■大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」■
里帰りプロジェクト |
プリンタメーカー6社と日本郵政グループが共同で実施している、使用済みインクカートリッジの共同回収プロジェクトに、新たに北九州市が参画した。自治体が参画するのは、今回が初めてのことだ。
同制度は、ブラザー、キヤノン、デル、エプソン、日本HP、レックスマークの6社のプリンターメーカーが、使用済みインクカートリッジの回収専用箱を郵便局の窓口に設置。箱が一杯になると、ゆうパックを利用して、各メーカーに郵送され、各社ごとにリサイクルされるという仕組みだ。
北九州市は、この制度を利用して、7月3日から、北九州市本庁庁舎、門司区役所、小倉北区役所、小倉南区役所、若松区役所、八幡東区役所、八幡西区役所、戸畑区役所の8カ所に、使用済みインクカートリッジの回収専用箱を設置。満杯になると、ゆうパックを利用し、最寄りの郵便局を経由した回収ルートを通じて、各メーカーに戻り、再資源化されることになる。
●参画までの経緯
北九州市役所の外観 |
北九州市は、環境モデル都市として認定され、環境活動には積極的な自治体として全国的にも有名。環境家計簿普及事業や、北九州市環境首都検定というユニークな試みにも取り組んでいる。
今回の協力関係も、北九州市側から里帰りプロジェクトに対して申し入れがあり、1年間に渡って、関係を模索してきた経緯がある。
里帰りプロジェクト推進本部長である竹之内雅典氏(キヤノン インクジェット事業本部インクジェット事業統括センター担当部長)によると、「昨年(2008年)4月に制度を開始した直後に北九州市側から申し入れがあった。当時は、プロジェクト側としても、まだスタートしたばかりの段階であり、どんな形で自治体との協力関係が築けるのかがわからない段階だった。郵便局窓口での回収制度において、運用方法が定着し、実績が出た段階で、改めて具体的な話し合いを行なった」という。
2008年4月8日からスタートした同制度では、全国3,639局の郵便局窓口に専用回収ボックスを設置。2009年6月末までの回収実績は5,720箱。約100万個の使用済みインクカートリッジを回収した実績を持つ。
こうした実績をもとに、今年2月から具体的な話し合いを開始し、北九州市の使用済みインクカートリッジ回収活動の中に、里帰りプロジェクトの仕組みを利用することで合意。このほど協定書を交わした。
●里帰りプロジェクト参画の意味
北九州市が、里帰りプロジェクトに参画することには大きな意味がある。
1つは、北九州市における使用済みインクカートリッジの回収量の拡大が期待されることだ。
これまでにも、北九州市内では、14の郵便局窓口に専用回収箱を設置。今年3月までの1年間で22箱、推定で約4,000個の使用済みインクカートリッジを回収している。また、今年4月から6月までの3カ月間では10箱を回収。この間だけで約1,900個に達するなど、回収速度が加速している。
里帰りプロジェクト推進本部長の竹之内雅典氏(キヤノンのインクジェット事業本部インクジェット事業統括センター担当部長) |
「北九州市には、46万世帯、約100万人の人口があること、また、本庁や区役所への年間来訪者数から逆算すると、年間で約17箱の回収増加が期待できる」と、竹ノ内プロジェクト推進本部長は予測する。
これによって、北九州市での回収率が引き上げられることになるのは間違いないだろう。福岡県全体では、47都道府県中10番目の回収数量となってなり、この順位が高まる可能性もある。
2つ目には、北九州市内における認知度向上だ。
里帰りプロジェクトの課題の1つに、認知度向上活動の強化がある。
里帰りプロジェクト自らも、全国の環境関連イベントに出展したり、各社のプリンタカタログにプロジェクトの説明を入れたり、回収箱を設置している一部郵便局が告知活動を行なうという動きがあるものの、まだまだ認知度は低い。
そうした中、北九州市では、今回の里帰りプロジェクトへの参画に伴い、市民向けの告知活動を積極化する姿勢を見せている。
年2回配布している環境に特化した市民向け冊子「かえるプレス」で、里帰りプロジェクトを紹介するほか、環境関連イベントでも、同制度をアピールして、本庁や区役所で使用済みインクカートリッジを回収していることを周知する考えだという。
実際、回収箱は本庁舎や区役所のロビーのほか、住民票を受けとる市民課の近くなど、目立つところに回収箱が設置される予定であり、これも認知度向上につながることになろう。
政令指定都市である北九州市における認知度向上は、プロジェクト制度の広がりにも大きな意味を持つことになりそうだ。
そして、最後に、北九州市の活動を第1号として、他の自治体にも活動が波及する可能性だ。
環境に強い関心を持つ自治体は少なくない。今回の北九州市との連携によって、同様の取り組みを横展開できるようになるというわけだ。
「現時点では具体的な話があるわけではないが、この仕組みを多くの自治体などに活用していただきたい。また、将来的には大学の生協に回収箱を設置してもらうなど、教育機関との連携も視野に入れたい」と、竹之内プロジェクト推進本部長は語る。
●里帰りプロジェクトの促進へ
インクカートリッジは、年間約2億個が使用されていると推定されるが、その多くが廃棄されており、リサイクル回収率は10%前後と見られている。
「この1年の里帰りプロジェクトの成果では、回収率をわずか1%引き上げた程度の貢献でしかない。しかし、回収数量は月を追うごとに増加しており、今年5月の回収実績は981箱と、昨年の402箱から倍増以上となり、6月の回収箱数も542箱と、前年同月の230箱に対して、約2.3倍の実績となっている。このように月を追うごとに、着実に増加している。この勢いでいけば、2010年3月には5%程度の回収率に引き上げることできるだろう。これにより、量販店での使用済みインクカートリッジの回収、ベルマーク制度を利用した回収をあわせて、業界全体で約15%にまで回収率を引き上げることができると見ている。郵便局への設置窓口数も、今後は首都圏などを中心に、約1,000局を増加する予定であり、さらに自治体の参画が増えれば、毎年5%ずつ回収率を高めていくことができるのではないか」と、竹ノ内プロジェクト推進本部長は語る。
北九州市の里帰りプロジェクトへの参画は、使用済みインクカートリッジの回収量増加を、さらに促進する大きなきっかけとなりそうだ。
(2009年 7月 3日)