大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

第3四半期決算で浮き彫りになった富士通PCとスマホの明暗

~PCの出荷計画を上方修正、スマホは下方修正と工場再編へ

 富士通株式会社が発表した2013年度第3四半期(2013年10月~2013年12月)の連結業績において、PC事業と携帯電話事業で明暗が分かれた。

 第3四半期単独のセグメント別業績において、ユビキタスソリューションの中に含まれる「パソコン/携帯電話」の売上高は、前年同期比17.2%増の2,426億円となった。見かけ上は好調に見えるが、PCと携帯電話では、まさに明暗を分ける格好になっている。

 「明」となったのはPC事業。第2四半期以降成長を続け、一気に黒字化する見込みだ。これに対して、「暗」となったのがスマートフォンを中心とした携帯電話事業だ。世界の趨勢では、成長領域に位置付けられるスマートフォンと、市場縮小が指摘されるPCだが、富士通の第3四半期決算では、これが逆の形で表面化しているのだ。

XP特需で2度目の上方修正となったPC

 富士通のPC事業の拡大は予想以上のものだと言っていい。富士通では、PCの年間出荷計画を、期初には535万台としていたが、これを2013年10月に15万台上方修正し、550万台としたのに続き、今回、さらに20万台の上方修正を行ない、年間570万台の出荷を見込んでいることからもそれが分かる。それでも、前年実績の583万台は下回ることになるが、前年の通期赤字実績からは、黒字転換を図ることができる見通しだ。

 富士通取締役執行役員専務の加藤和彦氏は、「PCは、国内の法人向け需要が強く、第2四半期以降も着実に成長している。第3四半期も好調。この勢いは第4四半期も続くだろう」とし、Windows XPのサポート終了前の駆け込み需要が貢献していることを指摘。「第3四半期までの累計業績では、第1四半期の落ち込みの影響によって、若干の赤字が残っているが、為替影響や単価の上昇、そして、台数増を考えれば、通期では立派な黒字になる」と手放しで評価する。

 第3四半期単独では約40億円の黒字を確保した模様だ。海外PC事業における採算重視施策も、黒字化にプラスに働いている。そして、通期見通しにおいては、PCおよび携帯電話の売上高で150億円の上方修正を行なっているが、このプラス分はすべてPCによる上方修正だと考えていいようだ。

富士通の加藤和彦氏
好調な富士通の法人向けPC製品群
第4四半期には個人向けPCの販売増も見込めそうだ

携帯電話事業は2度目の下方修正

 これに対して、厳しい状況となっているのが携帯電話である。出荷計画は、期初には、前年比20%減の年間520万台を計画していたが、10月には100万台減の420万台へと下方修正。さらに今回、50万台減の370万台とした。前年実績の650万台に対して、「6掛け」という規模にまで縮小する。

 上期実績が130万台の実績に留まったことに加え、第3四半期は190万台の予測に対して、出荷が170万台弱に留まったこと。さらには、第4四半期も当初見通しの100万台を70万台へと修正した下方修正となる。「第4四半期はさらに悪い状況になるだろう。計画に対して3割減になる。下期全体でも、これまでの見通しの2割減になる」(加藤取締役執行役員専務)とする。

 2011年には国内トップシェア、2012年には第2位のシェアを維持していた富士通の携帯電話事業は一気に存在感を薄め、上期実績では6位にまで落ち込んだ。

 経営的にも厳しい状況にある。上期は携帯電話事業で200億円を超える赤字。さらに第3四半期でも90億円近い赤字となった。「携帯電話事業は第3四半期までの累計で300億円を超える赤字。ユビキタスソリューション全体の341億円の赤字の大半を携帯電話が占めている」という。第3四半期には、赤字脱却を目指していたが、ここで90億円の赤字となったことは同社の携帯電話事業の先行きに大きな課題を残すことになった。

スマートフォンの品質問題が事業に影響

ARROWS X F-10D

 では、なぜ富士通の携帯電話事業がここまで落ち込んだのか。最大の理由は、Android搭載スマートフォンにおいて発生した品質問題だ。「電話がつながらない」、「バッテリの消耗が早い」、「発熱がある」といった問題が次々と発生。これがユーザー離れを招いた。

 加藤取締役執行役員は、第3四半期における携帯電話事業の約90億円の赤字について次のように説明する。「上期から続いている品質問題に関わるコストについても、第3四半期だけで40億円近い特別損失がある。それが在庫を不健全化する要素となり、在庫の破棄を実行。これで約50億円を計上した。これがまるまる90億円の赤字の元凶になっている」とする。

 さらに、「品質問題は収束に入ってきているが、第4四半期にも引き続き約30億円の対策コストが出ると見ている。また、第4四半期にも在庫の余剰感があり、在庫評価損でも20億円の追加費用を折り込んでいる。第3四半期および第4四半期を合わせた下期だけで、品質関連費用で70億円、在庫評価損で70億円の損失を見込んでいる」とする。

 品質問題を発端にして、販売数量が減少。これが過剰な在庫負担につながり、収益を悪化させたという構図だ。だが裏を返せば、「これらの『異常コスト』がなくなれば、ブレイクイーブンが見える。それに向けた開発投資規模を維持すればいい」と言うこともできるのは確かだ。

生産拠点再編で月産30万台の事業体制に縮小

 富士通は、携帯電話事業において、月産30万台の規模で、利益を出せる体質作りに取り組んできた経緯があるが、今回の下方修正で年間出荷計画は370万台となり、まさに月産30万台体制で事業を推進しなくてはならなくなった。

 「携帯電話事業は維持していく」と、加藤取締役執行役員専務は語りながらも、「携帯電話事業は、売上高が4割落ちる以上は、コストを4割落とさないと、この事業を続けられない。固定資産も4割落とし、これまでの6掛けで運営しなくてはならない。全てのリソースを含めて、キャリア向けの事業は、月産30万台の規模で維持する体質とし、事業を縮小していくことになる」とする。

 その一手として打ち出したのが、栃木県大田原市の富士通モバイルフォンプロダクツの生産機能を、兵庫県加東市の富士通周辺機へ集約する生産拠点の再編だ。2014年4月1日を目処に、スマートフォンおよびフィーチャーフォンの製造および品質保証、修理を担う国内2拠点の量産製造機能を富士通周辺機に集約し、生産性を向上。物量変動に左右されない高い柔軟性を持った量産工場の確立を目指すという。修理業務はサービスの提供エリアおよびスピードなどを勘案して、現状通り、2拠点体制を維持する。

 富士通周辺機は、タブレット、PC周辺機器、スマートフォンなどのユビキタス機器を製造する拠点で、従来からモバイルフォン端末を専門に製造してきた富士通モバイルフォンプロダクツを統合することで、設計から製造までの一貫したICT活用や、ロボット導入による徹底した自動化の推進が可能になるという。

 加藤取締役執行役員専務は、「富士通周辺機は、ロボット化が進んでおり、これを携帯電話の全製品に展開することで、生産性を2倍にできる」とする。

 さらに、同社では、企業向けソリューション事業や自動車を始めとした新規事業領域に人員をシフト。同時に、顧客や社会のモバイル活用への多種多様なニーズに対する取り組み体系である「FUJITSU Mobile Initiative」の推進を図るとしている。

 生産拠点統合に伴う具体的な影響額は、携帯電話端末事業全体の構造改革に関する施策と合わせて精査し、第4四半期決算で計上することになるという。

2014年度はPC事業の成長も課題に?

 同社の経営層は、2013年度中には携帯電話事業の建て直しに対して、一応の目処をつけ、赤字脱却の道筋を作りたい考えのようだが、製品の品質問題で一度失った信頼を取り戻すのは容易ではない。

 また、コモディティ化が進み、量産効果が競争力の源泉となる携帯電話事業において、年間370万台規模の生産量でありながら、コストの高い国内生産を維持する体制は非常に厳しいと言わざるを得ない。

 一方で、第4四半期まで好調を維持しているPC事業に関しても、2014年度第1四半期(2014年4月~6月)以降は、Windows XPのサポート終了や消費増税前の駆け込み需要の反動も見られそうであり、先行きは不透明だ。

 PC事業の赤字の原因となっていた海外PC事業の体質改善や、国内PC事業における製品ラインアップの絞り込みによる体制強化などにも取り組んできた成果が、2014年度に発揮できるかがポイントとなる。

 いずれにしろ、4月から始まる2014年度において、PCおよび携帯電話で構成される富士通のユビキタスソリューションは、大きな転換点を迎えることになりそうだ。

(大河原 克行)