大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

米Microsoft Surface担当副社長に聞く、新Surface Proが「5」でなかった理由

~Surfaceは”日本のモノづくり”のこだわりが反映された製品

パノス・パネイ氏

 日本マイクロソフトは、「Surface Pro」をはじめとするSurfaceシリーズの新たなラインアップを6月15日から順次国内出荷する。来日した米MicrosoftのMicrosoft Surface担当コーポレートバイスプレジデントのパノス・パネイ(Panos Panay)氏は、「今回のSurface ProをはじめとするSurfaceの新製品の投入において、プレミアム領域におけるフルラインアップを整えることができた。ユーザーに対して、選択肢を提供することができる」としつつ、「Surfaceが実現する高い質感などは、日本のユーザーこそが理解してくれるはずだ」と断言する。

 実は、Surfaceの技術を統括するパネイコーポレートバイスプレジデントは、米Microsoftに入社する以前に、日本の企業に勤務した経験があり、日本人のモノづくりに対する姿勢を熟知している。だからこそ、性能の進化だけでなく、質感やディテールにこだわった新たなSurfaceが、日本のユーザーに受け入れられると自信をみせている。パネイコーポレートバイスプレジデントに話を聞いた。

--新たなSurface Proの進化のポイントはどこにありますか。

パネイ 今回、日本において、新たなSurfaceファミリーを紹介できることにとてもワクワクしています。Surfaceにとって、日本はとても重要な市場です。最近では、日本の教育分野においても、Surfaceの導入が促進されており、すでに1,200校以上で導入されています。教育分野は、子供たちの成長にとって大切な場であり、そこにSurfaceが活用されていることは、私自身、とてもうれしく思っています。

 6月15日から日本でも発売する新たなSurface Proは、Microsoftにとって、最高のパフォーマンスを持った、最高の製品を作り上げることができたと自負しています。

 たとえば、地球上で最高のディスプレイを搭載していますし、ペン機能も大きく進化しました。ペン機能では、精度と応答速度を高め、線もスムーズに書くことができます。筆圧や角度にあわせて、それぞれの目的にあわせた様々な線を描くことが可能で、まさに本物のペンのように使うことができます。そして、優しいタッチによって、ペンを使うことができる初めてのデバイスともいえます。

 それと、ヒンジにも新たなものを採用し、書きやすい角度を実現することができました。これは、日本では、Surface Proと同じく、6月15日に発売するSurface Studioによって得られた知見をもとに実現したものです。この角度を「Studioモード」と呼んでいます。Surface Studioでは30度の角度で使用できるようにしていますが、Surface Proでは、これとは少し角度を変えています。これは意図的なもので、ディスプレイサイズが、Surface Studioよりも小さいSurface Proでは、ディスプレイ上に手を置きながら書いたさいにも、最も書きやすい角度を求めたからです。この角度を実現するためのヒンジは新開発したもので、カスタマイズされた20種類の部品を使って作られています。

 さらに、Surface Proは耳にも優しいデバイスになりました。Core mとCore i5を搭載したモデルでは、ファンがなくなり、静かな環境でも使うことができます。まるでハードウェアが消えたかのような状況であり、ユーザーはより集中しながら創造性を発揮する作業を行なうことができます。

 このようにSurface Proは、より多機能になり、性能も向上し、耳にもやさしいデバイスです。日本のユーザーが、もっと好きになることができるデバイスとして進化をしています。

--Surface Proの新モデルは、多くの人が、Surface Pro 5の名称になると思っていたはずです。今回、「5」という数字を無くした理由はなんですか。

パネイ Surface Proで、ナンバーが付与されてきたのは、まさにSurface Proの歴史でした。各世代ごとに機能や性能が進化してきたといえます。しかし、今回のSurface Proは、我々が完璧さを追求してきた結果、誕生したデバイスです。もし、Surface Pro 5という名称をつけてしまったら、単に次の新たなデバイスが登場したという印象でしかありません。今回の製品は、Surface Proの決定打であり、それを総称する名称として、ナンバーをつけずに、Surface Proと呼ぶことにしました。

 これこそがSurfaceの新たな製品であり、そこに確信を持っています。もし、それを作り上げることができなかったら、我々はSurface Pro 5という名称をつけていたかもしれません。それだけの自信を持った製品です。

--10点満点中何点の出来映えですか。

パネイ それは難しい質問ですね(笑)。もし、自分の子供に対して、「美しいですか」と聞かれたら、「はい」といいますよね。それは私の子供だからです。新たなSurface Proも、私にとっては同じです(笑)。

--もう1つ、Surface Proの新製品発表は、ニューヨークで発表するのが定番となっていましたが、今回は、5月23日に中国・上海で発表しました。これはなにか理由があるのですか。

パネイ Microsoftは、グローバルカンパニーであり、その点では、米国だけでの発表にこだわるものではありません。上海での発表に続いて、我々のチームは、日本を訪れて、日本でも「Microsoft Japan Surface Event」という場を設けて、正式な発表を行ないました。米国にこだわらず、上海や東京といった素晴らしい都市で発表を行うことは、グローバルカンパニーのMicrosoftにとって重要なことです。

--一方で、5月には、Surface Laptopも発表しました。日本では、7月20日からの出荷となりますね。

パネイ Surface Laptopは、質感を非常に大切にした製品です。完璧なデザイン、ディテールという点で、日本のユーザーにはとても気に入ってもらえると考えています。どの角度から見てもらっても、余計な線をありませんし、ネジも見えません。そして、ヒンジも見えないデザインとなっています。アルミニウムの天板とキーボードがぴったりと合うように、少しの狂いもない設計もSurface Laptopの特徴です。

 ディスプレイは目に優しく、キーボード部もソフトな感覚で使用することができます。美的感覚に訴えることができるデバイスであると自負しています。そして、品質に対する自信も感じていただけるのではないでしょうか。

 ぜひ、日本のユーザーの方に体験していただきたいのは、Surface Laptopのディスプレイを指1本で開けることができるという点だけでなく、閉めたときに、その音を聞いてもらうことです。「パタッ」というこの音は、エレクトロニクス機器の音というよりも、豪華な本を閉じたときのような感覚です。そこまでSurface Laptopの質感にはこだわっています。これは、Surface Laptopのモノづくりにおいて、重要なポイントでした。

--パネイさんは、かつて日本の企業に勤務していたことがあると聞きましたが。

パネイ 私は、5年間ミネベア(現ミネベアミツミ)の米国子会社であるNMB Technologies(旧Nippon Miniature Bearing Corporation)に勤務し、Electrical Mechanical Divisionのグループプログラムマネージャーとして、キーボード、スピーカーなどの電子機器の開発から製造までの責任を持っていました。

 そのときには、米国と日本を何度も行き来していました。日本には、多くのサプライヤーがありますし、有力なリセラーパートナーもいますから、2004年に米Microsoftに入社して以降も、日本には何度も訪れています。

 ただ、NMBTに在籍していたときから、私は日本が大好きで、日本の文化は本当に美しいと感じています。NMBTの拠点が神奈川県藤沢だったこともあり、よく鎌倉を訪れました。私は地球上で一番美しい場所が鎌倉だと思っているくらいです。数多くのお寺や、鎌倉大仏、そして、桜の美しさも、私の記憶のなかには強い印象として残っています。いまでも、鎌倉を通じて、日本とのつながりを感じるんですよ。

 今回は残念ながら、鎌倉を訪れることができないのですが、私のチームが週末も残る予定ですので、彼らには、「どんなに美しいのかをぜひ見てきてほしい」と言っています。

 今回、日本でも販売を開始するSurface Studioを見ると、NMBTに所属していたときにパートナーだった日本人の設計エンジニアたちが、細かいディテールまでも、完璧に仕上げることに情熱を賭けていたことを思い出します。日本の文化は、こうした細かいところまで、完璧さを追求する点にあります。だからこそ、Surface Studioは、日本人に愛されるデバイスになると思います。日本人が追求する緻密なディテールの仕上がりを実現したのが、Surface Studioだからです。

--Surface Studioは、すでに米国では発売されていますが、日本での発売は6月15日です。もう少し早く発売して欲しかったですね。

パネイ 私もそう考えていたのですが、予想以上に反響が大きく、需要に供給が追いつかない状態が続いていました。しかし、それも解消できる目処が立ち、いよいよ日本に投入できる準備が整ったといえます。

--Surfaceは、2012年6月に第1号モデルを発売して以来、ちょうど5年を迎えようとしています。Surface Proだけでなく、Surface Book、Surface Laptop、Surface Hub、Surface Studio、Surface Dialといったように、Surfaceファミリーのラインアップも広がってきました。Surfaceのビジネスはどんなフェーズに入ってきたといえますか。

パネイ その点では、2つの要素があるといえます。1つは、顧客に選択肢を与えるためのポートフォリオが、「完全」に揃ったという点です。OEMパートナーからも素晴らしいデバイスが登場していますが、Surfaceが実現しているのは、プレミアム領域において、フルラインアナップを整えることができたという点です。

 ヨドバシカメラやヤマダ電機といった量販店を訪れた際にも、最も美しく、最もパーソナル化されたデバイスを購入したい、あるいは最もパワフルなラップトップが欲しいといった場合、もしくはモバイルに適した多機能なデバイスが欲しいと思ったさいにも、Surfaceファミリーのなかから、選択してもらうことができます。自分にとって、完璧なデバイスをMicrosoftのSurfaceファミリーのなかから選択することができるのです。

 もう1つは、Microsoftが提供するソフトウェアを生かすことができる最高のデバイスであるという点です。Windows、Office、Skype、OneDriveなどを連携させた利用を、最適な環境で実現しているのがSurfaceだといえます。これまで以上に、ハードウェアとソフトウェアは密接に連携しており、Surfaceの開発においても、それは重要なテーマになっています。

 Surfaceの開発に当たっては、Surfaceを開発するハードウェアのチームだけでなく、ソフトウェアのプロダクトデザイナーやエンジニアまでもが一緒になって、1つのエクスペリエンスとして実現できるように設計、開発を進めています。

 たとえば、Surface Proで搭載された新たなペン機能においては、カスタマイズされたペンシルボックスを用意し、パーソナラズ化されたペンをOfficeで利用できるようにしています。これはWordでも、PowerPointでも、選んだペンの色や太さなどを同じ設定で利用することができるだけでなく、Office 365を使用することで、クラウドを通じてSurface Studioでも、Surface Proでも同じ設定のペンが使えます。Surfaceファミリーのすべてのデバイスで、同じ設定環境で利用できるようになるというわけです。

 また、複数の人が異なるSurfaceを利用していても、クラウドを通じて、1つの画面に、複数の人が同時に書き込んで作業を行なえるといった環境を実現しています。会社が複数の拠点に分散していても、あるいは、在宅勤務のような場合にも、一緒になって作業を行なうことができます。

 このように、ハードウェアチームとソフトウェアチームが一緒になって開発することで、新たな機能が提供されたり、ペンを進化させたりといったことが可能になります。今回のペン機能の強化においても、ペンのレイテンシーをどう設定するかといった点などで、ハードウェアチームとソフトウェアチームがお互いに意見を出し合って、最適なものを作り上げています。

--日本のモノづくりに対するこだわりを知るパネイコーポレートバイスプレジデントが、Surface開発の技術統括を担っていることは、Surfaceの開発にどんな影響を与えていますか。

パネイ 私が、日本の企業に在籍していた際には、日本のエンジニアの仕事の仕方や、モノづくりが、世界最高水準のものであるという認識がありました。そして、私は、Microsoftのエンジニアたちに対して、日本から学んだものを継承してきました。いまのSurfaceの設計者、開発者の職人芸ともいえるこだわりを見ても、それと同じものを感じます。

 つまり、Surfaceのモノづくりには、日本のモノづくりのこだわりが反映されているといえます。日本人が、Surfaceを見ると、これがプレミアム分野の製品であることを直感的に感じてもらえると思います。ディテールの精密さや美しさを理解していただけるのではないでしょうか。日本のユーザーは、そうした点を評価する人たちであり、だからこそ、日本でSurfaceが受け入れられているのだと思います。