山田祥平のRe:config.sys

Silverlight 4があればWindowsはいらなくなるの?




 PDC09でSilverlight 4のベータ公開が発表され、即日ダウンロードできるようになった。Silverlightは、リッチなインターネットアプリケーション(RIA)を実現するためのプラットフォームとして、Microsoftが多くの開発リソースを割いて推進している製品だ。今回は、PDC09のまとめとして、このプラットフォームが秘めるパーソナルコンピューティングの未来について考えてみよう。

●希薄になるWindows OSの存在感

 PDC09の基調講演において、.NET Developer Platform 担当コーポレート バイスプレジデントであるスコット・ガスリー(Scott Guthrie)氏が紹介したSilverlight 4の公開ベータは、実に、野心的なプロダクトだ。というのも、このプラットフォームがMicrosoftのもくろみ通りに完成し、さまざまなハードウェアで動くようになれば、x86やx64、いわゆるIAで稼働するWindowsというOSの存在感がなくなることはないにしても、きわめて希薄なものになる可能性があるからだ。

 Silverlight 4は、ビジネスアプリケーションの構築も視野に入れた設計がなされている。そのために、印刷やリッチテキストのサポート、さらには、クリップボードまでが実装されたし、バーコードリーダーやウェブカム、マイクといった各種のデバイスサポートも加わる。そして、サンドボックスを使ったWindows APIまでサポートされ、ローカルファイルシステムまで使えるようになるらしい。

 となれば、現在のWindowsのように自由度の高いOSに、めいっぱい制限を加えた上でエンドユーザーに使わせるTCOを考えれば、企業内で使われる業務アプリなどは、Silverlight上に展開してしまった方が管理がラクになるかもしれない。

 もし、このプラットフォームが、一般的なPC、MacといったIA環境のみならず、Windows MobileやiPhone、そして今後登場するであろう各種のモバイルインターネットデバイス(MID)といったデバイスでも使えるようになったとしたらどうだろう。シンクライアントはこれで決まりといったことも起こりうる。

 もちろん、SilverlightはOSではないので、処理性能が非力なプラットフォームを魔法のように生まれ変わらせることはできない。でも、Mac OSがUNIX上に独自の世界を切り拓いたように、Windowsとは異なるコンパクトなカーネルの上でSilverlightが稼働するようにできれば、ちょっと世界が変わっていくんじゃないかという気がしている。つまり、何がなんでもWindowsという呪縛から自らを解き放とうとしているMicrosoftには、ある種の覚悟のようなものさえ感じられる。

●リッチさと使いやすさの両立は難しい

 そもそもRIAとはいったい何なのか。ウェブアプリ、クラウドアプリをブラウザのページ表示という制限から解き放ち、自由度の高いGUIを実現したアプリケーションと考えておけばいいだろう。Microsoftは、今後のユーザーインターフェイスをNUI(Natural User Interface)と呼ばれるフェイズに持って行きたいようだが、ブラウザがどんなに高機能化しても互換性に足をひっぱられて拡張が難しいのがWebの世界だ。でも、自由度の高いNUIが、RIAであれば実現できるかもしれない。ましてや、ぼやぼやしていると、この分野は、アドビのFlashやAirに持って行かれてしまうという危惧もある。

 リッチなユーザーインターフェイスは、使っていて楽しいものだし、直感的に操作できる点で万民に愛される存在になりやすい。だが、さほどリッチさを持たなくても、ニーズに合致しさえすれば、広く迎えられる場合も多い。実際、YouTubeやMixi、Twitter、2ちゃんねるといったコミュニティは、知らない人がいないくらいに受け入れられているが、それらのGUIはお世辞にもリッチなものとはいえない。これは、Googleの検索ページやYahoo!の各サービス、Amazonのショッピングページなどにも同じことを感じる。

 今回のPDC09では、Microsoft Office 2010の公開ベータも発表されているが、インストールして驚いたのはファイルメニューが復活している点だ。ウィンドウ上部に並ぶリボンの切り替えタブの1つとしてファイルメニューが追加されたのだ。

 現行のOffice 2007ではウィンドウ左上のOfficeボタンと呼ばれる円形状の大きなボタンがその役割を果たしていたし、7月に公開された2010のテクニカルプレビューでは、そのOfficeボタンがなくなり、Backstageボタンに変わっていたのだが、これが「ファイル」に先祖返りしてしまった。このボタンの存在に気がつかない限り、ドキュメントを印刷することさえできない。ファイルメニューの喪失は、よほど苦情が多かったということなのだろう。それはリボンUIを持ってしても超えられない壁だったということだ。

 Windowsアプリケーションにとって、メニューバーの存在は、すでに、そのアイデンティティといってもよく、メニューとサブメニューによってアプリの全容を知ることができる。それを撤廃することは、もうすでに不可能であり、ユーザーの声に耳を傾け、ファイルメニューを復活させてしまう今のMicrosoftには凄みといっていいものさえ感じてしまう。きっと企業ユーザーの多くは、Officeのバージョンアップをするにあたっても、2007より2010を選ぶにちがいない。

●本当に開くかパンドラの箱

 MicrosoftがNaturalをアピールして、それが本当に自然だった記憶がない。呼称なら、むしろIntelli~の方が素性がいい。たとえば、IME 2002では、ナチュラルインプットと呼ばれる変換機能がサポートされたが、あまりの評判の悪さに廃止されてしまうという経緯もあった。

 リッチなGUIには、新しさは感じられたとしても、それがナチュラルであるとは限らない。馴染めないナチュラルを押しつけられるくらいなら、GUIはリッチでなくてもかまわないと考えるユーザーがいるのも不思議ではない。そこが難しいところだ。

 Silverlight 4が実現するリッチをどのようなリッチにするのかは、アプリケーションの開発者に委ねられている。残念ながら、ネイティブなWindowsアプリケーションが、リッチとは無縁な状態であるといっていい今、Silverlightは第二のWindowsとして、新たな突破口を開けるのだろうか。でも、開いたら開いたで、それはパンドラの箱かもしれないのだが。