山田祥平のRe:config.sys

79,800円のUltrabookは使いものになるか




 Haswell搭載の第3世代までがすでにアナウンスされているUltrabookだが、第1世代の製品が出揃っている。今回は、その中から日本HPの「Folio 13」を使ってみた。79,800円という最安価格帯の製品だ。果たしてこの価格でどの程度の満足感が得られるのだろうか。

●価格以上の質感に脱帽

 「Folio 13-1000」は、そのネーミングからも想像できるように13.3型のスクリーンを持つUltrabookだ。解像度は1,366×768ドットとなっている。OSさえしっかりしていれば、スクリーン解像度は高ければ高いほどいいと思うのだが、残念ながらWindows 7は、解像度の扱いが今1つで、スケーリングによる副作用をガマンしなければならない場面が出てくる。そういう意味では、この解像度を採用したのは、1つの見識ともいえるだろう。悪くいえばらくらくPCだが、目に優しいのは事実だ。

 本体のサイズはA4の用紙よりも一回り大きい。クリアファイルのサイズくらいといえばいいのだろうか。最厚部20.3mmというボリュームも手伝って、書類などといっしょにカバンにいれる場合にも違和感がない。ちょっと厚みのあるファイルを持ち運ぶイメージだ。ただ、重量は約1.5kgと、それなりに重い。気軽に片手でヒョイと持ち上げるというわけにはいかない。カバンに入れてしまえばこのくらいの重さと思っていたのだが、普段1kg前後のモバイルノートを持ち歩くのに慣れきってしまっていると、カバンの中でしっかりと存在を主張していることがわかる。

 スクリーンには通常のノートPCのように額縁がある。それはいいとして、表示エリアはその額縁の内側よりもさらに狭い。つまり、物理的な額縁の内側に、黒い非表示領域があり、さらにその内側に1,366×768ドットのスクリーンがある。しかも、その黒い部分の幅が上下と左右で異なっていてアンバランスだ。ちょうどアンダースキャンのテレビを見ているようなイメージだ。これは、もしかしたら、他のスクリーンバリエーションの製品を用意するための下準備になっているのかもしれない。

 本体の質感はすこぶるいい。高級感といっては大げさかもしれないが、十分に満足できるものだと思う。キーボードの打鍵感も、重量が功を奏して筐体の剛性が高いので、しっかりとタイプを受け止めてくれる。

 スライドパッドは横長で操作しにくくはないのだが、左右ボタンの操作感がひどい。ボタンは物理的に凸状ではなく、パッド面とツライチで、ボタンを押し下げるとパッドそのものがたわむ。特に右クリックは、キーボードのホームポジションから通常の感覚でクリックしようとすると、どうしても中央寄りをクリックしてしまいがちで、左クリックになってしまうことがある。物理的な凸状になっていれば、境目の感覚が指先の感覚で得られるので、こうした誤操作はなくなるはず。この点はちょっと残念だ。まあ、この製品だけを使っている分にはそのうち慣れるのだろうし、このスクリーンサイズなら、外付けのマウスを使えば済む話だ。

 拡張性については贅沢はいえないものの、それなりに端子類は装備されている。アナログRGB端子がない点を気にするユーザーもいるかもしれないが、HDMI端子が用意されているので身の回りの環境次第だといえる。

 メモリは4GB固定で増設はできない。普段使っているノートPCと、ほぼ同じ環境にしてみたが、空きメモリは2GB程度あるので、特に問題はなさそうだ。これも用途によって足りないと感じるユーザーもいるかもしれない。

 また、ストレージはSSDで、容量は128GBだ。個人的には、これがもっとも気になる点で、さすがに256GBは欲しいところだが、価格を考えると仕方がないとあきらめもつく。これがHDDでは取り扱いにも気を遣うだろうから、ここはクラウドと併用するといった工夫で乗り切りたい。

 ストレージ不足はSDカードなどでも補いたいところだが、カードスロットはカードを差し込むだけのタイプで、一般的なスロットと異なり押して飛び出すタイプのものではない。しかも装着時には5mmほどSDカードの先端部が飛び出したままになるので、装着しっぱなしというのはちょっと不安だ。また、正規のSDメモリーカードスロットではなく、メディアカードスロットと呼ばれるもので、著作権保護機能にも対応していない。

 失礼ながら、意外だったのはそのサウンドで、華奢なボディにしてはボリュームも確保され、音質も悪くない。ただし、これはインストールされているDolby Advanced Audioの恩恵によるものだ。試しにこのユーティリティをオフにしてみると、聞くに堪えない音になってしまう。オンにしたところで、オーディオ的に素晴らしいといったレベルではないが、必要十分な音質が確保できている点は評価できる。まさにドルビー恐るべしだ。

 ネットワーク接続は、通常のLANコネクタが装備されている以外に、IEEE 802.11b/g/nのWi-Fiを装備する。日常的に使っている他の機器に比べて、ちょっと感度が劣るのか干渉に弱いのか、あるいはBroadcomのモジュールやドライバに問題があるのか、ちょっと不安定な印象を持った。

 不便に感じるのは、普段使っているWiMAXのようなWANをサポートしていない点だ。スリープから起こせばもうインターネットにつながっているという便利さを当たり前のように享受していると、残念だなと思ってしまう。ただ、これも、利用するユーザーの環境次第といえるだろう。スマートフォンでテザリングするなり、モバイルルーターを持ち歩けばいいという判断もありだ。

 バッテリ駆動時間はスペックでは8時間となっている。話半分としても4時間だが、それよりも持続する印象だ。多くの作業をスマートフォンで済ませるようになった今、外でノートPCを使う時間は短くなる傾向にあり、このくらい確保できていればあまり困ることはないのかもしれない。ただ、1泊の出張にACアダプタなしというのは不安だ。

 その場合に問題に感じるのは、ACアダプタのサイズ、ケーブルの太さ、そして重量で、本体のできのよさを、アダプタが台無しにしている。全世界で共通にするといったことでコストダウンがはかられているのだとは思うが、せめて日本HPだけでも、コンパクトな日本仕様のアダプタを用意することはできないものだろうか。

●Ultrabookが目指すフィールド

 日常的に外出時には必ずノートPCを持ち歩いてきたし、これからもそうだと思う。いくらスマートフォンの出番が多くなったとしても、やはり、ノートPCでしかできないことも多いし、たとえスマートフォンでできるにしても、ノートPCでやった方が快適で効率のいい作業も少なくないからだ。

 Folio 13のボディサイズは、いつもいっているところの“線のモバイル”には向いていない。電車の中で座席に座れたときでも、カバンから出して使うというには、サイズが大きすぎて周りがはばかられる。やはり、どこかに腰を落ち着けて作業する点のモバイルのための製品だと思う。線のモバイルはスマートフォンに任せるという割り切り方ができるのなら、かなり満足できる製品だ。

 たとえ、自宅に置きっ放しで使うにしても、13.3型スクリーンがあれば、それなりにオールマイティな用途に使える。そして、いざというときには気軽に持ち出せるのだ。毎日はつらいかもしれないが、週に1度程度ならまったく負担にならない。その機動性が、PCを持ち出すユーザー層を広げ、Ultrabookのバリエーションを増やしていくことになっていくにちがいない。

 Intelの規定ではUltrabookは、その厚みが21mm以下であればいいそうなので、この製品の厚み20.3mmはギリギリでその要件を満たしていることになる。あと1mm薄くすることにエネルギーを使わずに、必要十分な要素を詰め込んでみましたといった印象だ。その結果としての約1.5Kgでもある。もっともっとがんばれば、数百gは軽くできるのかもしれないが、そのために特殊な部材などを使うことになりコスト高につながる。こうした判断の損益分岐点をうまくすりあわせた結果が、79,800円、20.3mm、1.5kg、13.3型スクリーンというバランスにつながったのだろう。第1世代のUltrabookとして、今できることを集大成した感もあり、世界一のPCベンダーとして、ボリュームメリットを最大限に活かした製品に仕上がっている。モバイルは、第2世代、第3世代のUltrabookで完成させればいいという判断もあるのだろう。

 この値段なら、きっと安かろう悪かろうなんだろうという印象を持っていたのなら、ぜひ一度、実機に触れてみてほしい。その先入観は吹き飛ぶはずだ。ブランドイメージは申し分ないのだから。

 光学ドライブがないことを不安に思うユーザーもいるかもしれないが、クラウド時代の今、それで困ることもあまりないだろう。もしかしたら、日本では、個人用ノートPCの定番ともいえる15型A4ノートを置き換えるプラットフォームとしてUltrabookが受け入れられることになるかもしれない。しかも1人1台の独り占めPCとしてだ。そのために必要な要素はまず価格だというのが、HPの判断だったのかもしれない。手頃な価格でそれなりの満足感が得られるノートPCが今欲しいというなら、間違いなく第一に推薦できる製品の1つだ。無理な付加価値を廃した思い切りのよさが天晴れだ。