■山田祥平のRe:config.sys■
Internet Explorer 9(IE9)日本語版のダウンロード提供が始まった。東日本大震災後のネットワークインフラへの影響を考慮し、3月15日の提供開始後も、日本語版のみ提供が延期されていたが、4月26日午前0時から日本語版がダウンロードできるようになっている。
●プラットフォームプレビューから1年をかけて製品化マイクロソフトによれば、IE9は
・高速
・洗練
・信頼
・相互運用性
という4つの恩恵をもたらすという。HTML5やCSS3などへの対応に加え、GPU支援のレンダリングをサポート、さらに、新しいJavaScriptエンジンの実装により、大幅な高速化が実現されている。アドレスバーと検索ボックスの統合や、既定ではステータスバーの非表示など見かけの部分にも変更が加えられている。
2010年3月にプラットフォームプレビューが公開され、同年9月にベータ公開、2011年になって2月にはRCが出ている。そして3月のRTMと、ちょうど1年で製品として完成したことになる。
3月15日のRTM公開後、4月12日にはInternet Explorer 10のプラットフォームプレビューが公開され、日本語版のリリースは、その後を追う形になってしまったのは皮肉な話だ。同じスケジュールをたどるのなら、2012年の今頃は、IE10が公開されているかもしれない。もしかしたら、Windows 8登場と同時などというサプライズもあるかもしれない。
ともあれ、すぐにIE9を使い始めるためには、マイクロソフトのウェブサイトからダウンロードして自分でインストールするしかない。RC版からのアップグレードも保証されているので、すでにRCを試していた場合も、ダウンロードして上書きセットアップすればいい。RCまでと同様に、使用中のOSにあわせ、32bit版、または、64bit版を入手して実行する。
一足早く公開された日本語版以外では、3月15日に製品版が公開され、その3日前に告知された上で、すでに、Windwos Updateの重要な更新として一覧に含まれるようになっているそうだ。日本語版においては、そのスケジュールに関してまだ正式な決定はないが、同様の扱いになるはずだという。つまり、放っておいても、日本のWindows Vista、Windows 7 PCは、いずれほとんどすべてがIE9にアップデートされるということだ。
【お詫びと訂正】初出時に、IE9のWindows Updateへの登録日程について内容が誤っていたので、修正させていただきました。
刷新による高速化、新たなインターネット体験に関しては、Internet Explorer Test Driveに多くのデモが公開されているので、実際にアクセスして試してみてほしい。また、話題のSVG女子は日本語版がIE9日本語版の公開にあわせて公開されている。
セットアップしたIE9を起動して気がつくのは、実にすっきりとして、ウィンドウ内のコンテンツを邪魔しないことが優先されている点だ。
デフォルトでは、ステータスバーもお気に入りバーも表示されない。ウィンドウ上部には、左端に戻るボタンと進むボタンが並び、その隣に検索ボックスを兼ねたアドレスバー、そしてその横にタブが並ぶようになっている。アドレスバーにキーワードを直接入力すると、検索候補が表示されるほか、任意の検索プロバイダーでの検索ができる。キーワードを入れてエンターキーを叩くだけで検索することもできる。
たくさんのタブを開くユーザーのために、ツールバーの右クリックで「別の行にタブを表示」が用意され、これを有効にすると、アドレスバーの下にタブが移動し、横幅を確保、多くのタブを並べても判別しやすくすることができる。
ツールバーの右端には、目立たない控えめなサイズで、ホームボタン、お気に入りボタン、ツールボタンが並ぶ。Altキーを押すことでメニューバーを表示することができるのは以前と同様だ。
ツールバーの中の項目「ファイル」を開くと「スタートメニューにサイトを追加」という項目が見つかるのが興味深い。そのとき表示中のサイトを、スタートメニューに追加することができるのだ。追加したサイトは、スタートメニューのすべてのプログラム直下に配置され、アプリケーションのように単独で開くことができる。種類としては「固定サイトショートカット」と呼ばれるようで、拡張子は.websiteだ。ここから起動して開いた場合の振る舞いは、タスクバーにピン留めしたときと同様となる。
慣れないうちは、ちょっと戸惑うとすれば、ファイルのダウンロードなどの際に表示される通知メッセージが、従来のウィンドウ上部から、ウィンドウ下部に表示されるようになった点にある。ダウンロードマネージャーが新設され、悪意のあるファイルを検出すると通知し、そのファイルを開かせないようにするなどの機能も実装されている。さらに、お気に入りバーもウィンドウ右端に表示されるようになった。
タブについての改良もある。新しいタブを開くと、履歴を参考に、よく訪れるサイトが表示されるようになった。インジケータつきで、訪問頻度も一目瞭然だ。このページには「閉じたタブを開く」、「前回のセッションを開く」といったコマンドリンクも用意されている。
さらに、アドオンパフォーマンスアドバイザーが実装され、IE9のパフォーマンスが低下していることをユーザーに通知し、アドオンを無効にするなどの作業がその場でできるようにもなった。
●IE9対応を各社がコミット公開の前日、東京・品川で開催された発表会には、IE9対応をコミットする各社が参集し、IE9の門出を祝った。
例えば、Yahoo! JAPANでは、そのアクセスの8割以上のシェアをIEが占めているそうだが、その大きなシェアを持つIEが新しくなることで、今後はWebアプリケーションへの取り組みも促進されていくだろうとする。今週中にはヤフー版IE9のリリースも予定されているという(ヤフー株式会社 R&D統括本部製作本部製作部長 是井真氏)。
また、この4月に米・ラスベガスで開催されたWeb開発者対象のマイクロソフトによるイベント「MIX2011」では、日本の面白法人カヤックが開発したデモコンテンツ「SVG女子」が紹介されているが、同社も発表会に駆けつけ、ビデオではなく、HTML5のテクノロジーでSVGを使ったアニメーションアートを実現することの意義、そしてすばらしさをアピールした。解像度に依存しない特徴を持ち、建築図面などで使われてきたSVGの登場当時は考えられもしなかった、数字で表現されるアートだ。IE9はもちろん、それぞれのファンを持つ他社のモダンブラウザの登場で、これが可能になったという(面白法人カヤック 企画部 杉政英樹氏)。
●アプリケーションプラットフォームとしてのブラウザWeb開発者らがこぞって口を揃えるのは、モダンブラウザが対応するHTML5はアプリケーションプラットフォームであるという点だ。これまでは、ページ記述言語を解釈して、それを表示するだけだったブラウザが、JavaScriptを駆使してプラットフォームとなり、クラウドによって提供されるAPIによって、アプリケーション的な振る舞いをする。
IE9は、Windows Phone 7にも採用されるそうだが、アプリケーションプラットホームとしてのブラウザという点では、スマートフォンが先行して数々の事例を示している。以前、このコラムで「終わりに向かう汎ブラの時代」として汎用ブラウザから専用ブラウザへの移行をテーマにしたこともある。
IE9ではサイトのピン留めができるようになったことで、汎用ブラウザの専用ブラウザ的な使い方ができるようになっている。アドレスバーなどからURLの頭にあるアイコンをWindows 7のタスクバーにドロップすると、アプリケーションのショートカットのように、Windowsタスクバーに、サイトがピン留めされるのだ。
ピン留めされたサイトは、アプリと同じように振る舞う。たとえば、Facebookのサイトは、早期にIE9のピン留めに対応しているが、ピン留めされたアイコンを右クリックするとジャンプリストが表示されタスクとしてニュース、メッセージ、イベント、友達といった要素にダイレクトにアクセスできるようになっている。
この方法でサイトを開くと、IE9はウィンドウ左上にある戻るボタンの左側に、そのサイトのアイコンを表示し、そこをホームとして動く。このアイコンはボタンとして機能し、そのクリックで、そのサイトのトップページが表示されるのだ。
Facebookの場合は、アプリと呼ぶには原始的で、シンプルな構成を持つページレイアウトからか、アプリらしさはあまり感じられないが、今後は、Webサイトなのか、Webページなのか、Webアプリなのか、ネイティブアプリなのか、どう呼べばいいのか迷ってしまうピン留めアプリが出てくることになるのだろう。このことが、Webの世界に影響を与えないはずがなく、広告のビジネスモデルなどにもなんらかの変化が出てくることになるだろう。
●IE9登場の意義とインターネットの変化PC Watchの記事を毎日読んでくださっているようなパワーユーザーであれば、ブラウザとしてIEを使う以外に、ChromeやSafari、Firefox、Operaといったサードパーティ製のブラウザを常用している方も多いだろう。IE9がGPU支援による描画を取り入れることを表明すれば、当然のようにそれに先駆けて、他社製ブラウザがそれを先に実現、結果としてほとんどのブラウザがGPUを使ってパワーアップするということにもなった経緯もある。そういう意味では、標準ブラウザが標準を牽引していることになるわけで、これは必ずしも悪いことではないと思う。
実際問題として、PCを使うほとんどのユーザーは、設定をカスタマイズすることもあまりしないし、使いやすいといわれるユーティリティをインストールもしない。まして、最初からOSに入っているブラウザを別のもので置き換えようとは思わない。だから、IEのシェアは自動的に圧倒的なものになる。
その標準ブラウザが、Windows Updateの重要な更新によって、新しいものに置き換わるというのは、実は、大変なことだ。1年以上もかけてプレビューし、念には念を入れてのリリースではあったが、各社Webサイトは対応が大変だったんじゃないだろうか。それでも非互換サイトは残るだろうし、IE9でちゃんと使えないサイトに困るユーザーも出てくるはずだ。
それでもIE9は、一気に浸透し、新しい当たり前を作るだろう。ブラウザを開くのではなく、サイトを開くという行為が当たり前のものになるのだ。そして、そこに広がる新しいインターネットの世界。PCならではのリッチなウェブアプリがたくさん誕生するはずだ。スマートフォンばかりが話題になって、ここのところ影の薄いPC環境ではあるが、その復権の兆しはIE9が牽引していくかもしれない。