山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ
Amazon.co.jp「Kindle Voyage」(後編)
~画質比較のほか、ページめくりボタンなどの新機能をチェック
(2014/11/11 06:00)
「Kindle Voyage」は、300ppiの高解像度に加えて、厚みわずか7.6mm、そして約180gという軽さを誇る、Amazon.co.jpの電子書籍端末「Kindle」シリーズの最上位モデルだ。
前回のレビューでは、他製品との比較やセットアップ手順、コミックの画質チェックをお届けした。後編となる今回は、テキストコンテンツの画質比較のほか、ページめくりボタン、前面ライトの自動調整機能など、本製品で初めて搭載された機能についてチェックしていく。
なお、前編にてKindle Voyageのディスプレイ解像度を1,080×1,440ドットとしていたが、1,072×1,448ドットが正しいディスプレイ解像度となる。お詫びして訂正させて頂く。
他製品に比べて圧倒的な表示品質の高さ
まずは画質チェックの後編として、テキストコンテンツをチェックしておこう。ここでは本製品のほか、「Kindle Paperwhite」、「Kindle(2014)」のKindleファミリー3製品、さらに「Kobo Aura HD」、「Kobo Aura」、これに加えてソニー「PRS-T3S」の計6製品について、文庫本とほぼ同等の文字サイズを表示した際の品質を比較している。
比較には青空文庫所収の太宰治著「グッド・バイ」を用い、フォントはその端末が標準としている明朝系のフォントを用いている。サイズはなるべく近くなるよう揃えているが、多少の相違があることをご容赦いただきたい。
以上のように、表示の品質は基本的に解像度に準ずることが分かる。メーカーが異なると同等の解像度でも品質が著しく異なる場合があるが、同一メーカーの製品に限れば、上位下位の品質の違いははっきりしている。
全体的に言えるのは、解像度が低いと横棒が太く表示されるか、もしくはかすれてしまい、漢字の細部がつぶれやすいということだ。アルファベットにはここまで細部が詰まった文字はないので、低解像度でも文字がつぶれて読めないことはまずないが、漢字が多数含まれる日本語だとそうはいかない。本製品のような高解像度の画面は、まさに日本語の表示にマッチしたものだと言える。
ここでは文庫本などと同等のフォントサイズで比較しているが、もっと小さいサイズで表示すれば差は目立ちやすくなるし、またルビや脚注のように本文内に含まれている小さなサイズのフォントでも、差はさらに顕著になる。解像度が上がるにつれて端末は高価になるので、ユーザーは予算と相談する必要はあるが、すでにKindleストアを通じて電子書籍に馴染んでいるユーザー、また通勤通学などで毎日端末を使用するなど利用頻度が高いユーザーにとっては、投資するだけの価値は十分にあるだろう。
以上、テキストコンテンツについて見てきたが、コミックについてもあらためて、他社製品3製品を含めた計6製品で比較しておこう。比較には、うめ著「大東京トイボックス 10巻」を用いているが、やはり本製品の解像度の高さが際立っている。テキストコンテンツの表示ではややミソがついたKobo Aura HDも、こちらではかなり健闘している。
手袋をしたままでも操作が可能なページめくりボタン
さて、本製品は画質の向上だけにとどまらず、従来モデルにはなかったいくつかの機能が盛り込まれている。まずはページめくりボタンについて見ていこう。
本製品ではページをめくるための方法として、タップとフリックに加えて、画面の左右にページめくりボタンが搭載された。元々、過去のKindleにはページめくりボタンが搭載されていたが、「Kindle Touch」でタッチインターフェイスが採用されたのを機に廃止になったという経緯がある。今回のモデルはある意味で「先祖返り」ということになるが、海外の古参ユーザーからの要望も多かったのではないだろうか。
もっとも、ページめくりボタンといっても、物理ボタンだったかつてと比べてその方式はまったく異なっている。方式は圧力センサーを採用した感圧式で、ベゼル部に完全に埋め込まれており、押し込むと振動が返ってくることでめくったことが指先の触覚で分かるよう工夫されている。振動の大きさは3段階で調節できるが、たとえ「強」にしても、スマートフォンやタブレットなどのバイブ機能に比べて振動は極めて弱い。あくまで指先に反応をフィードバックするという位置付けだ。
スマートフォンなどで一般的な静電容量式ではなく感圧式を採用するメリットは、大きく分けて2つ考えられる。1つは、手袋などをしていても問題なく反応すること。静電容量式のパネルであれば、皮膚もしくは専用のタッチペンでないと反応しないが、本製品であれば冬場に屋外で手袋をしている際も、問題なくページめくりが行なえる。他社製品であればソニーReaderにも言えることだが、いちいち手袋を外さずにページめくりが行なえるのは、これからの季節、重宝することは確実だ。
もう1つは、おそらくこちらが理由としては本命だと思うのだが、指を普段からボタンの上に乗せっぱなしにできることだ。静電容量式であれば、普段は指を浮かせておかなければならないので、端末を持つ姿勢がどうしても限定されてしまう。しかし本製品であれば、常に端末をしっかり把持しておけるので、座った姿勢だけでなく横向きに寝転んだりと、さまざまな姿勢に対応できる(仰向けはさすがに厳しい)。ページをめくる際は、端末を握っている親指の力をちょっと強めるだけでいい。
以上が利点だが、感覚的に慣れづらい点もある。1つは、このページめくりボタンと、タップやスワイプでめくれるタッチ画面が隣り合っていることで、操作方法の違いが頭の中でなかなか切り替わらないこと。具体的には、ボタンを押すつもりでタッチパネルを親指でぐっと押してしまったり、逆にボタンを軽くタップしてしまったりといった具合だ。特に使い始めてすぐは、得てしてこのようなことがよく起こる。
もう1つは、左右のボタンの役割が同じであるため、ページを戻ろうとして反対側のボタンを押してしまうケースが多いこと。本製品に設置されるページめくりボタンは「進む」ボタンの上に「戻る」ボタンがあり、これは画面の左右どちらも同じ構成になっている。つまり左右どちらの側を押しても、次ページに進めるわけだ。タップ操作では画面の左が「進む」、右が「戻る」に割り当てられている(右綴じの場合)のと対照的である。
ページの進行方向とは関係なく、左右どちらを押しても次のページに進む電子書籍ビューワはほかにも存在するので、特に珍しいわけではないのだが、本製品の場合はすぐ隣に割り当てルールが異なるタッチスクリーンが存在しており、またボタンの割り当ても固定されているので混乱しがちだ。せめてボタンの割り当てをカスタマイズできるようになれば、どうしても馴染めない人に対する救済策になってよいのではないかと思う。
また、「進む」ボタンとその上の「戻る」ボタンの間隔が意外に広く、親指を伸ばしただけでは押しにくいのも、やや気になるところだ。筆者は決して手の大きさは小さい方ではないが、「進む」ボタンを無理なく押せる位置のまま「戻る」ボタンを押すには、指の長さがすこし足りない。世界共通のサイズであるためか、あるいは「進む」、「戻る」の誤操作が発生しないようわざと間隔を広めに取ったのかは不明だが、もう少し詰まっていても問題なかったのではないかと思う。
と、気になる点を列挙したが、しばらく使っていると、ことページめくりにおいてはタッチ操作はほとんどしなくなり、このページめくりボタンばかりを使うようになるほどで、非常に便利な機能であることは間違いない。なにより、ページめくりボタンが追加されているにもかかわらず、Kindle Paperwhiteと比べてベゼルの幅が広くなっていないのが秀逸だ。物理ボタンのように隙間もないことから破損の心配も低く、ソニーReader(PRS-T2/T3S)の物理ボタンのように突起で指が痛いこともない。将来的に防塵防滴の端末につながっていくことも期待できそうだ。
ユーザーの好みを学習して明るさを自動調節する前面ライト機能
続いて前面ライト機能について見ていこう。本製品はKindle Paperwhiteと同じく前面ライト機能が搭載されているが、手動での調節に加えて、新たに自動調節機能が追加された。本体正面左上にある照度センサーで明るさを感知し、前面ライトの明るさを自動的に調節するというものだ。
機能そのものは、そう目新しいものではないが、スマートフォンやタブレットにおける同様の機能に比べると、かなりじわじわと変化する。そのため機能をオンにしていても、画面の明るさが変化していることに気付かないほどだ。「明るさを自動調整」にチェックを入れたまま、本体を明るい場所や暗い場所に移動させると、スライダが上下するのがよく分かる。
ちなみに従来の手動調節機能が省かれたわけではなく、チェックボックスを外して従来と同様に手動調節のみで使うこともできるほか、自動調整機能をオンにしたまま手動で調整することもできる。段階は従来と同じく24段階で、インターフェイスも特に変わらない。
しばらく使ってみた限りでは、手動調整のスライダを表示する頻度は確かに減るが、例えば部屋の明かりを消して枕元の照明だけで読書したい場合などは、従来のPaperwhiteのようにスライダを表示して手動で明るさを変更した方が手っ取り早い。「ほんの少し明るくしたい」、「ほんの少し暗くしたい」を助けてくれる機能であり、この機能だけで完結するわけではない。あくまで補助的に使うのがベストだろう。
ただしこれは、使い始めてまだ1週間も経過していない時点での話。この前面ライト自動調節機能は、利用していくうちにユーザーの好みを学習するとのことなので、例えば電車の中ではこの明るさ、就寝前のベッドではこの明るさ、といった具合にシチュエーションごとの「解」を繰り返し与えてやることで、次第いに自動調節の精度が上がってくることが期待される。現時点ではどの程度反映されるか不明だが、もしかすると手動調整のスライダを全く表示せずに済むようになるのかもしれない。というわけで現時点での評価は保留で、しばらく使い込んでみたい。
余談だが、この機能はおそらく、Koboシリーズに搭載されているライトのオン/オフボタンに対抗して実装されたものでないかと思う。Koboシリーズのライトオン/オフボタンであれば、明るさが何段階目なのかを記憶したままライトをつけたり消したりできるので、Kindle Paperwhiteのようにライトをオフにする際にスライダを手動で一番下まで引き下げる必要がなく、また次回オンにする際に、前回の明るさが何段階目だったのか分からなくなることもない。
しかしながら、複数のシチュエーションで端末を使う場合、ライトそのもののオン/オフだけでは機能としては物足りない。それぞれのシチュエーションに合った明るさをプリセットして切り替えられるのがベターだが、これを手動で行なうにはインターフェイスが煩雑になることが予想される。それならばセンサーを搭載して自動調節にし、かつユーザーの好みを学習して最適化も行なう……という考え方で、今回の機能の実装に至ったのではないだろうか。そう考えると極めて合理的な機能であることが分かる。「期待通りの学習効果があれば」というただし書き付きになるが、最上位モデルならではの、一度使うと手放せない機能となることだろう。
手脂やホコリがやや目立ちやすいのはマイナス
以上見てきたように、トータルではほぼベタ褒めといっていい評価なのだが、細かいところではマイナスポイントが皆無というわけではない。使い勝手に大きく影響するわけではないが、ここでまとめて挙げておきたい。
1つは、正面および背面に、手の脂がつきやすいこと。背面については2013年モデルのFire HDXシリーズと同様の滑り止め加工が施されているのだが、それゆえFire HDXシリーズと同じく手の脂がつきやすい。本製品はマイクロエッチング加工で画面の反射が抑えられており、それゆえ画面についた手の脂が気になることはほとんどないのだが、画面の周囲、ベゼル部についた脂は否応なく目立つ。背面においても同様だ。筐体がブラックゆえの問題とも言える。
もう1つ、正面には手の脂だけでなくホコリがつきやすい。拭えば取れるのだが、またすぐに付着する。今回のレビューのように外観写真を連続して撮っていると、まめにブロアーなどで吹き飛ばしてやらないとすぐにホコリが付着し、写真に映り込んでしまう。従来のPaperwhiteに比べてもホコリが付着する頻度が高いので、もしかするとページめくりボタンが帯電して吸い寄せているのかもしれない。
これに関連して、ベゼルとその周囲を保護するバンパーとでも呼ぶべき部品の隙間に、ちょっとしたゴミなどが入り込みやすいのも、使い続けていると気になってくる点だ。ベゼルに付着したホコリを指先で外側に向かって払おうとすると、この隙間に入り込んでしまうことが多々あるので、やや気を使う。うつ伏せに置いた際に画面が直に接地しないようわずかに浮かせるための仕組みだとは思うが、次期モデルではなんらかの改善を期待したいポイントだ。
最後になったが、従来モデル(Kindle Paperwhite)との設定画面の違いについても画像で紹介しておこう。以下、左に本製品、右にKindle Paperwhiteの同じ画面を並べて比較している。新しく追加された機能にまつわる項目が加わっているほかは、ほぼ同等であることが分かる。
価格を許容できるかどうかが唯一の問題
前編後編を通してざっと見てきたが、従来モデルであるKindle Paperwhiteと比べた際の本製品のメリットの合計を100とするならば、画面解像度の向上が50、端末の薄型軽量化が40、ページめくりボタンの追加が10といった配分になるだろうか。
中でもやはり読書体験に大きな影響を与えるのは画面解像度の向上で、コミックが全く違和感なく読める品質は、ユーザーニーズに真正面から応えたものとして評価できる。また、解像度の向上と合わせて端末の薄型軽量化を達成できた意義も果てしなく大きい。
本製品を使ってつくづく思うのは、1年半も前に登場していたKoboの高解像度端末「Kobo Aura HD」を、なぜ楽天は国内に投入しなかったのだろうということだ。確かにE Ink端末の利点を活かせていないと言える厚さと重さの製品であり、賛否が分かれたであろうことは想像できるが、コミックを読むユーザーの間で「コミックを読むならKobo」という評価を定着させる絶好のチャンスだったように思えてならないからだ。
思えば2年前にPaperwhiteが登場した際も、国内で初めて発売されたKindle端末ということで新鮮味があったが、今回の製品は過去のモデルチェンジでコスト的にそぎ落とさざるを得なかった機能(ページめくりボタン)を復活させ、さらにプラスアルファの機能(前面ライト自動調節)を追加するなど、これまでの知見を活かした取捨選択が行なわれた結果の製品で、1つの頂点に達した感が強い。あとはユーザーの側が、最安値で21,480円という価格を許容できるか、論点はこの1つだけと言ってよいだろう。
価格さえ許容できれば最上級の端末を入手できるようになった現在、Kindleに望むのは、購入済みコンテンツの整理を始めとした、管理機能の強化だろう。「未読のコンテンツだけを表示」、「読みかけのコンテンツだけを表示」などの機能があれば、人力での分類を必要とするコレクション機能に比べて、圧倒的に使い勝手は向上するのは確実で、むしろこうした機能がないことが不思議に思える。Kindleの国内立ち上げから丸2年、購入済みコンテンツの数が増えれば増えるほどこれら管理機能の充実が求められるのは明白で、これからはそちらの拡充にも期待したいところだ。