山田祥平のWindows 7カウントダウン

高級アンプでリモート再生すればネットブックも超多機能リモコンに



 Windows 7はホームネットワークを強く意識している点を特徴の1つとするOSだ。DLNA 1.5に対応したことで、さまざまなホームネットワーク機器と連携することができる。今回は、世界に先駆けて「Compatible with Windows 7」のロゴ認証を取得したオンキヨーのAVアンプ「TX-NA5007」との連携について紹介しよう。

●リモート再生でDMRにコンテンツを送る
高級感あふれるTX-NA5007の本体。試作機なのでシルバーだが、実際の製品はブラックモデルのみとなる。

 「TX-NA5007」は、オンキヨーのAVアンプの最上位機種として、下位モデル「TX-NA1007」と同時に発表された。発売は9月11日で、今回は、その試作機をオンキヨー本社の地下にあるオーディオルームでデモンストレーションしてもらった。製品として発売されるのはブラックだが、サンプル機ではシルバーとなっていた。このカラーリングでの発売予定はない。

 同製品は9.1chのAVアンプだが、DLNA 1.5に対応した「Digital Media Renderer(DMR)」として機能することを特徴とする。

 ユーザーが必要な作業は、アンプに電源を供給することと、スピーカーを接続すること、そして、LAN端子にLANケーブルを接続するだけだ。DHCPが有効になっているため、それだけでDHCPサーバーからIPアドレスを取得し、ネットワークにぶらさがる。もちろん、手動で設定すれば、任意のアドレスを設定することもできるが、多くの家庭では、ルーターがDHCPサーバーとして機能しているため、その必要はなさそうだ。

 デモを見せてもらったオーディオルームには、オンキヨー社内のLANが引き込まれ、そこにハブを挟み、同機とWindows 7が稼働しているノートPCが接続されていた。また、このネットワークには、バッファローのNASもぶらさがっていて、こちらもDLNAに対応し、音楽コンテンツが格納されている。

同一LAN内にPCとTX-NA5007、そしてバッファローのNASが存在する。NASの曲をリモート再生させると、TX-NA5007に接続されたディスプレイには再生中の曲やそのビットレートなどが表示される。

 さて、この状態で、Windows 7 PCでWindows Media Playerを起動すると、DNLAのサーバーとして機能するバッファローのNASが「その他のライブラリ」として見えることが確認できた。それを開くと、NASに格納されている各種の音楽コンテンツが一覧として表示される。

 その音楽コンテンツの1つを右クリックするとショートカットメニューに「リモート再生」が表示され、その再生先としてAVアンプの「TX-NA5007」が見えるので、それをクリックすると、NAS内の音楽コンテンツを「TX-NA5007」が再生し始めるというプロセスになる。これらのプロセスは、以前、紹介したWindows 7 PC同士のリモート再生とまったく同じだ。なお、PCからできるのは、再生の開始と停止、そして音量の調整だけだ。この点もPC同士と同様だ。

 このとき「TX-NA5007」が、CDプレーヤーなどで他のコンテンツを再生していたとしても、それが中断され、いきなりリモート再生が始まる。この点は容赦がない。リビングルームで家族がクラシック音楽を楽しんでいるときに、書斎で別の家族がノートPCの操作を間違って、ロックミュージックをリモート再生してしまったとしても、いきなり、再生が切り替わるわけだ。このあたりは、確認を求めるモードを用意するなどの工夫が必要かもしれない。

●異なるホームグループ所属のPCでもリモート再生ができる

 デモンストレーション中に、いろいろなケースを試させてもらった。

 今回の対応は音声のみだが、試しに動画コンテンツをリモート再生させようとしてみたところ、PC側にサポートされていないという表示が出て再生ができなかった。再生できないのなら最初からリモート再生のメニューに出すべきではないと思うのだが、これは、Windows Media Playerの責任ということなのだろう。

 いわゆるDLNAのDMRは、Windowsのホームグループやホームネットワークとは、まったく関係なくネットワークにぶら下がる。Windows 7 PCはDMRとしても機能するが、別のPCからDMRとして見えるのは、同じホームグループに属しているPCだけだ。また、ドメインに属しているPCは、たとえ、ホームグループに属していても、デフォルトで共有が禁止されているので、リモート側にコンテンツを送ることができない。試しに、ドメインに属している手持ちのノートPCを、このオーディオルーム内のLANに接続させてもらったところ、バッファローのNASも見えたし、DMRとしての「TX-NA5007」も見えるのだが、再生はできなかった。

 だが、ルーターを経由するなどしてネットワークが異なっていない限り、同一LANにいれば、DMRは見えて、たとえ、異なるホームグループに属しているPCが複数台あったとしても、どのPCからもリモート再生は可能だ。具体的には、知人が自分のノートPCを持って遊びに来たときにも、LANに接続すれば、リモート再生ができるということだ。知人は自分の自宅で別のホームネットワークに参加しているはずなので、主とは異なるホームネットワークであるはずだ。「いい曲を見つけたんだ、ちょっと聞いてみてよ」といったことが簡単にできるのはうれしい。

 Windows 7は、DMRのサポートしているコンテンツファイルの種類を調べ、必要に応じて、トランスコードしてからコンテンツを送る。「TX-NA5007」は、MP3/AAC/WMAに関してはトランスコードを要求しない仕様になっているそうだ。ただし、DLNA 1.0対応のサーバーの中には、リモート再生に必要な情報を提供しないものがあり、それらからのリモート再生を指示するような場合は、Windows 7が強制的にトランスコードした上で、「TX-NA5007」にストリーム配信する場合もあるとのことだった。

●PCとオーディオ機器の距離感を縮めたい

 オンキヨーとしての最高ランクの製品にこの機能を搭載してきたのは、実に興味深い。オンキヨーは、AVセンター的な製品については、高いシェアを持つベンダーだ。もちろん、高い技術もある。ただ、対応するだけなら、現行のラインアップのすべてに搭載するのも簡単だという。

 だが、2008年来の再現力を磨いた製品の流れの中で、今回は、映像、音声のどちらも、最高品質で再生することに目標を置き、今回の製品への搭載となったという。

 オーディオとビデオの共存は、究極の音質、画質を追求する世界では、相互干渉を阻止するためにさまざまな工夫が必要で、そこにさらにネットワーク関連回路を入れるとなると、多くの弊害が発生する。だが、最上位モデルのAVアンプといった、物理的に大きな筐体のモデルなら、内部スペースに余裕があるので、いろいろな工夫ができるというのも、今回のモデルで実装する理由の1つだったそうだ。

 オンキヨーとしては、PCとオーディオの間にあった大きな距離感を、少しずつ縮めていくように努力していきたいという。どちらが主役であるかといったことではなく、それぞれのユーザーが持っているライフスタイルの中で、両者の距離を近づけていくことが彼らの目論見だ。

 オンキヨーの最上位モデルとして、恥ずかしくない音を奏でられることを最優先のテーマに設定し、その上で、映像、音声、ネットワークを1つの筐体に同居させた。PC側から発想すれば、ウェブサーバーを入れて、ある程度のコントロールをブラウザでできるといったことができれば便利だと思うのだが、そうした付加価値を実装することは、今回は、考えなかったという。

 こんな時代になろうとも、CDやDVD、BDといったメディアに対する所有感を抱くユーザーはいる。また、音量を上げるに際しても、ボリュームを回す重みに儀式めいた感覚を感じるユーザーもいる。このクラスの製品を選ぶユーザーは、そういう人が少なくないそうだ。そういうユーザーにとって、少しがんばれば手の届く高級品。今回のAVアンプは、そんな製品として企画されている。

 普及価格帯のミニコンポなどに、オンキヨーとして満足できる品位でこれらの機能を実装できるまでは、多少の時間がかかりそうではあるが、やはり、そこにも期待したい。たとえ、ちっぽけなスピーカーしか持たないネットブックであろうと、そのコンテンツをリモート再生することで、パッシブアンプつきのスピーカーなどを接続するよりも、ずっと、高品位なオーディオを楽しめるわけだ。ワイヤレスネットワークでもかまわないのだ。曲を選ぶことをPCにまかせ、再生のクオリティはオーディオ機器にゆだねる。そうした連携も、ゆるやかに手の届くところに降りてきてほしいものだ。