■大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」■
Appleは、Windows 7の発売の前日となる10月21日に、iMac、MacBook、Mac miniの新製品を投入した。来日した米Appleの製品担当者は「とくにWindows 7の発売を意識したものではない。Appleの製品ロードマップに則り、最適なタイミングで新製品を投入した結果にすぎない」と否定する。
とはいえ発売前日という絶妙なタイミングは、それを意識しないという方がおかしい。どうしても、戦略的な意図を感じざるを得ない。だが、むしろ、問題なのは、それがどんな結果になったかである。
10月21日から発売された新iMac |
本誌でも既報のように、Windows 7が発売となった10月22日を含む10月19~25日の集計において、デスクトップPC分野では、Macのシェアが、前週比の約2倍となる14.7%に達した。ノートPCでは、Macのシェアは3.0%と微増に過ぎないが、Windows 7の話題が先行するなかで、Macの健闘ぶりは評価に値する。「非常にいい手応えを感じている。日本でもこれだけの出足となったことは評価したい。年末商戦に向けて、ますます購入が加速すると期待している」と担当者は語る。
Appleは北米において、Windows 7を揶揄した広告を数種類展開している。現時点では、これを日本に展開する予定はないというが、その広告の1つに、Windows XPユーザーが、Windows 7に移行するために、クリーンインストールしなくてはならないことに触れ、それならばMacに移行したいという内容のものがある。
米Appleの製品担当者は、「Appleは前四半期だけで、300万台以上のMacを販売し、実際にWindowsからMacに乗り換えるユーザーが少なくないという状況が続いている」と前置きし、「Windows XPユーザーは、Windows 7に移行しようかどうかを迷っているという事実がある。XPユーザーにとって再スタートとなるWindows 7への移行に躊躇しているからだ。それならば、これを機に、Macに移行してもいいという選択肢も出てくる。Windows 7の発売とともに、iMacやMacBookの新製品が登場したということは、Windowsユーザーが、Macに乗り換えるためには最高のタイミングが訪れたといえる」
Windows 7と同時期の新製品発表は、Windows XPユーザーに対して、Windows 7という選択肢に加え、Macというもう1つの選択肢を用意したものともいえ、Appleにとっては、逆風というよりも、むしろ、乗り換えてもらうチャンスが訪れたと捉えているのだ。
「このメッセージは、Windowsユーザーに対して強く響くだろうと考えている。PCが持つマルウェアやウイルスの問題も回避でき、しかも、Appleのすばらしいデザインと、Snow Leopardによる最新のソフトウェア環境、iLifeによる優れたアプリケーションを利用できる。しかも、それをAppleという企業が1社で提供している。革新的なエクスペリエンスを提供できる」と担当者は胸を張る。
今回、Appleが投入したのは、iMac、MacBook、Mac miniの3製品だ。「世界最高のデスクトップコンピュータ」と位置づけるiMacは、デザイン面でも進化を図った。「これまでの変遷を見てもわかるように、iMacは、ディスプレイそのものをコンピュータとして提供するというスタイルを貫いてきた。そして、世代を追うごとに、ディスプレイまわりの不要なものを省いてきた。コンピュータ部を薄型ディスプレイのなかに入れ、さらに、アルミニウムやガラスといった新素材を使った。新たなiMacでは、これを一歩進め、前面部は端から端までガラスのデザインとした」
新iMacには、21.5型と27型の2機種が用意され、いずれもLEDバックライトのIPS液晶パネルを採用している。21.5型では1,920×1,080ドットのフルHD対応となり、従来モデルに比べて60%の画素数の向上、27型では、2,560×1,440ドットのIPS液晶パネルを採用し、21.5型に比べて78%の画素数の向上を図っている。
27型のLEDバックライトのIPS液晶パネルを採用した新iMac | 21.5型を採用した新iMac。118,800円から |
IPS液晶パネルの採用によって、178度という広い視野角を実現するとともに、LEDバックライトの採用による見やすさの進化、インスタントオン機能による使い勝手の向上、部屋の明るさによって画面を調節する機能を搭載するなどの特徴を持つ。
27型の上位モデルはクアッドコアのCore i5を搭載しており、iMacとしては、初めてクアッドコア化した記念碑的モデルとなる。背面は100%アルミニウムの筐体。SDカードスロットを搭載したことで、デジタルカメラからの画像取り込みも容易だ。Core 2 Duoでは最大3.3GHzが選択できるほか、最大2TBのHDDを搭載できる。
また、新たに搭載したワイヤレスキーボードとワイヤレスマウス「Magic Mouse」によって、接続されているのは電源ケーブルだけという、すっきりとした環境を作ることができる。
とくに、Magic Mouseは、世界初のマルチタッチ対応マウスであり、右クリック、左クリック、スクロールのほか、マルチタッチによる各種操作が可能になる。最初は、ツルっとしたマウス形状には使いにくそうな印象を受けたが、使ってみると意外にスムーズ。すぐに慣れることができた。ただ、Magic Mouseの4カ月のバッテリ駆動時間という点はやや気になる。
iMacに用意されたワイヤレスキーボード | デザイン的にも優れたものになっている |
世界初のマルチタッチ対応となるMagic Mouse | 2本指でスワイプ動作などもできる |
価格設定は戦略的だ。Core i5を搭載した27型のiMacで198,800円と、20万円を切った。また、21.5型のエントリーモデルでは118,800円とした。「iMacをよりよいものにするために、世代を追うごとに進化してきたが、価格設定でも進化することを目指し、改善を図ってきた。この価格ならば、顧客がよりiMacを支持してくれるだろう」という。
一方、今回のiMacでも、Blu-ray Disc(BD)ドライブの搭載は見送られた。この点は、元麻布氏のコラムでも指摘されているが、米Appleの製品担当者によると、「BDドライブ搭載については、顧客から要望が聞かれない」のだという。「インターネットからHD画像を入手したり、HD対応のデジタルムービーやデジタルカメラのコンテンツを見たいという要望が強いのに対して、BDのコンテンツを利用したいという顧客は少ない。BD搭載の需要が顕在化していないのが搭載しない理由」とした。
日本のユーザーにとってみれば、BDはフルHDコンテンツを視聴するための有効な手段だけに、ここは欧米との差が感じられる部分だといえよう。
MacBookは、同シリーズとして初めて10万円を切る、98,800円の価格設定とした。「2006年5月に導入したMacBookは、学生をはじめとするコンシューマにもっとも多く売れたMac。今回の新MacBookは、上位製品であるMacBook Proのデザインや機能を参考にして、そこから優れた機能とデザインなどを切り出したもの。10万円を切る価格設定は、よりエントリーモデルを購入しやすいようにするための努力の結果」とする。日本円で10万円を切るノートブックの投入は、Appleにとって、重要なターゲットだったというわけだ。
新MacBookは、Core 2 Duo 2.26GHzを搭載し、2GBメモリ、NVIDIA GeForce 9400Mチップセット、250GB HDDを搭載。厚みは27.4mm、本体重量は2.13kgとなっている。ポリカーボネイト樹脂のユニボディを採用した丸みを帯びたデザインは、継ぎ目がなく、持ち上げやすくもなっている。
「美的感覚としてもすばらしいものが完成した。13.3型のLEDバックライト液晶は、開けば鮮やかな色をすぐに楽しむことができる。また、ガラス製マルチタッチトラックパッドは、操作スペースが大きく、操作しやすいものになっている。そして、消費電力にも優れたものとなっており、内蔵バッテリは、従来のモデルに比べて2時間増え、7時間駆動を実現。MacBookユーザーが安心して持ち歩くことができるようになった」と同社は説明する。
新MacBook。価格は98,800円と10万円を切る | Appleストア銀座に展示された新MacBook |
裏面全体には滑り止めを施しており、新幹線や飛行機の座席トレイでも、しっかりと留まって利用できる。また、裏面部にはMacには珍しく、ネジを見えるような形で配置しており、メモリの増設や、HDDのアップグレードをしたい場合には、このネジを外せば、ユーザーは手軽に作業ができるようにしている。「メモリ増設やHDDのアップグレードをもっとやりやすくして欲しいというユーザーの要望に応えたもの」だという。
丸みを帯びたデザインを採用しており、持ち上げやすい | 裏側には滑り止めが全面に貼られ、ネジを外せばメモリの増設などができる |
また、Appleでは、新MacBookを「世界で最もグリーンなノートブック」とし、EnargyStar 5.0に準拠したこと、LEDバックライトによる低消費電力化や水銀の不使用、砒素を含まないディスプレイの採用、臭化難燃材を使用していないこと、高いリサイクル効率を有していることなどを示す。これらの環境対策は、iMacでも同じである。
もう1つの新製品であるMac miniは、最も手軽に、Mac OS Xと、iLifeを利用できる製品とする。「これまでと同じコンパクトな筐体でありながら、上位モデルには、Core 2 Duo 2.53GHz、4GBメモリ、320GB HDDを搭載した。下位モデルでは69,200円からという、購入しやすい価格にも引き下げた」
また、今回の製品では、サーバーモデルを新たに用意。104,900円で販売する。「多くのユーザーは、Mac miniにディスプレイとマウス、キーボードを接続して、PCとして使っている。だが、それとは異なるユニークなMac miniの使い方がある。それは、Mac OS X Serverをインストールし、Snow Leopard Serverともいえる、サーバーシステムとして活用するもの。そのために光学ドライブを省き、その分、HDDの台数を増やした。少人数のグループ、小さな企業、教育分野でも利用できるようになる」とする。
Appleが、Windows 7の発売前日となる10月21日に、iMac、MacBook、Mac miniの新製品を投入したことはあまり話題にはならなかったが、その進化は着実であり、価格面での意欲的な訴求も目を引く。
Windows 7の発売で、新OSへの移行の検討を開始したWindowsユーザーに対して、新たなMacへの移行というもう1つの選択肢を提案したAppleの手の打ち方は吉と出るのか、凶と出るのか。
いまのところは、吉と出ているようだ。