大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

「新たなWindowsパソコンにMac」を提案するアップルの過激ぶり



 アップルが量販店店頭において、WindowsからMacへの移行を促進するマーケティング戦略に本格的に取り組みはじめた。

「次はMacへ。それが究極のアップグレードです。」と書かれた店頭POP

 春商戦における共通メッセージは、「次はMacへどうぞ。それが究極のアップグレードです。」というもの。Windowsユーザーに対して、次はMacという選択肢を提案するメッセージだ。これは全世界規模で展開している店頭での共通メッセージで、米国では、「Ultimate Upgrade」という言葉で展開している。Windowsにユーザーに対して、次はMacであるという提案、さらにWindowsユーザーにとって、Macへの移行が究極のアップグレードという意味が込められている。

 さらに、Macを所有していないiPhoneやiPodユーザーに対して、Macの購入を促進するメッセージとも受け取れるし、進入学需要にあわせて新生活をアップグレードするための提案という受け取り方もできよう。

 すでに1月21日から、直営店のアップルストア、量販店などが取り組むアップルショップやアップルプレミアムリセラーなど、主要43店舗でこのメッセージが使われている。あわせて商戦が本格化する3月12日〜14日、3月19日〜22日の週末には、これらの店頭で、Macの良さを訴求するデモストレーションおよびミニセミナーを行ない、Windowsユーザーに対するMacのメリットの訴求、iPhoneやiPod touchと連動した使い方などが紹介されることになる。

 店頭POPでは、さらにいくつかの過激なメッセージも見受けられる。

 Windowsユーザーの手元にあるファイルがMacで使え、マイクロソフトOfficeへの対応や、デジカメなどのWindows環境で使っていた周辺機器がそのまま使用できることを訴えた、「互換性も抜群」。最新のIntelプロセッサの搭載、パワフルなグラフィックス性能などを組み込んだ「より良いコンピュータを、いつもデザインしています」。そして、Windowsパソコンとは異なり、Macにはメール、カレンダー、連絡先、写真、ビデオなどの必要なソフトがすべて用意されていることを示した「必要なソフトウェアすべてを搭載」というメッセージが、製品の横にPOPとして置かれいる。

展示台のMacの横に設置されるPOPの数々

 その中でも圧巻ともいえるのは、「新しいWindowsパソコンをお探しなら、Appleのエキスパートまで。Macの魅力すべてをお教えします。」というメッセージだ。

 Windowsユーザーが、Windowsパソコンに買い換える際に、Macを選び、その上でWindowsを動作させるという提案。Windowsパソコンという切り口でも、Macの方が優位であるという意味にも受け取れるほどの過激ぶりだ。ちなみに、エキスパートというのは、アップルの販売員認定制度に合格した専門スタッフのこと。このスタッフがWindowsからMacへの移行を仕掛ける最前線となる。

Windowsユーザーの取り込みを狙った強烈なメッセージ 売り場ではMacでWindowsを動作させる展示も行なっている

 これだけアップルがWindowsユーザーを意識した過激な言葉を、店頭POPで活用するのには意味がある。というのも、既存のWindowsユーザーがMacに移行する例が店頭で少なからず見られているからだ。

 いや、それは我々の想像以上に進んでいるようだ。

ビックカメラ新宿西口店の村田辰郎氏

 ビックカメラ新宿西口店の村田辰郎氏は、「Mac購入者の約7割が、Windowsからの買い換え」と驚くべき現状を示す。

 「現在、Windows XPを利用しているユーザーは、Windowsに慣れ親しんでいるため、Windows 7に移行するケースが多いが、Windows Vistaを使っているユーザーではMacへと移行するケースが目立つ」とする。

 Windows Vistaの利用環境において、操作しにくい、速度が遅いと感じたユーザーが、Macを選択肢の1つとしてあげているようだ。

 「5年前には、Macは特別なコンピュータであるとか、マイノリティの製品であるといった認識があったが、そうした見方が減っている。iPhoneやiPodの浸透によって、むしろ気になる存在と感じている人が多い。Windowsの使い方とMacの使い方には大差がないという説明をすると、多くの人が強い関心を持つ」とする。

 ビックカメラ新宿西口店では、実際にMacの画面を表示しながら、Dockがショートカットの集まりであること、コントロールパネルがシステム環境設定という言葉に置き換えられていることなどを説明。さらに右クリックの操作が可能であること、Windowsアプリケーションとのデータ互換性があることなども操作しながら紹介するという。

 さらに、「操作でわからないことや、新たな使用方法で相談があれば、ビックカメラの新宿西口店や有楽町店の専門スタッフに問い合わせればいいこと、銀座や渋谷のアップルストアでも相談を受けられること、無料セミナーを随時実施していることを紹介すると、安心して購入を検討してもらえるようになる。Windowsでは、困ったときにどこに問い合わせればいいのかがわからず苦労をしたという人が、アップル製品は1つの窓口でそれが解決し、さらに、無料で使い方を教えてくれる場所がもっとも多い製品であること、アップルケアによってサポートが保証されることを知って、Windowsとの環境の違いに驚くケースがみられる」とする。

Mac売り場だけ黒い絨毯が敷かれるなどコーナーが分離していることが質問をしやすくしている

 ビックカメラ新宿西口店では、その場で修理を行なうサポートセンターを店内に用意しており、これもユーザーの安心を高めることにつながっているという。

 「最初は検討のために売り場を訪れ、2回目に商品を購入したとしても、その後も使い方を聞きに来たり、アクセサリーや周辺機器を購入するために、3度、4度と売り場を訪れる購入者も少なくない」とする。

 アップル独自のアップルストア、アップルショップ、アップルプレミアムリセラーといった販売体制は、そのままアフターフォローの体制にもつながっており、これがWindowsユーザーのMacへのスイッチを促進している。量販店において、アップルのコーナーだけが独立していることが安心感にもつながっているのだろう。

 また、2009年の年末商戦における共通メッセージによる提案が功を奏したという結果も見逃せない。

 アップルでは、年末商戦において、アップルショップを対象に、Macを贈ろうキャンペーンを実施。「使いやすさを贈ろう。Macを贈ろう。」、「安心を贈ろう。Macを贈ろう。」、「抜群な互換性を贈ろう。Macを贈ろう。」、「ハイパフォーマンスを贈ろう。Macを贈ろう。」というメッセージを使い、Macの高性能、セキュリティなどにおいて、Windowsよりも優れているということを示す提案を行なってきた。

2009年年末商戦に、アップルショップを対象に行なわれたMacを贈ろうキャンペーンの店頭POPの様子

エスカレータ付近にもPOPを展開している

 売り場だけでなく、店舗入口やエスカレータ周りにも同様にPOPを配置するという手法は、その時にも実行されており、今回のメッセージは、それをさらに明確な形で伝える言葉になったともいえ、これらの継続的な展開を通じて、WindowsユーザーをMacに移行させる訴求を徹底しているのだ。

 BCNの調べによると、量販店におけるアップルのシェアは、2009年2月の集計では3.9%だったものが、2010年2月の集計では4.6%に上昇。特にデスクトップPCでは、2009年2月の6.4%から、201O年2月には10.5%と2桁のシェアを獲得。日本エイサー、富士通、NEC、ソニーに続いて5位となっている。

 また、MM総研の調べでも、アップルのシェアは2008年の2.8%から、2009年は3.1%と若干上昇している。

 ビックカメラ新宿西口店でも、Macの販売台数は前年を10%以上上回る実績で推移しており、販売構成比が上昇しているという。

 Macは、Windowsユーザーを取り込むことで、商戦を追うごとに、存在感を徐々に高めてきているのは間違いなさそうだ。