山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ

東芝「BookPlace MONO」

~コンテンツセットで9,800円から買える6型E Ink端末

東芝「BookPlace MONO」
発売中

価格:9,800円~(期間限定価格)

 東芝の「BookPlace MONO」は、同社が運営する電子書籍ストア「BookPlace Cloud Innovations」専用となる、6型のE Ink電子ペーパーを採用した電子書籍端末だ。端末代が実質無料となる「おとな買い得セット」が用意されており、もっとも安価な「名作どれでも1セット+東芝電子書籍リーダー」だと、約10~20点の電子書籍に端末をプラスしたセットが、期間限定ながら9,800円という特別価格で提供される。

 同社はこれまで、BookLive!と同じシステムおよびラインナップを持つ電子書籍ストア「BookPlace powered by BookLive!」を運営し、専用のカラー液晶タブレット「BookPlace DB50」を販売してきた。このたび自社運営のストアとして新たに「BookPlace Cloud Innovations(以下BookPlace)」を立ち上げ、従来のストアは「BookLive! for Toshiba」と改名してBookLive!傘下とした。

 と、書くと横文字だらけで混乱するが、まとめると

・自社オリジナルの電子書籍ストアを新規に立ち上げた
・これまで運営していたストアはOEM元のBookLive!に任せることにした

という図式になる。ちなみに両者に互換性はないが、従来のストアはBookLive!を引き続き利用でき、BookPlaceから購入済み書籍を再ダウンロードすることもできるので、データの引き継ぎが行なえなくなった楽天Rabooのケースとはまったく異なる。

 そして今回、同社オリジナルの電子書籍ストア向けの端末として発表されたのが、本稿で紹介する「BookPlace MONO」である。Android 2.3.4をベースとし、CPUにFreescale i.MX508(800MHz)を搭載した端末だ。カラータブレットではなく、Amazonの「Kindle Paperwhite」、楽天「kobo glo」、BookLive!の「Lideo」などと同じくE Ink採用の読書専用端末である。

左が本製品、右が従来の「BookPlace DB50」。右上と右下の角が丸くなったデザインは共通している。どちらもBookPlaceブランドを冠しているが、対応ストアは左が「BookPlace Cloud Innovations」、右が「BookLive! for Toshiba(旧BookPlace powered by BookLive!)」であり互換性はない

ハードウェアは平均的。強いて挙げれば容量が強み

 まずは競合製品とハードウェアを比較するところから始めよう。

【表】他機種比較

BookPlace MONOKindle Paperwhitekobo gloBookLive!Reader LideoPRS-T2

東芝Amazon楽天ブックライブソニー
サイズ(幅×奥行き×高さ、最厚部)110×170×9.5~9.9mm117×169×9.1mm114×157×10mm110×165×9.4mm110×173.3×10.0mm
重量約180g約213g約185g約170g約164g
解像度/画面サイズ758×1,024ドット/6型758×1,024ドット/6型758×1,024ドット/6型600×800ドット/6型600×800ドット/6型
ディスプレイモノクロ16階調 E Ink電子ペーパーモノクロ16階調 E Ink電子ペーパーモノクロ16階調 E Ink電子ペーパーモノクロ16階調 E Ink電子ペーパーモノクロ16階調 E Ink電子ペーパー
通信方式IEEE 802.11b/g/nIEEE 802.11b/g/nIEEE 802.11b/g/nIEEE 802.11b/g/n、WiMAXIEEE 802.11b/g/n
内蔵ストレージ約4GB(ユーザー使用可能領域:約2.8GB)約2GB(ユーザー使用可能領域:約1.25GB)約2GB(ユーザー使用可能領域:約1GB)4GB約2GB(ユーザー使用可能領域:約1.3GB)
メモリカードスロットmicroSD-microSD-microSD
内蔵ライト---
バッテリ持続時間(メーカー公称値)約8,000ページ8週間(Wi-Fiオフ)約1カ月、約30,000ページ(Wi-Fiオフ)約1カ月約30,000ページ、最長2カ月(Wi-Fiオフ、1日30分読書時)、最長1.5カ月(Wi-Fiオン)
電子書籍ストアBookPlace Cloud InnovationsKindleストアkoboイーブックストアBookLive!Reader Store、紀伊國屋書店BookWeb
価格(2013年4月16日現在)9,800円※7,980円7,980円8,480円9,980円
その他(※コンテンツとのセット価格。5月10日12:00以降は13,900円)3Gモデルも存在


 現在国内で流通している6型のE Ink電子ペーパー端末のうち、ソニー「PRS-T2」とBookLive!Reader Lideo、楽天「kobo Touch」はいずれも解像度が600×800ドットであり、発売時期はともかく、ハードウェアの世代的には1つ古い印象だ。758×1,024ドットの解像度を持つ本製品と競合するのは、AmazonのKindle Paperwhiteと、楽天のkobo gloの2製品ということになる。

 この2製品と比較した場合に長所となるのは、内蔵ストレージの容量が4GBと大きいことと、本体が比較的軽量であること。microSDに対応するのはメリットに見えるが、kobo gloのように大容量のコミックを多数保存すると操作性が実用レベル以下まで落ちる場合もあるので、一概に長所とは言い難い(今回は未検証)。一方で短所となるのがフロントライトを内蔵しないことと、電池の持ちが公称8,000ページと、30,000ページクラスの他製品に比べて短く見えることだ。

 以上が主な相違点となるが、大雑把に言ってしまえば「フロントライトのないkobo glo」という表現がしっくりくる。画期的な特徴こそないものの、致命的な欠点も見当たらない。強いて挙げれば容量の大きさが強みといったところだろうか。実際に使ってみてこのスペック通りの性能であれば、あとはストアの品揃えや価格がポイントということになるだろう。

基本的な操作は全てタッチスクリーンで行なうが、ホームボタンのみ物理ボタンとして画面下部に用意されている。周囲はラバー素材で覆われており、親指などで支えやすい
本体底面にはストラップホール、イヤフォンジャック、電源ボタン、Micro USBポートを備える。昨今のE Ink端末は音声出力が省かれつつあるので、イヤフォンジャックを実装したE Ink端末はいまとなってはレアだ
左側面下のカバーを外すとmicroSDスロットがある。隣にはSIMカードを挿せそうなスロットがあるが塞がれている
裏側はすっきりしたデザイン。持ちやすいが、平らなデスク上に置くと滑りやすい
スクリーンの段差はそこそこあるが、koboのように鋭角的にカットされているわけではないので、使っていてそれほど気にならない。隅をタップしてしおりを挟む機能がないのも、段差が気にならない一因かもしれない
左から、本製品、Kindle Paperwhite、kobo glo。フロントライトを消灯し、フォントサイズをほぼ同じに揃えている。このフォントサイズでは特に品質の違いは感じられない
左から、本製品、BookLive!Reader Lideo、PRS-T2。もともと黒が濃いLideoと並べると薄く見えるが、特に濃度が不足しているといったこともない
厚みの比較。左が本製品、右がKindle Paperwhite。本製品の方がやや厚いが、軽量なこともありそれほど差は感じない。むしろ本製品の方が薄いように錯覚してしまうほどだ

セットアップ手順は一般的。ホーム画面は未ダウンロードの本も全表示

 開封して本体を手にとってまず感じるのは、とにかく軽いということだ。公称値では本製品よりも軽いソニーPRS-T2やBookLive!Reader Lideoと持ち比べても、本製品の方が軽く感じられるのは、筐体のプラスチック感が強いせいだろうか。裏を返せば高級感はないのだが、まあこの手の端末に高級感を求める必要は特にないだろう。

 セットアップについては、電源を投入して使用許諾契約に同意したのち、Wi-Fiおよび日時を設定、会員メールアドレスとパスワードを入れてサインインする。PCは必要なく、本製品のみでセットアップが完結する。操作はタップを中心に、文字入力はソフトキーボードから行なう。

 会員登録がまだの場合は、上記のプロセスの途中で会員登録を行なうことになる。必要な情報はメールアドレスとパスワード、生年月日、性別の4つで、名前や住所は必要ない。また支払いに使うクレジットカードはこの時点では登録せず、初回の購入時に登録する。

まずはフィルムを剥がして電源を投入。最初に使用許諾契約に同意する
Wi-Fi設定。手動設定のほかWPSによる自動設定にも対応。MACアドレスが表示されているのは、フィルタリング設定を行なっている人にとっては親切な設計だ
日付と時刻の設定。チェックを入れてそのまま進む
会員メールアドレスとパスワードを入れてログインすればホーム画面が表示される。未登録であれば下段の「新規会員登録」をタップして登録画面を開く
新規会員登録画面。必要な情報はメールアドレスとパスワード、生年月日、性別の4つ
アップデートの確認画面。試用時点のOSバージョンは“2.3.4.5.0029.02”。なお本稿執筆後に“0033.02”がリリースされている
セットアップが完了するとホーム画面が表示される。この時点ではまだ本は購入していないので表示されているのはプリインストールのマニュアルのみ
設定画面。Androidの面影が残る
空き容量はセットアップ直後が2.59GBとなっている。Kindle Paperwhiteやkobo gloからするとおよそ2倍の容量がある
デフォルトでは5分経過時にスリープモードとなり画面がスクリーンセーバーに変化する。なおこの際Wi-Fiは連動してオフになる

 セットアップが完了して起動するとホーム画面が表示される。外見はよくある本棚形式の一覧で、リスト表示に切り替えることもできる。本棚は複数作成することができるので、用途別に本棚を作って分けられるほか、端末間で本棚を同期することもできる。

 ちなみにこの本棚は、端末内にデータがダウンロード済みか否かに関わらず、購入済みの全ての本が表示される。Kindleに例えると「クラウド」に相当しており、タップした際にデータがダウンロード済みであればそのまま開かれるし、そうでなければダウンロードが開始される。ダウンロード済みか否かはアイコンで判別することもできる。

 以上、セットアップしてホーム画面を表示するまでのプロセスは、特に難解なところもない。Lideoのように通信回線のセットアップが不要な端末に比べるとステップ数は多いが、許容範囲であり、PCレスできちんと完結しているのも評価できる。

 またE Inkのクオリティも悪くなく、黒もしっかり出るほか、Lideoのように全体的に濃くグラデーションがつぶれてしまっていることもなく、紙に近い自然な表示品質に見える。ただ、フォントサイズを小さくすると明朝体の横棒が欠けるなど、解像度とのマッチングという点ではいま一歩だ。これについては後述する。

ストアの検索性に問題あり、新しい本との出会いが困難

 続いてストアからの購入プロセスについて見ていこう。ストアについては、ホーム画面の左下にあるアイコンをタップすることでアクセスできる。従来のBookPlace DB50にも言えることだが、ストアのアイコンがあまりストアらしくないので最初は戸惑う。使い慣れるしかないだろう。

 ストアトップページの画面構成は、上段におすすめコンテンツが並び、中段以下に「新着」「ジャンル別」「特集」「ランキング」などが並ぶ。一部のコミックコンテンツを集めた「まとめ買い」もあるが数は多くなく、あまり有用とはいえない。ボタンは立体的なデザインで、画面そのものはソニーのReader Storeによく似ている印象だ。

ホーム画面の左下にあるアイコンをタップしてストアにアクセスする。ストアであることがやや分かりにくい
ストアトップページ。上段のサムネイルは左右のボタンをタップするとスクロールするように見えて、実際にはページ全体を再描画するので、ややわずらわしい
著者名検索の画面。著者名の頭文字を五十音でタップすると一覧が表示される。著者が多い音だと10ページ以上めくらなくてはいけない場合もある
著者名がリストに載っているにも関わらず検索結果ゼロという不思議なケースも散見される。ストアのラインナップと著者名のデータベースが一致していないようだ
ジャンル検索。この階層でコミックが複数に分かれているケースは珍しいが、コミックのラインナップが多いことを考慮すると実用的な分け方ではある
これは「少年・青年コミック」だが、ジャンルごとに細分化されておりむしろ探しにくい。まだ掲載誌別の方が有用だろう
一覧画面。書影上のアイコンは試し読みが可能なことを表している。タイトルが長い作品ではテキストの末尾が切れてしまい、巻数の見分けがつかないこともしばしば
まとめ買い専用のコンテンツも用意されているが、下段の3分の1ページという表示から分かるように、数はそれほど多くはない
総合ランキング。全てコミックで埋め尽くされており、タブをコミックに切り替えても同じ内容が表示されるなど実用性はいまいちで、件数もわずか上位10件のみ。試用期間中、対象期間が4月4日のままずっと変わらなかったので、正常に機能していない可能性もある

 実際に本を探そうとして気になるのは、検索軸の少なさと検索機能の不親切だ。例えばジャンル検索で「少年・青年コミック」カテゴリをタップすると、Kindleであればその時点でタイトル一覧がずらりと表示されるが、本製品ではさらに細分化された「4コマ」「学園」「SF・ファンタジー」といった小分類が表示される。

 これがせめて掲載誌別に分類されていればまだ探せるのだが、どの作品がどこに分類されているか分からないこの小分類は、目的の本をかえって探しにくくしている。たとえ具体的な作品名がないまま見て回る場合でも「ギャグ・コメディでなにか面白そうな作品を探そう」と思い立って検索する機会は、あまりないように思える。ランキングやレコメンドを充実させる方が得策だろう。

 また、ジャンルや著者名から選んでいった場合にソートできず、五十音順に並んだタイトルを延々とめくる羽目になったり、著者名での検索が頭文字1文字にしか対応していないので、著者によっては五十音順の著者リストを10ページ以上もめくらなくてはいけなかったりと、過去の端末でもよくみられた問題点がここでも見られる。ジャンルを選んだあとにキーワードを入れて絞り込もうとするとオールジャンルが対象になってしまうのも問題だ。

 この検索軸の少なさと検索機能の不親切さのおかげで、何か本を買おうと思っても偶然面白そうな本が見つかるという出会いがほとんどない。今回の試用時も、まずは何か買ってみようといろいろ探そうとしたが、すぐに挫折してしまった。他社ストアと比較してもかなり深刻である。

 気を取り直してランキングからめぼしい作品を探そうとしても、表示されているのは総合、コミック、書籍それぞれの上位わずか10位までで、しかも総合ランキングはコミックで埋め尽くされていて、コミックのランキングとまったく同じという状況だ。青空文庫も用意されているが、青空文庫だけを一発で呼び出す方法が見当たらず、キーワード検索するしかないのもネックだ。ことストアに関しては、改善点は山積みといえるだろう。

 余談だが、現時点でこのBookPlaceから本を買うには専用端末、もしくはタブレットを用いるしかなく、PCから購入ができない。競合他社にあまりない仕様で、「PCで探して購入しておき、デバイスで開く」という使い方をしている人にとっては、実際の利用時にネックになることもありそうだ。

購入プロセスはごく一般的。ダウンロードは手動実行

 続いて購入プロセスを見ていこう。購入プロセスはごく一般的で、カートに入れて決済フローに進み、完了するとホーム画面にサムネイルが表示されるというもの。Kindleやkoboのような1冊ずつの購入ではなく、複数の本をまとめて購入できる。ただし国内メーカーに多く見られる、決済フローの前にパスワード入力を必須とする仕様のため、手順がやや冗長な感は否めない。

 分かりにくいのは、購入完了後にホーム画面に表示される本のサムネイルはただのショートカットであり、これをさらにタップして手動でダウンロードしなくてはいけないことだ。多くのサイトでは、購入完了→ホーム画面に戻る→本のダウンロードが完了してサムネイルが表示されている→タップして開く、となるわけだが、本製品ではさらにワンアクション必要になるわけだ。

 これは「ホーム画面は全ての本が並ぶ棚であり、ダウンロードされているかは無関係」であることを理解すれば納得できるのだが、購入した直後、さらにそれが複数冊ではなく1冊の場合くらいは自動的にダウンロードさせてもよいと思う。「すぐにダウンロードしますか」と尋ねることさえしないのは、さすがに不親切な感がある。ちなみに説明書によると、本によっては購入時にダウンロードできる場合があるとのことだが、同じ操作で異なる挙動というのはなおさら混乱しそうだ。

今回はキーワードで本を検索。この画面から直接カートに追加することはできず、いったん「詳細」をタップして詳細ページを開く必要がある
詳細ページ。評価やレビューなどはなく簡素な作り。このページの下部にシリーズ作品が表示される場合もある。ここからカートに追加する。キープすることも可能
カート内を参照した状態。さきほどの検索画面と見た目の違いがなく、ページを戻ったのかと錯覚しがち。複数冊を同時に購入することもできるが、今回はこのまま「購入に進む」を押して決済プロセスへと進む
パスワードの入力を要求される。国内ストアによくある仕様だが、専用端末においてはやや冗長な感がある
本の内容およびポイント利用の有無を確認したのち、初回のみここでクレジットカード番号を入力する。2回目からは登録済みのどのクレジットカードを使うかを確認する画面になる
内容を確認して「購入」ボタンを押すと決済が完了する
ホーム画面にサムネイルが表示されたが、この時点ではまだダウンロードが行なわれておらず、手動でダウンロードを実行する必要がある。複数冊ならまだしも1冊の時もこれなのでわずらわしい
ダウンロード実行中。完了すればタップして読めるようになる。ちなみにコンテンツは5台までダウンロードできるとされている
コンテンツによっては、ダウンロードを完了したつもりがまだ完全に読み込まれておらず、先のページにジャンプするとこのような表示が出る場合も。ダウンロードの完了前に読み始められるのは便利ではあるが、少々面食らう
Myページ内にある購入履歴からダウンロードすることも可能だ

 ただし、マルチデバイス間の同期機能はなかなか秀逸だ。本ストアはこの専用端末のほかにiOSアプリおよびAndroidアプリも用意されているが、本の既読位置が相互に同期できるのはもちろん、分類のための本棚についても同期できる。Kindleの場合、本棚に相当する「コレクション」は未だにE Ink系の端末しかサポートしておらず、同期にも対応していないが、本製品は本棚もまるごと同期できるので管理が容易だ。

 ただ前述のように、ホーム画面は全ての本が表示されるので、冊数が増えると探しにくくなることが予想される。ダウンロード済みの本だけを自動表示する本棚も用意してほしいところだ。

 このほか、ストアのどのページを開いていたかを記憶していて、ストアボタンを押すとストアトップページを表示するのではなく、直前の画面を表示してくれるのも便利だ。同じボタンでありながら押した際に表示されるページが違うのはユーザービリティ的にはマイナスだが、ストア内の深い階層まで進んでから離脱した場合などは、いちいちストアのトップページから探し直す必要がないため、慣れてしまえばメリットの方が上回る。従来モデルのBookPlace DB50にあった「1つ前の画面に戻るボタン」の延長で、同社なりの工夫が活かされていると感じる。

 また、これと近いコンセプトでもう1つ便利なのが、ホームボタンを長押しすることで、直前まで読んでいたページを表示できる機能だ。本を読んでいる途中でホーム画面に戻っても、ストアに立ち寄っても、あるいは設定画面に移動しても、ホームボタンを長押しさえすれば元のページに戻って来ることができるのだ。実際に使ってみると分かるが、たいへん便利な機能であり、一度使うと手放せなくなる。ホームボタンをハードウェアキーで実装しているが故のメリットだが、他社製品にもぜひ欲しい機能だ。

ページめくりのレスポンスは高速ながら、そのほかの動作速度がマイナス

 続いてビューワの使い勝手について見ていこう。

 ページめくりはタップおよびフリックの両方に対応する。設定画面などを表示するためには画面の中央をタップする。このあたりの操作方法は一般的で、動作もきびきびとしているのでストレスが溜まらない。特にコミックのページめくりは、Kindle Paperwhiteと比較してもレスポンスが高速で、サクサクとめくれるのが心地よい。タップしたはずが反応しないといった空振りも見られない。

 ただ、ホーム画面から本を開くのに30秒近く待たされる場合があるほか、文字サイズを変更した際もページ数の再計算を行なっているのか、相当待たされることがある。数秒で済む場合もあるにはあるが、どちらかというとレアケースである。今回試した限りでは「普通に本を読む操作はKindle以上にスムーズだが、本を開いたり設定を変更したりといった動作はかなり遅い」という結論になる。詳細は動画を参照してほしい。

【動画】電源を投入してホーム画面から青空文庫を開き、ページをめくったあと文字サイズの変更を行ない、再びホーム画面に戻るまでの様子。ページめくりの動作自体は高速で空振りもないのだが、本を開く時と文字サイズ変更後にそれぞれ30秒近く待たされることがある
【動画】テキスト書籍について、タップおよびフリックによるページめくりを、Kindle Paperwhite(右)と比較している様子。どちらもスムーズにめくれており、空振りも見られない
【動画】コミック(講談社「ストーリー311」)について、タップおよびフリックによるページめくりを、Kindle Paperwhite(右)と比較している様子。ページがめくられるまでの反応は本製品の方が明らかに速く快適だ

 フォントについては明朝とゴシックが用意されており、いずれもサイズを5段階で変更できる。ただし明朝については「極小」、「小」だと横棒がかすれた状態になり、かなり読みにくい。ゴシックだと極小にしても問題ないことからして、画面解像度との相性がよくないようだ。文字サイズをほぼ同じにしたKindle Paperwhiteと比べると細部のディティールの差が一目瞭然で、せっかくの高解像度がマイナスに作用している格好だ。

 ページめくり時に使用するタップの幅を変更したり、リフレッシュレートをなし/5/10/15/毎回から選ぶ機能も用意されている。これらはテキストとコミックで別々に設定できるので、「テキストは15ページごと、コミックは5ページごとにリフレッシュ」という細かな設定も可能だ。他社端末ではあまり見られない便利な仕様である。ただし行間や余白を変更する機能はないので、一長一短である。

 なおコミックについては、他社のE Ink端末によくある、拡大倍率を保ったままページをめくったり、あるいは右上→左上→右下→左下と順にスクロールする機能はない。ダブルタップしたエリアを中心に拡大するだけだ。また余白を調整する機能もなく、カスタマイズ性はそれほど高くない。

読書画面。ほかのE Ink端末に比べると周囲の余白が狭いのが特徴。行間や余白を変える機能はない
画面中央をタップすると進捗バーのほか、ツールバーが下部に表示される。ツールバーのアイコンは、左がしおり、中央が設定、右が目次。しおり機能はメモも記入できる
設定画面。本とコミックで別々に設定画面が用意されている。これは本の設定画面
文字サイズは5段階とやや少ない。また明朝体では、サイズを小または極小にすると横棒がかすれがち
文字サイズを極小にした状態(左)と、フロントライト消灯状態のKindle Paperwhiteで文字サイズをほぼ同じにした状態(右)の比較。コントラストは本製品の方がくっきりしているが、本製品は漢字の「言」やふりがながかすれてしまっており非常に読みにくい。このあたりの特性はkobo miniと酷似している
フォントは明朝およびゴシックから指定できる。なお前述の横棒のかすれは明朝に特有で、ゴシックでは発生しない
ページめくり時に使用するタップの幅を変更できる
リフレッシュ設定はなし/5/10/15/毎回から選択する。「なし」と「毎回」の並び順が逆だと感じるのは筆者だけだろうか
こちらはコミックの設定画面。ページめくり時のタップ幅の変更と、リフレッシュレートの設定のみが可能
ホーム画面上でしおりの色が黒であれば「読了」、白であれば「読みかけ」と見分けることができる。ちなみにここでいう読了とは最終ページを表示している状態を指し、読み終えても最終ページ以外を表示した状態で閉じると白のまま残ることになる

 本の最終ページまで到達すると「続きを読む」もしくは「ビューワを閉じる」の選択肢が表示される。「続きを読む」は、次巻がすでに購入済みであればすぐに開かれ、そうでない場合はストア上の次巻の詳細ページが開く。次巻を買わせる導線はKindleやBookLive!など、ほかのストアでもおなじみだが、すでに購入済みの次巻を開いてくれるという配慮はありがたい。

 また今回試用した中では実際に確認できなかったのだが、最終ページではこの2択に加えて、アンケートに答えたり、ファンレターを送る機能も用意されているとのこと。ほかのストアではあまり見られないユニークな機能だ。ただし読了時に評価をつけたり、レビューを投稿する機能はなく、不満を感じる人もいるだろう。

 ちなみに購入前に試し読みをする「立ち読み機能」も用意されているが、立ち読み可能な最終ページに到達してもなんのメッセージも表示されず、本を閉じるしか選択肢がない。立ち読みで気に入っても、購入するためにはわざわざ検索し直さなくてはいけないわけだ。立ち読み版を3冊ほど試してどれも同じ挙動だったので、たまたまというわけではないようだ。みすみす売り時を逃してしまっている格好で、作り込みがまだまだ甘いという印象を受ける。

 なおストアの具体的な冊数は公表されていないが、ざっと検索した限りではせいぜい数万冊程度ではないかと思う。筆者の過去の電子書籍端末レビューでは、購入テストは主に筒井康隆氏の作品を用い、コミックの表示サンプルはうめ氏の「大東京トイボックス」を都度許諾をもらって使っているが、本ストアは試用時点で筒井康隆氏の作品はゼロ、うめ氏は共著である「ストーリー311」1冊のみという有様である。プレスリリースには今年夏には約10万冊を取り揃えると記されているが、あくまでも予定ということで未知数である。現時点では、ラインナップを基準に電子書籍サイトを選んでいった場合、候補に残るのは難しいように感じられる。

トッププレーヤーに打ち勝つ方向を目指すか否かという問題

 以上ざっとレビューをお届けしたわけだが、今回のように後発で登場した電子書籍端末およびストアをレビューするとなると、どうしてもKindleなどのトッププレーヤーと比較して優劣を論じてしまいがちだ。ただ、実際に本製品およびストアを使ってみた限りでは、そもそもトッププレーヤーに打ち勝つことを目指していないのではないかという印象は強い。

 今回、旧BookPlaceのシステムを入れ替えるという手間をかけてまで新しくストアを立ち上げた点には同社の本気度を感じるが、Kindleなどほかのストアと真正面から戦ってユーザーを獲得し、高いシェアを取ることが目的であるようには見えない。もちろん対外的にはそうしたスタンスかもしれないが、本当の目的は「自社製品のユーザーが他社の電子書籍サービスに流出するのを防ぐこと」であり、そのためには使い勝手や蔵書数が一定のレベルに達していればよいという、そうした割り切りがあるのではないか。今回試用してそれを強く感じた。

 仮にそうした前提に立って見ていくと、カジュアルなレベルで電子書籍を始めるにはそう悪い選択肢ではない、というのが試用した上での筆者の感想だ。koboですら9カ月かかったiOSアプリをサービスイン時点ですでに用意しているなどマルチデバイス対応にも注力しているし、本棚ごと同期も可能だ。検索性は高いとは言えずストア側の改善が必須だが、システムそのものが破綻しているかというとそうではない。最大の問題は品揃えだが、今回の安価なセット販売がそれを(少なくとも当面の間は)カバーするための施策と考えれば納得がいく。

BookPlaceのiOSアプリ(左、iPad miniで表示)と、Androidアプリ(右、Xperia acro HDで表示)。専用端末と違って下部の「本棚」などのアイコンにラベルがあるなど分かりやすい

 つまり、Kindleなど先行する各ストアおよび端末と比較して選んでもらうのは厳しいものの、同社のPCやタブレットを購入した際にアプリがプリインストールされていてすぐに使えるとか、クーポンやセット販売による価格訴求といった動機があれば、「わざわざ他社ストアのアカウントを取らなくてもこれで十分」となる余地があるというわけだ。今回の専用端末はこの方向性からするとむしろ力を入れすぎな感はあるが、サービス全体のボリュームを出す意味で有用なのは間違いない(単体できちんと利益が出るのかは不明だが)。

 と、上記のような筋書きがあるものとして一人で納得してしまっているのだが、もしこの仮定がまったくの見当違いで、真剣にゼロからユーザーを取り込むことを指向しているのなら、数多くの電子書籍ストアが乱立する現在、他ストアにない強みを打ち出すことは急務であり、スタートの時点で安価なセット販売しか訴求方法がないのはすでに危機的と言えなくもない。今夏に実装予定とされている日本語文章の読み上げ機能は強みの1つとして期待できるが、現時点では未知数であり、早急な実装と対応コンテンツの充実が望まれる。

 また、旧BookPlaceとは別に新サイトを立ち上げた経緯を考慮しても、将来的に本ストアが終息することがあった場合、購入済み書籍の権利がきちんと保証されるかもユーザーにとっては気になるところだ。これら懸念をどうやって克服するかも、品揃えや価格などと並び、大きなポイントになることだろう。

(山口 真弘)