レビュー
Apple「iPad Pro」のさらなる活用方法を考える
~「サブディスプレイ」、「TV視聴」、「カーナビ利用」を試す
(2015/12/19 06:00)
iPad Proが発売されて1カ月が経過したが、今なお「購入するか否か決めかねている」という人に理由を尋ねると、決まって返ってくるのが価格面での懸念だ。製品としては非常に魅力があるし使い道も思い浮かぶ、しかし1つの使い道のためだけにこの価格はなかなか出せない、というものだ。
事実、iPad Proは、最安値であるWi-Fiモデルの32GBでも、税込で10万円を超えてしまう(102,384円)ので、タブレットとしてはかなり高額なモデルだ。なおかつ、オプションのApple PencilやSmart Keyboardを追加すると、さらに1万、2万と出費が増えていくので、予算度外視で本体仕様とオプションを選んでいると、いつしか見積が10万円台後半に達していることも珍しくない。この種の製品は一通り試しているという人でも、さすがに躊躇してしまうというわけである。
もっとも、1つの利用目的のためだけに買うのは高すぎる場合でも、利用目的が複数重なることによってアイドリングしている時間が減るのなら、例え高額であっても、元を取れる可能性は高くなる。そこで今回は、サードパーティの製品との組み合わせを中心に、単体の製品レビューではあまり取り上げられることのない、iPad Proのさらなる活用方法について見ていくことにしたい。
今回紹介する3つの用途は、何れもそのため「だけ」にiPad Proを購入する動機にはならなくても、手元にiPad Proがあれば試してみようと思わせる使い方ばかりだ。iPad Proが欲しいが今一つ踏ん切りが付かない人、家族の理解が得られないという人は、参考にしていただければと思う。なお電子書籍用途での本製品の活用法についてはこちらの連載でも取り上げているので、併せて参考にしてほしい。
iPad Proをサブディスプレイとして使う
最初に紹介するのは、サブディスプレイとしての用途だ。12.9型という大画面のiPad Proであれば、ノートPCはもちろん、デスクトップPCと並べても、サブディスプレイとして十分に実用的だ。さすがにサブディスプレイとして使うためだけにiPad Proを購入するのはナンセンスだが、今回のようにiPad Proの使い道の1つとして考えるのであれば、有望な案と言える。
iPadをサブディスプレイ化するアプリは数多く存在するが、おすすめなのは、元Appleのエンジニアが手掛けたことで知られる「Duet Display」だろう。MacだけでなくWindowsにも対応し、また同種のアプリのほとんどがWi-Fi接続である中、本アプリは有線接続のため、ネットワーク環境に依存せず利用できる。先日Appleが発表した2015年のベストアプリ「BEST OF 2015」にも選出されていたので、そちらで目にしたという人も多いだろう。
利用にあたっては、iPad側にアプリ、PC(もしくはMac)側にユーティリティをそれぞれインストールする。本アプリは有料(12月16日現在の価格は1,200円)だが、課金対象はiPadアプリなので、PCとMacの両方で使う場合も、支払いは1回だけで済む。アプリ/ユーティリティともに日本語化されているので、操作で迷うことはまずないだろう。
使用方法は、PC側でユーティリティを起動した状態でケーブルを繋ぎ、アプリを起動すると外部ディスプレイ(汎用非PnPモニター)として認識され、デスクトップが拡張される。左右の配置を入れ替えることも可能なほか、縦向きに設定したり、ミラー表示にすることもできる。この辺りは通常のマルチディスプレイと同じだ。iPad Proは視野角が広いため、正対しない位置に設置することが多いサブディスプレイとしては正にうってつけで、さらにタッチ操作も可能というおまけつきだ。
気を付けたいのは解像度で、iPad Proのネイティブ解像度(2,732×2,048ドット)までは対応しておらず、最高でも2,048×1,536ドットまでとなることだ。iPad Air 2(2,048×1,536ドット)であればドットバイドットの表示ができるのだが、iPad Proではスケーリングを変更する必要がある。
もっとも、今回筆者が組み合わせて使っているThinkPad X201sのディスプレイ解像度は1,440×960ドットなので、スケーリングをちょうど半分の1,366×1,024ドットとなるように調整してやることで、両ディスプレイで文字サイズのバランスがほぼ同等となり、かつ表示もボケない。これがiPad Air 2だと、ドットバイドットの2,048×1,536ドットでは文字が小さすぎ、半分の1,024×768ドットにすると窮屈すぎるというどっちつかずの状態になるので、iPad Proを用いた今回の設定が筆者の環境では最適だった。
この辺りは組み合わせるPCの解像度によっても最適な設定が変化するので、一概にどの設定が正解とは言えないのだが、サブディスプレイとして横に並べる場合は、解像度よりも表示サイズを揃えた方が快適に使えるので、ドットバイドットである優先順位は必ずしも高くはない。解像度以外にも、並べ方や上辺と下辺のどちらを揃えて設置するかといった置き方によっても変わってくるので、色々と試してみると良いだろう。
ちなみに肝心のサブディスプレイとしての性能については、実は最新バージョンの1.2.0になる前はかなり非力な印象だったのだが、このバージョン1.2.0ではリソースの使用量が劇的に少なくなったとのことで、極端にビットレートが高い動画がコマ落ちすることなどを除けば、On-LapなどHDMI接続のサブディスプレイ専用機と比べても遜色ない程の性能だ。しばらく使っていると、これがiPad Proであることをすっかり忘れてしまうほどである。
この辺りはPC本体の性能にも影響するので、あまり低い性能のPCだと期待はずれとなる可能性はあるが、過去に同種アプリを一通り試した筆者の経験から言わせてもらえば、同種アプリと比較して実用性は突出して高い。iPad Proを所有しているのなら、サブディスプレイ専用機を買い足す前に、本アプリとiPad Proの組み合わせを試してみることをおすすめする。
iPad ProでTVを観る
続いてはTVとしての利用である。こちらもTV視聴のためだけにiPad Proを買うという選択肢は考えにくいが、アイドリングしている時間にTVとして使うというのは悪くないし、別の作業をしながらiPad Proを活用するのにはぴったりだ。なにせポータブルTVを遙かに凌駕する12.9型という画面サイズでありながら、重量は700gちょっとなので、自宅内で持ち歩けるTVとしては非常に優秀だ。
もちろん、この解像度でワンセグというのはあり得ないので、フルセグ対応のチューナを別途用意することになる。フルセグチューナはiPadに直結できるタイプもあるが、家庭内での利用であればSTBタイプの製品を選んだ方が、部屋から部屋へと持ち歩く際もかさばらず、また他の端末と切り替えて使えるので便利だ。
筆者が使っているのはピクセラの「PIX-BR310L」という機種で、壁面のアンテナコンセントから受信したTV放送の映像と音声をLAN経由で伝送する仕組みの製品である。かつてこのタイプの製品の多くは、専用のSSIDを用いて1対1で接続する必要があり、TVを視聴する時だけわざわざSSIDを切り替えなくてはいけなかったが、この製品は自宅のLANに参加させておけば、後はアプリを起動して信号を検出するだけで視聴できる。
筆者がこれまで本チューナと組み合わせて使用していたiPad Air 2の場合、手に持ったままTVを視聴するというのが、画面と目の距離として適していたが、本製品は12.9型と大きいため、テーブルの上などに置いて少し離れた場所から視聴するのに適している。次の操作まで一瞬間が空くのはこの種の製品の特性なので致し方ないが、左右スワイプでチャンネルを、上下スワイプで地上波/BS/CSを切り替えることができるなど、操作性も良い。またコマ落ちなども全く無い。
さらにiPad Proは、ほかのiPadシリーズと異なり、本体を横向きにした際にスピーカーが左右に配置されるレイアウトなので、左右どちらか一方からしか音が出なかった従来のiPadシリーズに比べ、音の聞こえ方の違和感が少ない。外付けスピーカーやイヤフォンで音を聞く人にはあまり関係ないかもしれないが、TVや動画視聴には向いていると言えるだろう。
唯一ネックなのがアプリの品質で、iPad側にインストールして使う専用アプリ「ワイヤレスTV(StationTV)」は、iOSのアップデート後、必ずと言っていいほど再インストールしないと動かくなるなど、安定性がいまいちで、諸手を挙げてオススメできないのだが、アンテナコンセント経由でTV放送を受信する仕組み上、受信感度を常に気にしなくてはいけないドングルタイプのチューナよりは実用性が高い。価格も1万円台ということで、iPad Proの活用法としてはおすすめできる。
iPad Proをカーナビとして使う
最後に紹介するのはカーナビとしての用途だ。iPadをカーナビ代わりにするのはそれほど珍しい使い方ではなく、ネットで少し検索すればユーザー事例が山のように見つかるが、iPad Proを使う場合、単純に画面が大きく見やすいという理由のほかに、Split View機能を使って画面を分割表示できるため、用途によっては施設情報やHPなどとの2画面表示ができることが利点として挙げられる。
さてiPad Proに限らず、iPadシリーズをカーナビとして使うのはそれほど難しくはない。ダッシュボードなどにiPadを取り付けるマウント用の器具は数多く市販されているし、アプリは「Googleマップ」のナビ機能のほか、「Yahoo!カーナビ」や「MapFan+」、「カーナビタイム」、「NAVITIMEドライブサポーター」など粒ぞろいだ。後は道路交通法を順守しつつ運転すれば良い。今はまだiPad Proのサイズに対応したマウントの数は少ないが、これも徐々に解消されていくだろう。
ただし条件が1つある。それはiPad Proが、Wi-Fi+Cellularモデルでないとダメということだ。理由は簡単で、Wi-FiモデルにはGPSが搭載されておらず、カーナビに求められる精度での位置計測ができないためだ。
実際に両者を並べて比較すると、Wi-Fiモデルでは何秒かに1回の割合で現在位置がピョン、ピョンと飛ぶように移動するが、Wi-Fi+Cellularモデルでは糸を引くように滑らかに移動する。現在位置を把握するだけなら支障は無いが、カーナビと同等の正確さを求めるのであれば、Wi-Fiモデルでは力不足というわけだ。
もちろん道路交通法上、運転しながら画面を注視するのはNGなので、現在位置が滑らかに動いてもあまり意味が無いようにに思えるが、Wi-Fiモデルでは現在位置の取得に数秒~10秒程度必要な場合があり、停車して画面を見ると、まだ前の信号の位置にいる、といったことが起こりうる。Wi-Fiモデルが100%ダメというわけでは無いが、これから購入する人でカーナビ用途での利用を考えている人は、なるべくWi-Fi+Cellularモデルを選ぶことをおすすめする。
ちなみにこのWi-Fi+Cellularモデルで鍵になるのはGPS機能なので、インターネットとの接続に必ずしも内蔵SIMを使わなくても、GPS機能さえあれば位置計測の恩恵は受けることができる。つまりテザリングなどによる接続でも、十分な精度が得られるというわけだ。ただしデータ使用量は膨れ上がる傾向があるので、その点だけはくれぐれも注意して欲しい。地図データをオフラインに保存しておけるタイプのアプリを選ぶのも手だろう。
以上の通り、前述の「サブディスプレイ用途」、「TV受信」に比べると、iPad Proの画面の大きさを活かせているとは言い難いのだが、iPad Proがアイドルしている時間を減らし、とことん使い倒すためには、1つの有力な使い道と言える。なお一般論として、車の中は冬場でもかなりの高温になるほか、車上荒らしに遭った場合に、iPad Proが設置されていれば真っ先に狙われるのは確実なので、あくまでも乗車時にのみ持ち込むスタイルで利用した方が良いだろう。