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法林岳之のTelecom Watch
第28回:'99年6月編



 モバイルコンピューティングという言葉が使われるようになって久しいが、携帯電話やPHSなどの普及により、そのあり方がもう一度、問われる時期に来ている。6月はモバイル環境を意識した製品がいくつか登場し、今夏以降の通信環境の変化も少しずつ見え始めた。


お手軽メール端末がモバイルを変える?

 6月の新製品の中で、筆者が個人的に注目したものと言えば、やはりNTTドコモの「ポケットボードプラス」をおいて他にない。ポケットボードプラスは今年4月に発売された「ポケットボードピュア」と併売されるバリエーションモデルで、10円メールに加え、インターネットメールにも対応しているのが特徴だ。つまり、すでにプロバイダなどでメールアカウントを取得しているユーザーなら、その設定をそのまま利用でき、外出先でメールのチェックが可能になるというわけだ。開発はシャープが担当し、今年のビジネスショウでは試作モデルが参考出品されていた。

 通信インフラストラクチャはNTTドコモのデジタル携帯電話に限られるが、インターフェイスの仕様は基本的に各社共通なので、他社向けデジタル携帯電話(cdmaOneを除く)でも利用できる可能性が高い。筆者の試した範囲ではJ-PHONEのDP154EX、ツーカーセルラー東京のTH291などで動作の確認ができている。ただし、この件については編集部も筆者も動作保証はいっさいしない。もちろん、NTTドコモへの問い合わせも控えていただきたい。

 PCユーザーの目から見れば、ただの専用お手軽端末に見えるかもしれないが、このポケットボードプラスをはじめとするNTTドコモの一連のモバイル製品は、非常に的を得ているというのが筆者の率直な感想だ。

 モバイルコンピューティングという言葉は今や多くのメディアで使われるようになり、PC業界のひとつのトレンドになっている。PCメーカー各社もモバイル環境を意識した製品を投入し、カタログなどにも「モバイルコンピューティング」という単語が頻繁に使われている。しかし、実際にモバイルコンピューティングをしようとすると、1kg強の重量のミニ/サブノートを持ち歩かなければならない。Windows CEマシンであっても、重量的にはそれほど大差はない。しかもミニ/サブノートPCはバッテリー駆動時間がカタログスペックで約2~3時間と短いため、実際にはACアダプタも持ち歩くケースが多い。価格も10万円以上が当たり前であり、主力製品は20万円前後になってしまう。

 これに対し、「ポケットボード」や「ポケットボードピュア」、「ポケットボードプラス」といった製品群は、重量が200g程度しかなく、バッテリー駆動時間も連続で20時間以上と長い。しかもメール専用端末であるがゆえの「わかりやすさ」「使いやすさ」を持ち合わせ、価格も1~2万円程度とかなり安い。こうしたメリットと割り切りの良さ、価格の手頃さが受け、昨年、ポケットボードは大ヒットし、NTTドコモ中央のエリア内で20万台以上の売り上げを記録している。今回発表されたポケットボードプラスも、後継モデルのポケットボードピュアほどではないものの、NTTドコモではそれに次ぐ台数を準備しているという。現に、新宿西口の量販店ではポケットボードプラスが出荷直後に売り切れ、現在でも一部の店舗で売り切れの状態が続いているそうだ。

 PCとお手軽メール端末のどちらが適しているかは、ユーザーのニーズによって違ってくるだろうが、西川和久氏のコラムを読んでもわかるように、大半のユーザーはお手軽メール端末でもかなりの要件を満たしてしまうのではないだろうか。外出先で原稿や報告書を書いたり、プレゼンテーションをするのであれば、PCの出番だが、メールのチェックに限れば、お手軽メール端末の方が簡単かつコストパフォーマンスも高い。PCを主体にして考えると見逃してしまいがちだが、市場は確実に動いており、PCメーカーもモバイルコンピューティングに対する何らかの見直しが必要になる時期に来ているのではないだろうか。

 たとえば、東芝がDynabook10周年記念として発売した「Libretto ff 1100」にもそのひとつの方向性がうかがえる。Libretto ff 1100では外部リモコンを提供し、PCを閉じた状態でMP3プレーヤー的に活用することを可能にしている。気になるバッテリー駆動時間もPCで最も消費電力の大きい部品のひとつである液晶ディスプレイをOFFにすることにより、従来よりも長い駆動時間を確保している。ちなみに、Libretto ffのWindows 98の電源のプロパティには、このモードのための「AV」という設定項目が用意されている。

 逆に、コンパックが6月24日に発表した、B5サイズのWindows CEマシン「AERO 8000」は、携帯電話/PHSインターフェイスなどを持たず個人のモバイルユーザーにはあまり縁のない製品ということになりそうだ。Windows CE機では、6月21日に日本ビクターが発表した「InterLink」(MP-C101)は携帯電話/PHSインターフェイスを搭載し、オプションでCCDカメラを提供するなど、かなり魅力的な製品として設計されている。発売は9月の予定だが、間に合うのであれば、PHSインターフェイスの部分を64kbps対応、携帯電話の部分をパケット通信やドッチーモなどにも対応し、さらに強化して欲しいところだ。

 PCメーカー以外のアプローチでは、バンダイが携帯ゲーム機の「WonderSwan」向けに開発しているインターネット通信アダプタが注目だ。携帯電話やPHSをアダプタに接続することにより、ネットサーフィンとメールの送受信を可能にする製品だが、これも価格的に見て、かなり期待が持てそうだ。

 ところで、こうしたモバイルコンピューティングのための携帯情報端末市場について、IDCが'98年の市場分析を6月28日に発表している。全体像では「シャープが急落、カシオが急伸」としていが、この分析は'98年末までの集計であり、'98年12月に発売されたシャープのコミュニケーションパル、'99年2月に発売された日本アイ・ビー・エムのWorkPadなどが含まれていない。コミュニケーションパルはすでに10万台を超えるヒットになっており、WorkPadも好調な売れ行きを示している。つまり、筆者の現時点での分析では、「シャープ回復、カシオ減少」が実像ではないかと見ている。わずか半年で市場の動きがまったく反転してしまうほど、この携帯情報端末のジャンルは動きが激しいということも意味している。

□NTT DoCoMo、インターネットメールも可能になったポケットボード
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/990624/docomo.htm
□西川和久の「モバイルマシン六つ巴の戦い!?」 ~ おでかけ用メールマシンを選ぶ ~
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/990719/mobile.htm
□東芝、新型LibrettoなどDynaBook10周年記念モデル
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/990628/toshiba.htm
□日本ビクター、A5サイズで厚さ18.8mmのWindows CE機
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/990621/victor.htm
□バンダイ、携帯ゲーム機用インターネット通信アダプタを開発
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/990623/bandai.htm
□IDC、'98年の携帯情報端末の出荷台数を発表。シャープ急落、カシオ急伸
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/990628/shd.htm


ISDNはNTTの主力商品に

 6月30日に緊急速報をお送りしたが、今夏以降、ISDNは大きな転機を迎えることになる。7月1日のNTT分割・再編を機に発表されたISDNの定額制サービスとキャップ制料金サービスだ。この件については、いろいろと続報も入手できているのだが、別の機会に改めて紹介する予定だ。

 これまでISDNはアナログ回線よりも高速、高機能、高品質なサービスが提供されていたが、実際のアドバンテージは通信速度の面に限られていた。サービス面についてのアドバンテージもそれほど大きくはなかった。しかし、今回の発表された新料金サービスはISDNのみで提供される予定で、今後、NTTが一般ユーザー向けの電話サービスの主力をISDNに置くことが明確に示されている。

 ところで、昨年来、ISDN TAの市場で好調な売れ行きを示している製品がある。それはNECのワイヤレスTAのラインナップだ。6月10日には後継モデルとなる「AtermIW50シリーズ」も発売されている。屋内配線引き込み口とパソコンの設置場所が離れている環境では、配線が複雑になってしまったり、物理的に配線ができないといった事態が起きるが、ワイヤレスTAは無線通信機能を利用することにより、こうした問題点を解決している。旧モデルのAtermIW60シリーズも当初は売れ行きが今ひとつ鈍かったそうだが、リモートステーション専用のAtermRS10が発表され、親機と子機がひとつのパッケージに収めたセットモデルを発表して以来、急速に売れ行きが伸びているという。今回の新製品でもセットモデルをラインナップされている。

 AtermIW50シリーズでもうひとつ見逃せないのが、自営標準3版に準拠したという点だ。自営標準3版とは電波産業会で標準化されたPHSの構内利用モードにおける通信規格で、64kbpsワイヤレス通信にも対応しているのが特徴だ。AtermIW50シリーズの親機には今後、発売される自営標準3版準拠のPHSや情報端末を子機として収容することができ、家庭内ワイヤレス通信環境を整えることが可能だ。ただ、パルディオ611SやドッチーモSH811などのPIAFS64kbps対応PHS及び携帯電話は自営標準3版に準拠していないため、ワイヤレス通信は32kbpsまでとなっている。ちなみに、自営標準3版準拠のPHSは8月以降に発売される製品に採用される予定のようだ。

 64/32kbpsでもワイヤレス通信環境は快適だが、さらに上を狙うのであれば、一ヶ谷兼乃氏のコラムでも紹介されたメルコの無線LANシステムがおすすめだ。筆者も同じ製品を利用しているが、非常に快適に利用できている。クライアントPCに接続するPCMCIA無線LANカードの動作環境がWindows 95/98/NT4.0に限られているが、速度や使い勝手の面はほとんど不満がない。理想を言えば、Windows CEマシンなどでも動作するように、ドライバを提供したり、新しい省電力型クライアントPC用無線カードが欲しいところだ。価格的には9万円前後だが、十分それに見合うだけの快適性が得られるはずだ。

□法林岳之の非同期通信レポート「NTT、ISDNで定額制サービスを開始へ」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/990630/isdn.htm
□NEC、64K PHS対応ワイヤレスTA
impress.co.jp/docs/article/990610/nec.htm
□一ヶ谷兼乃のデジタル de GO!GO!「無線LANでもっと“ごろごろ”インターネット」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/990622/dgogo02.htm

[Text by 法林岳之]


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ウォッチ編集部内PC Watch担当 pc-watch-info@impress.co.jp