山田祥平のRe:config.sys

そして誰もPCでメールを読み書きしなくなる




 「Wave4」のコードネームで開発が進められていたWindows Liveのアップデートが、そろそろ始まるそうだ。8月の終わりまでに多くの製品がアップデートされるという。今回は、現代人の電子メール環境について考えてみた。

●正当な進化を遂げるHotmail

 Microsoftによれば、多くのユーザーはインターネットに滞在している時間の3割をコミュニケーションに使っているんだそうだ。最近は、ソーシャルネットワークのアクセスが激増しているようで、特に、Twitterに費やされる時間や頻度は注目に値するらしい。

 新しいHotmailは、そのdogfood版を、しばらくテストアカウントを使って試用させてもらったが、まだ、きちんと動かず詳細が見えないところを含めて目玉機能が3つある。Microsoftによれば、手堅くGmail対抗といったところのようだ。

・一括処理によるメールの一掃

 1つのメールを指定して一括処理することで特定の差出人等からのメールを指定したフォルダに移動させる。この指定は今後届くメールに対しても有効。迷惑メールに対しても対処できる。

・フィルター機能によるメールの分類

 知り合いからのメール、ソーシャルネットワークからのお知らせメール、グループからのメールなどをインテリジェントに分類し、未読メールであふれる受信トレイから、確実に読むべきメールを素早く探し出せる。

・Office Web Appsとの連携などによる添付ファイルのオンラインプレビュー

 文書ファイルについてはダウンロードすることなく、その場で内容を確認し、必要に応じて修正などを加え、SkyDriveを経由して送信者に戻すことができる。

以上のようなアップデートがされている。

 デザインやレイアウトもずいぶんすっきりして使いやすくなった印象もある。なにせ、5億人ものユーザーを抱えるサービスだ。移行は順次行なわれるとのことで、知り合いが移行したからといって、自分が移行するわけでもないとのことで、ある日突然、新しいシステムに変わるということらしい。

 とりあえず、新サービスについては、完全な状態で動き始めてから、もう少し詳しく見ていくことにしたいと思う。

●Webメールは捨てアドメール

 Webメールといえば捨てアドメールという時期が長く続いていた。だが、就活の連絡にWebメールを使う若者がひんしゅくを買っていたのも今は昔、その認識は、少しずつ薄れつつあるようだ。

 何しろ、プロバイダーのメールアドレスは、プロバイダーを乗り換えるだけで失われてしまう。維持するには、安いとはいえ、なにがしかのサービス維持費が必要となるし、そこまでして愛着のあるようなアドレスだと思っているユーザーは、そんなに多くないだろう。携帯メールでは、その維持さえできない。

 成り行き的に仕方がなかったとはいえ、過去においてメールサービスを接続サービス事業者がオマケ的につけてしまったことに問題があったのかもしれない。つまり、土管を提供する業者と、その土管を使ってサービスを提供する業者は独立しているべきだったのだ。

 インターネットメールでは、アットマークの右側、すなわちドメイン名が重要な意味を持つ。ドメインは組織を意味するが、その組織に永住するかどうかなんて、わかるはずがないのだ。

 もちろん、企業に勤務する会社員が自社ドメイン名を使って外部とメールをやりとりするのは当然だ。企業にとってドメイン名は、その企業のアイデンティティにも近い。だが、プライベートに戻った個人にとっては、ドメインは仮の住処に過ぎない。より廉価で質のよいサービスを提供する接続業者が出現すれば、そちらに乗り換えたくなるのは当たり前だ。

 そこにいくと、Webメールサービスは、ユーザーが自分でやめない限り、プロバイダーを乗り換えてもメールアドレスは維持される。しかも多くは無料だ。そして、大容量のストレージが提供されるようになり、メールを削除してHDDの空き容量を確保するといった手間をかけずにすむようにもなった。つまり、PCを乗り換えても、箱を空けてPCを取り出し、電源を入れれば、いつものメール環境がすぐに手に入る。引っ越しの作業が必要ないのだ。公共のPCを使うときにも心配はないし、2台、3台のPCを使う場合にも便利だ。さらには、携帯電話やスマートフォンからでもいつものメールが使える。唯一の欠点が、オフラインで使えないことだったが、今はローカルで動くメールクライアントとも連携するようになって、その欠点も消えた。そもそも8bit、ノンパリティ、1ストップビットといった調歩式無手順でモデムを使ってホストコンピュータにアクセスしてメールを読み書きしていた25年前のメールは、そういう感じだった。どこでボタンをかけちがえてしまったんだろう。

 ともあれ、Webメールの市民権は、その環境改善とともに著しく向上し、今や、誰もGmailやHotmailが個人のメインアカウントだったとしても、そこにうさんくささを感じるようなことはなくなった。

●携帯電話メールが積極に使われる理由

 それでも個人ユーザーの多くは、PCを使ったインターネットメールにそれほど依存せず、携帯電話メールを積極的に使う。彼らにとって、メールは届くものであって、取りに行くものではないからだ。

 インターネットメールは、ほとんどの場合、自分でブラウザやメールクライアントを起動し、届いているメールをチェックする必要がある。つまり、積極的な働きかけが必要だ。当然それにはエネルギーがいる。夜遅くに疲れて自宅に戻り、PCを開いてメールをチェックしてみたら、迷惑メールしか届いていなかったなんてことが続いたら、週末しかメールを見ないという層が増えてしまうのは当たり前だ。

 携帯電話メールが、ほぼリアルタイムで届き、その場で、あるいは都合のいいときに返事ができるのと比べれば、その利便性には格段の差がある。Hotmailのようなウェブメールサービスには、メールの着信を、携帯電話にメールするような仕組みを持たせることができるようなものも多いが、決してスマートなソリューションとはいえない。結局は、メール転送という原始的な手段が、もっともプッシュ的だという結論になってしまうのだ。

 それでも、絵文字さえ使えないTwitterが、ここまでブームになっているのを見ていると、人々は、テキストメッセージングに、きわめて親近感を感じているし、その傾向は今後も続くのだと思う。

 PCで読み書きするインターネットメールはリッチな環境で使える。それも重要だが、メールの本質的な部分を見落としてしまっていては、いつまでたってもユーザーは携帯電話から戻ってこない。いや、戻そうなどと考えること自体がおこがましい。そうこうしているうちに、携帯電話各社が携帯メールサービスを本契約から切り離し、ドコモのiモード.netやドコモWebメールのようにPCからでも読み書きできるようにして、さらには、他社携帯電話への移行後も、そのメールアドレスを違和感なく使えるようにする可能性だってある。

 各Webメールサービスに望みたいのは、こうした携帯電話事業者とのうまい連携だ。競合ではなく融合だ。リージョンごとに異なる複数のキャリアと念入りに話を詰めていく作業は、営業的にもたいへんかもしれないが、このままでは、誰もPCでプライベートのメールを読み書きしなくなっても不思議じゃない。