山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ

PFU「ScanSnap SV600」(後編)

〜汎用スキャナとして本以外の用途を考察する

PFU「ScanSnap SV600」
7月12日 発売

価格:オープンプライス(PFUダイレクト価格:59,800円)

 オープンヘッド方式で、非接触・非破壊によるスキャンが行なえるPFUの「ScanSnap SV600」(以下SV600)。本の見開きスキャンの可能性についてチェックした前編に続き、後編である今回はSV600がどのような用途に使えるか、その汎用性について見て行きたい。また、SV600以外のスキャナやカメラで取り込んだデータとの画質も比較する。

ドキュメントスキャナでは不可能だった原稿がスキャン可能

 筆者はここ十数年ほど、過去のさまざまなアナログ資産のデータ化に注力してきている。手持ちのビデオテープのDVD化に始まり、8ミリビデオ、カセットテープ、MDと来て、ここ数年間は本や身の回りの書類といった紙のデータ化が、作業の大きなウェイトを占めている。

 しかし紙は動画や音楽などと違い、サイズや厚みといった条件がバラバラで、汎用的なスキャナが1台あっただけでは対応できないこともしばしばだ。本にしても、今は裁断機を使うことで本格的にデータ化に取り組んでいるが、以前は雑誌を中心に、限られたページだけを細々とフラットベッドスキャナで取り込んでいる状況だった。同じように、未だ手付かずのまま残っている書類は数多く存在する。

 だが今回のSV600があれば、その中のかなりの割合がスムーズにデータ化できる。また、従来型のスキャナでは手間が掛かり過ぎるが故に後回しにしていた書類も、SV600であれば簡単にスキャンが完了できるケースがある(もちろん逆もある。要は適材適所だ)。実際にテストして有用だと感じた例を中心に紹介していこう。

新聞

 新聞は片面がA2サイズなので、上下半分に分ければ、従来のモデルでもそれぞれをキャリアシートに挟んでスキャンが可能だが、これだと折りたたんだ部分で分割線が発生しがちだった。SV600でも1ページを上下半分に分けなくてはいけないことに変わりはないが、中央に分割線が入ることなくスキャンできる。また、インテリジェント・クロッピング機能を使えばマーカーで囲んだエリアだけを取り込むこともできる。

 1つネックになるのは、新聞はどうしてもページが波打ちやすいことだ。本の見開きのように規則性のある歪みなら補正も可能だが、不規則に波打っているとそうもいかない。こうした場合、ガラスや透明なアクリル板が身近にあれば、それを上から載せて平らにしてやることで、良好なスキャン結果が得られる。SV600向けに、原稿を押さえつけるアクリル製ボードがサードパーティによって企画されているそうなので、早期の登場に期待したい。

新聞は上下に分割すれば折りたたむことなくスキャンできる。この写真のように上から透明なアクリル板やガラスなどで押さえれば、紙が波打っていても良好なスキャン結果を得られる
新聞をスキャンする際は、オプションの「裏写りを軽減します」にチェックを入れておくと、驚くほど白くスキャンできるのでお勧めだ。ただし背景の色味が飛んでしまうなど、ページの内容によって向かない場合もあるので確認は必須

名刺

 名刺は従来型のスキャナでも取り込みが可能だが、SV600はマルチクロップ機能が使えるのが特徴だ。これは最大10枚の名刺などをランダムに配置してスキャンを実行すると、名刺の輪郭を検出し、それぞれを1枚の原稿として取り込む機能だ。技術的に興味深いだけでなく、同時に10枚までを一気に取り込めることから、速度面もなかなかのものだ(もちろんソフト側での処理や原稿の交換に別途時間がかかるので、トータルではドキュメントスキャナの方が高速である)。

 ドキュメントスキャナにない利点として、「moo」などのミニ名刺をスキャンできることが挙げられる。従来の名刺の半分ほどのサイズであるミニ名刺は、現行のドキュメントスキャナで対応するのは「ScanSnap S1100」くらいで、ほかは他社製品も含めて最小サイズの制限にひっかかってスキャンできない。SV600であればこうしたミニ名刺も取り込めるので、困っていたユーザーには朗報だ。

 ちなみに複数枚を一括で取り込んでPDF化する場合、そのままスキャンすると全てまとめて1つのPDFになってしまうので、オプションの「設定ページごとにPDFファイルを作ります」にチェックを入れ、枚数を「1」にしておけば、名刺ごとに1つのPDFファイルが生成される。唯一のネックは、両面がある名刺において、表裏を自動的にまとめられないことだろうか。

名刺を最大10枚同時に読み取れる。角度は揃っていなくても自動補正されるが、うまく認識させるためには名刺と名刺の間は15mm以上離す必要がある
オプションの「設定ページごとにPDFファイルを作ります」にチェックを入れ、枚数を「1」にしておけば、名刺1枚ごとにPDFファイルが生成される
【動画】名刺をセットして「Scan」ボタンを押した後、10枚に分割されて保存されるまでの様子。SV600には名刺管理ソフトとして「CardMinder」が付属しているので、最終的にそちらに取り込むことも可能だ

契約書

 ビジネスユースということであれば、契約書のスキャンもお勧めだ。契約書の原本をスキャンして写しを取っておけば、わざわざ原本を保管先のロッカーやキャビネットから取り出さずに参照できるようになるが、ドキュメントスキャナで読み取るには冊子の状態の契約書を解体しなくてはいけないため、現実的ではない。

 SV600であれば、こうした場合も冊子の状態のままスキャンを行なえる。本と違って何十ページものボリュームがあることは(業種にもよるが)少ないはずなので、手でめくってのスキャンも、それに伴う歪みの補正も、それほど手間ではない。割印もそのままの状態でデータ化できるので、法人における本製品の実用的な使い道の1つと言えるだろう。

購入した製品のパッケージ

 購入の記録や買い替え、買い増しのために製品パッケージを撮影して控えておく用途にも便利だ。スマートフォンなどのカメラで撮影するのに比べると、SV600はサイズが大きなパッケージにも対応でき、ピンぼけしにくいのも利点だ。台形がきちんと自動補正されるのもメリットだろう。

レコードジャケット、絵、インスタントフィルムなどにも強みあり

 ここまで紹介した例は、従来型のドキュメントスキャナやフラットベッドスキャナでも工夫したり手間をかければスキャンできなくないものがほとんどだが、SV600でなければ事実上スキャンが不可能な種類の原稿も存在する。具体的には「サイズが収まらない」「厚みがあってフィーダにセットできない」などの条件を持つ原稿がそれだ。例を挙げつつ見ていこう。

LPレコードやLDのジャケット、ライナーノーツ

 いまや一部の専門店を除きめっきり目にする機会の減ったLPレコードだが、中身よりもそのジャケットに愛着があって捨てられないという人は少なからずいることだろう。DVDの登場前に高品質の映像メディアとして高いシェアを誇ったレーザーディスク(LD)にしても同様だ。

 SV600であれば、LPレコードやLDのジャケットもまるごとスキャンできる。極端に厚みのあるLD-BOXなどは端が切れる可能性もあるが、LPレコードのジャケット(315×315mm)で試した限りでは、ある程度の余白がある状態で取り込むことができた。また、付属のライナーノーツなども折ったり裁断したりすることなく、1ページ単位で取り込める。これらメディアがいまだに自宅で多大な保管スペースを取っているという人にお勧めだ(言うまでもないが、著作権上問題のない範囲で)。

LPレコードのジャケットをセットした状態。背景マットの読み取り有効範囲から下が2センチほどはみ出すが、今回試した限りでは問題なく取り込めた。なおジャケットはコート紙であることがほとんどであり、照明を反射するため、室内の照明は消した方がよい(レビュー前編参照)

スケッチブックやクロッキー帳、塗り絵など

 スケッチブックやクロッキー帳などのスキャンにも便利だ。ページをばらすことなくそのままスキャンできるのは、まさに非破壊スキャナの面目躍如といったところだ。絵の具やクレヨン、パステルなど、汚れてしまう画材で描かれた絵を取り込むにも最適なほか、子供の塗り絵や図画工作の作品にも向く。また、同人用途での“スケブ”のコレクションを保存するニーズにも対応できるだろう。

 試した限りで気になったのは、クロッキー帳など、薄い鉛筆や木炭で書かれた線は白く飛びがちなことだ。もともとScanSnapの絵作りの特徴として、薄い線は白く飛ばしてしまう傾向にあり、SV600でもその傾向は変わっていない。オフィスの書類や本を美しくスキャンするにはよいのだが、こうした薄い線は現状ではあきらめざるをえない。読み取りカラーを「白黒」にして濃いめに手動調節することでカバーできる場合もあるが、できればこうした書類を読み取るのに適したモードが新たに欲しいと感じた。

大判のスケッチブックやクロッキー帳も読み取ることができる。綴じ具が手前に来るようにすれば、ページごとにばらすことなくめくりながら取り込める
原稿の線が細く薄い場合には、読み取りカラーを「白黒」にし、オプションの「白黒読み取り時の濃度を調整します」を濃いめに手動調節することで対応できる場合もある

サイン色紙や寄せ書き

 スケッチブックの亜流だが、色紙をデータ化して保存したいというニーズにもぴったりだ。もらったサイン色紙や寄せ書きを、退色する前にまずはスキャンしてデータ化しておき、そのあと壁に飾るというのは賢い使い方だろう。一般的な色紙のサイズは242×273mmと、A4対応のフラットベッドスキャナでははみ出してしまうので、SV600ならではの使い道といえる。

厚みがあってドキュメントスキャナでは読み取れない色紙もそのままスキャンできる。質感を残したければカラーモード、文字をメインにしたければグレーモードがよいだろう

インスタントカメラで撮った写真

 名刺の応用例として、インスタントカメラで撮った写真のデータ化にも便利だ。例えば富士フィルムのインスタントカメラ「チェキ」で用いられているフィルムはほぼ名刺サイズの86×54mmだが、凹凸があるためそのままではドキュメントスキャナではスキャンできない。また滑りやすい素材が災いして、フラットベッドとの相性もよくない。

 SV600であれば、名刺を並べてスキャンするのと同じ要領でこれらインスタントフィルムをスキャンできる。上下左右に設けられた余白部分が幸いして、マルチクロップによる切り抜きも完璧に行なえる。光沢があるため暗い部分のディティールが飛んでしまうのがネックだが、これはフラットベッドスキャナを使った場合にも起こりうる問題なので、割り切るしかないだろう。

インスタントフィルムも複数枚をまとめてスキャンし、マルチクロップで分割して保存できる。解像度はどうしても不足気味になるので、なるべく高めに設定すること

写真のアルバム

 スキャナで写真をデータ化する場合、そのほとんどは写真1枚ずつのデータ化だろう。もっとも、ずっとアルバムの状態で保存してきた写真を剥がして1枚ずつスキャンするとなると、写真の横にメモなどが書かれていても省かなくてはいけないし、アルバムのレイアウトも失われてしまう。

 その点SV600であれば、写真を1枚ずつスキャンするのではなく、アルバムのページ単位でスキャンが可能だ。見た目がそのままの状態でデータ化して残せるので、劣化対策や災害対策としても有用だ。その上でアルバム自体も処分したければ、写真1枚ずつをスキャンするという2段構えもよいだろう。

写真のアルバムはLPレコードのジャケットなどとほぼ等しいサイズで、読み取り可能範囲にぎりぎり収まる。なお透明のフィルムで覆われている場合はめくった状態でスキャンするか、部屋の照明を消すことにより、反射を防ぐことができる

額装された油絵など

 たとえ額装された絵であっても、規定サイズ内であればSV600でそのままスキャンできる。正面からフラッシュを炊いて撮影すると反射しやすい油絵も、斜め上方からLED光を照射するSV600であればうまくスキャンできる可能性がある(もちろん逆の可能性もある)ので、写真ではうまく撮れない場合に、SV600でのスキャンを試してみる価値はある。現物でのテストはしていないが、油絵のキャンバスで言うとF6サイズ(410×318mm)まではおそらく大丈夫なはずだ。

従来タイプより画質はぼけ気味だが、スマホとは比較にならない

 最後になったが、前編で触れられなかった画質比較についてもまとめておこう。SV600でスキャンした場合、ほかのデバイスで取り込むのに比べて画質はどのくらい違うのだろうか。過去の電子書籍関連のレビューでもサンプルとして使用している、うめ氏の「大東京トイボックス」1巻について今回も使用許可をもらったので、こちらの画質を比較してみたい。

 まずは従来型のドキュメントスキャナとの比較。今回は素材の関係で、現行モデルのiX500ではなく、1つ前のモデルである「ScanSnap S1500」(以下S1500)を比較対象として用いている。両機種共にカラーモードはグレー、解像度はスーパーファイン(300dpi)で取り込んでいる。S1500はまったくの無補正、SV600はブック補正で歪みを直している。言うまでもないがS1500は単行本を裁断して読み込ませたものだ。

見開きでの比較。上がSV600、下がS1500。SV600が左右に引き伸ばされ気味であることがよく分かる
部分ズーム。上がSV600、下がS1500。色味の違い、およびシャープネスのかかり具合の違いが顕著だ

 これを見る限り、SV600が全体的にぼけているのに対してS1500は強めのシャープがかかっていることが分かる。SV600はその構造上、ページの上端と下端とではヘッド部からの距離も異なるわけで、原稿を密着させてセンサーから等距離で読み取るS1500と同レベルのシャープさになることは、さすがに考えにくい。ましてや今回はブック補正で歪みを直しているので、なおさらである。

 ただ、S1500はシャープが強すぎる影響でモアレが出ているので、むしろSV600の絵作りの方が読みやすいと感じる人もいそうだ。また、SV600に比べてS1500はコントラストがはっきりしている。黒がかなり濃く出るため、見るデバイスによっては暗い部分のディティールがつぶれてしまう可能性もあり、こちらについても好みは分かれそうだ。ただ、電子書籍として配信されているデータの絵作りに近いのはやはりS1500であり、オリジナルと縦横比率が近いことを考慮しても、やはりS1500などのドキュメントスキャナで取り込むのが王道ということになるだろう。

 もっとも、比較対象がスマートフォンで撮影した画像になると、さすがにSV600のクオリティは次元が違うことを感じさせられる。スマホで本のページを撮影すると、ページの一部分にしかピントが合わなかったり、上から覆いかぶさって撮ることで影ができてしまうこともしばしばだが、SV600ではそうした心配は皆無であり、それが絵作りにはっきりと現れる。以下は、同じページをiPhone 4Sで撮影し、アプリ「CamScanner+」で台形補正して出力したPDFとの比較だ。

見開きでの比較。上がSV600、下がiPhone 4S×CamScanner+。下は折り目がつかない程度に平らにし、左右のページを分けて撮影したものを見開きで並べているが、本の反りはどうしても残る
部分ズーム。上がSV600、下がiPhone 4S×CamScanner+。色味の違い、およびシャープネスのかかり具合の違いが顕著だ

 さきほどのS1500との比較に比べると、品質の差は歴然だ。もちろんスマホ本体やカメラアプリを吟味したり、照明などの撮影環境をきちんと整えればクオリティは向上するはずだが、SV600は輪郭の補正についてもたんなる台形補正だけではなく、本の輪郭に沿ったブック補正が行なえる強みもある。現状では本製品並みのクオリティをスマホで実現するのはかなり難しいということになるだろう。

 ちなみにScanSnapの読み取りモードで最高画質であるエクセレントモードは、従来製品では読み取り速度が大幅に遅かったため、それより1段階下、スーパーファインモードに固定していた人も多いと思われる。しかし今回のSV600は、ヘッドが読み取るスピードそのものはスーパーファインもエクセレントも変わらないので、エクセレントモードも試してみる価値はある。もちろん容量は増えるほか、取り込み後の処理に要する時間も延びてしまうが、少しでも画質を上げたい人は選択肢の1つとして考慮してみてもよさそうだ。

スキャナ初心者から従来製品のユーザまで幅広く勧められる製品

 前回レビューしたように、本の見開きスキャンに関しての筆者の結論は「ページ数が50ページ以下か、あるいは補正を行なわないのであればありだが、ページが多い本を1冊まるごとスキャンしたり、またページごとに個別に補正するのは非現実的」というものだった。裁断してのスキャンに慣れてしまっているせいもあるが、手間と時間以外に品質面でも、やや物足りなさを感じてしまう。

 ただ今回見てきたように、それ以外の用途をひっくるめての汎用性の高さはかなりのものだ。オフィスで使用する書類はおおむねA4が基準である場合が多いが、家庭内はそうではない。A3までの読み取りが可能なSV600に慣れてしまうと、むしろ家庭でメインで導入すべきスキャナは、静音性なども考慮して、従来型よりもこちらであるような気さえする。そのうえで、本の自炊などを積極的に行なうユーザーであれば、従来型を追加するというのが、賢い選択ではないだろうか。

 SV600に今後求められるのは、ソフトウェア面では指を消去できる「ポイントレタッチ機能」の半自動化だろう。検出率はきわめて優秀なのだが、手動であるがゆえ補正に時間がかかる要因になるという、実にもったいない印象だ。多少強引でも、おおむねこの座標にこのように指を置けば自動的に消えるという仕組みがあってほしい。原稿を上から押さえつけるボードの登場でポイントレタッチの必要そのものが薄まれば問題にならなくなる可能性はあるが、使われなくなるにはもったいない機能なので、ぜひさらなる進化を期待したい。

 ハードウェアに関しては、新しく登場したジャンルの製品にありがちな不安定さはまったくなく、改善を必要とされる箇所が見当たらない。そうした意味で次期モデルは改善ではなく、機能追加が1つのポイントになるだろう。iX500ですでに実現されているスマホ/タブレットからの直接読み取りの実現がその最右翼となりそうだが、こうした機能の搭載を待って買い控えるのが正しい選択とは思えない。これまで家庭用にスキャナを保有していなかったユーザーはもちろん、従来のiX500やS1500でスキャンできなかった書類を一気にデータ化してしまえることから、従来製品のユーザーにも、幅広くお勧めできる製品といえそうだ。

(山口 真弘)