山田祥平のRe:config.sys

雲ひとつない空はつまらない




 MicrosoftのWindows Liveサービスの1つであるSkyDriveがバージョンアップして、飛躍的に使いやすくなった。いつでもどこでもどんなデバイスからでもアクセスできる無料のストレージサービスだ。そして、そこには、Microsoftが考える新たなユーザー体験のエッセンスが詰まっている。

●クラウドあってのデバイス

 PCは1台あればそれで十分だというのはウソだ。やっぱり適材適所で複数のPCを使い分ける方が便利なのはわかりきったことだ。ただ、異なるデバイス間でデータの整合性をとろうとすると、これがなかなか面倒で、こんなに面倒くさいなら、1台に集約したほうがいいというのが一般的な考え方になってしまっているのだと思う。

 だが、多くのユーザーがスマートフォンを常用するようになり、その常識も変わりつつある。スマートフォンは携帯電話というよりも、手のひらサイズのコンピュータだということは、そのユーザーであれば実感しているはずだ。必然的にPCとデータを連係させるかさせないかで、役立ち度は大きく変わる。スマートフォンの2台、3台持ちは、まだレアなケースかもしれないが、たとえば、スマートフォンとタブレットの使い分けというのはあるだろうし、さらには、PCとの併用はごくごく普通だ。

 その連携に大きな貢献をしているのがクラウドだ。MicrosoftのSkyDriveは以前から提供されてきたサービスで、よくあるオンラインストレージにすぎないが、今回のバージョンアップで使い勝手が格段に向上した。細かいところでは、たとえば、ファイル単位での共有ができるようになったのはうれしい。

 ただ、皮肉なことだが、現時点で、SkyDriveは、Internet Explorer 9(IE9)で使うよりも、Google ChromeなどのHTML5完全対応ブラウザで使う方が圧倒的に便利だ。というのも、Chromeでは、通常のフォルダのようにファイルのドラグ&ドロップによるアップロードができるのだが、IE9では、いったんファイルの追加のためのコマンドリンクをクリックしてSilverlightによるドロップエリアを確保する必要があるからだ。

 SkyDriveと同種のサービスとしては、Googleドキュメントがあるが、無料で使える容量は1GBで、追加の容量は有料サービスになってしまう。SkyDriveなら25GBが無料で、かなり使いごたえのあるサービスになっている。

 また、バージョンアップに伴って、APIが公開されたので、今後、SkyDriveを使うさまざまなアプリケーションが登場するだろう。Windows 8のメトロアプリはもちろん、その統合により、Windowsの通常のフォルダとの違いをまったく意識しないで使うことができるようになる可能性もある。ただ、まったく同じにしてしまうと、ファイルタイプの形式制限やサイズ制限などで混乱を招く可能性があるので、そこが難しいところだ。

●テキストファイルは更新が煩雑

 クラウドにファイルを置いておいて、参照したいときに、任意のデバイスでサッと見れるというのが理想だ。SkyDriveでこれをやろうとするなら、WordやExcel、PowerPointのファイルで置いておくのがいい。これらのファイル形式なら、プレビューが利用できるので、ファイル全体をダウンロードせずに、内容をサッと参照できるからだ。

 個人的には、テキストファイルくらいはサポートして欲しかった。テキストファイルの場合、アップロードなどは問題がないのだが、その内容を参照するにはいったんダウンロードしてから開くというワンクッションが必要になる。これはGoogleドキュメントでも同様だ。

 ダウンロードしてから開く場合、いつも使い慣れたアプリケーションで編集ができるというメリットがあるが、編集結果をクラウド側に反映するには、もういちどアップロードして更新しなければならない。人間が同期のことを意識して、自明的に作業しなければならないのはユーザー体験としてつまらない。でも、プレビューして、そのままオンラインで編集できるOfficeドキュメントなら、そのようなことを考える必要がない。

 ちなみに、SkyDriveは、Androidスマートフォン用の専用アプリケーションが用意されていない。ただ、スマートフォンのブラウザでSkyDriveのサイトを開くと、モバイルバージョンのページが表示されるので、利用にはそれほど支障はない。iOS用やWindows Phone用のアプリは用意されているので、Android用の専用アプリも望みたいところだ。

●クラウド連携ならOneNote

 クラウドストレージが不便なのは、オフラインでは使えないという点だ。出先で参照したい情報をクラウドに置いておいても、通信ができなければ、それを参照することができない。これは、データの置き場としては致命的だ。

 望みたいのは、いつでもどこでもどんなデバイスでも最新のデータを参照できることであり、たとえ、通信ができなくてもそれができることだ。

 ぼくが日常的に使っているサービスでは、Catchがそうだ。ちょっとした思いつきなどをサクッと書き留めるのに気軽に利用できるので重宝している。もちろん、Evernoteなどの有名どころも当然ながらそれができるが、逆にOfficeファイルなどはファイル単位のやりとりになるのでまどろっこしい面もある。

 サービスとの連携という点で他を圧倒しているアプリケーションがMicrosoftのOneNoteだ。OneNoteは、メモ用のアプリとしてOfficeファミリーに加わり、今ではOfficeをプリインストールしたPCの多くに含まれているので、使ったことはないが持っているというユーザーは少なくないと思う。それに、SkyDrive内からは、OneNoteのWebアプリを使うなら無料だ。

 OneNoteではファイルという概念が希薄だ。当然、データファイルはあるし、それを開けばOneNoteが起動して、そのファイルを開く。でも、そういう使い方はしない。OneNoteを開けば直近に開いていたデータファイルが開き、作業が終わったらOneNoteを閉じる。保存するという作業も必要ない。そして、その編集結果をSkyDriveに置きっぱなしにでき、当然、ローカルにはキャッシュが保存され、OneNoteを開くと同時にSkyDriveに保存されたデータと同期される。オンラインであれ、オフラインであれ、まさに、いつでもどこでも同じ内容を参照し、必要に応じて編集を加えることができるのだ。

 ただ、これもまた、Android用のアプリがない。スマートフォンのブラウザでSkyDriveを開いてファイルを参照する場合、Officeドキュメントはダウンロードすることなく、モバイルビューワーで見ることができるのだが、OneNoteのデータはそうならない。開こうとするとブラウザがダウンロードを始めるのだが、そのファイルを開こうにも、開けるアプリがないので内容を確認することができない。

 iOS用のOneNoteアプリが先日公開されたのは嬉しいニュースだ。iPad用とiPhone用の2種類が用意されていて基本的に無料だが、最大500個までのノートしか扱えない。その制限を超えて利用するためには、iPhone版が450円、iPad版が1,300円と有料になる。けっこう高価なのだが、そのくらいの量のデータを利用しているヘビーユーザーなら、払っても惜しくないと思うだけのクオリティは確保されていると思う。

●迷えるMicrosoft

 今のMicrosoftは、いろいろな面で模索を続けている。SkyDriveがIE9よりChromeでの方が使いやすいとか、ブラウザからOneNoteへのドラッグ&ドロップがIE9ではできないのに、Chromeならできるといった不便は考えものだ。

 大々的にプッシュされているWindows Phone 7も、たとえばOutlookのデータのうち、メモが参照できないし、ToDoバーのタスクリストは、タスクではなく特別なフラグがついたメールアイテムなので、それを参照するにはちょっとした手間が必要になる。今までOutlookをPCで便利に使えていたユーザーが、Windows Phoneなら、その体験を損なうことなく利用できるだろうと思っていたら期待を裏切られることになってしまう。また、SkyDriveのURLが変更されたことで、Windows Phoneからのアクセスに不具合が発生するようなことも起こっている。

 同じ企業が提供しているのだから、このあたりの不便は真っ先にわかることだろうに、どうして、こんなことになるのか理解に苦しむ。でも、こうした不整合は、少しずつ解消されていくのだろう。

 SkyDriveとOneNoteの関係は、これからのMicrosoftがエンドユーザーにクラウドをどのように見せ、各種デバイスにおけるアプリケーションと各種Webサービスをどのように連携させていくかの先駆けともいえるものだ。Officeスイートの将来的な方向性が、この連携の中に見えてくる。そして、それは、最後の砦ともいえる Windows 8の姿にもつながっていく。ここで失敗をするわけにはいくまい。2012年は、きっと、大きな変化が起こる年になるだろう。やっぱりコンピューターはおもしろい。