レビュー
世界初の5K液晶ディスプレイ「デル UP2715K」を試す
~エクスプローラーで2,800ファイルを見渡せる圧倒的情報量
(2015/1/26 06:00)
デル株式会社から、世界初の5K解像度(5,120×2,880ドット)表示対応27型ワイド液晶ディスプレイ「UP2715K」が発売された。価格は199,980円だ。今回デルよりお借りできたので、試用レポートをお届けしたい。
UP2715Kは、世界で初めて5Kの解像度を実現した液晶ディスプレイだ。改めて解説する必要性はないと思うのだが、最大の特徴はやはりその情報量である。1,474万5,600画素は、一般的な1,920×1,080ドット(フルHD、207万3,600画素)の約7.1倍の情報量を誇る。
Windows 8では、液晶のサイズと解像度を自動的に認識し、画素密度が高い場合は自動的にフォントを大きくして見やすくする仕組みが用意されている。このためPCと繋いだだけでは、画素密度の向上によりフォントのエッジが滑らかになったように見えるだけで、表示される文字の情報量は大して増えない。しかしユーザーが手動でフォントサイズを100%に戻せば、すぐさまその圧倒的な情報量を体験できる。
UP2715Kはその5Kという解像度を、27型というサイズに押し込めている。そのため画素密度は218dpiに達する。数字だけ見ると、Retina Displayの搭載を謳う「iPhone 4」の326dpiにも及ばないのだが、これはビットマップフォントが使われることの多いWindows PCとしてはかなり高い方である。
ほぼ同等の画素密度を持つデバイスに、かの「VAIO type P」(約222dpi)が挙げられるわけだが、本機はVAIO type Pを12台並べた程度の情報量を持ち、それに近い見え方になると思っていただければ良いだろう。VAIO type Pでフォントの大きさを100%にしてみたら見えにくかったというユーザーは、本機も同じ感想を持つはずである。
もちろん表示できる情報量を文字で活かすという意味では、フォントを100%に設定した方が良いのだが、おそらく多くのユーザーは画面からかなり近い位置(30cm前後)でないと文字が見えにくいのではないだろうか。実用的な意味では、フォントを大きめに表示させる設定の方が良い。
ただこれはあくまでも文字の話であり、写真や動画などは常にドットバイドットで表示される。そのため、高画素のデジタルカメラの写真編集や、フルHD/4Kの動画編集には、5Kという解像度がそのまま活きる。また、3次元グラフィックス分野などにおいても、高い画素密度の特徴が活かされることだろう。
なお、5K解像度の液晶を利用するためには、それなりにPCのスペックも必要となる。まずインターフェイスについてだが、本機はDisplayPortを2基、Mini DisplayPortを1基備えているのだが、DisplayPortを2基、同じビデオカードに同時接続した時にのみ、5K解像度が出力できる。1基しか接続してない場合や、Mini DisplayPort接続の場合、解像度は4Kまで限定される。
加えて、5Kを出力するためにはビデオカード側の対応、ドライバの対応なども必要となる。さらに言えば、5Kという解像度の上でさまざまなコンテンツを快適に動作させるためには、5Kをスムーズに表示させられるだけの性能を持つCPUやビデオカードでないと、快適に利用できない場合があるだろう。
今回は試用にあたって、デルのご厚意により5Kに対応したワークステーション「Precision Tower 7910」を同時にお借りした。CPUにはXeon E5-2650 v3(2.3GHz、10コア/20スレッド)をデュアル(つまり20コア/40スレッド)で搭載し、メモリを64GB、ビデオカードにQuadro K6000を搭載した、155万円を超える超モンスターマシンである。これだけのスペックならば、5Kの動作は全く問題ない。モンスタースペックからは想像できないほど静音性に優れている点も、試用していて感心した。
本体デザインと操作体系
デザインはデル製液晶でよく見られるシルバー+ブラックのツートーンカラー。角は丸みを帯びており、柔らくフレンドリーな雰囲気を受ける。フレームもガラスでカバーされており、パネルと一体化されフラットなデザインとなっている。シンプルで洗練されており、表示されるコンテンツに集中できる。
本体サイズは637.3×204.5×427.6~542.1mm(幅×奥行き×高さ)、重量は10.07kg(スタンド+ケーブル込み)。27型液晶としては一般的であり、1人でも難なく設置できるサイズと重量だと言えるだろう。
スタンドは、下5度から上21度の角度調節、115mmの高さ調節、左右それぞれ45度ずつのスイベル、縦画面で利用できるピボット機構に対応。設置の自由度は比較的高い方だと言えるだろう。また、5Kという新しい解像度を縦で利用できる点も面白いと言える。ヒンジの動作は軽快でスムーズに動作できる。
電源ボタンおよびOSD操作用のボタンは、液晶ベゼル右下側に縦に配置されている。ボタン用アイコンがベゼル用意されているわけではなく、電源ボタン以外いずれかのボタンを押すとOSDが現れ、ボタン位置に対応するアイコンが表示されるので、それを見て操作する形だ。この方式では見る角度によっては操作するボタンと表示される位置に差異があり、誤操作を招くので、正直使いやすいとは言いがたい。とは言えOSDはそれほど頻繁に使うものではないので、問題ないだろう。
インターフェイス類
先述の通り、ディスプレイインターフェイスはDisplayPortが2基、Mini DisplayPortが1基。5Kの出力にはDisplayPort 2基を同時に利用する。なお、本製品にはDisplayPortケーブルが2本、Mini DisplayPort→DisplayPortケーブルが2本付属しているため、対応ビデオカードさえあれば購入後すぐに5K環境を構築できる。
5基のUSB 3.0 HubとSDカードリーダ、18W+18Wのステレオスピーカーを備える点もユニーク。USB 3.0のうち1基は2.1A出力が可能な充電用となっており、スマートフォンのバッテリ充電用としては非常に便利である。また、スピーカーもディスプレイ内蔵のものとしては十分な音量とそこそこ低音が確保されており、ビジネス用であれば別途スピーカーは不要だ。
ただしアナログ入力などを備えておらず、ビデオカードのサウンド機能を利用することになるため、少しでも音にこだわりがあるのであれば別途スピーカーを用意した方が良い。
ハイエンド製品のため、OSDは充実しており、輝度やコントラスト調節、色のプリセットの選択といった基本的なものに加え、色を利得やオフセット、彩度から選択して調節できるのがポイントだ。ただし、入力系統が少ないため、ピクチャー・イン・ピクチャーやピクチャー・バイ・ピクチャーといった設定はできない。つまり、情報量を活かして複数のデバイスを1つのディスプレイにまとめるといった使い方はできない。
もちろん、この対応にはさらなる開発が必要だろうし、5Kの解像度での実現はなかなか難しいとは思うのだが、これはさらなる上位機種や後継機種での対応に期待したいところだ。
パネルと画質
パネルの表面は光沢処理されている。ただ光沢と言っても、従来とは異なり、パネルとガラスの間の空気層をなくしたオプティカルボンディング技術を採用しているため、反射は抑えられている。同じくガラス表面の下位機種「S2740L」から反射率を86%低減とのことだ。実際に見てみると、天井の照明などはやはり映り込むものの、自分の顔や周辺の環境など、暗めの光の反射はかなり抑えられている印象だった。
パネルはIPS液晶を採用する。Adobe RGBカバー率99%、sRGBカバー率100%の色域を実現しており、出荷時に色補正済みなハイエンドモデルだけあって、さすがに表示品質は高い。筆者が撮影した写真を数枚表示させてみたが、R/G/Bいずれの色も非常に鮮やかであり、迫力がある。このディスプレイを見た後にほかのディスプレイを見ると物足りなくなるほどだ。
輝度は300cd/平方mとなっており、実用では十分明るい。最大コントラスト比は200万:1で、視野角が上下/左右ともにIPSらしい178度となっている。不満を覚えることはない。中間色応答速度は8msと、TNパネル製品と比較すると劣るのだが、実際に動画や3D画像を表示してみたが、気になるほどの残像は確認できなかった。
いずれにしても、プロ向けにチューニングされた製品ということもあり、画像/映像/文字のいずれも表示品質は非常に高く、20万円という投資に見合うだけの価値はある。特に精細感の高さや情報量の多さは他製品には代えがたいものがあり、高解像度と精細感を求めるユーザーにとって現時点では唯一無二の選択肢だと言えるだろう。
使い方を考える
現時点で5Kを表示させるためには、DisplayPortが2基必要となる点や、5Kのコンテンツ再生に耐えうるハードウェアを揃える必要がある点などが、導入に際してのボトルネックとなるだろう。5Kが実用的になるためには、ディスプレイインターフェイスの高速化やGPUの高速化など、さらなる技術の進化を待つ必要があるだろう。そういう意味では、現在ある技術にとって現実的な解像度は、4K以下だと思われる。5Kは、未来を先取りした格好だ。
また、今回WebブラウザでGoogle Mapを表示させたり、Google Earthで町並みを眺めたり、株のトレーダーソフトなども試してみたのだが、ネットワークの転送が追いつかなかったり、CPUの処理が追いつかなかったり、ソフトが強制終了したり、表示が乱れたりといった現象もみられた。つまり、現時点のソフトウェアは5K表示を想定したものではないということで、今後は対応や改善が必要になることだろう。
さらに、5Kという情報量を活かすためには、もう少し画面を大型化する必要性を感じた。27型だと目が良い人でも、目を凝らさなければ目的の情報を探しにくい。一般的なPCディスプレイとして妥当な目視距離で、フォントの大きさを100%にしても快適に使えるサイズは、32型か34型前後になると思われる。
そんなわけで、UP2715Kの用途を考えてみたのだが、やはり現時点では高解像度なデジタルカメラ写真編集や、4KフルHD動画編集など、クリエイターが利用した方妥当だと感じた。それ以外の一般作業用としては、せっかくの5Kがややもったいない。
ただ、一般企業でも、会社の受付で多くの情報を表示させておく用途には、なかなか面白いと思った。例えば会社が展開しているサービスのホームページを同時に並べて、閲覧できるように表示させたり、内線表と座席表を表示させておくのも悪くない。こういった場面では顧客とディスプレイの距離が少し近くても構わないからだ。
ともかく、コンシューマではこの先、4K解像度の液晶が2~3万円台に落ちてきて、当たり前になってくると思われるのだが、10万円を超える一般技術の一歩先を行く製品として、本製品のような5K製品は存在し続けることなって行くだろう。