コードネーム“Banias”として知られていたPentium Mを核とするモバイルプラットフォーム「Centrino」が発表された。ここでは、各ベンダーから発表されたCentrinoあるいはPentium Mを搭載したノートPCの中から、特に注目すべき製品をレビューしていくことにしたい。 今回はソニーのCentrino採用2スピンドルスリムノート「バイオノートZ」を紹介しよう。
バイオノートZは、Intelの最新モバイルプラットフォーム「Centrino」を採用した2スピンドルスリムノートである。Centrinoについては、すでに詳しく紹介しているので、そちらを参考にしていただきたいが、モバイルPC専用に開発されたCPU「Pentium M」と専用チップセット「Intel 855PM/GM」、無線LANモジュール「Intel PRO/Wireless 2100」から構成されるプラットフォームであり、低消費電力とパフォーマンスの両立を実現する。 今回発表されたCentrinoあるいはPentium M搭載製品は、従来のモバイルPentium III-Mベースのボディの設計を大きく変えずにCentrino/Pentium Mを搭載したマシンと、ボディ自体を一から新たに設計したマシンに大別できる。バイオノートZは後者に属する製品であり、新設計のボディが採用されている。 バイオノートZは、SXGA+表示が可能な14.1型の大型液晶と光学ドライブを搭載しながら、重さ約2.1kgという携帯可能な重量とスリムなボディを実現していることが魅力だ。14.1型液晶搭載のモバイル向けバイオノートとしては、バイオノートVXが存在するが、バイオノートVXは光学ドライブを内蔵していない1スピンドルマシンであり、液晶解像度もXGA止まりであった。バイオノートVXの重量は約2kgなので、バイオノートZは事実上、バイオノートVXの後継として位置づけられる製品となる。
ソニーのバイオシリーズは、従来からボディデザインが洗練されていることで定評があるが、バイオノートZのボディデザインも、思わず目を奪われるユニークかつスタイリッシュなものである。 バイオノートZのボディカラーは、ブラックとシルバーを基調にしたもので、側面の柔らかな曲線が印象的である。この個性的なデザインは、見た目が美しいだけでなく、機能的にも意味があるのだ。本体の左右側面には、I/Oポート類が用意されているが、そのコネクタの下がシルバー部分でカバーされているため、本体からコネクタがはみ出さずコネクタに直接力がかかることを防げる。また、シルバー部分にコネクタの種類を示すアイコンが印刷されているため、コネクタの種類が一目で分かる。キーボード手前部分と液晶の周囲には、マグネシウム合金が使われており、十分な剛性と高い質感を実現している。液晶裏面には、ヘアライン加工されたアルミ製のバイオロゴが埋め込まれているなど、隅々までこだわりが感じられる。 爪や穴のない“ラッチレスデザイン”を採用していることも特筆できる。通常のノートPCでは、液晶ディスプレイ部分と本体部分の固定にラッチが使われているため、必ず液晶部分と本体部分に爪や穴が空いている。しかし、バイオノートZでは、折りたたみ式携帯電話などで使われているインナーラッチ機構をヒンジ部分に搭載することで、こうした爪や穴のないすっきりしたデザインを実現しているのだ。 ラッチを内蔵したことは、液晶ベゼルの狭額縁化にも貢献している。通常のノートPCでは、ロックを解除するために、ラッチを指で動かして、液晶ディスプレイ部分を開くという動作になるが、バイオノートZでは、片手でさっと開けることが可能だ。
バイオノートZは、店頭で販売される「PCG-Z1/P」と直販サイトのソニースタイル専用モデル「PCG-Z1T/P」の2モデルが用意されている。PCG-Z1/PとPCG-Z1T/Pの違いは、搭載CPUと搭載メモリ容量のみで、それ以外の仕様は全て同一である。 店頭モデルのPCG-Z1/Pでは、CPUとしてPentium M 1.30GHzを搭載し、標準で256MBのメモリを搭載しているのに対し、PCG-Z1T/Pでは、CPUとしてPentium M 1.60GHzを搭載し、標準で1,024MBのメモリを実装している。なお、PCG-Z1/Pでは、256MBのメモリをオンボードで実装しているが、SO-DIMMソケットは1基しか用意されていないので、最大増設容量は768MB(オンボード256MB+SO-DIMM 512MB)となる。HDD容量は60GBと余裕がある。 バイオノートZでは、SXGA+(1,400×1,050ドット)表示が可能な14.1型液晶を搭載していることも高く評価できる。一般的なXGA(1,024×768ドット)表示に比べて、一度に表示できる情報量は約1.87倍に達し、広大なワークシートの編集なども効率よく行なえる。筆者は仕事柄、PDF形式で配布されているCPUなどのデータシートをノートPCで閲覧することも多いが、そうした場合、XGA表示では解像度が足りないと感じていた。バイオノートZならSXGA+表示が可能なので、PDF形式のマニュアルなどの閲覧も非常に快適だ。 14.1型SXGA+表示の画素ピッチは約0.205mm(124ppi)となり、12.1型XGA表示(画素ピッチ約0.24mm、105ppi)に比べると画素ピッチは細かいが、サブノートクラスの10.4インチXGA表示(画素ピッチ約0.206mm、123ppi)と同程度なので、視認性は十分である。 ビデオチップとしては、ATI TechnologiesのMOBILITY RADEONが採用されている。本来、MOBILITY RADEONは、ハードウェアT&Lエンジンを搭載していないはずなのだが、3DMark2001 SEなどでは、ハードウェアT&Lエンジンが利用可能と表示される。同時に発表された新バイオU(PCG-U101)でも、同じ結果が出ており、ハードウェアT&Lエンジンを搭載した新コアのMOBILITY RADEON(つまり、MOBILITY RADEON 7500相当のコア)が採用されていると考えるべきだろう。 とはいえ、後述のベンチマーク結果を見ればわかるように、最新のMOBILITY RADEON 9000などに比べると、3D描画性能はそれほど高いとはいえない。ビデオメモリ容量も16MBであり、一昔前の3Dゲームなら十分遊べるスペックであるが、3D描画性能にはそれほど期待しないほうがいいだろう。 光学ドライブとしては、薄型のDVD-ROM/CD-RWコンボドライブを搭載している。CD-Rへの書き込み速度は最大8倍速、CD-RWへの書き換え速度は最大4倍速で、読み出し速度はDVD-ROMが最大8倍速、CD-ROMが最大24倍速となっている。このコンボドライブは、バイオノート505の最新モデル「PCG-V505R/PB」でも採用されたドライブで、従来の12.5mm厚ドライブよりも薄い厚さ9.5mmを実現している。 放熱システムとしては、新開発の放熱システムを搭載している。温度や負荷に応じて、ファンの回転数が自動的に制御されるようになっており、ファンの騒音レベルもかなり小さい。また、ファンの回転数や液晶の輝度などは、プリインストールされているユーティリティソフト「Performance Balancer」によって変更することができる。
IEEE 802.11b対応の無線LAN機能に加えて、Bluetooth機能を標準装備していることも特徴だ。Bluetooth経由でCLIEなどとのデータ連携を行なったり、Bluetooth対応デジタルカメラ「サイバーショット DSC-FX77」などのコントロールが可能だ。無線LAN機能やBluetooth機能のON/OFFは、キーボード右上にあるワイヤレススイッチによって行なえる。また、右側面にはそれぞれの動作状況を示すLEDインジケータも用意されている。 インターフェイス類も充実している。USB 2.0×2、IEEE 1394(4ピン)、LAN、モデム、外部ディスプレイ、ヘッドホン出力、マイク入力の各ポートが用意されているほか、PCカードスロット(Type2×1)とマジックゲート対応メモリースティックスロットも装備している。 PCカードスロットのフタは内部に折りたたまれる構造になっており、モデム以外のポートには特にフタがついていないのも、モバイルでの使い勝手を重視した結果であろう。また、オプションのポートリプリケータを装着することで、本体とあわせて5つのUSB 2.0ポートが利用できるようになるほか、DVI-D出力やプリンタポート(パラレル)も追加される。
キーボードのキーピッチは18.5mmで、キーストロークは約2mmとなっている。キーの配列も標準的であり、キータッチも良好である。ポインティングデバイスとしては、パッド状のインテリジェント・タッチパッドが採用されている。パームレスト部分との段差をできるだけ小さくした、フラッシュサーフェスタッチパッドと呼ばれる構造を採用しており、デザイン的にも美しい。 クリックボタンは2つだけのシンプルな構成であり、ジョグダイヤルやセンターボタン類は装備していない。キーボード右上には、2つのプログラマブルボタンが用意されており、スタンバイやハイバネーション、消音などの動作を割り当てることが可能だ。 ACアダプタはPCG-V505R/PBと同じ薄型のものが採用されているが、フットプリントはやや大きい。通電時にはプラグコネクタ部分が緑色に光るようになっているのは便利だ。また、電源スイッチにもLEDが仕込まれており、動作時には緑色に点灯するほか、スタンバイ時にはオレンジ色に点滅する。 標準で付属しているバッテリーパック(S)は11.1V、4400mAhで、公称駆動時間は約4~7時間(PCG-Z1/Pの場合)であるが、オプションのバッテリーパック(L)を利用することで、公称約8~13.5時間という長時間駆動が実現できる。
今回は、Pentium M 1.30GHz搭載のPCG-Z1/Pと、Pentium M 1.60GHz搭載のPCG-Z1T/Pの2モデルを試用したので、それぞれベンチマークテストを行なってみた。ベンチマークプログラムとしては、BAPCoのMobileMark2002、SYSmark2002、Futuremarkの3DMark2001 SE、id softwareのQuake III Arena、スクウェアのFINAL FANTASY XI Official Benchmarkの5つを利用した。MobileMark2002は、バッテリ駆動時のパフォーマンスとバッテリ駆動時間を計測するベンチマークであり、SYSmark2002は、PCのトータルパフォーマンスを計測するベンチマークである。また、3DMark2001 SEやQuake III Arena、FINAL FANTASY XI Offical Benchmarkでは、3D描画性能を計測する。MobileMark2002以外のベンチマークについては、AC駆動時に計測を行なっている。 結果は、下の表にまとめた通りである。昨日掲載した他のPentium M搭載マシンでのベンチマーク結果に比べると、MobileMark2002などのスコアはやや低いようだが、HDDの回転数が4,200rpmである(日立製DK23EA-60を採用)ことなどが影響しているのであろう。バッテリ駆動時間については、220分というスコアを記録しており、ほぼ標準的といえる。また、3D描画性能についても、通常の利用なら特に不満はないレベルである。 【ベンチマーク結果】
バイオノートZは、そのスタイリッシュでスリムなボディに、SXGA+表示が可能な大型液晶とDVD-ROM/CD-RWコンボドライブを搭載するなど、充実したスペックを詰め込んでいる。ボディの質感も高く、所有欲をかき立てられる製品である。SXGA+表示が可能な液晶を搭載していることを考えると、PCG-Z1/Pで実売約26万円前後という価格も、決して高すぎるとはいえない。パワフルで携帯性に優れたモバイルノートPCを探している人には、ぴったりの製品だろう。 □関連記事 (2003年3月13日)
[Reported by 石井英男@ユービック・コンピューティング]
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