山田祥平のRe:config.sys

コアプロセッサが処理する不老チャート




 人は必ず歳をとる。若さは節約して貯めておくこともできないし、カネで買うこともできない…はずだ。でも、体力年齢なら進行を抑制することができるかもしれない。歩けなくなってからでは遅いのだ。

●デバイスの標準化があらゆる現場の負担を減らす

 インテル株式会社が代表企業として参加するNPO法人コンテニュア・ヘルス・アライアンスは医療機器や健康管理のサービスの標準化を企て、個人のヘルスケアのIT化を推進する団体だ。2年前にこのコラムで「インテルががんばれば病院が変わる」と題して、インテルの医療現場への取り組みについて紹介したことがあったが、そのとき、同社の吉田和正氏(当時は共同社長、現社長)が「1年半くらいで、インテルはよくここまでやったと褒められるくらいの結果を出したい」とコメントしていたが、それが現実のものになったといえる。

 先日の事業利用開始説明会で壇上に立った吉田社長は「業務でITを使う際に、それによって負担が増えるようではいけない」と語り、各種メディカルデバイスの標準化によって、業務の効率化や入力ミスの防止が図れるはずだとアピールした。

 ヒトが生きていることを示すデータの代表は、心拍、呼吸、血圧、体温だとされ、バイタルサインと呼ばれることが多いようだ。これらを計測する機械は身近なところでもよく見かけるが、その計測データを標準化された方法でPCに集められたら、どんなに便利だろう。コンテニュア・ヘルス・アライアンスの目指すところは、早い話が、これらのメディカルデバイスとPCとの間のプロトコルを標準化し、相互にデータをやりとりできるようにすることだ。

●深刻な医師不足

 発表会のゲストとして登壇した帝京大学本部情報システム部部長、帝京大学医学部付属病院の麻酔科講座を担当する澤智博氏は、過大な医療への期待に医療現場は疲れ切っていることに言及し、高齢者の増大に医師の育成が間に合わなくなっている今だからこそ、ITに頼る必要があることを説いた。

 従来のパラダイムでは、体に何らかの異常を自覚してから病院に行こうとするのが普通だったが、ITの活用によって、異常のトレンド検知を自動的に行なえるようになるかもしれないという。つまり、病気になってからではなく、病気になりそうな気配を察知できるかもしれないということだ。さらに同氏は、デバイス同士が標準的なプロトコルで話せるようになることが病院内でのラストワンマイルを担う面にも期待する。また、ICT化による副産物として、収集した大量のデータを蓄積解析できるため、それがライフイノベーションを促進する可能性にも言及した。

 病気にならないように自分で自分の健康を維持するためにつとめていないと、近い将来には医者に診てもらおうにも診てくれる医者が不足していて、満足な医療を受けられない可能性もある。実に怖い話だ。

 幸い、このコラムを読んでくださっている読者の多くはPCの操作に長けている。各種のメディカルデバイスが標準化されれば、それらを組み合わせて、自分の健康管理に直結させることができるはずだ。今までも、ジムトレーニングの記録や体組成分析の結果などをPCで管理してきた方は多いと思うが、その作業がさらにラクになるのは大歓迎だし、各種のクラウドサービスが登場して、より緻密な分析ができるようになることも現実的になってきた。

 たとえば、体重計、体組成計に乗る前に、FeliCa内蔵の携帯電話を体重計にかざしてログインし、測定が完了すると、自動的にその結果が無線LANやBluetoothを使ってクラウド側のASPやPCに送信され、分析結果や過去のヒストリーをすぐに確認するようなことができるのだ。

●標準化は何をもたらすのか

 以前、医療用の画像処理ワークステーションのハードウェア、ソフトウェア開発をしているザイオソフトという企業を取材したことがある。この企業では、CTスキャンやMRIのデータを画像処理できる「zioTerm2009」というソフトウェアを無償配布しているのだが、取材時にきいたところでは、これらのデータやレントゲン像などは、ずいぶん以前からDICOM(Digital Imaging and COmmunication in Medicine: ダイコム)という規格で標準化されているというのだ。そして、このソフトを使えば、そのDICOMデータを3D画像分析できる。

 そのときに教えられたのは、何らかのきっかけでCTやMRI検査を受けたときには、そのデータをもらっておくといいということだった。病院によってはUSBメモリやCD-Rでデータをくれることがあるのだという。

 なぜ、データをもらっておくといいのか。何か体に異常が見つかった場合、現状のデータを過去のデータと比較することで、より的確な診断を受けられるからなのだそうだ。病院でのカルテや検査データの保存期間はそんなに長いものではない。その期間が過ぎてしまったあとの入手は難しい。データサイズも今の地デジ録画済みファイルなどと比べれば微々たるもので、保存しておく負担はほとんどない。

 医療の現場のデジタル化は著しい。さまざまな医療デバイスがデジタル化されている。健康デバイスも同様だ。ジムのトレーニングマシンだってそうだ。それらが標準化されることで、一般人が自分のカラダをより深く知ることができるようになる。

 良いことだらけのようだが懸念もある。1つは閉じたソリューションでなければ困る現場もありそうだということだ。従来のビジネスモデルが変革されてしまうことで、本来得られていた対価が得られなくなってしまう可能性はないのか。

 また、PCの世界では標準化がコストの下落を引き起こすのが当たり前だが、医療の世界ではどうだろうか。逆に、医療デバイスや健康デバイスの価格が上昇するようなことはないだろうか。

 年初にふくらはぎを部分断裂、いわゆる肉離れを起こして病院で診てもらったときに、治るまではサポーターを使用するようにと言われた。処方箋を薬局に持って行けば健康保険適用された価格で買えるのだと思っていたら、そんな高いものを買わなくても100円ショップで売られているもので十分だと医師。本当に100円ショップで入手でき、ずいぶん安上がりにすんだ。

 今では100円ショップでも売られているUSBケーブルが、医療用と銘打ったとたんに5,000円になるようなことはあってはならない。さまざまなデバイスが標準化によってうまく連携し、ローコストで健康管理につなげていくことができれば、生活習慣病なども減り、高齢者医療費も減少するはずだ。そんな世の中をめざしてほしいと思う。