■山田祥平のRe:config.sys■
パナソニック「Let'snote」の新シリーズとして、J9が発表された。ほぼB5サイズに、標準電圧版のCore iプロセッサを搭載し、本体をくるむようにして装着するジャケットを標準装備するなど、これまでのLet'snoteのイメージを払拭する出で立ちだ。今回は、その使い勝手について取り上げることにしたい。
●ジャケットで安心、そしてすぐに使えるJ9の量販店販売モデルには、スタンダードモデルとハイパフォーマンスモデルがあり、それぞれ搭載するプロセッサが異なるが、どちらも標準電圧版のプロセッサを搭載している。また、マイレッツ倶楽部でのカスタマイズにより、より処理能力に優れたCore i7を搭載したり、ExpressCardスロットや、Bluetoothなどの装備を選択することができる。スタンダードモデルでは、HDDが標準だが、ハイパフォーマンスモデルでは、SSDが標準になっているなど、モバイルを強く想定している。
なんといっても際立っているのは、ジャケットの採用だ。これまでのLet'snoteは、新幹線の中などで使っているのを、遠くから見ても一目でそれとわかる出で立ちをもっていた。ドラマの中でチラッと画面に映り込んでもすぐにわかった。それは、天板のボンネット風の構造が目立ったからだし、円形のタッチパッドのアイデンティティも強かった。
新しいLet'snoteも、ジャケットを装備することで、Let'snoteだということがすぐにわかる。ただ、ジャケットそのものの重さが200gちょっとあるので、重量の点では、かなりソンをしているともいえる。本体重量は約990gだし、マイレッツ倶楽部のプレミアムエディションは、ケースレスSSDの採用などで、930gを実現している。
本当は軽いのに、なぜ、ジャケットで重くしてしまうのか。パナソニックによれば、本体をどんなに頑丈にしても、多くのユーザーが、インナーケースなどに入れた上でカバンに収納しているとのことで、そういうことなら、最初から専用のジャケットを用意し、ケースから取り出す手間をかけず、すぐに使えるようにしたということらしい。つまり、脱・貴重品だ。使いたいときに、すぐに使えることを最優先したわけだ。
ジャケットは、ちょうどブックカバーのように、本体を包むイメージで装着する。底部はネジ止めで、ちょうど液晶の耳のところに、スライド式のリンカーが装備され、開くときもスムーズにずれてくれる。本体の手前部分にわずかにはみでたジャケットをつかんで開くことができるので、素早く開くことができる。立ったまま使うことを想定し、本体を握りやすいように底部にストラップも装備されている。
本体を守るという点で、このジャケット装着時は、76cm落下試験、耐100kgタフボディのチェストをクリアしている。逆に言うと、ジャケット未装着の状態では、従来のLet'snoteより華奢になっている。万が一のアクシデントに備えてジャケット装着の状態で使ってもいいし、堅牢さは犠牲になってしまうが、1gでも軽くするために、ジャケット未装着で使ってもいい。これをユーザーが選択できるようになったということだ。
それに、たかだか200g程度で、これだけの堅牢性を与え、使い勝手のよさを持ったインナーケースを見つけるのは至難の業だということも付け加えておきたい。
●RからJでここが変わったアスペクト比16:9の10.1型ワイド液晶は、解像度にすると1,366×768で、デフォルトのままでは、ドットピッチが小さすぎてちょっとつらいというユーザー層もいるかもしれない。ぼくの場合は、Windowsの設定で125%のスケーリングにしてみたところ、多少、画面の広さの点で手狭にはなるが、いい感じで使うことができている。
ディスプレイ関連では、アナログRGB端子に加えて、HDMI端子が装備されたのがうれしい。今後、ビジネスホテルの部屋などに設置されたTVや、会議室に置かれたTVがHDMI端子を装備するのが当たり前になっていくだろうから、それをすぐにモニタとして使えるのは便利だ。
さらに、USB端子が増え、右側面に2個、左側面に1個となった。モバイル機なので、常時USB端子を使うということはまれだろうが、つないだときの使い勝手は向上している。
Let'snote Rシリーズの弱点といってもよかった無線関係の感度の悪さは、モニタ上部のスペースにアンテナを装備することで大幅に向上した。また、WiMAXを標準装備しているというのもいい。
パナソニックでは、今回、BIOSやWindowsの各種サービス起動の挙動に手を入れることで、先代のR9で30秒かかっていたWindowsの起動時間を15秒と、半分に短縮した。数字で見るとそんなものかと思ってしまうが、実際に、その起動を目の当たりにすると、本当に速いことが実感できる。また、ユーティリティとしてクイックブートマネージャが用意され、各種の高速起動設定を簡単に行なうことができる。
ただ、モバイルノートの場合、スリープとそこからの復帰を繰り返して使うことが多いので、Windowsの起動が速くなって恩恵を受けるのは、アップデートなどで再起動を求められたときくらいかもしれない。でも、企業ユースなどで、持ち運び時は、必ずシャットダウンしなければならないことも少なくないので、この速さはきっと支持されるだろう。その一方で、スリープからの復帰には3~4秒かかる。ここはもうちょっとがんばってほしかったかなとも思う。
●バッテリとストレージの選択バッテリでの運用時間は、モデルによって差がある。プロセッサの種類にもよるし、ストレージがHDDかSSDかでも違う。また、装着できるバッテリはSとLの2種類あり、1.5倍の容量を持つLバッテリを装着すれば、その分運用時間は長くなるが、重量は少し増えてしまう。なお、マイレッツ倶楽部では、注文時にバッテリを選択でき、店頭のハイパフォーマンスモデルは標準でLバッテリだが、スタンダードモデルはSバッテリが標準装備となっている。
今、手元で評価しているのは、マイレッツ倶楽部のプレミアムエディションExpressCardスロット搭載、SSD 256GBのものだが、これに4GBのSO-DIMMを追加し、合計8GBの状態にし、Lバッテリとジャケット装着の状態で実測1,210gあった。ジャケットの重量が215g、Lバッテリの重量が310g、Sバッテリの重量が220gなので、これらから装備別の運用重量を算出できる。いずれも手元のはかりでの実測値なので、誤差等があるかもしれないが、カタログ値よりも軽量なようだ。
カタログ上のバッテリ駆動時間はLバッテリの場合11時間、Sバッテリの場合は7.5時間だ。無線を使うなどで、実使用時間が半分程度になってしまうことを考えると、モバイルでは、やはりLバッテリの使用が安心だ。標準電圧版プロセッサの処理性能が、この重量、サイズで手に入り、バッテリの残り容量をほとんど気にしないですむというのはうれしい。
●高性能をカジュアルに持ち歩こうキーボードも変わった。液晶のワイド化に伴い、多少窮屈だった括弧類の入力がラクになった。キートップはリーフ形状になり、指の動く方向である左上と右下のカドに丸みを持たせることで、ミスタイプが少なくなる効果があるという。実際に叩いてみると、確かにひっかかりが少ないように感じる。きっと爪の長い女性にも好印象を与えるに違いない。さほどストロークがないにもかかわらず、しっかりとした打鍵感が確保されているのはさすがだ。
パナソニックでは、このJシリーズの登場によって、多くの女性ユーザーに、Let'snoteのよさを知ってもらいたいという。モバイルPCはサブ機で、さまざまな妥協が強いられるものだが、これだけの処理性能があれば、メインのマシンとして使っても不満は少ない。
ジャケット装備という新たなアイデンティティを得たことで、新たな「らしさ」をLet'snoteが手に入れた。PCを持ち運ぶことは、これまで無骨なキカイを持ち運ぶことだったのに対して、ジャケットは、そのイメージを低減するだろう。カジュアルに高性能を持ち歩くことで、PCの使われ方も変わっていくにちがいない。