山田祥平のRe:config.sys

雲のメモ帳、雲の引き出し




 これから先、10年、20年と、パーソナルコンピュータを使い続けるつもりなら、できる限り、データはクラウドに置くようにしたほうがいい。目の前のコンピュータは永遠ではなく、壊れもするし、新しい使い方のモデルには力不足にもなる。それに伴って新たなコンピュータを手に入れても、データがクラウドにあれば移行はたやすく、複数台のデバイスを併用するのにも便利だ。

●クラウド時代のアプリOneNote

 Microsoft OneNoteがようやく正式な日本語版のAndoroidアプリとしてリリースされた。OneNoteは、Microsoft Officeファミリーに属する製品で、いわゆるメモ用のアプリケーションだ。前からあったバージョンは、日本のスマートフォンではAndroidマーケットからダウンロードすることはできなかった。スマートフォンのSIMを米国のものに変えれば、日本からでもダウンロードしてインストールもできたのだが、日本語化はされていても、それが不十分で文字表示がおかしいといった不具合があった。ややこしい方法で入れていたスマートフォンからいったんOneNoteをアンインストールし、もういちど、OneNoteを検索すると最新版が見つかるので、それを入れればOKだ。

 OneNoteの最たる特徴は、ファイルとその保存を意識しなくていいという点だ。アプリを開いて、書き込んで閉じればそれでいい。次に開けば最後に見ていたその箇所が開く。実にわかりやすい。しかも、ファイルを保存するという考え方がない。これは、Androidアプリのみならず、Windowsで動くOneNoteも同様だ。

 OneNoteは、Windows Liveで提供されているストレージサービスであるSkyDrive上にファイルとしてデータを置き、それを開いて書き込むという使い方をする。

 具体的にはにはSkyDrive上の「ドキュメント」というフォルダに、「個人用(Web)」という名前のファイルとして既定のデータが置かれる。OneNoteではファイルはノートブックという概念で扱われ、そのノートブックにセクションを設け、各セクションにページを追加していくという方法でデータを蓄積していく。

 ノートブックは何冊でも作れるし、それらを同時に開くこともできる。タネを明かせばタブ切替のマルチプル・ドキュメント・インターフェイスなのだが、見せ方がうまく、ややこしさを感じさせない。

 WindowsアプリもAndroidアプリもローカルにキャッシュを作り、それをクラウド、つまり、SkyDriveに置いたファイルと同期する形になるので、通信の可否に関係なく、いつでもデータを読み書きすることができる。そして、PCであろうが、スマートフォンであろうが、どのデバイスでデータを開いたとしても、同じノートブックにアクセスすることができる。

 しかも、同期は適当なタイミングで自動的に行なわれるので、保存ということを考えなくてもいい。まさに、開いて書いて閉じるだけだ。それだけでいい。さっきまでスマートフォンで書いていたメモでも、長くなりそうになったところでノートPCを開いて続きを書ける。この便利さは何物にも代えがたい。

 Android版のOneNoteに不便なところがあるとすれば、新規にページを作る際に、それが保存される既定のノートブックを指定できない点だ。必ず「個人用(Web)」の「落書きノート」に新しいページとして保存される。あとで、任意のノートブックに移動すればすむ話だが、ここは何とかしてほしいところだ。

●クラウドをシームレス化することが今様OSの当たり前

 OneNoteに限ったことではないが、クラウドにデータを置く場合、その編集にアプリが限定されることに不便を感じることもある。SkyDriveには、さまざな種類のファイルを置くことができるし、WordやExcelのファイルなら、いちいちダウンロードしなくても、その場で開いて参照することもできる。Andoroidでは、SkyDrive APIを使ったBrowser for SkyDriveといったアプリがあって、それを使ってファイルを見つけ、Webベースのモバイルビューアで開くことはできるのだが、編集を加えるにはダウンロードが必要になる。いったんダウンロードして編集してしまったら、それを再びアップロードしなければならないのは億劫だ。ファイルを往来させることを意識することなくシームレスにデータを読み書きできるのが望ましい。

 EvernoteやDropboxといった著名サービスは、こうした不便をさまざまな方法で解消しようとしている。その努力は認めたいが、やはり、使い勝手としてはまだまだだ。例えば、EvernoteにWordのファイルをドロップすると、Evernoteドキュメントにワードのファイルが添付された形となり、結局はファイルをダウンロードすることになる。やはりこれでは面倒なのだ。

 OneNoteのような、特別な対応ができるようにアプリケーションを作り込まなくても、このあたりの仕組みをきちんと引き受けてくれるのがOSというものだろう。OSがこの仕組みを引き受けてくれれば、アプリもユーザーも、今までの作法を変えることなく、何も考えなくても、クラウドがかけがえのないデータをバックアップしてくれる。そうなれば、複数台のPCやスマートフォンを、その日の用事に応じて使い分けるときにも、とても効率がいいし混乱することもない。1台のデバイスにすべてを集約するのではなく、役割を分担させることで効率や便利が手に入る。Windows 8はSkyDriveの統合で、このあたりに生じる問題をうまく解決してくれるはずだ。


 といったことを考えながらこのコラムをまとめていたら、スペイン・バルセロナで開催中のMWCにおいて、MicrosoftがWindows 8のConsumer Previewの詳細を明らかにする記者会見を開催したというニュースが流れてきた。かねてから予告されていた通りのタイミングだ。そして、すでにConsumer Previewは日本語版を含む複数のバージョンがダウンロードできる状態になっている。早々とダウンロードしてセットアップして使っている読者もいると思う。紹介ページもしっかり日本語化されていてハードルの低いものになっている。だからといって、Preview版であることには変わりなく、使うにはちょっとした覚悟が必要だ。仕事で使っている唯一無二のPCに入れようなどとはゆめゆめ考えてはならない……けれども、ぼくはそれが仕事なのでそうする。

 というわけで、これから数カ月の間は、このバージョンのWindows 8とつきあっていくことにする。それに伴って、さまざまな情報をいろいろな面から集めて紹介する連載として『山田祥平のWindows 8カウントダウン』を始めることになった。

 Windows 7のときは、1月にベータが出て、5月にRC(Release Candidate)が出たタイミングでのスタートで、2009年5月に連載を開始したが、今回は、それより早い、Consumer Previewのタイミングでのスタートとする。現時点で2カ月遅れといった感じだろうか。月に2回の割合で、さまざまな情報を提供できるようにしたい。ぜひ、ご期待いただきたい。