■山田祥平のRe:config.sys■
Developer Previewという段階で、まだまだ謎に包まれている部分も多いWindows 8だが、buildカンファレンスのブレークアウトセッションでは、いくつかの興味深い新機能も紹介されている。ここでは、それらからいくつかを紹介することにしよう。
●いつでも新しいWindowsに戻せるWindows 8では、ソフトウェアの不整合やウィルス感染など、さまざまな理由でシステムの調子がおかしくなり、にっちもさっちもいかなくなってしまった場合に備え、次の2種類の復元機構が用意されることになりそうだ。
・Reflesh your PC without affecting your files
・Reflesh your PC and startover
ちょうど、メーカー製のPCにインストールされているWindowsが、工場出荷状態に戻せるのと同様のことが、自作PCにクリーンインストールしたWindowsでもできるようになる。
2種類というのは、ユーザーファイルを新しい環境でも使い続けるかどうかを決めるもののようだ。
●ネットワークと3G通信新たに機内モード(Airplaneモード)がサポートされるようになった。そのことからわかるように、3G通信にも最適化されるようだ。buildの参加者には、SamsungのスレートPCが配布され、プレス関係者にも3日間だけ同じものが貸与されたが、それには、3GのSIMスロットが装備され、WCDMAのモジュールが実装されていた。
スロットにはあらかじめAT&TのSIMカードが装着されていた。そして、メトロスタイルのアプリを使ってオンラインでサインアップすることで、2GB/月のデータ通信が、1年間無料で利用できるという特典付きだった。
実装を見ると、3Gモジュールは、ネットワークアダプタとして見えるようになっていた。従来のWindowsで3G通信をする場合は、単にモデムデバイスを使ってダイアルアップさせるだけだった。APNの設定等は、どこでどう設定するのか、現時点でよくわからないのだが、スマートフォンの3GとWiFiの関係と同様、他のネットワークでインターネットを参照できる場合にはそちらが優先され、それらがなければ3G通信が行なわれるようだ。これで、複数のネットワークをシームレスに渡り歩き、常に接続された状態を維持することができる。電波強度のステータスなども簡単に確認できるようになっている。
●どのPCも同じ状態にSync PC SettingsをONにしておくと、そのPCに設定した各種のパーソナライズ情報、アプリケーションの設定情報などを、他のPCと同期してくれるようになった。アカウントをWindows Live IDに関連づけておく必要があるようだが、この機能を使うことで、2台目、3台目のPCを入手したときにも、ゼロから設定する必要はなくなる。
これまでは、あらかじめ各種のデータをUSBメモリやネットワークドライブに保存しておき、それを新しいPCで読み出すという方法をとってきたわけだが、その煩雑な手順をとらなくても、ネットワークを介して自動的にできるようになるわけだ。
おそらくは、設定情報の保存などに、Windows LiveサービスのSkyDriveを使うことになるのだろう。SkyDrive APIといった新たなサービスも提供されることになるようだ。
●ブラッシュアップされるセンサーAPIWindows 7で導入された各種センサーをAPIを使ってコントロールする機構が登場する。従来のロケーションAPI、センサーAPIに加え、WinRT用にセンサーAPIが用意されるようだ。照度センサー、モーションセンサー、ヒューマンプレゼンスなどがHIDセンサーデバイスクラスドライバとして、インボックスで提供され、ACPI経由でステータスを渡せるようになる。さらに、センサーデバイスは、スクリーンがオフのときにはパワーダウンされるようになり、必要なときだけオンにすることで、バッテリへの影響を最小限に抑えることができる。
また、Sensor Fusionという新たな考え方が導入されるようだ。これは、複数の単機能センサーを組み合わせて、1つのセンサーとみなすことができるようになるものらしい。
例えば、加速度、ジャイロ、磁力計という3つのセンサーが実装されている場合、Sensor Fusionを使うことで、コンパス、傾斜計、自動回転といった新しいファンクションを使うことができるようになる。
●新しくなるUSBドライバースタック USB 3.0が標準サポートされるようになり、従来のEHCI、UHCI、OHCIに加え、xHCI
ドライバースタックが提供される。高速UASPモードもサポートされ、ますますUSBの使い道が広がっていきそうだ。また、標準端子としては、今後、マイクロコネクターを使うことが推奨されていくことになるかもしれない。
コンピュータのステータスとして、新たにConnected Standbyという状態が導入されることになる。ネットワークにつながったままでスタンバイできるステータスだ。これで、コンピュータを稼働させたままで持ち運んでも、バッテリ消費は最小限に抑えながら、必要なネットワークトラフィックを機能させられる。ユーザーにとっては、常にオンのまままと変わらない体験が得られる。
スマートフォンを常時電源オンのままで持ち歩いているのと同様のことを、モバイルPCでも行なえるようになるものだと思えばいい。具体的には、スクリーンオンのときにはPCはアクティブになり、スクリーンがオフのときにはこのステータスに移行する。
Developer Previewでは、まだ、電源オプションユーティリティからの設定は実装されていないようだが、パワーボタンの押下や、アイドル時間によってもこのモードに移行する。
これに伴い、Power Engine Plugin(PEP)と呼ばれる新しいパワーマネージャミニポートが用意され、Windowカーネルを通してACPIファームウェアをコントロールする。
このモードでは、最小限のネットワーク機能がWi-Fiデバイスにオフロードされる。アプリケーションに関しては、Metroスタイルアプリの場合は、この機能に最適化した機能を実装することができる。Metroスタイルアプリは、10秒間操作がないと、サスペンドと呼ばれる新しいステータスに移行するが、サスペンド時のアプリは、バックグラウンドでやってほしいタスクを登録しておくことで、アプリがサスペンドしてプロセッサパワーを消費していなくても必要な仕事を任せることができる。
一方、従来のデスクトップアプリは、こうした機能を実装することができないので、Desktop Activity Moderation(DAM)と呼ばれる機構を通じて、まとめてにサスペンド状態に移行させるようだ。
●USBメモリでWindowsを持ち歩ける「Windows To Go」USBメモリからWindowsを起動し、複数の異なるPCで、本体のハードドライブには影響を与えずに稼働させることができる。
使い方のシナリオとしては、ビジネスマンが自宅のPCでこの機能を使い、完全に企業セキュリティに守られたPCとして家庭用PCを使えるといったことや、企業内においても、限られた台数のPCハードウェアを、入れ替わり立ち替わり、別のユーザーが使い、使い終わったあとも、痕跡を残さないといった例が挙げられていた。
ブート、ページング、スリープと休止状態、クラッシュダンプといった機能が本体のハードドライブに影響を与えないようにUSBスタックについても改良が加えられているようだ。
複数のPCハードウェアをローミングすることもできる。これは実に便利だ。各マシンは、SMBIOS UUIDで区別され、マシンごとに最初にブートされたときに、デバイス状況などが認識される。これは、新しいPCで最初にWindowsをインストールしたときに、各種のプラグアンドプレイデバイスが認識されるのと似ている。次回以降、そのマシンでブートしたときには、マシンの状態が記憶されているため、ブートも素早くできるというわけだ。これを複数のマシンで覚えているため、会社ではデスクトップPC、移動時にはモバイルPCで、まったく同じ環境を利用できる。
USBメモリは、ブートコンポーネントを置いたFAT32パーティションと、関連ファイルを置いたNTFSパーティションに分割される。PCに内蔵されたHDDは、システムポリシーによって非アクティブ化され、オフラインになっているため、Windows Explorerからは標準状態では見えなくなっている。ディスクの管理を使ってアクティブ化することはできるようだ。また、後から別のUSBデバイスを装着すれば、通常通りにアクセスできるドライブとして利用できる。
USB 2.0ドライブからブートできる従来BIOSはもちろん、UEFIを使って高速なUSB 3.0ドライブとしてブートすれば、最大限にこの機能を活用できるはずだ。もちろん、BitLockerなどのテクノロジーも利用できるため、USBメモリの紛失や盗難などが起こった場合にも安全だ。
セッションでは、SDメモリーカードや、外付けのHDD、SSDドライブなどがサポートされないかどうかという質問も出ていたが、実際の使い勝手は、ディスクとしてのアクセスのスピードに依存するようだ。おそらくは、ブートできるかどうかはBIOSやUEFI次第であるというところに落ち着きそうだ。
Windowsが稼働中に、USBドライブを抜くと、1分間だけシステムをフリーズさせて復帰を待つが、戻されない場合にはシステムをシャットダウンする。デモでは、ビデオの再生中に、USBメモリを抜くと再生が一時停止状態になり、USBメモリをもういちど装着すると、何事もなかったかのように一時停止が解除されて再生が始まる様子が披露されていた。
WindowsをブートできるUSBメモリの作成は、
imagex /apply N:\images\my-windows-partition.wim 1 w:\bcdboot.exe w:\windows /s X: /f ALL
というコマンドラインが紹介されていた。Imagexは、OEMベンダーが自社PCに最適化したWindowsのブートイメージを作成するために利用してきた従来のユーティリティだ。
USB 3.0環境での利用が推奨されているようだが、実際にはUSB 2.0でも問題なく利用できるようだ。セッションの参加者には、あらかじめ、イメージがコピーされた32GBのUSBメモリが配布され、実際に、この機能を試すことができた。
手元の2台のPCに装着してブートさせてみたところ、日本語キーボードを正確に認識しなかったものの、PCごとに正常にWindows 8が起動し、快適に利用することができた。キーボードもデバイスドライバを入れ替えたら、正常に使えるようになったし、ATOKやOffice 2010などを入れてみても問題なく使えるようだ。remapkeyなどのレジストリを使ったユーティリティも使える。そして、その環境を、どんなPCでも利用できるというのは、この上なく便利だ。
このテクノロジを使えば、出張時にはPCを携行しないという選択肢もあるかもしれない。ホテルの部屋にPCがあれば、USBメモリだけで、いつものPCになるからだ。そこまでやるのは極端だとしても、万が一に備えて予備のPCを持って行くようなことはなくなるかもしれない。故障の際は、現地で新しいPCを調達すれば、すぐにいつもの自分の環境が手に入る。
●まだまだあるWindows 8の新機能目立った新機能を駆け足でピックアップしてきた。今回のカンファレンスでは、Windows 8の特に目新しい面として、メトロスタイルばかりがクローズアップされていたが、地味な部分でも、きちんとした機能向上が考えられているのは心強いし、うれしくも思う。
もちろん、これらの機能は、まだ、製品出荷時に正式に実装されるとも限らないし、現行のDeveloper Previewからの使い方が、よくわからない部分もある。また、ここに紹介した以外にも、アッと驚く新機能がまだたくさんあるのかもしれない。
きっと、Windows 8は、今のWindows 7よりもずっと使いやすく、便利なOSになるのだろう。そのことを信じ、これらの機能がリーズナブルな形で現実のものになることを期待したい。