山田祥平のRe:config.sys

タブレットだって大きいことはいいことだ

 iPhone 6sとともにiPad Proが発表されるなど、Apple周辺がにぎやかだ。iPad Proは、でかいiPadとして今までなかった市場を拓こうとしているようだ。そうは言ってもたかだか12.9型。タブレットとしては大きいかもしれないが、iPadだから話題になるのであって、これまでそんなタブレットがなかったわけではない。ならばもっと大きなタブレットはどうか。今回は、パナソニックの20型タブレット「タフパッド」を試してみた。

パーソナルな点のモバイルには10型画面がベスト

 モバイルという視点でデバイスを捉えた時、その機動性や実用性を考慮すれば、おのずとサイズ感は限定的なものになっていく。まして、マルチデバイスの時代、その日の用事に応じてデバイスを選び、1台で全てをまかなおうと、過大な用途を担わせよう欲張らない限り、適材適所というものがある。

 個人的には、大きすぎもせず、小さすぎもしない10型前後がモバイルにおける画面サイズとして最適だと思っている。それより大きいと取り回しが犠牲になり、それより小さいと作業効率に影響してくる。だからこそぼくは、10.1型745gのレッツノートRZ4を日常的な取材活動のベストパートナーとして毎日持ち歩いて使っている。少なくとも今の時点では、これがウェイトパフォーマンスの点でも最高だという考えは今も変わらない。

 だが、いったん線のモバイルを一段落させ、点のモバイルに落ち着いたとたん、RZ4のデスクトップでは物足りなくなってしまう。例えば滞在中のホテルで昼間の取材メモをまとめるようなシチュエーションだ。ゼロから何かを書きおろす分には画面の広さはあまり問題にならない。もしかしたらスマートフォンの画面だって事足りるかもしれない。だが、まとまったボリュームのコンテンツを読んだり、あれこれ調べ物をしながら作業をしようとすると不満が爆発する。特に、海外のようにインターネットが遅い環境では余計にそう感じる。

 RZ4の1,920×1,200ドットというのは解像度的には問題ないが、ぼく自身は視認性を優先するために210%までスケーリングして使っている。これは実質HD+解像度より低いのと同義だ。先に書いたように、取材時のメモやゼロからの原稿書きには問題ないが、複数のウィンドウを並べての作業にはいささか狭苦しい。

でかいというならこのくらいでかく

 今回試したTOUGHTPAD FZ-Y1は法人向け商品として提供される製品で、個人が入手する機会はそうないと思われる。価格的にもハードルが高い。ちょっと調べてみたら379,028円という価格が目に留まった。さすがに手が出ない。でも、ぜひ、試してみたいということで、お願いして実際に使わせてもらった。

 届いたのは最上位機のFZ-Y1CHで、4K 20型IPSパネルを採用した第5世代Core i5搭載のWindows 8.1タブレットだ。重量は2.3kgで、厚み12.5mmというのは世界最軽量、最薄だという。

 画面解像度は3,840×2,560ドットで、アスペクト比としては3:2となる。縦でも横でも使いやすいSurface 3、Surface Pro 3と同じだ。

 寝モバどころか、気軽に片手で支えてタッチ操作というわけにはいかない。タブレットとして使うには、ソファなどに腰かけ、膝の上に置いて操作するというのが関の山だ。2.3kgは20型としては実に軽量なのだが普段使いのモバイルとしてはさすがに重すぎる。パーソナルな利用があったとしてもリビングルームから一歩も外に持ち出されないにちがいない。

 だが、これを据え置きの超軽量PCだと考えると、とたんにいろいろな使い道が思いつく。PC Watchでも編集長がじきじきに登場しての連載「4K修行僧」が人気のようだが、ぜひ購入して活用してほしいものだ。

 ぼくとしては、出張先のホテルでの快適作業環境としての利用を考えてみた。以前、HPの24型スリムディスプレイを出張に持参したレポートをお届けしたことがあるが、今回は、20型タブレットである。

 サイズ的には何の問題もない。RIMOAのスーツケースには横方向に入るし、機内持ち込みのキャリーケースにもラクラク収納できる。ただ、飛行機の窓から預け入れ荷物を積み入れたり、取り出したりしている光景を見ることがあるが、重量が20kg以上あるスーツケースを放り投げるようにして扱っているのを見るとさすがに心配になる。

 今回も破壊が心配なので、緩衝材、いわゆるプチプチにくるみ、衣類の上にのせるようにしてスーツケースに入れることにした。そして、6泊8日でIFAの取材に出かけるのに携行した。なんと言ってもタフパッドだ。そのくらいのことで壊れてもらっては困る。機内持ち込みにしなかったのは、空港のセキュリティ検査で、怪しまれるのを避けたかったからだ。そういう人はあまりいないはずだから……。

 さて、ベルリンについてホテルに入ったところで、スーツケースを開き、衣類にまみれたタフパッドを取り出して電源を入れると、何事もなかったかのようにスリープから復帰し、デスクトップが現れた。出荷時のOSはWindows 8.1だったが、手元に届いてすぐにWindows 10にアップデートし、各種のアプリケーションをインストールした状態だ。

 電源アダプタはかなり大きい。しかもACケーブルが太く、プラグはアースつきの3Pだ。せっかくの世界最軽量最薄なのだから、ここはもうひとつがんばってほしかったところだ。

縦でも横でも使いやすいならそこをフォローしてほしかった

 ベルリンのホテルは前回と同じところで今回は3度目の滞在になる。部屋の構造は分かっていた。窓の手前に棚のように長いスペースが用意され、そこをデスクとして使える。問題は、このタブレットに自立する仕組みがないことだ。片手で支えてタッチ操作というのが難しいのは作った側も分かっているはず。ならば、何とか本体を自立させる仕組みがあってもよかったのではないか。テーブルの上に置いて、複数のメンバーで覗き込むように使うのだとしても、まっ平らな置き方では天井の蛍光灯などが映り込んでしまい視認性が落ちてしまう。ノングレアの画面が使われていることは高く評価したいが、もう少し、使われる現場想定をイメージしてほしかった。

 だが、そこはそこ、2.3kgの最軽量である。100均で調達したタブレット用のスタンドが役に立った。1つでも大丈夫だが、念のために2つを使って支えることで安定して任意の角度に立てかけることができた。オプションとしてクレードルも用意されているのだが、これがまた大きく重いので、今回は持参するのを断念した。

 そしてここでも問題が。電源ケーブルはランドスケープに置いたときに短辺中央部に差し込むことになる。これはまあガマンできる。ところが、ポートレートで使いたいと、本体を縦置きにすると、上方向にケーブルが生える形になる。これがみっともない。かといって下側に生やすのは設置の関係上難しい。縦に置いても横に置いてもうまくケーブルを逃がせる方法もほしかったところだ。これは法人ユースを含むあらゆる現場で言えることではないだろうか。

驚きのサイズと性能がスーツケースに難なく収まる

 タブレットだからタッチで使う。これは当たり前だ。だがホテルとは言え据え置きで使うので、やっぱりマウスとキーボードがあった方が便利だ。今回はBluetoothでキーボードを接続、マウスはスーツケースに入れっぱなしのUSB無線マウスを併用した。これだけのサイズなのに、USBポートが1つしかないのはちょっと困る。カードリーダを接続したかったので、USBハブを使って増設するしかなかった。

 出先のホテルで、高性能の20型PCを使えるというのは想像以上にいろんな作業がはかどる。また、この製品にはHDMI 2.0入力端子が装備され、そこにほかの機器のHDMI映像を入力し、Windowsの専用ユーティリティを使って4K映像を表示させることができる。ただのダムディスプレイにはならないのが残念だが、仮に、数年経って本体内蔵のPCのパフォーマンスが陳腐化したとしても、ディスプレイとして使い続けることができるのは心強い。リモートデスクトップ端末として使えばタッチ画面も活かせる。

 実際に、6泊の滞在の間、ほぼ据え置き一体型PCとして使い続けてみたが、この環境が出先で得られるというのは実にうれしい。それがスーツケースに何の問題もなく収納できてしまうことに驚きすら感じる。

 スマートフォンがあればノートPCはいらないんじゃないかという声をよく聞くようになった。デジタルネイティブな世代なら、10型程度のノートPCがあっても、スマートフォンと比べて特に便利だとは思わないというのも理解できる。だが、20型までくれば確実に違う。

 今回は、この製品の付加価値を大きく高めている4Kをフルに活用というわけにはいかなかったが、可搬型の4Kを必要とする現場では待ち望まれていたデバイスであるに違いない。

 とは言うものの、解像度をグンと落とし、リーズナブルなコスト感で手に入るようにもして、それとは異なる現場のニーズを満たしてもほしいとも思うが、パナソニックが、高付加価値製品としての位置付けでビジネスを進めたいとしている以上、その夢は叶いそうにないのが残念だ。数人のミーティングで、何らかのコンテンツを前に、ああでもない、こうでもないと議論する場面は容易に想像できる。そんな用途にはピッタリのデバイスだからだ。

 ちなみに、今回の出張で分かったトリビア。航空機内でACアダプタを接続してタブレットを使った場合、タッチ画面がうまく機能しないことがある。実際にRZ4で確認した。壊れたかと思ったが、ACアダプタをはずすことで正常に戻った。パナソニックに問い合わせてみたところ、確かにそういう現象があるという。当たり前のことだが、航空機にはアースがない。静電容量式のタッチセンサーが、そのことで誤動作を起こすらしい。航空機内の設備にも強いパナソニックは、この現象の改善に向けて設備の対策を進めているという。デバイスの多様化は、いろいろなハプニングを起こすようだ。

(山田 祥平)