■大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」■
ファミ通ゲーム白書2009 |
エンターブレインが、「ファミ通ゲーム白書2009」を発行した。
これによると、全世界におけるゲームコンテンツ市場規模は、前年比5%増の3兆9,952億円となり、世界的に経済環境が悪化するなかでも、市場規模が拡大したことが明らかになった。
「巣ごもり現象」がゲーム消費を後押ししたこと、日本で先行したファミリー層や女性層の利用が、欧米にも広がったことでゲーム人口が増加したことなどが市場成長の背景にあるという。
また、かつては、ゲームに対しては、「時間の無駄」、「不健康」といった見方がされていたのに対して、ハードウェアとゲームコンテンツの進化によって、従来にはなかった知識蓄積型ゲームや体感型ゲームが増加。「役に立つ」あるいは「健康にいい」といった見方が出てきたことも興味深いといえよう。
5年目となった「ファミ通ゲーム白書2009」の今年のキーワードは、「入れ物に入るコンテンツの時代から、サービスコンテンツへ」である。
ゲームコンテンツをCD-ROMやDVD、メモリーなどにパッケージ化して流通する時代から、ネットワークを通じてソフトを流通する時代が訪れ、それがゲーム機のメーカー勢力図への影響、ゲームコンテンツメーカーのビジネスモデルの変化、そして、それに伴う新たな事業者の台頭などとなって表面化してくることを浮き彫りにしたものとなっている。
ファミ通ゲーム白書の上床光信編集長は、「これまでのビジネスの手法が通用しなくなるような、大きな転換期をゲーム産業が迎えていることを感じる。ファミ通ゲーム白書2009は、その変化点を捉えたものになっている」と語る。
これまでゲーム市場における勢力図は、ハードウェアの普及台数と、それらのハードウェアに対応した人気ソフトによって形成されてきたといっていい。
任天堂が据え置き型ゲーム機、携帯型ゲーム機において、圧倒的なシェアを獲得したのは、ユニークな操作方法を実現したハードウェアと、その機能を生かして登場した新感覚のソフトウェアが、多くの人に受け入れられたことが影響している。ゲーム利用の年齢層を広げたのも、このハードとソフトの組み合わせによる効果ではあることは、多くの人が認めるところだろう。
だが、その一方で、この1年で新たな状況が生まれてきた。それは、ネットワークを利用したゲームコンテンツの配信である。ブロードバンド環境の普及、ネットワーク機能を搭載したゲーム機の広がり、ネットワーク配信に最適化したゲームコンテンツの開発などにより、オンラインでゲームを楽しむという使い方に加え、ゲームそのものをネットからダウンロードして利用するという使い方が広がっている。
任天堂ではWiiショッピングチャンネルやDSiショップ、ソニー・コンピュータエンタテインメントではPlayStation store、マイクロソフトではXbox LIVEを用意。それぞれのオンラインサービスを通じてゲームコンテンツの配信が行なわれている。
エンターブレインの調べによると、2008年のオンラインゲームコンテンツの市場規模は、据え置き型ゲーム機で前年比23%増185億円となり、これが2009年には、約2.3倍の420億円に拡大すると見ている。
携帯ゲーム機の成長率はさらに大きい。2007年にはわずか2億円だったものが、2008年には10億円と5倍に成長。2009年には12.3倍の123億円にまで拡大すると予測している。
そして、オンラインによるゲーム配信は、ゲーム専用機以外にも、ゲーム利用を大きく広げるという点でも貢献している。
iPhoneをゲーム機として利用できる |
最たる例が、アップルのAppStoreである。AppStoreを通じて、iPhoneやiPod touch用に開発されたゲームコンテンツを手軽に楽しむことができるようになっており、ゲームはゲーム専用機という使い方だけでなく、携帯電話や携帯オーディオプレーヤーでも、ゲームを楽しむという市場が創出されてきたのだ。
エンターブレインの調査によると、iPhone所有者のうち、有料ゲームを購入しているユーザーが42.0%、無料のゲームだけを購入しているユーザーが35.6%となっており、77.6%のユーザーが、iPhoneをゲーム機として利用していることがわかる。ファミ通ゲーム白書2009のなかでも、「iPhoneはゲーム機として認知されている」と分析している。
一方、携帯電話向けには、DeNAのモバゲータウン、ゲームロフトのgameloftなどがダウンロード数を拡大させており、2008年における携帯電話のゲームコンテンツ市場規模は890億円、2009年には1,170億円の規模が想定されている。
Googleがアンドロイド携帯向けにソフトを提供する「Android Market」の動きも、今後の携帯電話向けゲームコンテンツ市場の拡大を加速することになろう。
また、GREEのように、コミュニケーション手段の1つとして、ゲームを活用するという手法も出ている。SNSが、ゲームを融合したサービスを展開するといった動きも、携帯電話端末でのゲーム利用を促進することにつながっている。
こうしたオンラインによるゲームの普及は、ゲームコンテンツメーカーにとっても、ビジネスモデルの大きな転換を意味する。
PSP goもオンラインでコンテンツを配信するビジネスモデルへ |
これまでは、パッケージを制作するコストが発生するとともに、流通ルートを独自に整備し、商品の在庫管理も行なわなくてはならなかったが、オンラインによるゲーム配信の仕組みでは、一定のロイヤリティを第三者に支払う必要があるものの、パッケージの制作は不要になり、在庫管理も事実上なくなるといっていい。また、オンラインでは、全世界を対象に流通ルートが整備されているため、各国ごとに販売ルートを整備するという必要もなくなってくる。
中小規模のゲームコンテンツメーカーにとっては、世界市場に向けて、低コストでの参入が可能となり、業界再編の結果、大手中心で形成されていたゲームコンテンツ市場への参入障壁が低くなるともいえよう。
また、ハードウェアの高性能化に伴って、グラフィックス機能を重視したソフトが優位とされていたものが、オンラインで配信しやすい容量のソフトウェアや、モバイル環境でも利用できるようなアイデアを用いたソフトウェアが注目を集めはじめ、ゲームソフトの商品コンセプトそのものも変化しはじめている点も見逃せない。これも大手偏重を打破するきっかけになろう。
一方で、今後のオンラインサービスサイトの動き方も注目されよう。
例えば、レベルファイブがサービスを開始する予定のゲームコンテンツポータルサイト「ROID」のように、さまざまな携帯端末向けにソフトを供給するようなサイトが登場することで、サービス提供側が力を持ちはじめ、結果としてハードウェアの市場シェアにも影響を及ぼす可能性も捨てきれない。
さらに、ゲームを利用できる複数の端末機器に配信するサイト同士が連携することで、勢力図を拡大したりといった動きが、世界規模で出てくる可能性もある。これが人気ハード機器を左右するといったこともありそうだ。
AppStoreの存在が、わずか半年強で、iPhoneをゲーム機としてのポジションに位置づけた実績からも、それが容易に想像できる。
当然のことながら、ゲームコンテンツを配信するためのデータセンターや、ホスティング、セキュリティ、課金といった技術を持つ事業者も、ゲームコンテンツ市場において重要な役割を担うことになろう。
こうした観点からも、ゲーム市場は大きな転換期を迎えているのは明らかだ。
ハード、ソフトの組み合わせで成長してきたゲーム市場に、新たにサービスが加わることで、これまでとは異なるビジネスモデルとマーケティング戦略が求められる。
「転換期にあるからこそ、ゲームコンテンツは何かという本質がわかっている企業、サービスとは何かをわかっている企業が生き残ることになる。いま、ゲームコンテンツ産業には、既成概念を打ち破ることが求められている」と、上床編集長は語る。
転換期は、成長や飛躍に向けた大きなチャンスを秘めているともいえる。しかも、そのなかでもゲームコンテンツ市場は引き続き拡大を続けている。いまの変化をチャンスにつなげることができるかどうかが、ゲームコンテンツ産業に携わる各社の共通課題だといえよう。
(2009年 6月 10日)