 今、PC業界は空前とも言える需要に涌いている。特に、法人向けPC需要は、2013年第4四半期(2013年10月〜12月)には、四半期としては過去最高の出荷台数を記録した模様であり、さらに2014年第1四半期(2014年1月〜3月)には、これをさらに上回るとの見通しが出ている。

 個人向けPC市場においても、12月までの前年割れの状況から、1月に入ってからは前年比プラスに転じ始めたという動きも見られている。これらの背景にあるのは、Windows XPのサポート終了に伴う買い換え需要や、消費税増税前の駆け込み需要だ。果たして、国内PC市場は、3月にかけてどれだけの盛り上がりをみせるのか。そして、4月以降はどうなるのだろうか。国内PC市場を俯瞰してみた。

1〜3月は、前年比2倍のさらに「大盛り」?

 2014年1月21日に行なわれた一般社団法人日本コンピュータシステム販売店協会(JCSSA)の「平成26年新春賀詞交歓会」で挨拶に立った同協会・大塚裕司会長(=大塚商会社長)は、「2013年12月には、前年同期比2倍増の売上高になったという声を多くの企業から聞いている。だが、2014年1〜3月は、それの『大盛り』。つまり1.5倍となることも想定され、前年同期比300%に挑戦してもいい状況にある。通常ならば2倍増はとんでもない数字だが、2倍ぐらいの計画でもまだ目線は高くしてもいいだろう」と意気込んだ。

 一方、1月22日に行なわれた一般社団法人コンピュータソフトウェア協会(CSAJ)の「平成26年新年賀詞交歓会」では、同協会・和田成史会長(=オービックビジネスコンサルタント代表取締役社長)が、「アベノミクスの影響もあり、PC業界は急速に盛り返してきた。昨年(2013年)10月以降、前年比2割増、3割増、5割増といった声が聞かれ、中には、予算に対して『倍返しだ』という声も聞かれている」と、2013年の流行語大賞の1つを持ち出しながら、PC業界の好調ぶりを示した。

 JCSSAの大塚会長は、PCの出荷が好調な理由として、「Windows XPのサポート停止」、「景気回復によるPCへの設備投資の顕在化」、「Y2K(2000年問題)からの2巡目のリプレース」、「消費税増税前の駆け込み需要」といくつもの要因を挙げる。

 「PC業界は、この1〜3月にはとんでもない業績に挑戦することになる」と空前の需要に期待を寄せる。

「1〜3月は大盛りを見込める」とする一般社団法人日本コンピュータシステム販売店協会(JCSSA)の大塚裕司会長
「予算に対して倍返し」と語る一般社団法人コンピュータソフトウェア協会の和田成史会長

法人向けPC市場が活況を呈す

ガートナージャパン リサーチ部門テクノロジー&サービス・プロバイダーコンシューマ・テクノロジ&マーケット クライアントコンピューティング主席アナリストの蒔田佳苗氏

 調査会社の調べでも、空前の活況ぶりは明らかだ。

 ガートナージャパンによると、「2013年第4四半期は、法人向けPCは、対前年比40%以上の成長率に到達。場合によっては、50%増という成長もあり得る」(ガートナージャパン リサーチ部門テクノロジー&サービス・プロバイダーコンシューマ・テクノロジ&マーケット クライアントコンピューティング主席アナリストの蒔田佳苗氏)とする。

 法人向けPCは、第1四半期には前年同期比6.8%増、第2四半期は2.1%増と1桁台の成長率となっていたが、第3四半期には23.2%増と一気に拡大。第4四半期はさらに高い成長率になる。

 「第4四半期の国内法人向けPCの出荷は、270万台を突破することになりそうだ。これは四半期の出荷台数としては過去最高になる」(同)とする。

 これによって、国内PC市場は、前年同期比2桁減が見込まれる個人向けPCを加えても、「第4四半期は、前年同期比2桁台中盤の出荷台数になりそうだ」と、前年同期比15%前後の成長率を予測する。12月上旬の見通しでは前年同期比5.7%としていたが、それを大幅に上回る実績になる。

 米ガートナーの発表によると、2013年第4四半期の世界のPC出荷台数は前年同期比6.9%減。そのうち、米国市場は7.5%減、アジア太平洋地域全体では9.8%減となっており、日本の2桁成長だけが突出した状況となっているのだ。正式な数字は2月上旬に発表されるが、最終的にどれだけ高い成長率で着地するのかが注目されるところだ。

ユーザー環境、経済環境が異なる日本の特殊事情

 この成長要因を、ガートナージャパンの蒔田主席アナリストは、「エンドユーザー環境」、「経済環境」、「産業全体としてのプロモーション効果」の3つの要因から分析する。

 「2008年のリーマンショック以降、投資抑制があったのに加えて、日本では東日本大震災により、さらに投資抑制が継続。また、過度な円高進行により経済環境が悪化したことも影響し、買い換えのタイミングを過ぎているPCが他国に比べて多いという状況を生んだ。また、日本ではカスタマイズしたアプリケーションを利用しているケースが多く、OSを最新のものに変えにくいという状況も見逃せない」と指摘する。

 米国では、Windows XPからのリプレースが2010年にはほぼ一巡していたのに対して、日本では多くのWindows XPが稼働している理由は、こうしたところにある。

 ガートナージャパンの調査によると、リーマンショックが影響した2009年は法人向けPCは前年比15.7%減となったが、2010年はスクールニューディール政策による教育分野へのPC導入が促進され、法人向けPCは前年比23.3%増となった。ここから教育分野を除いても、18.8%増という高い成長率を維持している。この背景には、Windows XP搭載PCが最後の出荷となることで駆け込み需要が発生したことが見逃せない。だが、2011年はこの反動もあり前年比10.9%減とマイナス成長へ転落。一方で、2012年には一足先に業績回復を成し得た企業を中心にしたPC導入が相次ぎ、前年比9.5%増とプラス成長に転じた。このように、1年おきにプラスとマイナスを繰り返していたのが日本の状況だ。常に成長傾向を維持していた海外市場とは差があったと言える。

 蒔田主席アナリストは、日本固有のエンドユーザー環境や経済環境を背景に「潜在的な買い換え需要が蓄積されていた」としながら、「2012年春以降、アベノミクス効果や、円安の進展、株価の上昇などにより、経済環境が好転。これが、もはや限界に達していたPCのリプレースを促進する原動力になった」と見ている。

 そして、もう1つの要因である「産業全体としてのプロモーション効果」としては、Windows XPからのリプレースに対して、日本マイクロソフトを始めとした業界をあげたプロモーション活動による認知度向上が見逃せないとする。

 「欧米では見られない大規模なプロモーションであり、大企業のみならず、リプレースが遅れていた中小企業に対しても、Windows XPを使い続けることのリスクなどを浸透させることができた。これがPCのリプレース促進に繋がっている」。

 一方で、消費増税による効果は、「過去の例を見ても、増税は法人向けPCの需要にはそれほど影響はない。むしろ個人向けPCでの駆け込み需要が見込まれる」とする。だが、それでも投資判断の際には、消費増税前に投資に動きたいといった思考へと動くことは、少なからずプラス要素になっていそうだ。

法人向けPCは活況を呈している(写真は富士通の法人向けPCのラインアップ)
2013年4月には業界全体をあげてWindows XPからの移行を促進する活動を開始した

企業向けPC需要の9割以上をWindows 7が占める

 この勢いは、2014年第1四半期も維持されることになりそうだ。

 いや、むしろ2013年第4四半期以上の成長を維持することになりそうだ。

 ガートナージャパンの蒔田主席アナリストは、「PCメーカーでは、増産体制を敷き、第4四半期に出荷を前倒しにしたケースもある。一方で、2014年第2四半期以降の需要が、第1四半期に前倒しされる可能性もある。これらの動向を精査する必要がある」と前置きしながらも、「それでも、2014年第1四半期は法人向けPCは過去最高の需要になる可能性がある。四半期ベースでは初となる300万台を突破することもありうる」と予測する。もともとは前年同期比30%増を予測していたが、第4四半期の動向を踏まえると、第1四半期も前年同期比40%増〜50%増といった高い成長率が想定されるという。

 これはPCメーカーに異口同音だ。2014年第1四半期には、法人向けPC市場において、過去に例がない規模でPCに需要が集中するというのは業界全体の共通した見方となっている。

 ただ、法人向けPCの中心となっているのは、圧倒的にWindows 7であることにも注目しておくべきだ。

 ガートナージャパンによると、「あるPCメーカーでは、法人向けPCの出荷台数の9割以上がWindows 7。また別のメーカーでは、Windows 7は全体の40%強とするものの、残り60%弱のWindows 8のうち、95%がWindows 7にダウングレードしている」とする。

 まずはWindows XP環境から抜け出すことを第一義にしている企業においては、発売から1年3カ月しか経過しておらず、検証に時間がかかるWindows 8を避けたいという意識や、なるべく低コストで導入したいという点でWindows 7搭載PCを選択する例が多いようだ。

個人向けPC市場にも回復の兆し?

 一方でマイナス成長を続けている個人向けPCはどうか。

 実は、ここでも回復の兆しが見られている。

 ガートナージャパンによると、2013年の個人向けPC市場は、第1四半期は前年同期比19.4%減、第2四半期は22.1%減、第3四半期は15.6%減とマイナス成長で推移。第4四半期も2桁のマイナス成長が見込まれている。

 だが、1月に入ってからは様相が一変しているのだ。

 全国有力家電量販店の販売実績を集計するGfK Japanの調べによると、2013年12月は、4週間に渡って、毎週、前年割れの状況が続いていたのに対して、12月30日〜1月5日の集計では前年同週比1%増とプラスに転換。1月6日〜12日では4%増、13日〜19日では11%増と、右肩上がりに成長しているのだ。

 GfK Japanでは、「1月は、ベースとなる前年同期の実績がそれほど高くないということもあるが」としながらも、「Windows XPサポート終了前の駆け込み需要や、消費増税前の需要拡大といった要素が、じわりと影響している」と分析する。

GfK Japanによると、量販店でのPC販売は、2014年1月に入りプラスに転じている

PCメーカーは安定供給ができるのか?

 今年3月に向けて、個人向けPCの需要も拡大するというのが、PCメーカー各社に共通した認識だ。法人向けPCに加えて、個人向けPCの需要拡大が加わることで、「年度末にPCの供給量が間に合うのか」といった点を懸念する声すら出ている。

 これに対してPCメーカーでは、2013年後半から量産体制を敷きながら対応する姿勢を見せており、「潤沢な製品供給体制によって、販売店の年度末商戦をサポートしたい」(日本ヒューレット・パッカード プリンティング・パーソナルシステムズ事業統括 執行役員 パートナー営業統括本部第二営業本部本部長の那須一則氏)、「製品の供給不足の心配はないので安心してほしい」(レノボ・ジャパン 代表取締役社長のロードリック・ラピン氏)と販売店に呼びかける。

 NECパーソナルコンピュータの米沢事業場でも、前年比3割増の増産体制を敷き、12月は土日返上で生産。1月以降も旺盛な需要に対応するため、生産効率化への対応とともに増産体制を継続している。

一般社団法人日本コンピュータシステム販売店協会の新春セミナーでは、日本ヒューレット・パッカードとレノボ・ジャパンがPCの安定供給を訴えた

2014年4月以降はどうなるのか?

 だが、問題となるのは2014年4月以降の市場動向だろう。

 一般社団法人日本コンピュータシステム販売店協会が開催した「平成26年新春特別セミナー」において、ハードウェアメーカー7社に対して行なわれた公開質問の中で、Windows XPのサポート終了に伴う買い換え需要は、2014年6月以降も続くと回答したハードウェアメーカーは、7社中7社となっており、これが引き続き需要を下支えすると見ている。また、同じく、2014年はPCが前年以上に売れるかという質問に対しても、全社が売れると回答した。

 IDC Japanの調べによると、2013年12月末時点でのWindows XP搭載PCは法人向け市場で723万台、市場全体の20.2%が残っており、個人向け市場では597万台、14.0%が残っているとしている。

 日本マイクロソフトの樋口泰行社長は、「2014年4月9日のサポート終了までには、1桁台にまでWindows XPの構成比を縮小させたい」としているが、裏を返せば、市場には500万台以上のWindows XP搭載PCが残る計算になる。これを刈り取ることで需要が維持できると見ているのだ。

 しかし、調査会社では市場動向を厳しくみている。

 ガートナージャパンでは、2014年第2四半期(2014年4月〜6月)は、国内PC市場全体で前年同期比4.6%減、そのうち法人向けPC市場も1桁台のマイナスになると見込んでいる。さらに、第3四半期(2014年7月〜9月)、第4四半期(2014年10月〜12月)は市場全体で2桁のマイナス。法人向けPC市場も同様に2桁減を予測している。

 2014年通期(2014年1月〜12月)の出荷予測は、前年比7.6%減の1,417万3,000台。そのうち、法人向けPCは前年比12.3%減の793万8,000台、個人向けPCは前年比0.8%減の623万5,000台と、いずれも前年割れになると見ているのだ。

XPサポート終了、消費税増税の需要後には新たなワークスタイルの提案が不可欠(ソニーマーケティングの資料から)

 実際、業界内では「ポストWindows XP」の模索に躍起となっている。

 一般社団法人コンピュータソフトウェア協会(CSAJ)の和田成史会長(=オービックビジネスコンサルタント代表取締役社長)は、「Windows XPのサポート終了と消費税増税の影響によるPC需要の喚起に続き、クラウドによる勘定系ビジネスへの本格活用、2016年1月から制度が開始される個人コードと法人コードによるあらゆるシステムの刷新、さらなるITの利活用提案による日本の企業のイノベーション促進、2020年の東京オリンピックに向けたモバイルを活用した『おもてなしIT』の提案」をあげ、「2020年までは大きな需要の波が続くだろう」と期待を寄せる。

 一方、日本ヒューレット・パッカードでは、「2015年7月にサポートが終了するWindows Server 2003からのマイグレーション需要や、タブレットによる新たなワークスタイルの提案、モバイルプリンタや高速プリンタによるプリンティングソリューションなどによるビジネス拡大」(日本ヒューレット・パッカード 那須一則氏)を挙げ、ソニーでは、「この活況を維持したまま、右肩上がりで事業を伸ばすために、新たなワークスタイルの提案を付加することが必要。1つの端末を社内外で使い分ける『2-in-1スタイルの提案』、オフィスと外出用に別々の端末を使い分ける『PCとタブレットの2台活用の提案』のほか、PCとプロジェクタ、ビデオ会議システム、業務用蓄電池、デジタルカメラなどの製品群と組み合わせて、トータルソリューションを提案していく」(ソニーマーケティングの取締役執行役員専務・鈴木功二氏)とする。

 このようにさまざまな材料はあるものの、起爆剤となりうるものがあるとは言えないのが実状だ。

 タブレットの需要増を期待する声もあるが、「タブレットは、2014年には前年比23%増の成長が見込まれるが、単価が安いことから、少しぐらいの成長では、単価の高いPCの落ち込みはカバーできない」(IDC Japanの中村智明リサーチバイスプレジデント)とする。IDC Japanでは、2014年の国内PC需要は、金額ベースで前年比7%減になると予測している。

 2014年4月以降は、「冬の時代」に入るのか。それとも一定の需要を維持できるのか。

 目の前の「祭り」よりも、その先の「祭りのあと」を懸念する声がすでに出始めている。

(大河原 克行)