山田祥平のRe:config.sys

SIMなんて、SIMなんて




 モバイルキャリアは音声やデータを運ぶサービス以外に、さまざまな収益モデルでビジネスを展開している。コンテンツプロバイダーと契約者の間にたち、閉じられたネットワーク内でのサービスを仲介、サービス料金を代行徴収するiモードなどは、その代表例だ。でも、そのビジネスモデルも、これからは、大きく舵を取り直すことになるのだろう。

●海外キャリアとの協業をドコモが発表

 ドコモが、中国の通信事業者チャイナモバイル(China Mobile Communication Corporation)、韓国の通信事業者KT Corporationとの事業協力関係の構築に合意し、当該協力に関する契約を締結したという。3社は日中韓協力委員会を設立し、グローバル化やスマートフォンの台頭といったビジネス環境の変化を踏まえ、ネットワーク技術やプラットフォームの連携などについて、未来志向で事業協力の検討を行なうというのがリリースの内容だ。具体的には、国際ローミング、法人サービス、LTEなどのネットワーク技術、スマートフォン、サービスプラットフォームの共通化など幅広い分野で、緊密な協力関係を構築していくらしい。

 KTはともかく、チャイナモバイルというのは意外だった。というのも、チャイナモバイルの3G通信はTD-SCDMAで、ドコモが使っているW-CDMAとは形式が異なるからだ。だから、中国での3G通信は、現状ではチャイナユニコムが海外パケ・ホーダイの指定事業者になっている。ただ、これからの通信がLTEなどの世代に移行していく過渡期に際して、さまざまな利便を模索していくためには、こうした施策が必要だったということなのだろう。なお、チャイナモバイルは中国における移動通信事業者としてはシェア1位だ。

 ちなみにドコモは米国では今、AT&Tとの関係が深いが、シェア1位のVerizonがLTEに取り組む以上、同社との協業なども期待できそうだ。

●対応キャリアを増やしてほしいリーズナブルなサービス

 いわば「つるみ」ともいえる携帯電話事業者の協業になぜそこまで期待するのか。事業者が協業することで契約者が得られるメリットも少なくないからだ。

 2010年秋に、所用で韓国のソウルに行ってきた。初めて行く都市でもないし、知り合いも何人かいる。現地では彼らと連絡を取り合って食事などを楽しんできた。

 渡航前に見つけたのがドコモの「海外プラスナンバー」というサービスだ。このサービスを申し込むと、韓国の電話番号を1つ割り当てられ、現地では、自番号でのローミング発着信に加えて、韓国内電話番号での発着信ができるようになる。つまり、1つの携帯端末に2つの電話番号が割り当てられ、両方が利用できるわけだ。

 この料金が実にリーズナブルだ。月額使用料300円で手数料はゼロ、月内での途中契約、解約は日割り計算となる。韓国内電話からの着信は無料で、発信の場合は韓国へローミング利用時50円/分が20円/分に、日本への発信ローミング利用時125円/分が60円/分となる。

 発信が高額というのならかけるこちらがガマンすればいいのだが、受信する場合は事情が違う。現地の人から連絡をもらうのに、現地にいながら国際電話をかけてもらうのでは、先方の心理的、経済的負担が大きいからだ。

 申し込みも簡単だ。ドコモの特番に電話して、オペレータに韓国での「海外プラスナンバー」を申し込みたいというと、その場で3つの電話番号を提示されるので、そのうちの1つを選べばいい。これで申し込み終了だ。そして、韓国に入った時点で、利用通信事業者をKTに固定すればいい。予約はできないが、申し込み後5分程度で使えるようになるので、成田や羽田空港で搭乗前の時間に申し込めば、飛行機を降りたところで使えるようになっているはずだ。1カ月300円なので、戻ってきてすぐにサービスを解約すれば1日あたり10円のサービスということになる。もし、その番号を維持したければずっと月額300円を支払い続ければいい。年に何度か韓国を訪れるなら、同じ電話番号を維持できる料金としての月額300円は、そんなに高くないと思う。

 ぼくの場合、韓国訪問が頻繁にあるわけではないので、帰国後すぐに解約したが、もっとも頻繁に訪問する米国で使えるサービスなら番号を維持するかもしれない。中国だって、2010年は3度訪問したから同様だ。ぜひ、すべての国で同等のサービスを提供してほしいと思う。

 その後、韓国の友人が来日するときに、KTでも同様のサービスが提供されていないか調べた方がいいとアドバイスしたところ、しっかり提供されていた。おかげでその知人は、入手したばかりのiPhoneを使い、日本でのコミュニケーションを堪能できたようだ。

 ぼくらは本当は現地SIMなど買わなくても済むなら、それで済ませたいのだ。SIMを探して余分な時間を費やしたりもしたくない。限られた国では「海外プラスナンバー」のようなサービスが現実にできているのだから、そういう方面での企業努力を望みたい。

●高止まりが続くデータ通信ローミング

 音声通話に関しては、こうしたサービスがすでにある以上、今後のことが期待できるのだがデータ通信に関しては微妙だ。

 ドコモの場合、指定通信事業者に固定することで、海外でのデータ通信が定額になる「海外パケ・ホーダイ」のサービスがある。現行で1日あたりの上限額は1,480円で、2010年秋までは、それをプランの無料通信分でまかなえた。だから渡航前に高額なプランに変更して、戻ってきたら戻すという手法で、実質的にはその半額、つまり、1日あたり740円でデータ定額通信ができていた。

 現在は、この手が使えなくなってしまった上に、4月1日からは値上げになり、20万パケットまでは1,980円、それを超えると2,980円となる。かなり高額だ。20万パケットは約25MBといったところで、スマートフォンなどでの利用では微妙なところだ。

 先日のCESでは1週間の滞在でのデータ通信トラフィックは150MBほどだったので1日25MBあればギリギリ大丈夫かもしれない。でも、それはAT&Tのネットワークが破綻していたことや、WiMAXを併用していたからであって、すべての通信をサクサクと使えるはずの3G通信でまかなっていたら、この程度ではすまなかっただろう。1日約3,000円というのはやはり高すぎる。せめて、無料通信分の適用で半額利用できる道を復活させてほしいものだ。

●日本通信のIP電話でローミング料金を抑制

 ローミングによる通話があまりにも高額なので、海外渡航時に、深夜、日本からの間違い電話などで起こされたりすると無性に腹が立つ。アメリカ国内で日本からの電話をローミング着信すると、1分あたり175円。「違います」の一言でそれだけかかるというのは、何とも理不尽だ。

 でも、データ通信が廉価になれば、IP電話のソリューションが生きてくる。20日、日本通信がIP電話の新サービスの詳細を発表した。このサービスをうまく利用すれば、少なくとも、日本からのローミング着信だけは廉価に抑えることができる。

 残念ながらサービス開始当初は日本通信のIDEOSおよびSIMが必須のサービスだが、将来的には日本通信のIP電話サービスとして、端末ハードウェア、さらにはそれに装着されたSIMに依存しないサービスとして提供する予定だそうだ。次世代インターネットにおけるデータ通信の可能性を模索する同社らしいサービス展開だ。

 このサービスでは、待ち受けに関してはIP電話番号とSIM電話番号の両方で可能だ。例えば海外に出るときには、自分の携帯電話番号宛ての電話をIP電話に転送するように設定しておけば、高いローミング料金を支払わずにリーズナブルな料金で日本との通話ができる。それに将来的に端末やSIMにサービスが依存しなくなれば、現地SIMを任意の端末に装着し、現地ではそのSIMで発信すれば安上がりだし、現地から日本への通話はその番号で発信すれば料金は日本にいるときと同じ30秒10円でいい。

 日本通信のサービスでは契約手数料が3,150円で、毎月490円の維持費がかかるが、渡航月のみ契約して解約するなどコストを抑えることもできそうだ。

 とにもかくにも、さまざまなサービスをリーズナブルな料金で利用できるのなら、自分の契約しているキャリアだけを信じて使い続けようと思う。なんだか貧乏くさいようだが、やはり高すぎる。こうした工夫をせざるを得ないのが悲しい。

 数万円で海外に飛べる時代に、数日間の通信料金が1万円を超えてしまうというのは実に理不尽だ。ザックリした勘定では、音声もデータも日本国内の10倍といったところだろうか。その上、スマートフォンではテザリングができなくするなど不自由も強いられている。通信事業者とはいったい何なのか。端末どころかサービスまでガラパゴスになってしまっては元も子もない。海外キャリアがやってきて、MVNOとして格安サービスを始める可能性だってあるのにだ。そこを改めて考えてほしいと思う。