山田祥平のRe:config.sys

Let'snoteが提案するスマートフォン時代のモバイルPC




 モバイルには妥協がつきものだ。処理性能をガマンしてバッテリ駆動時間を延ばしたり、長時間駆動のために重量級のバッテリを積んだりと、あちらをたてればこちらがたたずのせめぎあいが繰り返されてきた。Let'snoteも同様で、どうすれば、バランスのいいモバイルPCになるかを常に模索し、知恵と工夫で、それをカタチにしてきた。今回発表された新シリーズB10は、果たしてどんな提案をしてくれるのだろうか。

●点モバイルの領域に踏み込むLet'snote

 モバイルには「点」のモバイルと「線」のモバイルがある。移動先での運用メインと移動中の運用メインの違いだ。Let'snoteは近年になってFやYのような「点」を強く意識したシリーズも登場してはいるものの、基本的にはずっと線のモバイルを追いかけてきたように思う。むしろハンドルつきのFなどは、「線」指向のバリエーションといってもいいかもしれない。

 もっともLet'snoteらしいといわれるSやNのシリーズは12.1型ワイドの液晶を持つが、このシリーズが看板になっているのはユーザーの利用スタイルとして、点と線の両方の使い方に耐えることとに起因する。つまり、点と線の双方に別のPCを用意することのコストとデータ同期などの手間を考えたら1台に2役を与える方がてっとりばやいということだったわけだ。

 一方、10.1型ワイドのJシリーズや、以前の超モバイル機Rシリーズなどはどうかというと、これはこれで線のモバイルに特化したLet'snoteの原点のようなPCだ。根強い人気を得ているのも頷けるし、Jシリーズが予想以上に評判がいいというのもわかる。

 そして今回登場したのが15.6型フルHD液晶を持つBシリーズだ。1.88kgで6時間バッテリ駆動というのは15型以上の高解像度画面での世界最軽量、最長駆動だという。パナソニックAVCネットワークス社 システム事業グループ ITプロダクツビジネスユニット ビジネスユニット長の奥田茂雄氏は新シリーズのLet'snoteB10を「仕方なくを解消する世界最軽量のフルHDモバイル」だと誇らしげにアピールした。

 本体を実際に手に取ると、モックアップかと思うくらいに軽く感じる。1.88kgという数字からのイメージよりずっと軽く感じる。通常のA4ノートからペットボトル2本分、ほぼ1kgをダイエットした重量なのだから、そう感じるのは当たり前なのだが、初めて手に取ったときには違和感さえ感じた。

 個人的には5泊程度になる海外出張などには、必ずといっていいほど17型液晶のノートPCを持参していた。ホテルの部屋で使うには、このくらいの画面サイズがないと寂しい。いや、そのくらいの画面サイズがないと、仕事の効率が悪くなってしまうのだ。

 日常的なデスクワークでは、フルHDを3画面のマルチディスプレイ環境で、このデスクトップを狭いと思うことはほとんどない。それぞれの画面には、自分で決めたほぼ一定の役割があり、ブラウザで資料を参照しつつ、原稿や企画書を書き、メールを読み書きしながら、Twitterのタイムラインを眺めるといったことをしている。

 一方、出張先で使うノートはシングルディスプレイなので、こうした使い方ができない。だから、できるだけ大きな画面のディスプレイで、少しでも効率を落とさないようにとがんばるわけだ。17型のノートPCは重量級だ。でも、背に腹は代えられず、それをバックパックに入れて出張にでかけていく。それが常だった。でもB10なら、負担はずいぶん軽くなる。ちょっとうらやましい。

 もちろん、こうした大型ノートPCを使うのは、でかけていった先の固定位置だ。たとえばそれはホテルの部屋のデスクだったりする。つまり、点のモバイルだ。ホテルを出て取材にでかけたり、出張先でのインタビュー取材などには、もう1台持参しているモバイルPCを使う。取材中に使うPCでは、統合的な作業をすることはあまりなく、メールの読み書きや、インタビューの内容を記録したり、記者会見のメモをとるくらいなので、それほどの大画面、高解像度は必要ない。それよりも軽量、長時間駆動が優先される。

●スマートフォンが浸食する線モバイルの領域

 B10のサイズ感、重量感は、まさに点モバイラーを想定したものだろう。たぶん、彼らは電車の中でPCを開くことはない。でも、カバンの中には重量級のノートPCが入っていて、肩に食い込むショルダーバッグのベルトが痛々しい。しかも、それと同じくらい重い書類や資料がギッシリとつまっている。

 それでも彼らが重量級のノートPCを持ち歩くのは、コスト的に1台しか自分のノートPCを所有することが許されず、仕方なく大は小を兼ねていることもあるが、やはり、点のモバイル運用における効率維持にあるにちがいない。

 近郊電車でPCを開くことはない一方で、飛行機の中や新幹線の中など、ある程度の時間、腰を据えられる場所ではPCを開く。そこでは大画面でありながらフットプリントの小ささが求められる。B10はその点もうまくクリアできている。長距離移動は線のモバイルのように見えて、実際は点のモバイルの亜種なのだ。

 昨今の顕著なトレンドとして、スマートフォンが一般的になるにつれて、PCを駆使した線のモバイルスタイルは、少しずつフェードアウトしつつある。移動しながらのPC利用の用途の多くは、スマートフォンで代用できることが多くなってきたからだ。もちろん、長いメールを読み、添付ファイルを確認して、大量のコメントを書き付けるといった使い方をしようと思うと、スマートフォンでは手も足も出ないわけだが、いつも、そんなことを強いられるわけではない。多くの場合は、届いたメールにスピーディに目を通し、緊急を要する用件にだけ、その場で返事を書く。あとは、Twitterのタイムラインを、何とはなしに見るといったことくらいだろうか。

 かくして、ぼく自身も、最近は、カバンの中のノートPCを電車の中で取り出して使うシーンが激減してしまっている。特にスマートタブレットを使い始めてからは、線環境における多くの用事がそれでまかなえるようになった。そうなると贅沢なもので、線のモバイルをスマートフォンやタブレットでまかなうなら、点のモバイルの環境をさらに改善したいと思うようになるというものだ。

 今年は、スマートフォン元年といわれるくらいに、スマートフォン周辺が賑やかだが、こういう時期に超ウルトラモバイル機ではなく、Let'snote史上最大最高解像度の15.6型フルHDを提案してきたのは、単なる偶然ではなく、パナソニックとしても、そういうトレンドが確かにあることを意識しているに違いない。

●線が結ぶ点が生む新たな領域

 今回の発表では、もう1つ驚いたことがある。というのは、その価格だ。PCという点では、SもNも、ほぼ同等のスペックを持っているわけだが、B10の価格はそれらよりも安く想定されている。具体的には量販店モデルが17.5万円程度と、Sの20万円前後、やNの19万円前後よりも安いのだ。

 キーボードもいい。15.6型ワイドの横幅を活かし、タッチタイプ時の狭苦しさは感じない。キータッチにも不満を感じることはなさそうだ。欲張れば、キーピッチを少し犠牲にしても、テンキーを装備することができたかもしれないが、B10はそれをしなかった。パームレスト中央近くに位置する円形のホイールパッドが文字キーボード部分の中央からずれることを嫌ったためだ。

 その代わりというわけではないが、キーボードの右端には縦方向に4つのファンクションキーが並ぶ。上からHome、PgUp、PgDn、Endの順で、Fnキーとの併用で、画面解像度切り替え、ワイヤレスON/OFF、光学ドライブ電源ON/OFFキーとしても機能する。隙間があるので杞憂に終わればいいが、BackSpaceキーの右隣にHomeキーが配置されていることだけが気になった。多くのアプリケーションは、Homeキーの打鍵によって、入力位置のカーソルが行頭に飛ぶ。その誤操作を頻発しないかが心配だ。過去に、こうしたレイアウトのキーボードは駆逐されてきているだけに気になるが、こればかりは、実際に、使ってみないとわからない。気になるユーザーのためにソフトウェア的に無効にするような方法も用意しておいてほしいものだ。

 個人的には、オプションで、同サイズ同解像度の自立する外部ディスプレイが欲しいと思った。重さはACアダプタとHDMIケーブル込みでペットボトル2本分を切ってほしい。B10のACアダプタは200g程度だが、同じものが使えるようになっていればもっといい。あるいはUSB電源供給でもいいかもしれない。ACアダプタにUSB端子が付いているでもいい。そしてこのディスプレイをHDMIで本体とつなげば、点モバイルでのマルチディスプレイ環境が簡単に実現できる。ここうした手軽なモバイルマルチディスプレイを求めているユーザーは少なくないのではないだろうか。

 散在する点と、それを結ぶ線。モバイルのバリエーションはさまざまだ。その1つ1つを着実におさえていこうとするLet'snote。今年は15周年の節目を迎えるという。初代どころか、その前身ともいえるProNote Jet miniからのユーザーの1人として感慨深いものがある。