法林岳之のTelecom Watch
第1回:1997年2月編
「本格的なモービルコンピューティング時代へ」ほか


本格的なモービルコンピューティング時代へ

 4月1日からのサービス開始をにらんで、各社からPHS関連の製品が数多く発表された。その先陣を切ったのが京セラのPHSデータ通信端末「データスコープ」だ。昨年から発表だけはされていたが、何度も発売が延期され、2月20日にようやく正式に出荷された。実売価格は5万円を切る程度で、すでに秋葉原や新宿西口のカメラ店などでも販売されている。

 PHSには標準規格のPIAFS方式、DDIポケット電話が提供するメディア変換方式(αDATA)という規格があるが、DDIポケット電話は双方を包含するαDATA32という新サービスの開始を2月17日に発表した。これを受け、2月17日にはビクター、2月26日には三洋電機からαDATA32対応の端末が発表された。一方、PIAFS方式のみでサービスを行なうNTTパーソナルは、2月21日にPIAFS対応端末と通信カードを発表している。

 しかし、最も注目を集めたのは2月27日に東芝が発表したPHS内蔵の携帯端末「Genio」だろう。ザウルスなどと同じペン入力のPDAにPHS機能を内蔵させたものだが、αDATA32に対応させることにより、誰でも手軽に使えるモービルコンピューティング環境を実現している。出荷は4月下旬と先だが、かなり期待できる商品だ。

 また、携帯電話関連ではNTTドコモが昨年から構想を明らかにしていたパケット通信サービスの認可を2月21日に申請した。3月下旬からサービスが開始されるとのことだが、料金体系などが明らかにされていない上、当初はかなりサービス地域が限定されている。通話エリアの広さが魅力の携帯電話で、山手線の内側でしか使えないというのはほとんど試験サービス並みと言っても過言ではない。やはり、本格的に活用できるのはエリアが拡大する今夏以降になるだろう。

【関連記事】
□京セラ製PHSデータ通信端末「データスコープ」が2月20日に発売
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/970214/ds110.htm
□DDIポケット、「PIAFS」と「αDATA」による32kbps通信サービスを4月1日から開始
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/970217/ddi.htm
□日本ビクター、32kbpsデータ通信の新規格「αDATA32」対応のPHSを発売
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/970217/victor.htm
□「αDATA32」対応のPHS第2弾、三洋から発売
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/970226/sanyo.htm
□NTTパーソナル、32kbps対応PHS「32Kパルディオ」とPIAFS通信カードを発表
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/970221/nttphs.htm
□東芝、32kbpsデータ通信対応PHS電話内蔵の携帯情報端末、「GENIO」を発表
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/970227/genio.htm
□NTTドコモが携帯電話デジタル800を対象にしたパケット通信サービスの認可を申請
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/970221/docomo.htm


56kbpsモデムは標準化の道へ

 2月は56kbpsモデムに関する話題を軸に、モデム関連の重要なニュースが相次いだ。

 56kbpsモデムの規格は、モデムチップセットメーカーとしては最大のシェアを持つRockwellとセンター側の機器を販売するAscend Communicationsが推進する『K56Plus』、コンシューマー向けモデムでは最大のシェアを持つU.S.Roboticsの『x2 Technology』、そして旧AT&TのLucent Technologiesが提唱する『V.flex』の3つが存在した。ところが、昨年末にRockwellとLucent Technologiesが相互接続性を確保した『K56flex』を発表したことにより、状況は一変する。ちなみに、RockwellとLucent Technologyの2社はモデムチップセットの2大メーカーであり、V.fastをはじめとするプロトコルの標準化を争ったライバルメーカーでもある。この2社が手を結んだことにより、U.S.Roboticsは56kbpsモデムの標準化争いで苦境に立たされてしまった。

 これに追打ちをかけたのが2月18日の「MotorolaとRockwellが、特許侵害訴訟の和解と56Kモデムの共同開発で合意」というニュース。Motorolaはアメリカ市場において、ISDNターミナルアダプタだけでなく、アナログモデムでもPowerシリーズ、ModemSURFRシリーズなどで高い人気を得ている。56kbpsモデムについてははっきりとした姿勢を示していなかったが、特許侵害で争っていたRockwellと和解し、K56flexに準拠した方式の採用を決定した。さらに、U.S.Roboticsを同様に特許侵害で訴えることになった。ちなみに、2月25日にはMotorolaの日本法人から56kbpsモデムを3月初旬に発売するというニュースも伝えられた。こうなると素人目にも「みんなでU.S.Roboticsバッシング?」と見えてしまうほど、状況は厳しくなってしまった。

 そして、とどめを刺したのが「3COMやRockwellによる56kbpsモデムの標準化団体“Open 56K Forum” 設立」というニュースだ。このOpen 56K ForumにはRockwellやLucent Technologies、Microcom、Hayes Microcomputer Products、3COM、Motorola、Ascend Communications、Cisco Systemsなど、通信機器関連の主要メーカーがほとんど参加し、U.S.Roboticsだけが参加していなかった。しかし、同日に「3COMによるU.S.Robotics買収」が伝えられ、結局、U.S.Roboticsも間接的に参加することになった。

 ただ、U.S.Roboticsもユーザーとの約束を果たすべく、2月28日にCourierシリーズやSportsterシリーズの56kbps対応アップグレードサービスを開始している。最終的にはOpen 56K Forumで策定されるプロトコルが標準規格になるはずだが、それまではx2がU.S.Roboticsの最後の華を飾ることになるのだろうか。なお、Open 56K Forumは3月27日に最初のミーティングを開くとしている。おそらく夏頃までには56kbps対応モデムが登場することになるだろう。

 この「3COMによるU.S.Robotics買収」は2月の数あるニュースの中でも最も衝撃度が高いもので、思わず筆者も目を疑ってしまったほどだ。たしかに、ここ数年、Diamond Multimedia SystemsによるSupra買収、Hayes MicrocomputerのChapter11騒ぎなど、アメリカの大手モデムメーカーに関する動きはかなり激しかった。しかし、U.S.Roboticsは常に安定した成長を続けており、むしろ買収する側ではないかと見られていた。そこへ飛び込んできたのが3COMによる買収話だ。

 この2社の合併により、世界最大のネットワーク機器メーカーができることになるが、日本法人の関係がどうなるのかなども含め、まだわからないことが多い。ホスト用集合モデムのTotal Contorol Systemやコンシューマ向けモデムのSportsterなどは残るだろうが、一部で人気を集めているPDA『Pilot』などの事業がどうなるのかはまったくわからない。いずれにせよ、両社の今後の発表などを注目したい。

【関連記事】
□MotorolaとRockwellが、特許侵害訴訟の和解と56Kモデムの共同開発で合意
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/970218/k56.htm
□日本モトローラ、56kbpsモデム「Modem SURFER 56K」を発表
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/970225/motorola.htm
□3ComやRockwellなど28社が、56kbpsモデムの普及を目的とした団体「Open 56K Forum」を結成
http://www.watch.impress.co.jp/internet/www/article/970227/open56k.htm
□3COMがU.S.Robotics買収
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/970227/3com.htm


低価格ルータが相次いで登場

 ネットワーク環境の充実により、昨年あたりからISDNルータが注目を集めているが、低価格の製品が相次いで登場した。古河電工の「ムーチョ」、富士通の「NetVehicle-1」の2機種だ。ルータはネットワーク間接続のために使うもので、インターネット接続では、従来はLAN型ダイヤルアップ接続や専用線接続などに使われてきた。

 ところが、最近登場してきたルータは、端末型ダイヤルアップ接続でも利用できるように、NAT(Network Address Transrator)と呼ばれる機能を搭載したものが多い。NAT機能はローカル側のプライベートIPアドレスと、接続時にプロバイダから割り当てられるグローバルIPアドレスを相互に変換し、IPアドレスが接続時に変化する端末型ダイヤルアップ接続でもルータが利用できるようにする機能だ。2月に発表された2台のISDNルータは、このNAT機能を搭載しながら、5~6万円台という低価格を実現している。これは1~2年前のISDNターミナルアダプタの値段に近い。

 しかも、ムーチョはWindows 95版専用ツール、NetVehicle-1はWebブラウザから各種設定をできるようにするなど、使い勝手の面でも工夫をこらしている。GUI設定ツールはすでに、メルコのLBRシリーズなどで提供されていたが、これからは『NAT機能』『NAT接続時の同時セッション数』などと並び、『専用ツールなどによる設定のしやすさ』がISDNルータを選ぶときのポイントになりそうだ。昨年はISDNターミナルアダプタでかなり盛り上がったが、今年はルータの当たり年になるかもしれない。

【関連記事】
□古河電工、SOHO向け低価格アクセスルータ「ムーチョ」シリーズを発売
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/970217/mucho.htm
□富士通、59,600円のSOHO用低価格ルータ「NetVehicle-1」を3月発売
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/970218/fujitsu.htm


ますます激化するISDNターミナルアダプタ市場

 '95年のMN128の発売以来、急激な成長を見せてきたISDNターミナルアダプタ市場だが、まだまだ新製品が登場している。

 今月の注目株は2月24日に発表されたオムロンのMT128B-Dだ。DSU内蔵ターミナルアダプタとしては最も低価格の部類に入る47,800円を実現しているが、MP/128kbps対応、フレックスホン対応、S/T点端子の装備、Windows/Macintosh用設定ユーティリティ、屋内配線逆転時の切替、終端抵抗、DSU切り離し機能など、必要とされる機能もひと通り備えている。AtermIT55の強力なライバルになるかもしれない。

 一方、昨年のISDNターミナルアダプタの出荷状況がマルチメディア総合研究所から発表された。シェアNo.1は予想通りNECで、NTTへのOEM品を含めると約6割にも達する。これにMN128のNTT-TE東京、NTT、沖データ、サン電子などが続いている。

 ちなみに、マルチメディア総合研究所のレポートではNECのシェア獲得の要因がAtermITシリーズの価格設定にあるとしているが、実は製品供給量やメディアでの露出度の高さ、店頭での展示なども見逃せないのではないだろうか。昨年、筆者もかなりの頻度でパソコンショップに足を運んだが、Atermシリーズが品薄だったのは昨春のほんの一時期だけ。その時期を除けば、ショップでは常に在庫が用意され、商品も棚の最もいい位置に展示されていた。

 また、ISDNターミナルアダプタランキングを執筆している立場から見れば、後発メーカーが予想外に勉強不足だった面も挙げられる。値段ばかりが先行してしまい、大事な機能や設定ファイル、ユーティリティなどを見落としている製品がどれだけ多かったことか。そういった意味では前述のオムロンのMT128B-D、間もなく出荷が開始されるアレクソンのALEX-128/HGなどは、スペック的にも十分満足できるものを持っており、かなり期待できる存在と言えそうだ。

 余談だが、NTTではアナログ回線からISDN回線への同番号移行は、4月末に全国平均で約96%、12月末に100%になるとしている。製品が成熟し、インフラも整ってきたことを考えれば、今年は乗り換えに最も適した時期なのかもしれない。

【関連記事】
□オムロン、DSU内蔵、MP対応のターミナルアダプタを発売
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/970224/omron.htm
□マルチメディア総合研究所、'96年のTA出荷状況についての調査結果を発表
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/970226/tamarket.htm

[Text by 法林岳之]


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