山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ
エプソンの新ドキュメントスキャナ「DS-560」を試す(前編)
~Wi-Fiを搭載した“ScanSnap対抗製品”の基本性能をチェック
(2014/1/14 06:00)
エプソンの「DS-560」は、最大50枚のA4原稿を同時にセットでき、300dpiカラーで毎分26枚の高速読み取りを可能とするドキュメントスキャナだ。同社がコンシューマ向けにリリースしたドキュメントスキャナの新製品2モデルのうち上位に当たる無線LAN対応のモデルであり、同じく無線LANを搭載したPFUの「ScanSnap iX500」と真正面から競合する製品である。
従来モデル「ES-D350」は、最大75枚もの原稿をまとめてセットできることが特徴だったが、家庭用としては巨大なサイズで、かなりの威圧感があった。本製品は同時セット枚数は50枚に減ったが、そのぶん本体もコンパクトになり、コンシューマ用に相応しいサイズに落ち着いた。本製品の発表会では、ScanSnapが圧倒的なシェアを持つドキュメントスキャナ市場において、現在のシェア6%から20%以上を目指すという発言もあったとのことで、本製品にかける同社の意気込みが感じられる。
今回はこの製品について、メーカーから機材を借用できたので、前後編に分けてレビューをお届けする。前編では速度や画質といった基本性能について、後編では無線LANまわりの機能とOCR、読み取りオプションなどについてチェックする。発売前の製品ということで、市販される製品とは若干相違がある可能性があることをあらかじめご了承いただきたい。
ScanSnap iX500とよく似た外観
製品を一見して分かるのは、PFUの「ScanSnap iX500」と外観がそっくりということだ。排紙トレイが折りたたみ式ではなく引き出し式だったり、ScanSnap iX500にはない電源ボタンなどを搭載しているといった相違点はあるが、基本構造やシルエットはそっくりで、兄弟モデルと言われても信じてしまいそうなほどだ。ひとまず写真でチェックしてほしい。
仕様面でも多い類似点
続いてスペックを見ていこう。主な仕様について、ScanSnap iX500と比較したのが以下の表だ。比較しやすいよう、両社独自の表記は差し支えないと思われる範囲で変更している。また細かい測定条件の差や例外事項は記述していない場合があるので、詳細はメーカーサイトで確認してほしい。
メーカー | エプソン | PFU |
---|---|---|
型番 | DS-560 | ScanSnap iX500 |
直販価格 | 44,980円 | 49,800円 |
センサ | CIS×2 | CIS×2 |
読取速度(A4縦、カラー300dpi) | 26枚/分 | 25枚/分 |
最大サイズ | A3(2つ折り) | A3(キャリアシート利用) |
最小サイズ | 52×50.8mm | 50.8×50.8mm |
長尺読取 | 914mmまで | 863mmまで |
同時セット可能枚数 | 50枚 | 50枚 |
接続方法(有線) | USB 2.0 | USB 3.0 |
接続方法(無線) | IEEE802.11b/g/n | IEEE802.11b/g/n |
光学解像度 | 600dpi | 600dpi |
対応OS | Windows、Mac | Windows、Mac |
スマホ対応 | iOS、Android | iOS、Android |
TWAIN | 対応 | 非対応 |
出力ファイル形式 | JPG、PDF、TIFF、Multi-TIFF、BMP(Windows)、PICT(Mac) | JPG、PDF |
特に項目を恣意的にピックアップしたわけではないが、こうして比較すると両製品とも類似点が多いことがよく分かる。そもそも奥に原稿をセットして手前に排出するという構造自体が同じであるわけだが、同時セット可能枚数(50枚)や、搭載センサーがCISである点なども同じだ。また無線が2.4GHz帯のみの対応だったり、最小読み取りサイズがやや大きめ(最近は一辺25mm程度まで読み取れる製品もある)というのも、類似点として挙げられる。さらに44,980円という直販価格も、ScanSnap iX500の実売での価格帯を意識していることが明らかだ。
大きく違う点といえば、TWAINに対応していること、また出力ファイル形式が豊富なことだろう。またこの表にはないが、使い勝手に影響する点として、原稿の分離非分離をレバーで切り替える方式であることや、異なる原稿サイズを重ねて読み取る際に本製品は原稿を中央揃えでセットする必要がある(ScanSnap iX500はランダムでも読み取れる)ことや、重ねて読み取る際は最小サイズがA6までといった細かい違いがある。いっぽう、ScanSnap iX500には標準添付されているAdobe Acrobat Standardが本製品には付属しない点も考慮すべきだろう。
性能面、つまりこの表で言うところの読取速度については、公称値だけでの判断は禁物である。そもそも測定条件が同一でない上、仕上がりの画質によっても評価は変わってくるからだ。以降でじっくりと見ていくことにしよう。
セットアップ手順は一般的。やや甲高い駆動音
セットアップは製品付属のソフトウェアCD-ROMからインストールを実行し、指示に従って本体をUSBケーブルで接続して認識させるという流れで、とくに奇をてらったところはない。なお本稿ではWindowsでの利用を前提にしているので割愛するが、Mac版のソフトウェアは同社サイトからのダウンロードとなり、CD-ROMには収録されていないので注意したい。
さて、同社のドキュメントスキャナは従来からWindows用として、「EPSON Scan」と「Document Capture Pro」という2種類のソフトが添付されている。前者はドライバで、後者はユーティリティと説明されているが、スキャン自体はどちらからでも行なえるのでややこしい。後者は読み取ったデータの編集やクラウドへの転送機能、Office形式への変換、さらにはジョブ設定といった付加機能が主なので、今回は前者の「EPSON Scan」を用いて読み取りテストを行なっていく。使用PCはThinkPad X201s(Windows 7 Pro SP1 32bit、Core i7-620LM(2.00GHz)、メモリ4GB)である。
スキャンの手順は、奥の給紙トレイに原稿をセットしたのち、読取設定を行なって本体のボタンを押す(またはユーティリティ側でスキャンボタンを押す)という、こちらもごく一般的なものだ。読み取った原稿は手前の排紙トレイに排出される。実際の挙動については以下の動画をご覧いただきたいが、駆動音はScanSnap iX500に比べるとやや甲高い。またこの動画にはないが、高解像度で多くの枚数をスキャンすると、途中でスキャンが一時停止することがよくある。
ソフトフォーカス気味で色合いは薄め。青みがやや強い絵作り
まずは読み取ったデータの画質の違いを見ていこう。読取設定は300dpiカラー、傾き補正以外のオプションはすべてオフで、ファイル形式はPDFとする。原稿は「DOS/V Power Report」の最新号(2014年2月号)を裁断し、カラーページと白黒ページを組み合わせた20枚(40面)を使用している。
今回原稿として用いた「DOS/V Power Report」は、光沢紙ではなくかなりザラザラした紙質なので、再現性だけを追求すると色の深みがなくなってしまう(黒100%の部分ですらムラがある)。その点ScanSnap iX500は、紙の素材感を再現するよりも、DTP上で本来意図していた色合いに近づけることを優先しているようで、コントラストが調整されているぶん単体で見ると明らかに見やすく、シャープネスが強いため文字も読みやすい。ただしそれゆえ、元原稿に比べて特定の色が強調されることがある。なかでも赤が強いのは好みが分かれるところだろう。
その点、もとの原稿への忠実さでは本製品のほうが上だが、全体の色合いが薄く感じられる場合も多く、ハーフトーンが飛んでしまうケースも散見される。また白黒のページが青みがかってしまうなど、印刷原稿の再現性を追求していると言うには、得手不得手がありすぎる印象だ。比較対象のScanSnap iX500のシャープネスが強すぎることを差し引いても、ソフトフォーカス気味なのもやや気になる。このあたりは発売前の製品ということで、チューニングが施されることを期待したい。
ところで本製品でスキャンした際にまれに見られるのが、ページの上端や下端の影だ。原稿が傾いた場合だけでなく、真っ直ぐに読み取った場合でも、原稿にしておよそ1~2mmほどの影が下端にできる場合がある。デフォルトの設定では「境界補正」が有効になっており、これをオンにしたままであればこの影は塗りつぶされるのだが、そうなると原稿の四隅に白い帯(デフォルトでは下が3mm、左右上が2mm)ができてしまうので悩ましい。ScanSnap iX500ではまず発生しないだけに、気になるところだ。個人的には「塗りつぶすのではなく切り落とす」という選択肢もほしい。
読取速度は300dpiまで同等、600dpi以上はカラーモードによって違いが出る
続いて速度とファイルサイズ、および画質を比較してみよう。解像度は300/600/1,200dpi(本製品のみ)の3パターン、カラーモードは白黒(モノクロ)、グレー、カラーの3パターンの組み合わせだ。いずれもUSB接続時の値である(Wi-Fi接続時は後述)。なお、いずれも実際の利用環境になるべく近づけるため、スキャナの動作が終わるまでの時間ではなく、端末側で表示されるまで(本製品はフォルダが開くまで、ScanSnap iX500はAcrobatで表示されるまで)の時間を計測している。
DS-560 | ScanSnap iX500 | ||
---|---|---|---|
白黒(モノクロ) | 300dpi | 0分41秒 | 0分45秒 |
600dpi | 1分23秒 | 1分02秒 | |
1,200dpi | 2分23秒 | - | |
グレー | 300dpi | 0分47秒 | 0分54秒 |
600dpi | 1分58秒 | 2分50秒 | |
1,200dpi | 3分10秒 | - | |
カラー | 300dpi | 0分56秒 | 0分54秒 |
600dpi | 3分58秒 | 2分52秒 | |
1,200dpi | 7分23秒 | - |
まず速度については、300dpiであればカラーモードを問わず両者ほぼ互角だが、600dpiではグレーでは本製品が優勢、カラーではScanSnap iX500が優勢となる。本製品はグレーに比べてカラーのほうが読取時間がかかる傾向にあるが、ScanSnap iX500はグレーとカラーの読取速度がほぼ同じなので、そこで逆転現象が発生するというわけだ。
ファイルサイズについては、300dpiだとScanSnap iX500の約半分、600dpiだと3割ほど、本製品のほうが小さくなる。画質の問題もあるのでこれだけでは優劣は判断できないが、少なくとも同じ条件では本製品のほうがコンパクトになる傾向があるようだ。
DS-560 | ScanSnap iX500 | ||
---|---|---|---|
白黒(モノクロ) | 300dpi | 8.2MB | 6.0MB |
600dpi | 25.6MB | 22.7MB | |
1,200dpi | 36.0MB | - | |
グレー | 300dpi | 25.6MB | 43.0MB |
600dpi | 97.5MB | 128.9MB | |
1,200dpi | 277.4MB | - | |
カラー | 300dpi | 23.2MB | 46.3MB |
600dpi | 94.3MB | 136.7MB | |
1,200dpi | 295.5MB | - |
本製品のみ対応している1,200dpiでの読取については、いずれのカラーモードでも600dpiの倍近い時間がかかる。特にカラーは、300dpiでは1分を切るところ、1,200dpiでは7分23秒もかかるので、10枚20面の原稿を読み取るにはあまり実用的ではない。ファイルサイズも300dpiの10倍以上になるほか、傾き補正や文字くっきりなど一部の補正オプションも使用できなくなるので、かなり特殊なニーズと考えたほうがよいだろう。
画質については以下の通りで、ScanSnap iX500は300dpiまでシャープが強く、600dpiでややソフトフォーカス気味になるが、本製品はとくに解像度の違いによるシャープネスの違いは感じられず、普通に滑らかさが上がっていく。明らかに絵作りの傾向が異なる白黒はともかく、600dpiのグレーやカラーでは両者は区別しにくい。1,200dpiは、確かにクオリティは上がっているが、600dpiと劇的に違うかと言われるとそうでもない。
今度は写真で比較してみよう。こちらもやはり本製品はソフトフォーカス気味、ScanSnapは(300dpiでは)シャープ気味である。面白いのは画像上の見出し「バックパネル」のところで、グレースケールで同じ明度の色が隣り合うと、本製品は完全に溶けこむのに対して、ScanSnap iX500はコントラストを調整してきちんと読めるようにしている(ように見える)。なお本製品の1200dpiは、300/600dpiに比べ、色がやや濃く出る傾向があるようだ。
以上、基本機能を一通りチェックした。ScanSnapとはまた異なる絵作りながら、今回試用したUSB接続においては、速度面でもかなりいい勝負をしている印象だ。次回は本製品の目玉機能である、Wi-Fiを経由したPCおよびタブレットからの読み取りや、OCR機能の評価、さらに読み取りオプションについて見て行きたい。