山田祥平のRe:config.sys

ケータイ以上PC未満の領域を新LOOX Uはどう攻めるか




 FMV-BIBLO LOOX Uは富士通が出荷を開始して間もない話題のAtom機だ。500mlのペットボトルより軽く、たとえは古いがVHSカセットより一回り小さく、そのコンパクトな筐体が話題になっている。実際に1週間ほど使ってみた。今回は、そのインプレッションを報告することにしよう。

●ポインティングデバイスの絶妙なレイアウト

 ずっと大、中、小のノートPCを、その日の用事に合わせて持ち出し分けるという使い方をしている。現状では、大が17型液晶のMacbook ProのBoootcamp環境に入れたWiindows 7、中が10.4型液晶のLet's note R8、小が8型液晶のVAIO Pだ。VAIO Pを入手するまではLet's note R8が小で、中として12型液晶のノートPCを使っていたが、VAIO Pの追加で戦線から外した。

 移動手段のほとんどが電車というスタイルなので、VAIO Pのコンパクトさは、電車の中で立ってでも使えるという点で秀逸だ。電池の持ちも標準バッテリで2時間ちょっとと、それなりに持つ。ただ、満充電ででかけても、いざ使おうとするとバッテリ残量が75%程度になっているのには閉口する。かといって、スリープ運用をやめて、休止状態やシャットダウンを使うのでは機動性が損なわれる。だから、ちょっと長めの使用が予想されるときにはLet's note R8を持ち出してしまう。

 VAIO PはLサイズの大容量バッテリも購入したのだが、装着時の重量やかさばりを考えると結局Let's noteでいいやということになってしまう。結果として、この1年の稼働率はLet's note R8が8、VAIO Pが2といったところだろうか。Macbookを持ち出す場合は、必ず、もう1台持ち出すが、それもLet's noteが多かった。

 そんな戦列に、LOOX Uを割り込ませてみた。重量の点ではVAIO Pよりも約100g軽い。5.6型液晶のボディは背広のポケットにも入るという売り文句だが、ぼくのジャケットの内ポケットには入らなかった。でも、十分にコンパクトだ。何よりも、ポインティングデバイスは、VAIO Pのそれよりも圧倒的に使いやすい。両手で本体を支える、右親指でキーボードの右上のスティックを使ってポインタが動かせるし、左親指でキーボード左上のマウスボタンを押せる。絶妙なレイアウトだ。

 ちなみにこの製品は、液晶ディスプレイがマルチタッチデバイスになっている。コンピュータのプロパティでは2タッチと表示されるが、実際にペイントなどを使ってみると5タッチを認識しているようだ。ただ、オブジェクトが小さすぎることから、タッチでの操作はあまり心地よくない。ただ、これは好み次第といえそうだ。

 サイズがサイズなので、標準状態では、表示される文字さえ読みづらい。Windows 7では、Windowsキーを押しながら+を押すと拡大鏡が起動し、画面がズームアップし、Windows + Escで元の状態に戻るので、そのコンビネーションを使ってもいいのだが、設定等をすべてすませたところで、アクセスできないボタン等があるのを承知でテキストサイズを150%にしてちょうどいい案配になる。手元のVAIO Pもこの設定で使っている。

 ブラウザのIEも、その設定に応じて表示が拡大されるが、IEは直前の拡大率を記憶するので200%に設定する。そんなときにVAIO Pの横長液晶はなかなか便利だ。LOOX Uは、その点でちょっと横幅が足りなく感じる。これまた個人の視力次第といったところだろうか。

 キーボードはどうかというと、タッチタイプはなんとかできるが、高速入力は無理だ。さすがに1週間では慣れなかった。VAIO Pならインタビューのメモや原稿書きなどができるが、LOOX Uではできない。でも、VAIO Pで閉口していたスリープ中のバッテリ浪費がほとんど感じられないのは好感が持てる。処理性能としては五十歩百歩といったところだろうか。はなからそんなものには期待をしていない。

●立ったままで使いやすさが発揮される

 LOOX Uは基本的にテーブルやデスクの上で使うデバイスではないと感じた。立ったまま両手で支えて使うのにいい。その状態でのポインティングデバイスの使い勝手がすばらしく、そして、ギリギリで親指タイプができるのもいい。VAIO Pは横幅が広すぎて親指タイプには不向きだった。ぼくは携帯電話での文字入力がやたらと遅いので、LOOX Uでの親指タイプの方がずっと高速だ。逆にテーブルの上などで使おうとすると、ポインティングデバイスの位置が徒となってかえって使いにくい。そんなときのマルチタッチなのだが、すでに述べたようにオブジェクトサイズが小さすぎて、積極的に使おうという気になれない。

 WiMAX内蔵というのもいい。液晶を開けばスリープが解除され、ほどなくログオン画面が開く。パスワードを入れてデスクトップが表示されるころにはすでにインターネットにつながっている。この便利さは使ってみれば手放せなくなるものだ。欲をいえば指紋認証でログオンできるようになっていてほしかったが、それによる重量増をどう評価するかということだろう。

 このデバイスで何をするかだが、たとえば、動画ファイルを再生させてみる。動画を再生するソフトウェアはバリエーションに富むが、意外にWindows Media Centerが使いやすい。Ctrl+Fで、きわめて正確に30秒のスキップができる点、そして、タッチ操作でも使いやすいGUIと、まさにLOOX Uのために用意されたかのような環境だ。

●MIDは見えるストレージ

 ぼくにとって、PCとはその筐体のサイズにかかわらず、相似でなければならないというのが信条だ。処理性能やストレージの容量、モニタのサイズ、数などはさておき、大中小のノートPC、そして、デスクトップまで、論理的にはほとんど同じ環境にして使っている。特に、ソフトウェアは、Oultookと秀丸、そして、ATOKが使えなければPCではないとさえ思っている。一時はポメラのようなデバイスに心惹かれたこともあったのだが、似ているようで非なる環境にはなじめないということに気がついた。モバイルインターネットデバイスのOSは、Moblinのような軽量OSで十分だとされる論調もよく耳にするのだが、多少なりとも生産のための道具に使うのなら、やはりここは、Windowsであってほしいと思う。LOOX Uは、当然、これらの環境をサポートできる立派なPCだ。高性能PCと連携させることでさまざまな場面で活躍してくれるだろう。

 携帯以上、PC未満の位置づけとしてLOOX Uのようなデバイスには「見えるストレージ」的な役割を与えたい。もちろん、ある程度の生産性をサポートする必要はある。だからこそWindowsが必要だ。そして、メールを書いたり、ちょっとしたメモを入力したり、スケジュールを管理したりといったPIM性をサポートしながら、内蔵ストレージやメモリカードに記録された各種のデータを見る。インターネットもある意味では巨大なストレージだ。WiMAXのような、そこにつながる太い帯域で、クラウドアプリを使えば、本体の処理性能の低さはそれほど気にならなくもなる。

 個人的な環境としては、内蔵ストレージが128GBないと、PCとして機能しないのだが、32GBもの容量を持つSDメモリーカードが6,000円台で買える昨今、本体ストレージは64GBで十分と考えるユーザーも多いはずだ。何よりも、この手のデバイスは、SSD以外考えられない。HDDでは心配でラフに扱えなくなってしまう。それに、128GBや256GBといった大容量のメモリカードが手軽に入手できる日もそんなに遠くはないはずだ。

 いずれにしても、こうしたデバイスの登場で、今までPCを使おうとは思わなかった場所、場面でPCを使うようになる。必然的にPCを使う時間が長くなる。そして、PCが手放せなくなる。クルマも同じで、大中小の各サイズ、ワゴンやセダン、コンパクトカーを用途に応じて使い分けられれば便利だが、予算的に維持がたいへんだ。でも、PCならなんとかなるかもしれない。その日の気分で持ち出すPCを選び、いろいろなところでいろんな用途にPCを使う。そういうことが一般的になるのに、LOOX Uは大きな貢献をするだろう。選択肢が増えるのは大歓迎だ。