山田祥平のRe:config.sys
高みに向かって螺旋階段を上り続けるレッツノート
(2015/10/9 06:00)
パナソニックがレッツノートの2015秋冬モデルを発表した。中でも超人気モデルの「SZ5」はフルモデルチェンジとしての登場で、その世界最軽量が話題になっている。そしてそこには、ノートPCはこうあるべきという確固たる信念が秘められていた。
バタンと落としても大丈夫
レッツノートの宣伝キャラクターは、引き続き、タレントの比嘉愛未さんだ。発表会で披露された3本の新作CMは、いずれも、職場の先輩比嘉さんと、後輩女子コンビがレッツノートを携えて地方出張に赴く道中をストーリー仕立てにしたものだ。
興味深いのは発表会で披露された3本のうち2本で、後輩女子がレッツノートを床に落としてしまうというハプニングが描写されていることだ。そして比嘉愛未さんが「大丈夫」と後輩女子なだめる。
当然CMだからレッツノートは壊れない。比嘉愛未さんも、顔色1つ変えずに「大丈夫」と言って作業の続きを何事もなかったかのように始める。分かってはいても、見るたびにヒヤッとする。あのバタンと落ちる音は心臓によくない。
堅牢タフが取り柄のレッツノートだが、これまでのCMはタフが強調されながらも、描写としてはそれなりに注意深く扱われてきたように思う。アクション満載のシーンで乱暴に扱われるレッツノートに、ひやっとすることはあっても、基本的にレッツノートは無傷だったし、悲惨な目には遭わなかった。だが、今回の新作では、まるで日常的にある出来事のように、バタンと床に落とし、そして「大丈夫」である。
発表会のデモンストレーションで床に落下させるのとは違う。多くの一般大衆が目にするCMだ。これはある意味、ここまでやっていいのかどうか、相当の議論が内部であったに違いないと想像する。そして、CMの中でやってしまった以上は、ある程度、パナソニックとしても責任をもって対応する必要がありそうだ。きっとそれだけの自信があるということなのだろう。だからこそ、筐体の角の部分から床に落下したりすることがないよう、あくまでも「バタン」であり、コンクリートではなく、飛行機や北陸新幹線の床に落とすのだ。
これならタッチがなくてもガマンできるかも
新しいレッツノートSZ5は、光学ドライブ搭載12.1型ノートPCとして世界最軽量を謳う。スペック的には画面が16:10になったことや、Lサイズバッテリでの出っ張りがなくなったところ、Skylakeこと第6世代Coreの搭載で、バッテリ駆動時間が伸びたことなどがうれしいポイントだ。当然、性能の向上もある。
実は発表前に1週間だけ使わせてもらった。ただし、発表前だったので自室から外に持ち出すことはできなかったため、モビリティについては語れない。ただ、手元に届いて最初に感じたのは、圧倒的なキーボードの叩きやすさだ。
今、毎日の取材や打ち合わせで常用しているのは初代のレッツノートRZ4だが、そのキーストロークは1.5mm。筐体が小さい分、キーボードの面積も狭く、ある程度の剛性が確保できているが、入力のたびに、もう少しなんとかならないかなと思っていた。RZ4に対する数少ない不満点だ。機動性を考えたら、RZのサイズ感は抜群なので、余計に欲が出る。
SZ5のキーストロークは2mmが確保されている。この0.5mmの違いが、これほどのタッチの差を呼ぶのかと思うと、本当にノートPCというのは損益分岐点の設定が難しいんだなと思う。ちなみに、今回のSZ5は、先代のSX4が1.19kg(Sバッテリ)~1.38kh(Lバッテリ)だったのに対して、929g(Sバッテリ、SSD)~1,050g(Lバッテリ、LTE)と、ざっくり250~300g以上ダイエットしている。感覚的には7割の重さになったといっていい。はっきり言ってこれこそ魔法だ。半端な作業でできるもんじゃない。
今、常用しているRZ4は770gなので、あと200gをガマンすれば、いろんな幸せが手に入るかと思うと、ノートPCは別にタッチ画面がなくてもいいかも知れないな、などと信念が曲がりそうになる。まるで豆腐のような信念だ……。
秘密のキーボード
SZ5とRZ5では、キーボードの基本構造はまったく同じだという。だが、キーボードを構成している部品は全てが違うとのことだ。この圧倒的な叩きやすさが、キーストロークの違いだけからきているのか、それとも、構成している部品が違うことが貢献しているのか。そのあたりの詳細を解き明かすためにも近々開発者インタビューをお願いしようと考えている。真実の解明はそのときまでお待ちいただきたいが、それほどSZ5のキーボードは打ちやすい。こちらもいったいどんな魔法を使ったのだろうと思うくらいだ。
ちなみにRZも同じキーボードにして欲しいと関係者にお願いしたところ、次期RZで検討してみるが、2017年になるかもしれないと言われてしまった……。
ちょっと前までは、モバイルPCはタブレットトレンドの中で、タブレットとしての使い勝手を優先し、そこにモビリティのしわ寄せが影響したことで、かなり、入力のしやすさが犠牲になっていたように思う。2-in-1は便利だが、一挙両得というには未完成感が強かった。
タブレットは情報の消費、ノートPCは情報の生産と言った、デバイスとしての使い方のモデルが話題になることが多いが、やはり、PCとしてまともに使うには、打ちやすいキーボードは必須ということだ。キートップが並んでいればいいというのではない。それだけでもソフトウェアキーボードよりはずっと生産的だが、わざわざ構造的にも重量的にも不利になるキーボードを一体化する以上は、その不利をきちんと優位点に結び付けなければ意味がないということを痛感させられた。
レッツノートの発表会前の夜中に発表された、まだ見ぬSurface 4 ProやSurface Bookも、キーボードの存在感を強調しているように見える。それがどれほどのものかは、もうすぐ分かるわけだが、モバイルノートPCにとって、良質なキーボードが、そのデバイスの存在感を著しく高めるものだということが再認識されはじめているということなのではないだろうか。
Windows 10のGUIは、タッチはもちろん、従来通りのマウスやタッチパッドとキーボードの組み合わせでも使いやすく設計されている。ぼく自身も、Windows 10を常用環境にしてからは、レッツノートの画面をタッチすることが少なくなったように思う。操作自体が先祖返りしているのなら、マンマシンインターフェイスも少し先祖返りしてもいいということなのかもしれない。
タッチ一辺倒だったWindowsタブレットの世界も、少しずつペンの存在感が高まってきていたりもする。人とコンピュータとの対話には、少し饒舌なデバイスが必要ということなのだろう。もちろんそれでタッチ画面不要論を唱えるつもりはない。併用がベストだとは思うが、進化はきっと螺旋階段のように同じところをグルグル回りながら高みに達していくのだろう。