■山田祥平のRe:config.sys■
久しぶりにコンパクトデジカメを購入した。1年に満たないサイクルで新製品を購入しても、その進化の著しさには驚かされる。だが、背面の液晶は、もはや古ささえ感じる4:3のアスペクト比だ。この仕様はいったいいつまで続くんだろうか。
●3つの縦横比から好きな比率を選べる新たに購入したカメラはパナソニック「LUMIX DMC-ZX1」だ。以前もLUMIXを使っていたこともあり、新製品の発売に伴い、もう一度使ってみる気になった。同時に発売されたFX60と、どちらにしようか迷ったのだが、結局8倍ズームの魅力に負けてこちらを選んでしまった。
35mm換算で200mm相当の焦点距離が必要な距離の撮影の場合は、たいてい一眼レフデジカメを使うことになるので、本当はさらに薄くて軽いFX60を購入するつもりで量販店頭に立ち寄った。でも、店先でちょっと手にとって、あっさりと気が変わってしまった。この焦点距離があれば、記者会見会場などで、ステージからけっこう離れていても、それなりにアップの絵が撮れる、それなら重い一眼レフデジカメや、望遠レンズを持って行く必要がないと、手抜きのできる可能性に負けてしまったのだ。
それはともかく、このカメラの背面には、他の多くのコンパクトデジカメ同様、4:3の液晶ディスプレイが装備されている。ただし、このカメラがサポートする撮影時のアスペクト比には、4:3以外に、3:2、そして16:9がある。前者は35mmと呼ばれる135フィルムの比率だし、後者はTV放送のワイド画面の比率だ。
このカメラを使って最大画素で撮影した場合、どの比率でも、横方向は4,000ピクセルで記録され、比率によって縦方向のピクセル数が変わる。当然、記録画素数は4:3での撮影時がもっとも多くなる。CCDそのものが4:3だからだ。また、液晶も4:3なので、4:3以外の比率で撮影する場合は上下に黒いマスクがかかったような状態で表示される。
●古式ゆかしきビデオカメラの影コンパクトデジカメは、フィルムカメラというよりも、ビデオカメラに出自が近いように思う。昔、といっても、ほんの10年ほど前でも、ビデオカメラのほとんどは、4:3比率の映像を記録していた。今のデジカメのスタイルの元祖的存在といってもいいカシオのQV-10の発売は'95年の春だが、このカメラは4:3の液晶モニタを持ち、25万画素、320×240ピクセルの画像を記録した。本当なら3:2でもよかったはずなのにだ。以降、コンパクトデジカメといえば、4:3というのがお約束になってしまっている。
さて、現代のビデオムービーカメラは、そのほとんどがワイド比率の16:9で映像を記録する。これは当たり前で、家庭で使われているTVのほとんどが16:9だからだ。もちろん、地デジ放送の縦横比も16:9だ。世の中の多くの人々が慣れ親しんでいる動く映像の縦横比は16:9であり、ビデオカメラで撮影した映像はそのTVに映し出す。だから、撮影も16:9にするというのは自然な流れだ。
さて、デジカメはどうだろう。ぼくが買ったLUMIXがそうであるように、4:3と3:2、16:9の縦横比を選べるようになっている。でも、まだ、多くのユーザーは、4:3のままで使うだろう。デフォルトがこの比率になっているからだし、液晶の比率も同様だからだ。
そして、その映像はどこに映し出すのだろう。PCかもしれない。でも、PCで使われている液晶も、その多くがワイド化され、16:9や16:10の縦横比を持つ。また、TVに映し出すことを考えても、16:9の方が親和性が高い。今や、携帯電話の液晶だってワイドが普通だ。
フィルムの時代から、写真は紙のサイズには迎合してこなかった。L版サービスサイズがこれだけ一般的になったのなら、L版サービスサイズのフィルムがあってもよさそうなものだ。あるいは、L版サービスサイズこそフィルムに迎合し、3:2の比率を持ってもよかった。でもそうはならなかった。
一方、デジカメ写真がPC用のプリンタで出力されるようになったものの、ポピュラーに使われる用紙はA系で、これまた4:3や3:2とは無縁な比率だ。
●16:9の世界を試すちなみに、パナソニックは、2005年にLUMIX DMC-LX1、その翌年にLUMIX DMC-LX2と、ワイドCCDとワイド液晶を持つコンパクトデジカメをラインアップに持っていたが、昨年、LX3になって、CCDのアスペクト比を4:3に、液晶モニターは3:2に戻してしまっている。時期尚早だったということなのだろうか。
今後の展開として、いわゆる写真的なものを見る方法は、紙に代わってデジタルなメディアが主流に変わりつつある。PCやTVの画面はもちろん、携帯電話の画面、デジタルフォトフレームなど、多彩なデバイスで写真が見られるようになってきているのはご存じの通りだ。今後は静止画と動画の区別も曖昧になるかもしれない。静止画はスライドショーのように動画的に見ることも多くなるだろうからだ。
2005年は早すぎたかもしれないが、今なら、ワイド液晶、ワイド撮像素子のコンパクトデジカメも歓迎される可能性はある。なにしろ、写真を見るデバイスがワイドなのだから、撮影だってワイドがいい。
ただ、きっと、縦位置で撮影する機会は激減し、写真表現の幅は、一時的に狭まるかもしれない。でも、TVや映画も縦位置鑑賞を前提とした絵作りはなかったし、そもそも16:9のワイド画面の縦位置はいかにも縦長過ぎて作図が難しく感じられるかもしれない。それに、回転できるフォトフレームやPC用ディスプレイはともかく、40型だの50型だのの大画面TVを回転させるのは難しいし、TVにピボットの機能がつくような日はこないだろう。縦長スクリーンを持つ映画館だって出現することはなさそうだ。
こうして、デバイスは、人間が古くから慣れ親しんできた視覚の縦横比を、10年に満たない短い期間でガラリと変えてしまいそうだ。フィルム時代の影響を強く受けているように見えるデジタル一眼レフカメラが、その影響を受けるのも時間の問題だ。ましてや、コンパクトデジカメこそ、アッという間に16:9化してしまうように思う。
本当かどうか。新しく買ったこのカメラでは、縦横比を16:9に固定して撮影することに決めた。その体験が、何らかの答えにつながっていくはずだ。